《完結》うp主と彼女たちの妄想話。   作:雷電p

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可憐に咲き誇る撫子のような少女と―――――――――俺

 

 

 花萌ゆる3月―――

 

 猛威をふるった寒波の象徴である雪の塊が、暖かな日差しに照らされて、溶け始めている。 ちょろちょろと静かに流れゆく雪の湧水が、地面の中に吸い込まれていく。

 ついこの間まで、身震いするような冬も、一歩、また一歩と近付いてくる春の足音に、弱音を吐き始めたようだ。 先日は、ダウンコートにインナーを何枚も重ね着しなければ耐えられなかった寒さに見舞われたが、今日外に出てみれば、半袖シャツを着ていても居心地がよかったくらいに暖かい。

 このくらいの心地良さなら、冬場に眠りの中にあった植物の芽が、寝起きで欠伸を吐くみたいに大きく身体を伸ばしているようだ。

 

 ちょうど今、外に見える桜の木も、丸く固まっていた蕾から白桃色の花が咲き始めていた。 この家で見られる桜は、一般的なソメイヨシノとは違って早く咲く。 おかげで、色鮮やかな景色を眺めながらゆっくりと時間を過ごせるのだ。

 

 

 ビュン――――――

 

 

 春が俺の頬を撫でた―――

 

 暖かな風が開いた窓から一吹き、呼んでもいないのに中に入ってきた。 座っていた俺に温もりが直接当たるのだが、部屋の奥にまで行ってしまった風が返ってきて、また当たるのだ。 さながら、手綱を放した犬が走り回って、満足したら戻ってきて御主人の胸の中に飛び込んでくるみたいな。

 そう思うと、なんとも愛らしい風なんだろうと、頬を緩める。

 

 

 

 ふと、何かが通ったようだと視線を上げると、あの桜の花びらが、ひらひらと宙を舞っていたのだ。 ゆっくりと左右に揺れながら落ちるのだが、春風がいたずらするかのように、また一吹きして舞い上がらせた。 そしたら、花びらはくるくると軽やかに何度も回転してみせた。

 風のいたずらもあの花びらにとっては、ただの演出にすぎない。 揺るがない意志を持ったかのように、優雅に舞ったのだった。

 

 

 そして、ここにもうひとつ―――

 揺るがない意志を抱いた、一輪の華が、舞い踊ろうとしていたのだ。

 

 

「いざっ―――」

 

 凛とした、声高な声が聞こえたと思うと、華は眼を開き、風に煽られるように美しく舞い始める。

 

 

 静々と動く身体―――

 

 少し動じてみるだけでも様になる姿。 そこから、まるで糸を一本一本、丁寧に紡ぐような繊細な指先を魅せる。

 くるりとその場でコマのように一回りしてみると、着物の振袖と共に、長く伸びた髪がさらさらと靡いて、先程の花びらのように軽やかに揺れ動く。

 そして、髪の合間から覗かせる薄白桃色の肌が、陽気な日差しを浴びて透明に輝いているよう。 その姿はまさに、風に揺られる満開の華だ。

 

 とても、あの華奢な身体から織りなされた動きとは思えない。 見た目はあんなに儚げなのに、その内にはしっかりと立つ、強い意志が備わっている。 その様子に、侮らないでください、と言われているみたいで、少し背筋を伸ばしてしまう。

 その一方で、僅かに垣間見えるあの可憐な姿は、どの華とも比べることが出来ないほど上品だ。 まるで、時間が止まったかのような感覚を受ける。 何も考えずに、ただずっと見ていたいと思うほどに惹き込まれてしまう。

 

 

 

 刻よ、止まれ―――

 

 思わず口に出してしまいたくなるほどに願い、見ていたかったのだ。

 

 

 

 

 動きが止まり、静かにその場で正座をすると、両手を床に添えて軽くお辞儀し、1つの舞いに終演を迎えさせた。

 

 

 

 パチパチパチパチ――――――

 

 

