それではお楽しみください。
風呂から上がると部屋の奥は暗闇に包まれ、部屋にある唯一の灯りはちろちろと燃えていた。
さてはあいつまたお得意のリトルデーモンとやらと交信なのか……なんて思いながら風呂から出たことを伝えに行く。
交信してる最中なのに部屋に入っていいのかって? もちろん怒られるさ、今まで何度怒られたことか。だけどしっかり風呂から上がったことは伝えないとな。いちリトルデーモンとして。
……あいつの教えだし。
扉の前に立つ俺の名前は星奏多。
善子の彼氏で今は大学2年生。善子と歳は2つ離れていて善子が今年受験を控えた高校3年生。
受験する大学は俺と同じ大学が希望なようで勉強を……頑張って……いる……いやいないな。
このままで大丈夫なのだろうか……
今更グダグダ言っても善子へは伝わらないしこうしてる時間がもったいないから扉へと手をかけるとするか。
「おーっす、善子先に風呂あがったぞー」
扉の先にいたのはろうそくに囲まれた一人の少女。全身真っ黒の服を身にまとい翼を生やし、頭に嘘くさい輪っかを乗せた俺の主、もとい恋人である津島善子。
「ちょ、ちょっと奏多! なんで上半身裸なのよ!? ていうか今リトルデーモンと交信中なんだから部屋入ってくんなー!」
交信中……世間一般でいえば生配信、そう彼女は今まさに生配信の最中だったのだ。
今まで何度か生配信にお邪魔したことはあったが俺が風呂上りにお邪魔するのは初めてだったようで、善子は顔を赤らめる。いつも俺の上半身裸ときは全然平気な顔で見ているはずなのになんで赤らめるのだろう。リトルデーモン達の前だと恥ずかしいのだろうか。そう思いながら善子の先にあるパソコンの画面を覗くと、「誰ずら? お兄さん?」とか「彼氏かなん?」「いい筋肉だ、ヨーソロー!」なんてコメントが右から左へ流れていく。……ヨーソローってなんだ?
きっとこの人たちは初めて配信を見るんだろう。また新しいリトルデーモンたちが増えて俺もうれしい限りだよまったく。まぁそろそろ禁止にするけどな。
コメントを目で追いながら読んでいると、横から善子が「きょ、今日はいったん終わりまーす」なんて焦ったようにマウスカーソルを放送停止の位置に持っていきクリックして放送を止める。そして俺を床に座るよう促した。俺を顎で使うな顎で。まぁいつものことなので命令に従い床に腰を下ろす。
「ねぇ奏多? せめてノックくらいはしろっていつも言ってるじゃない、何度言えばわかるのかしら?」
やはりいつものお説教のようだな、いいだろう受けて立つぜ。
……というか俺まだ上半身裸なんだが服くらい着させてもらう時間は……ない。まぁいいか。
「まぁノックをいつもしないのは俺の悪い癖だけど。善子、俺はリトルデーモンとして主に言われたことを実行しているだけだぞ? それのどこが悪い。それに言わせてもらうがお前高3にもなっていつまで放送してんだよ、受験勉強はいいのか?」
俺がこういうと善子は瞬く間にしゅんとちいさくなる。やっぱ正論、最強だな。そんな善子だったがすぐに反論してくる。
「配信と勉強は関係ないでしょ!? それに勉強は問題ないわ! 私に不可能なことなんてない、あなたも知っているでしょう、リトルデーモン? 安心しなさい」
そんなこと一回も聞いたことない……というかこの前の数学のテストちらっと見たんだが、決していい点数とは言えなかったなぁ……まぁ大丈夫っていうくらいだし数問試してみるか。
「そうか、そこまで自信満々に言うなら今から数学の参考書とってくるからちょっと待っとけ」
「ま、まかせなさい! そんなもの私の手にかかれば速攻でノックアウトよ!」
善子の額から若干汗が見えるが大丈夫だろうか。
おそらく部屋が暑いからではなく明らかに冷や汗だろうな、うーん30分コースかなぁ……
――問題にとりかかってから早5分。ついに善子の手が止まった。
さっきよりも善子の汗の量が尋常じゃない。いつもみたいに言ったからにはやらないと、とでもそんなことを思って焦っているんだろう。
「ほーら案の定解けないじゃないか、まったく……教えてやるからちょっとこっちに来い」
それから10分ほどたった後ようやく答えを導き出すことができた。
何とか予想していた半分の時間で終わらせられたな。
「あーやっと解けたー! ささ、配信の続きしましょ! リトルデーモンたちがこの私を待ってるわ」
そういって善子は伸びをして腰を上げる。善子はあれだけつらい思いをしておいてまだ自分の首を絞めようとするらしい。やっぱり馬鹿だな、コイツ。
