帰り道―――――――
生温かい春風が吹き荒れる立夏が過ぎ去ると、ジワっと腕にこびり付くような湿った空気が漂い始める水無月の夕暮れ。
時刻はもうそろそろ午後の6時くらいに差し掛かるのだが、未だにお日様は燦々と照り輝き、夜の暗闇に沈もうとする街々を黄金に染めあげていく。 そんなマジックアワーのような景色をバックに、俺はちょっと急な石階段を一歩一歩踏みしめながら昇って行く。
昇ること自体、左程問題ではない。 辛さと言うよりか、なんだか心が段々と晴れやかになってくるのだ。
俺の今の気持ちを分かってくれる人はいるだろうか?
いるとは思う―――――だが、俺とまったく同じなんだと言える人と言うのは、0であると断言することが出来る。 と言うか、この気持ちだけは他と同じであって欲しくなかった。
たった一つの―――――特別な想いとしてあり続けてほしいのだ
階段を昇り切ると、そこから見えるのは、朱色の豪華絢爛な社だ。
いつ見てもこの色鮮やかな景色は変わらない。 また、夕日をバックにして見ると、お日様の照り輝く色と社の燃えるような朱色が見事に相まって素晴らしい絶景となるのだ。 まるで、この境内が造られようとした当初からこうなることを構想していたかのような超自然的なモノを抱かずにはいられなかった。
都市化が進み、美しいモノが徐々に減りつつあったこの日本の中心部に、わずかに残された貴重な超自然的絶景なのだ。 そんな美しい景色を見ることが出来るこの至福の一時だけは、誰にも邪魔されたくはなかった―――――
――――ただ、彼女だけを除いて
「ふふっ……♪ だぁ~れだ?」
いきなり俺から絶景を奪うかのように目を何かに覆い隠された俺は、そのあまりにも急な出来事に一瞬、身体を驚かせた。
だが、目元に徐々に伝わってくる微熱と温もりと、人を安心させてくれる包み込むようなやさしい香りが俺の緊張をほぐしてくれる。
しかし、その一方で動悸が激しくなるのは回避することが出来ないことは必定的なのだ。
仕方ないじゃないか、背後に居るこの子が何故か豊満なボディをすり付けてくるのだから。 その風船のように弾む
まったく、なんて器用なヤツなんだ――――――
呆れてしまいそうな………けど、嬉しいような気持ちでいっぱいになる俺は、目を覆い隠したこの小悪魔な手に触れながら彼女のことを呼ぶ―――――――
「そんなの簡単だろ。 可愛くって美しく、大人っぽい余裕を見せるけど、無邪気で子供らしいところも含んだ、俺の
―――――東條 希ちゃんだろ?」
少し過剰なまでの説明を含ませた臭い台詞を淡々と口にすると、目を覆っていた手の力が抜けていくようで、俺はそれをいとも簡単に取り去ったのだ。 そして、俺の放った言葉が正しいことを証明するために後ろにくるりと首を回す。
すると、どうだろう――――――
彼女は、顔を真っ赤に染め上げながら狼狽しているではないか。
いつもの彼女らしからぬ、口をポッカリと開けて、わなわなと小刻みに震えている姿を見るのは、多分、久しぶりのことなのだと思う。
けど、そんないつもとは違った姿を俺に見せてくれるこの可愛らしい
俺はその嬉しさのあまり、
すると今度は、ボンッという爆発したような音が聞こえてきそうな程に顔を真っ赤に沸騰させていた。 夕暮れの明かりとも相まって、これもまた俺的に素晴らしい絶景となって心を和ませてくれた。
「う~…………」
あまりの恥ずかしさに唸り声を上げてくるのだが、それもまた何とも言えぬかわいさを見せつけてくれるのだ。 そして、彼女に挨拶をするのだ。
「やあ、こんにちは………いや、こんばんは、かな? マイフェアレディ♪」
こんなキザな台詞を吐くと、さっきよりも一層顔を赤く染めていたのだ。
―
――
―――
――――
「お~い、まってくれよ~!」
ちょっとからかい過ぎてしまったためか、希はムスッとした表情で俺の数歩先を足早に歩いている。 さっきからずっと声掛けをしているのに、希は一向にこっちを振り向いてはくれないのだ。
やり過ぎ………たかなぁ……?