 舞いが終わった途端、俺は止まらず拍手していた。 こんなに近いところで、しかも、俺1人だけのために舞い踊ってくれた彼女に感謝の意を籠めるように手を叩いた。

 

 

「すごい……すごかったぞ!!」

「そんな、すごいだなんて……私は、いつもと変わらない舞いをしていただけですのに………」

「謙遜しなくてもいいんだぜ? それに、今回のは、いつもよりも一段と綺麗に舞っていたから思わず見惚れちまったぜ!」

「見惚れっ……! も、もぅ、そんなことを言って、冗談はよしてくださいよ……!」

「冗談なものか! あの瞬間に踊っていたお前は、外に咲いている桜の花よりも美しくって、繊細で、可憐な乙女だったんだぞ! もし、お前が一輪の花だったら、すぐこの手でやさしく摘んで、俺の手元に置いておきたいくらいだ!」

「なっ……?! なっ、な、なんてことをいうのですかぁ! そんなっ、わ、私がそんな……可憐だなんて……そんなこと……ない、ですから……」

 

 

 そう言うと彼女はちょっとカッとなるのだが、だんだん顔を紅潮させていくと、終いには、しゅんとしおらしくなってしまう。 少し褒めると謙遜しちゃって、そうじゃないんだと言い聞かせてくる、といったやり取りはここ何年も続けている。

 控え目で恥ずかしがり屋な彼女のこうした様子には、悩ましいところはある。 が、ついさっきまで凛としていたのに、一瞬にして、かわいらしい姿を見せてくれるというのは何とも嬉しいところだ。 そうした一種のギャップと呼べるモノに、俺は心を躍らせているのかもしれない。

 

 

……っと、そんな冗談は置いといてだ、彼女を何とかしてあげないとな。

 

 そう思うと、身体が先に動いて、座り込む彼女に向けて手を差し伸べた。

 

 

「ほら、そこに座り続けたら身体が曲がっちゃうぞ?」

「……わかり、ました。 で、では………」

 

 

 一瞬、彼女は手を差し伸べたことに目を真ん丸にして驚いていたが、少しおどおどしながらも俺の手を握り返した。 そして、ゆっくりと彼女の腰を上げさせるのだが――――

 

 

 

「きゃっ―――!!」

「海未っ!!」

 

 

 彼女は履いていた足袋を滑らせてしまったことで体制が崩れかけ、そのまま俺の腕に抱き寄せられるかのようにしっかりと受け止めた。 彼女を抱いた時、フワッと軽く、やわらかい感触を手に抱き、息を吹きかけると空へ飛んで行ってしまいそうな感覚になる。 そんな彼女を放すまいと、自然と腕に力が籠ってしまう。

 

 

 

「大丈夫か?」

「へ、平気……です……」

「そうか、よかったぁ……」

 

 

 滑った弾みでどこかケガしてないかと心配になったが、特に問題はなさそうだ。

 

 

 が、その一方で―――

 

 

 

 キュゥ―――――

 

 

「う、海未……?」

 

 

 彼女は俺の服を小さく握って、顔を俺の胸のあたりにピタッとくっ付けたのだ。 その突然の行為に、一瞬、身体が驚いてしまうくらいだった。

 そんな彼女は――顔は少し隠れて見えにくいのだが、頬をうっすらと紅を塗り当てたように赤く、何かをお願いするみたいな上目遣いで見つめ続けて訴えるのだ。

 

 

「あのっ、も、もう少しだけ……このままにしてもらえないでしょうか……?」

 

 

 もっと構ってと、子犬がおねだりするみたいに、キラキラと目を輝かせて嘆願するのだ。 さすがの俺も、無垢な瞳から発せられる願いを取り払うことなどできないわけで、

 

 

「……わかった。 もうちょっとだけだぞ……?」

「……! は、はい♪」

 

 

 有無を言わずに、そのまま受け止め続けてしまうのである。

 当の彼女はと言うと、願いが聞き入れられたことを喜んで、子供のような無邪気な笑みを浮かばせて擦り寄ってくるのだった。 さしずめ、かまってちゃんな子犬である。 だが、それが嫌と言うわけでなく、むしろやってくれて嬉しいと頬を緩ませてしまう。