「あぁ善子、言い忘れてたが今日から受験終わるまで生配信禁止な」
はぁ? 何言ってるんだこいつ、バカなの死ぬの? とでも言いたそうな顔だ。
善子が顔をひくひくさせている。
「な、なんでよ!」
「だってお前さっきの数学でやばいと思わなかったのか? 試験まであと何か月だよ」
善子は親指から順に手の指を折っていき数える。いや指折って数えるほど長くねぇよ……
「そうね、今が7月だから……あと5か月ってとこね」
「そうだな、じゃあ善子は今のまま放送を毎日のように続けて大学に受かると思うか?」
「……思いません」
「お前が行きたい大学は?」
「奏多と同じとこ!」
屈託のない笑顔で即答。
まさに天使、可愛い……だが許さん。
「そうだな、じゃあ何をすれば俺と同じ大学に受かると思う?」
「……勉強です」
この回答も即答してほしかったなぁ……
「じゃあ勉強をする時間を作ると放送をする時間は?」
「……ありません」
「そういうことで受験終わるまで放送禁止な」
「……はい」
また一方的な言い合いに負けた善子がちいさくなる。さすがに今回ばかりはフォローしてやらないと今日ずっとこのままな気がするぞ。
「まぁそんな落ち込むなって、わからないところがあったら俺が教えてやるから、な? 心配すんな」
ぱぁっと善子の顔が明るくなる。今日は感情の移動が激しいな、まぁそこがまた可愛いんだけどな。
「ふ、ふん! 私のリトルデーモンなら当然よ! しっかり教えなさい?」
そんなうれしそうな表情とは裏腹に平静を装った返答をする。まともに感謝を伝えるのが恥ずかしいらしく、善子は世間でいうツンデレだな。
そのあとも問題を何問か解いていった。善子はもともと頭の悪いわけではないし呑み込みが早いので、後半はスラスラと解けるようになっていた。
「やればできるのになんでいつもやらないんだよまったく……」
「面倒なことは後回しにするタイプなのよ、知っているでしょ。」
「はぁ……まぁ一段落ついたことだし風呂入って来いよ、善子」
「そうね、そうさせてもらうわ」
こうして善子を風呂へと見送った。
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30分ほどしたら善子が風呂から出てきた、上半身の服装は左の腰あたりにハートが描かれたパーカー、下半身はスウェットといったいつもの寝間着の格好だった。
善子は普段シニヨンという頭にお団子を乗せた髪型をしているが寝るときはわざわざ髪を結うといった面倒なことはしない、もちろんお団子は解いて髪は下ろしたまま、俺は断然こっちの方が好みだ。素の感じが出ているほうがいい。
「なにジロジロ見てるのよ? 気持ち悪いわね」
「ん、なんでもない。それより勉強も頑張ったご褒美にゲームでもするか?」
そう言って俺が取り出したのはダンディ髭とつなぎが特徴の某配管工の兄弟が王国のお姫様を救うあのゲーム。今思うとなんで配管工ごときが王国のお姫様惚れさせることができたんだろうな。早く結婚しろリア充め。あぁ、俺もリア充か。
まぁもし俺がお姫様で、世界の中に亀とキノコ、恐竜、配管工しかいなかったら必然的に唯一人間である配管工選ぶな、俺も。
そういえば俺と善子の出会いもなんで付き合ってるんだって感じだな。
俺たちが出会ったきっかけは2年前の善子の配信。
当時何も熱中することがなかった俺は勉強の息抜きになにか動画でも見ようと思い、パソコンを開いて友人から勧められていた動画を見ようと思ったらトップページのオススメに出てきたのが善子の配信だったんだ。
堕天使? バカバカしいって思いながら鼻で笑っていた俺だったがマウスカーソルは正直で自然とクリックしていた。配信している善子はバカバカしいって思われるようなことでも全力で取り組んでいたんだ。そんな姿に俺は惚れてコンタクトを取ろうとした。有名配信主ということで連絡先を手に入れるのは苦労したがそれはなんやかんやあったんだ、聞かないでくれ。
実際に会ってみた善子は画面の向こうと全く変わらない姿で俺の前に現れた。
俺が堕天使をバカにすることなくすごいことだ、と褒めると善子は目を輝かせ堕天使の魅力について俺に語ってくれた。そこから頻繁に連絡を取るようになって今付き合っているというわけだ。
そんなくだらないことを考えていたら善子が口を出してきた。
「あぁマ○オね、このゲーム散々やった挙句全クリもしたやつじゃない。まぁリトルデーモンの頼みとあらば付き合ってるあげないこともないわ」