「ゴメンな、のぞみぃ~………ちょっとした出来心だったんだよぉ~………その……ついやっちまったんだよ…………だから機嫌直してくれよぉ~……………」
なだめるかのような声で説得してみるが、そう簡単には止まってくれそうにないようだ。 むぅ……こうなった希は案外手強いんだぞ………最悪、好物で釣ろうとしても全然引っかからないからなぁ…………
やっちまったなぁ、と後悔しながら身体の奥底に溜まった気持ちを嘆息にとして吐き出してしまう。
すると、希はピタッと急に止まりだしたのだ。
なんだ?と思いながら俺も合わせて止まると、ムスッとした表情は変えないまま俺の方に顔を向けてきたのだ。
「んもぉ~! ホンマやったら、ウチがキミのことを驚かせようと思ったんよ! ウチの魅力でキミのあどけない姿を見ようかと思っとったのにぃ…………!」
「あ~………逆に、希のあどけない姿&羞恥で赤面する姿が見れて俺は満足だ(キリッ」
「ああぁぁぁ!!! んもぉ~~~!!! ばかばかばかぁ~!!! あほぉ~~!!! 忘れとってよぉぉぉ…………」
頬っぺたを膨らませて俺に怒ろうと迫ってきたのだろうが、先程のことを掘り返したことで、またもや赤面することになってしまって…………哀れだなぁ……………
そんな希は、俺の胸のところをポカポカと軽く叩いてくる。 羞恥とそれによる鬱憤を晴らすためなのだろう、しばらくはそのままにしてその様子を眺めていた。 そしたら、今度はしゃがみこんでしまって、ここから一歩も動かないと言って頑固になってしまった。 子供かよ………
無理矢理にでも動かそうと引っ張ったりしてみるが、いくらやっても動こうとはしないのだ。 程なく、俺自身諦めが付いてきたので、俺もしゃがみ込んでへそを曲げている希をなだめ始める。
「なぁ……希………? 機嫌取り戻してくれるか……?」
「つーん」
はぁ……参ったなぁ………完全にへそを曲げちゃっているじゃないか………こうなった希はそう簡単には動いてはくれないぞ…………
「なぁ、今日の晩御飯、うどんを食べようか? 俺が今から出汁とかとってさ、おいしいヤツを食べようか?」
「つーん」
「そ、それじゃあ………焼き肉もつけようか……! いやぁ~、ちょうどいい肉が冷蔵庫に残っていてなぁ、1人では食べきれないと思っていたんだよぉ~?」
「(ビクッ!!)……つ、つーん………」
あっ………今、動いたな
ちょっとだけど、心が揺れ動いたな………
あっ、そっぽ向きやがった………
希の好物を提示してみたのだが、やはり機嫌は直りそうもないようだ。 はてさて、どうしたものだろうか。 有効な手は使ってしまったし、他にあるとすれば…………あっ
少しだけ考えてみたら、あるじゃないかと手の平をポンと叩いて納得する。
だが、その一方で不安でしかないと心が叫んでいるのは何故だろう………
兎も角、早速このことを希に言うことに――――
「なあ、希。 機嫌を直してくれる代わりに………さ……………
希のやりたいことを叶えてあげる………んだけど………どうかな…………?」
「えっ………?」
決死の覚悟で挑んだ勝負にようやく反応を示してくれたので、とりあえず安心はしている………だが、何だろう………この嫌な感じは…………?
瞬時に感じた感覚は、すぐに目の前で起こることに――――――
「ふ~ん………キミがウチのやりたいことをなんだって叶えてくれるん?」
「えっ……? あ、ああ、そのつもりだが?」
そう答えてみせると、「ふ~ん」と口元を緩ませて、不敵な笑みを浮かべはじめる。
マズイなぁ……この表情になる時は、大概、何か悪だくみをする時の顔じゃんか…………
あちゃぁ……と嘆息を漏らし、やっちまった事に後悔し始めてきた。
「そんならなぁ………今日の残りの時間、ずっとウチの命令に従うこと! それでエエやろ♪」
「はぁ!!?」
希のその願いが、まさかそんなもので来るだなんて………分かってはいたが、さすがに頭が痛くなってくる………
「それじゃあ、早速、ウチを立たせて♪」
と言って、両手を前に広げて構えてくるのだ。 傍から見れば、抱っこかハグをおねだりしているようにも見えてしまうのは俺だけなのだろうか?