 甘いよなぁ…とつくづく感じてしまうのだが、屈託の無いこのような笑顔を見せられちゃぁ、何も反論など出来やしないのだ。

 

 

 

 

「えへへ♪ ギューっですっ♡」

「………っ?!」

 

 

 不意打ちにもほどがあるだろう……!と、思わずツッコミたくなるような甘えん坊な彼女に、ただただ、高まる気持ちを抑えながらやさしく受け止めるしかなかった。

 

 

 そんな彼女、園田海未は、俺の恋人であり―――許嫁でもあるのだ。

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 彼女、園田海未は、俺の恋人もとい許嫁である。

 こんな時代に、許嫁と言う言葉が存在しただなんて、と思っている人も少なくないだろう。 ところがどっこい、これは嘘でも空想でもアニメでもない、ホントのことなのだ!

 

 

……というのは、少しおいてだな……いろいろと話さなくちゃならんな。

 

 

 俺と海未とは、同年齢の幼馴染だった。 近所も近く、何より母親同士の仲の良さからよく遊んでいたりした。 それに、俺自身、海未の実家でもある園田道場の門下生でもあったのだ。

 一方で、海未は、この地域では名門の流派・園田流の家系で、そこの次女だ。 上には、かなり美人で秀才なお姉さんと、その下に聡明さにあふれる弟さんがいた。

 んで、その間に挟まれがちだった海未はと言うと、とても物静かで、恥ずかしがり屋で、話すことがニガテで控え目な普通の女の子だった。 2人の姉弟が陽だとしたら、海未は陰だろう。 そうした中でいても、海未はお姉さんに負けないくらいに、日舞いに茶道、華道、剣道、弓道、薙刀などなど…家元の娘ならばと、真面目に励んでいた。

 

 そんな彼女に転機が訪れたのは、高校2年の時だった。 海未が通う音ノ木坂学院高校が、廃校になるという話が噂になって飛んできた時のことだ。 当時、他の学校に通っていた俺も驚いたが、それよりもなにも、その廃校を何とかしようと海未がスクールアイドルになったと聞いた時には、度肝を抜かれた感があったものだ。

 

 まさか、あの海未が?!と、当時彼女自身から言われた時は耳を疑ってしまった。   だって、昔から人の影に隠れていた海未が……しかも、剣道や弓道とは180°も違うアイドルになって、人前に出て行くだなんて考えられなかった。

 だが、真剣な様子で練習に励んでいたのを見た時には、反論できるわけもなく、逆に応援したくなるほどだった。

 

 そんな海未たちが立ちあげたμ’sというグループには、同じ道場に通っていた穂乃果やその友達のことり、後輩の凛や花陽、それにみんなのお姉さん的存在だった絵里もいるという何とも顔見知りなグループだったなぁというのが当時の第一印象だった。

 そんな彼女たちのことを、俺なりの行動を持って支援するなど、海未たちのことを支え続けていたのだ。 そうした中で、海未がだんだん変わっていっているということも目にしながら……

 

 

 

 そんなμ’sが、ラブライブと呼ばれる大会で優勝し、廃校を阻止することが決まった、まさにそんな時だった―――――

 

 

 

 “ずっと、あなたのことをお慕いしておりました―――わ、私と、お付き合いしていただけますか―――?”