そう言って善子はゲームを起動するなんだ嬉しそうじゃないか。
ていうか、わざわざ俺が某配管工って言ってるのが台無しじゃないか。勘弁してくれよ。
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ゲームをしていたら0時を回っていた。22時ごろから始めたゲームも気づけば2時間も経っていたみたいだ。日付は7/13日を指している。
この日は善子の誕生日。
「善子」
「? 何よ奏多」
急に名前を呼ばれ頭にハテナマークが浮かんでいる善子。画面に集中してこちらを見ることはなくコントローラをポチポチ。
「誕生日おめでとう。勉強頑張って俺と同じ大学来いよ」
ハッと驚いた顔になり善子は少し顔を赤らめる。
「しっかり覚えていたのね、さすがは私のリトルデーモンだわ、ほめてあげる」
「そうか、そういうならご褒美くれよ」
「ご褒美? 私の誕生日なのにおかしなリトルデーモンね。まぁいいわ、なにがほしいの?」
お許しが出たので俺は善子に近づきゲームに夢中で正面を見ている善子の頬を掴みこちらを向かせてそのまま唇を奪う。
ガンッとコントローラーが地面に落ち、善子の大きな瞳がより一層大きく開かれる。
「ぷはっ」
――――流れているのは夢中になっていたゲームの音だけ。亀にやられてゲームオーバーになった音が静寂な部屋の中に響く。だけどそんなのお構いなしに俺たちの沈黙の時間は流れていく。
「――!!」
少しすると善子は何が起こったか理解したようで顔をさらに紅潮させ言葉にならない叫びを発した。
「ちょ、ちょっと善子! もう夜中なんだから静かに!」
「な、な、な、なんで! よりによってキスなのよー!」
とにかく興奮気味な善子を落ち着かせた。
そこからも善子は一度も口を開くことなく俯いているまま。
なんか気まずいことしちゃったかな。
―――――――申し訳なく思っていたらまだ少し顔の赤い善子の口が開いた。
「はぁ。で、なんでキスしたのか教えてもらえるかしら?」
「そりゃだって善子とキスしたいから以外ないだろ」
「なんでアンタはそういうこと平気で言えるの?」
俺は何かおかしなこと言っただろうか、思ったこと口にしただけなんだけどなぁ……
「その思ったことを口にするのがダメって言ってんのよまったく」
「善子も俺の心を読むのはさすがにダメだ」
「リトルデーモンの思ってることくらい主である私がわからないとでも? 甘いのよ奏多は」
下僕の管理はお手の物ってことか。
それにしてもさっきからなんか善子が少しだがもじもじしている。いったいどうしたというのか。
「なぁ善子なんでさっきからもじもじしてるんだ? お前もしかして……? んむっ!?」
俺がそう言いかけたとたん今度は善子が俺の唇を塞いできた。さすが堕天使様、自分がやられたままだっていうのは気に入らないってか……いいだろうリトルデーモンとして楽しませてやるぜ。
「ぷはっ。ふふっ、これで対等ねリトルデーモン……?」
まだ少し顔の赤い善子ではあるが勝ち誇ったような表情をする。
しかし俺は間髪入れずにまた善子の唇を奪う。
「んん……ちゅる、れろ」
今度は善子の口の中に舌を無理やりねじ込んでディープなキスをする。
トロンと溶けたような顔をする善子だがすぐにバンバンと俺の肩をたたく、酸素が足りないようだ。
「ぷはっ……はぁ……はぁ」
善子は顔を落とし、肩で息をする。よっぽど恥ずかしかったようで頭から湯気も上がっている気がするほど顔も赤い。
そして息を整えるように深呼吸したあと
「なんで奏多はそんなに息継ぎがうまいのよ」
「いや俺が上手いんじゃなくて善子が息継ぎしてないだけだぞ」
そんな反論をするとムスッとした顔をこちらに向けて来る。どうやら納得がいかないようだ。
「そんなに納得がいかないなら、もう一度やるか?」
「い、いいじゃない! 上等だわ! この堕天使にいつまでも勝つことができるなんて思わないことね!」
結局善子の息継ぎがうまくいくまで日がのぼるまでかかり、2人とも学校に遅刻してそれぞれの友人に昨夜はお楽しみでしたね。って言われるのはまた別のお話。
お読みいただきありがとうございました。
正直堕天使語録はわからないのでまったく文章に入れませんでしたが楽しめていただけたらと思います。
善子はすごく勉強ができるかすごくできないかの両極端だと自分の中では思っています。勉強せずに完璧にこなす堕天使様を見たいものです。
善子誕生日おめでとう!