いや、そんなことよりもフンスと鼻息を漏らすくらいのドヤ顔を見せつけてくるのが、何だか呆れてしまいそうなのだ。
「ったく……ほら、いっくぞ……!」
「お~! ちゃんと立てた! キミってホンマに力が強いんやなぁ~♪」
「そりゃどうも」と一呼吸おいてから応える。 一方で、えへへと明るい表情をこちらに向けてくる希は、何とも無邪気な様子で、まるで、俺が困っている様子を見て楽しんでいるみたいだった。
「ほな、次はなぁ…………キミの家に行くやろ? そこで、おうどんさんと焼き肉を食べるやろ? 一緒にゆっくりするやろ? ほな次は………」
「っておいおい! それじゃあ、まるで希が俺の家に泊まるみたいな話じゃないか?!」
「え? そのつもりやったけど………?」
「oh………」
「ちなみに、この次は一緒にお風呂に入るってのもあるで~♪ ウチの裸見て鼻の下を伸ばすんとちゃうかな?」
「んなっ?! そ、そんなこと………あ、あるわけないだろぉ………?」
「ふふっ♪ めっちゃ動揺しとるで? なんやぁ~? ウチと一緒に入るところでも想像しっとったんか? うふふ………えっち♡」
「こ、こらっ!! か、からかうんじゃない!!!」
くすくすと笑い声を上げながら、希はさらに嬉しそうな表情を見せつけてくる。 まったく、完全に希のペースに乗せられているぞこれは…………
けど、存外悪いモノではないように感じているのが現状だ。 希が笑ってくれている、ただそれだけを目の前で感じられるのであれば、俺としては十分に満足できることなのだ。
「キミぃ………その……あんなぁ…………」
すると、希が俺の服の袖を摘むような仕草を見せると、頬の辺りがチークを掛けたかのように紅く染め始める。 先程まで、こちらをじっと見つめていた視線をずらして、そわそわと落ち着かない様子だった。
何か言いたげそうな感じだったので、俺は「どうしたんだ?」と声を掛けてみる。
「………えぇっとな………あんな、ウチな、今からキミのところに泊まるって言うとったやろ……? それで……な………寝る時にな……ウチと一緒に寝てもええやろうか………?」
「!?!?」
「えっ! い、いやっ……そ、そんな深い意味とちゃうで! ただな、ちょっと興味があってな………その……好きな人と一緒に寝るのって、どないな感じなんやろうなぁ~って………」
「お、おう………?!」
もじもじと照れ恥ずかしい話を仕掛けてくる希なのだが、こちらが驚く以上に言い出しっぺである希の方がとても恥ずかしそうに顔を赤く染め始めていた。 それで、話し続けていくうちに頭から湯気が出てくるのではないだろうかと、心配してしまうくらい熱くなり始めているのだ。 そして、最終的には、恥ずかしさのあまりに思わず言葉をつぐんでしまうので、聴いているこちらも自然と恥ずかしい気持ちへと徐々に変化していくのだ。
まったく、そう言うことをこのタイミングで言ってしまうのかよ………
少しばかり、呆れてしまうところもあるのだが、そんな自ら墓穴を掘って委縮してしまう希が無性にかわいく感じてしまう。 そのまま、抱きしめてあげたくなってしまうようなか弱さが俺の母性本能をくすぐり始める。
だが待て、落ち着けと自分に言い聞かせながら、俺は茹でダコ状態の希の手を引いてあげる。
「ふえっ?!」という、何とも気の抜けたような声を発すると、希はこちらをじっと見つめ始める。
夜空に輝く月のように美しい瞳が俺のことをしっかりと捉え、微塵たりとも離れようとはしなかった。 俺はそんな美しさに心を奪われ、心酔してしまいそうだった。 いや、むしろこのまま彼女の想いによって溺れてしまいたいとも感じてしまうほどだった。
それは彼女を一目見た時からずっと変わらない気持ちだった――――――
「実は、俺も希と一緒に居たいなぁ~なんて思っていてだな………その………構わないぞ……俺でよければさ………」
「えっ………?」
「………あぁもう!! 希の好きなようにしてもいいってことだよ! これ以上言わなくてもわかるだろ?」
「ほ、ホンマに……? ホンマに………ええの?」