 

 

―――と、告白してきたのだ。

 

 しかも、あの大会が終わった後すぐに――μ’sの他のメンバーたちが目の前にいる中での告白は、俺の人生の中で2度目となる驚愕な出来事だった。

 まさか、海未が俺のことをそう思い続けてくれていたことに涙が出た。 俺自身も、彼女たちを支えていく中で、ずっと海未のことばかりを気にしていた。 それがどんどん積もってゆき、次第に好意を抱くようになったのだ。 海未のことを想うだけで、胸が苦しい時もあった。 海未が悲しんでいる時には、一緒にいてあげようと身体が勝手に動いていたりしていた。 そうして、だんだんと―――そしてようやく、気付くことができたのかもしれない。

 

 

 だから俺は、彼女のその手を――ウェディンググローブをはめたように純白な手を握った。 花婿が花嫁の手をとり、誓いの言葉をかけるかのように、俺も彼女に、海未に告げた―――――

 

 

 

 

 

 “あぁ、よろこんで――今日から俺は、海未の彼氏だ――――”

 

 

 曇り掛かったかのような表情に、朝焼けよりも輝いた笑顔が華開いた瞬間だった。 俺はその華を、そっとこの手で包み込み、離れることが無いよう、その花びらに吐息を注いだ――――

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

――と、まあ、そんな昔話があったとさ。

 んで、この話には続きがあってだな、お互いに告白しあったすぐ後に、海未の御両親に報告したんだよ。 交際報告をな―――!

 

 いや、待て――と当時の俺は、海未の家に行く道中で聞いたわけさ、何故それを言うのかって。 そしたら、『お付き合いするということは、正式な段階を踏まなければならないのでしょう? でしたら、まず、お父様とお母様に御報告をと思いまして――』というのだよ。

 おいおいおい、と内心どぎまぐさせまくっているのだけど、この日一番の笑みを引き摺ったままでいたからこれ以上は何も言えないわけだ……。 うん、俺はコイツの笑みには勝てないや、昔もそしていまも……

 

 それで、だ。

 御対面しちゃったわけだよ、海未の御両親と――それも、道場時代の師匠なんですけどね………。 それはもう厳しいお父様でしたから、すぐに、『貴様ァ!! 俺の愛娘を欲しいと言うかァァァ!!!』と言うように怒鳴りつけられる有様。

 だが、俺だって男だ。 むざむざと引き下がるようなモンじゃない。 だから、こう言ってやったさ―――

 

 

『俺はッ!! アンタの娘さんをォ!! 海未を、俺にください!!』

 

 

―――ってさ。

 

 まあ、こんなことを堂々と言ってしまったもんだから、ただじゃあ済まなかったさ。 そっから道場に連れ出されて度胸試しをやらされたんだ、親父さんとの剣道での勝負をね。

 簡単に言えば、これのワシを越えてゆけぇぇぇ!!!と言うことですよ、ハイ………。 師匠ですからね、十年来もの師匠ですからね。 ゲームのように簡単に倒せるわけじゃない。 選択肢があるパターンだったら、4通りある中から正しいのを選べ、というのが20回くらい繰り返されるというクソゲーだ。 何度ゲームオーバーして繰り返したことか……残機(気力)も底を尽きそうになるほど疲弊しちゃってたが、それでも! 海未のためならば……!という気持ちで無理矢理捻じ込んだ――!!

 

 

 

 そしてようやく、俺はこの手で掴みとることができた……俺の、幸せな一時を――――!

 

 

 

 

 

 

「さぁ、召し上がってください♪」

「あぁ、ありがとう。 へぇ~今日は肉じゃがなんだ」

「はい! 古来より、『花嫁たる者、肉じゃがをつくるべし』とありましたから花嫁修業の一環として作らせていただきました♪」

「う~ん……古来にそんな言葉があっただろうか……? だが、それをおいても、海未の作る肉じゃがはおいしいな。 毎日食べたくなる味だ!」

「そ、そんな……毎日食べたいだなんて、もう……/// ですが、一人前の花嫁となった暁には、肉じゃがだけではなく、あなたの、お好みのお料理を毎日作らせていただきますね♪」

「あぁ、楽しみに待ってるぞ!」

 

 

 と、言うように、俺はテーブルの前に座して海未の手料理を口にしていた。 実に海未らしい、和のテイストがふんだんに使われたこの皿によそわれた一品に、思わず舌包みしてしまう。 それに、ついさっきまで日舞いで使っていた着物をそのままに、その上に白の割烹着を着て調理している様子に不思議と安心感を抱いてしまう。

そして、2人膝を合わせて食事をすることが出来る、そんな幸せな一時を遅れていた。

 

 

 現在は御両親の認可も下りて、こうして正式な交際をしているわけだ。

 この交際が決まってからと言うモノ、海未の実家では、花嫁修業と言うモノが精力的に行われている。 それは、『他家に嫁ぐのであれば、それ相応の技を手に付けてほしい』というお母様からの取り計らいがあってからこそのモノだ。 そして俺は、()()()()()()()()()()ということで、許嫁となるように宣告されたのだ。

 彼氏と言うか、許嫁と言うか……どちらにしても、あの御両親の影を感じてしまうと肩の荷が重くなるものだ……。

 

 

 

 とは言うモノの、テーブルの向こう側でほんのりと頬を染めて笑う彼女の姿を見てしまうと、心がスッと落ち付くのだ。 嫌なモノを水のように洗い流してくれる、そんな力があるのだろうと1人で納得し、微笑んだ。

 

 

「どうしましたか?」

「いや、やっぱり海未でよかったなぁって思ってさ」

「どういう、ことなのでしょう……?」

 

 

 俺が口にしたその意味を知ろうと、少し眉をしかめて首を傾げた。 そのキョトンとした表情に、俺はまたうっすらと口角を引き上げるのだった。

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 食事をし終えた頃には、月が満天の夜空に高く昇っていた。

 俺は、その月をのんびりと眺めるために庭に足を運んだ。 そしたら、昼間に見たあの桜が、青白い光を纏ってさらに美しく着飾るのだった。

 それに、ひらひらと舞い落ちる花びらも、趣きがあって美しかった。

 

 

 

 

「ここにいましたか―――」

 

 

 とんっ、と軽く背中を押されたような声に安心感を抱く。

 くるりと身体を半回転させると、群青色に彩られた着物を身に纏い、こちらも美しく着飾っているのだった。 ただ、彼女に照らされる月夜の光は、銀色のベールのようで、彼女が身に纏うと神秘的な可憐さを引き立てる。 そんな彼女の姿に目が眩んでしまいそうにもなるのだった。

 

 

 

「おや、今宵は良いお月さまがお見えになっていますね……」

 

 

 静々と歩いてきて俺の横に立つと、夜空を見上げて、とても嬉しそうに顔を輝かせていた。

 

 

「あっ、さくら―――」

 

 

 視界に花びらが入ったのか、彼女は中空に舞う花びらを目で追いかけ、それが地面に落ちて行くまでの様子を見ていた。

 それを見て、さらに喜ぶのかと思いきや、なんだか表情に陰りが見えてきたようだ。

 

 

「どうしたんだ?」

 

 

 そう、やさしく問いかけてると、弱気な声で呟いた。

 

 

「私は、あなたと共にこうして寄り添っていられますが、それがいつまで続くのか不安になるのです……私は、臆病な人なので、あなたがこの手の届かない所へ行ってしまうのではないかと思ってしまうのです。 それに、時々思うのです、本当に私があなたの隣にいてもよかったのかと……」

「海未、それは―――」

「わかっています、わかっています……! ですが、怖いのです……。 私は、不器用で口下手な方……心の中では、書き切れないほどたくさんの言葉が羅列していますのに、それを口にすることが苦手なのです。 それで、口足らずな言い方であなたを傷つけないか、不安なのです……。 舞い散るこの桜のように、一時は楽しそうに舞うのですが、気が付いたら地面に落ちてしまう、そんな落胆さえも感じてしまうのです……」

 

 

 深く、沈んで行きそうな彼女の気持ちに、溺れ掛けそうになる。

 海未は今、また自分との葛藤を始めているのだ。 彼女自身が言うように、器用ではない。 それは手先のことではなく、表現という面で、のだ。 あまり前に出ようとしない、そんな控えめな性格が彼女を苦しめていた。 そのせいで、彼女は何度も躓き、転びを繰り返した。

 そのことは、彼女自身も理解しているし、俺も理解している。 だからこそ、彼女の理解者として俺は支えていきたいし、もっとも、彼女の許嫁としてしっかりしなくちゃと奮い立つのだ!