「いいに決まっているじゃんかよ! それが希のしたいことだって言うんだろ? そんなら俺が断る理由なんて無いじゃんか」
「ッ~~~~!!! 嬉しい!!! ありがとな!!!」
「って、うおっ?! なっ、急に抱きつくんじゃねぇよ!!」
「えへへ♪」と嬉しそうな声を漏らしながら、希は俺の首元にしがみ付くように抱きついてくる。 グッと引く力が加わったことで、希が抱きついている方に身体が倒れ込んでしまいそうになる。 あわや大惨事とも言えるような状態になりそうだったのに、希ときたらそんなことにも目も暮れず、有頂天な気持ちを露わにしていた。
「やれやれ」と溜息を吐きつつも、こうして2人でいられることがどれほど嬉しいことだろうかと、しみじみと感じるのである。
俺の大好きな人と一緒に過ごせる時間がこの1年の中でも最も尊いモノなのだと実感させられながら、俺は抱きつく希の頭をひと撫でする。 自分だけが感じていられる特別な想いを、俺はこれまでに無いくらいたくさん感じていたい。
濃厚な芳香が俺の鼻腔をくすぐり始める。 希から発散される甘くて落ち着きを感じられるような濃いめの匂いが、俺の理性を強く刺激してくる。 そんな大人びた雰囲気を感じさせてくれる彼女は、俺にとって本当の女神のような存在なのだ。
彼女がいたからここに居る―――――――
彼女がいたからここまで来ることが出来た―――――――
彼女がいてくれるから俺は明日に向かって歩き出すことが出来るのだ―――――――
もう彼女なしではいられない。 俺にとって、彼女はなくてはならない存在なんだ―――――――
だから俺は、キミと出会えたこの奇跡に感謝したいんだ―――――――
「ねぇ………」
「うん、どうしたんだい?」
「はよ、キミの家にいこ………? ウチ……もう我慢できへんかも…………」
「ッ~~~~~!!!」
恥ずかしさで紅く染め上げた頬と潤いを溜め込んだ瞳で、俺をやさしく見つめてくるその素顔に心臓が飛び出てきそうになるくらい興奮が高まった。
もう……我慢できないのは、俺の方かもしれなかった…………
「そ、それじゃあ……手を繋いでいこっか………?」
「う、うん………」
ぎこちない手付きで差し出した俺の手を、希のあたたかくて柔らかい感触が包み込んでくる。
純粋だ………この手に触れた時に感じる、何のしがらみも思惑も抱いていない純白なシルクのような美しい気持ちが肌を通してやってくる。 その純粋さに俺の心臓はバクバクと強い動悸を起こす。 隣で寄り添い、こうして肌と肌を重ね合わせているだけで、こんなにも息苦しく感じてしまうだなんて…………
けれど、こんなにも息苦しいと感じていられることに幸せと思えるのだ。
これは希といられるからこそ感じていられる気持ちなんだと………………
「………ちゃんと、ウチのことをエスコートしてな、
「………ふっ、わかっているさ。 だから、手を離すんじゃないぞ、
強くしっかりと握られたその手が、決して離れることがないように繋ぎとめたい――――――
いつでもキミを感じていられるように、キミを傍にいさせたい――――――
たとえ、それが困難なことであっても俺はキミのためにありたい―――――――
あの夜空に輝く
俺の幸せを希にあげる―――――――
ちゃんと俺が見守っているからな――――――――
――――――
~Fin~
ドウモ、うp主です。
どうでしたでしょうか、今回の妄想世界は?
今回もですね、夢に出てきた1場面をそのままトレースさせてみたやつです。
この後にどんなことが起きたのか気になるところなのですが、自分もこれ以降が夢に出て来れず、ある意味悶絶しています()
気になるなぁ…………
それに、自分の推しキャラでもありますし、ああしたい、こうしたいという願望は大きいものです。
えっちぃこともしたいと言うこともありますが、やはり、自分は美しいかたちのままでありたいと感じている次第です。
次回は………にこか………!
いいねぇ~♪にこも色々と妄想しやすいですからねぇ~♪
夢に期待です(笑)
ではでは、7月22日まで………おさらばでございます!!