 

 

「私は、穂乃果やことりのように、明るくかわいい女性ではありません……あなたも明るい子のほうが好きでしょう……?」

 

 

 だんだんと弱気になっていく海未。 本当に、舞い落ちようとする花びらのように心が不安定にあった。

 最後に、海未が言った言葉に、思わず声を大にして反応してしまう――――

 

 

 

「そんなことはない!! 俺がそんなことを想うはずもないし、第一、海未をこの手から離すだなんてとんでもない話だ! 絶対にするもんかよ――!!」

 

 

 かなり強い口調で言ったため、彼女は眼を大きく開けて驚いていた。 俺は言葉を続けた―――

 

 

「俺はお前のいいところをたくさん知っている。 かわいいところだって、綺麗なところだって、美しいところだって全部、俺は知っているんだ! そうだ、海未。 お前は、魅力の塊なんだ! 海未は俺にとって唯一無二な存在なんだよ! だから……自分を悪く言うんじゃない!」

「――――っ!!」

 

 

 すると、海未はその場でうずくまりだし、小さな泣き声をあげるのだった。 涙ながらに泣きじゃくり始める彼女に、そっと肩に手を置いた。

 

 

「す、すみま、せん……わ、わたしが、こんな、こんな不甲斐無いせいで、余計な心配を……」

「いいんだよ、誰にだって不安な時はある。 俺にだってあるさ、例えば……そう、海未に嫌われていないかって」

「そ、そんなことはっ! あ、ありえません……!! わ、私があなたのことを嫌うだなんて……そんな……」

「ふふっ、なんだ、ちゃんといいところがあるじゃないか」

「えっ……? ど、どういうことなのです……?」

「海未が俺のことをそれだけ好きでいてくれていること、俺のことを大事に思ってくれていること、その2つだけで俺の不安はどっかにいっちまったよ」

「あっ………」

「だからさ、海未もそんなに自分を傷つけなくていいから……もっと、笑っていてほしい。 海未の笑顔は俺の元気の源なんだから」

「~~~~っ!! は、はいっ……!!」

 

 

 泣いてかすんだ声で返事をすると、悲嘆に暮れていた時よりも大分良い状態にあった。 海未は、涙で汚れた顔を拭うと、不器用ながらもにこっ、と笑って見せた。

 

 決して、いい表情とは呼べない―――

 

 でも、そんな表情でも俺は、笑っていられるんだ。

 海未が笑うから、俺も笑う。

 たったそれだけで十分なのだから、だから、一緒に笑ってほしい。

 ほんの小さなことだけど、それを少しずつ積み重ねていこう。

 与えられた時間はたっぷりあるんだ、それをすべて俺たちのために使い果たそう。

 

 

 この手の中に包まれてる彼女に、俺は誓った。

 

 

 

 

「海未」

「はい、なんでしょう?」

「今のお前が元気になれる、魔法の言葉を教えてあげる」

「まほ、う……? それは、一体何なのでしょう……?」

 

 

 ふふっ、と口元を緩ませると、疑問符を浮かばせる彼女の顔を見つめた。 彼女へ贈る魔法の言葉、頭の中で何度読み返しても緊張でどもってしまう。 どこかで噛んでしまいそうだと、不安になってしまう。 でも、あの時の海未だって、こうした緊張の中で俺にああ言ってくれたんだと考えると、頑張らねばなと自分を励ます。

 

 大きく深呼吸して整えると、彼女の手をとり、ジッと見つめて唱えるのだ。

 

 

 

 

 

「俺は……園田海未を我が恋人とし、いずれ、我が妻として迎え入れることを誓います―――」

 

「共に笑い合える幸せな時も、苦しく挫けそうな困難な時も、自信を失い目の前が曇ってしまう不安な時も、死がふたりを別つことがあろうとも、我が愛しき園田海未をその最後の時まで愛し、慈しみ、その生涯を護ることを―――ここに誓います」

 

「………ッ!!?」

 

 

 誓いの言葉が語られる―――――

 

 俺が、海未に対して想い続けてきたすべての気持ちを、この言葉に託した。 これが、俺が海未へ贈ることが出来る最高級の魔法の言葉。 永遠に廃ることの無いこの想いを届けるのだった。

 

 

 一方、当の本人である海未は、この言葉を聞いた瞬間、瞳を月よりも鮮やかに煌めかせて涙を流した。 声を抑えてむせび泣こうとするのだが、抑えきれないほどに声が大きくなってしまうようだ。

 

 

「あの時、最初に海未が俺に対して想いを告げてくれた。 だから、今度は俺が、その想いを受け、永遠に終わることが無いように誓い立てたんだ。 海未の答えは?」

 

 

 相槌を打つように彼女の耳元で囁くと、彼女は涙を拭い、ハッキリとした声で俺に誓うのだ。

 

 

「はいっ……! 私、園田海未は、あなたを将来の伴侶として迎え、永久の愛を育むことを誓います……!!」

 

 

 誓いの言葉が結ばれた―――――

 

 青く透明な笑みを浮かばせた彼女の姿に、安堵の気持ちを込み上がらせるとともに、その笑みを絶やすことが無いようにしようと誓うのだった。

 

 そして――――

 

 

 

「海未――――」

「はい、きて、ください―――」

 

 

 その言葉と共に、身体が彼女と重なり始める。

 指先同士が絡み合い、揺れる胸同士を重ね合わせて鼓動を感じ合った。 月のように煌めき、華のように可憐なその表情で俺を臨んでいた。 瞳には俺の姿が映り込んでいた。

 

 お互いの吐息がぶつかり合わさると、互いに目を瞑り――――

 

 

 

 

 

 契りを交わすのだった―――

 

 

 

 

 

 

「愛しています―――」

 

 

 心の奥底から聞こえる言葉に、

 

 

 

「愛し続けるよ―――」

 

 

 と偽りなき言葉を交わすのだった――――

 

 

 

 

 満点の夜空に輝く銀色の月。

 その月の光が地上に降り注ぎ、2人の男女が織りなす真実の愛を照らした。

 

 すると、その光に誘われて、一輪の花が咲いた。 それは、赤く赤く大きな花――情熱の赤を魅せるその花は、強い風に煽られようとも散ることはないだろう。 しっかりと根付いたその花に、終わりなど無かったのだ。

 

 まるで、2人の愛を讃えているかのようだった―――

 

 その、赤く大きな花の名前は―――

 

 

 

 

 

 

 

――――未来の花

 

 

 

~Fin~




ドウモ、うp主です。

ようやく、9人全員分を書き終えることが出来ました!!!
やった!第三部・完ッ!!


という冗談はよして、今回の話についてお話しましょう。

皆さんは、この海未を読んでどう思ったか?

多分、多くの人が『誰だ?』と思ったことでしょう。
はい、この子は、正真正銘、園田海未なんです。
でも、少し違います。

ぼららら時の海未なんです。

みなさんが想像する、海未は、TVアニメ版の方だと思います。
でも、私の中では、すっと海未はあの頃のままでずっと変わらないのです。
そればかりか、他のメンバーも同じく、あの時の姿のまま、心の奥に生き続けているのです。
それを少しでも知ってもらいたいがために、あえて、過去の設定やらを引っ張ってきて、この話を創り上げたのです。
理解してくれる人が少ないかもですが、それでも知って欲しい…こんなに可愛らしい海未もいたのだということを……。



そういうわけで、今回でμ's生誕話は終了となります。
一年間続けてきて、とてもいい経験が出来ました。
またの機会があれば、こんな話を作っていきたいです。

それでは、また。







ん、俺?

俺は……そう、だな。
少し、話をしようか……来月に。
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