~Aqoursの生誕祭~   作:ほおずきん

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どうも。

今回は人が死ぬシリアスとなっておりますので苦手な方は遠慮ください。

それでも良いという方はどうぞ!


~高海千歌生誕祭~

 私には付き合ってる人がいた……

 

 

 

 あなたがいなくなってから今まで前向きに歩いてきたつもりだけど、それほど時間が経っていなかったみたい。

 

 あなたといた時には見えていた一瞬の光はあなたがいなくなったら見えなくなってしまった……

 

 ひとりじゃ絶対に見つけられない光。ふたりでいないと探し出せない光。

 やっぱり寂しい、寂しいんだよ。だから私は唄を歌うの。

 

 そのときパッと浮かんできた聞いたことのある歌詞を、脳の中にある引き出しをできるだけ全部開けて精一杯引っ張り出してきた、引っ張り出してきたはずなのになぜか寂しいメロディーを口ずさみながら。

 

 唄を歌うことであなたと一緒にいたことを思い出すから。

 

 でもきっと思い出すだけじゃダメなんだよ。

 

 やっぱりあなたといないと寂しい。

 

 こうして寂しいと感じることでしかあなたを感じられない。

 

 そんな自分がとても嫌いだ。

 

 

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 私、高海千歌は最近ようやく大女将のお母さんに認められて旅館の若女将になったばかりの25歳!

 

 だけど毎日毎日ミスしちゃって怒られてばかり、若女将が聞いてあきれちゃうよね……アハハ。

 普段お手伝いさんとしてできていたことが自分の地位が上がってしまうとどうしても緊張しちゃって……

 

 ってそんなしんみりした話はどうでもよくて! 『少し息抜きしてきなさい』ってお母さんに言われてたまたま休みをもらえた今日はなんと5年も前から付き合ってる彼氏の江村将也《えむらまさや》くんと沼津にあるショッピングモールに来ているのだ!

 

「ねぇ次はどこに行く?」

 

「そうだなぁ千歌の好きなところに行こうか」

 

 私がこうやって聞くと将也くんは決まってこう返してくれる。

 

「ほんとに!? じゃあ今度はあそこの洋服屋さんいこ!」

 

 その彼の気遣いにたっぷり甘えて私は行きたいところへ全力で駆け出す。

 

「お、おい! いきなり走り出すなよ! 危ないぞ!」

 

「だいじょぶだいじょぶ! 時間がもったいないの! ほら、早く来て~」

 

 私がどれだけわがままを言って振り回しても彼は『仕方ないな』と言いたげだけど少しにっこり笑った顔をする。

 そんな彼の顔が私は大好きで、何度でも振り回して困らせたい気分になっちゃうの。

 

 このジュースおいしいね、あのクレープまた食べたいな、なんて言いながら幸せな日々を過ごしていた。

 

 ――でもそんな風な日々が長く続くとは限らないの。

 

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「千歌ちゃん……」

 

 ある日のお昼の出来事、私が泊っていったお客さんの部屋の片づけをしていたら志満ねぇが悲しそうな顔をして私に話しかけて来る。

 

「えっ? 将也くんが車に跳ねられて即死?」

 

 ――交通事故

 

 その言葉を聞いたとき頭が真っ白になって私は何も考えられなくなった。

 

「うっ、げほ、げほっ! おえっ。なっ、なんで将也くんなっのっ」

 

 止まらない嗚咽と涙。まともに声も出すことができない。

 目の前で起きた事故でないはずなのに目の前で起きたような感覚。

 

 

 

 私はそのまま意識を手放して次に目を覚まして気が付いたときは病院の白い壁を眺めていた。

 

 あのあとのことはほとんど覚えていなくて、志満ねぇに教えてもらった話ではその場に立ち尽くしたと思ったらそのまま気を失ったらしい。

 目を覚ましたばかりだったけど志満ねぇや看護師さんにお願いして、しばらく一人にしてもらった。

 一人になった途端あふれ出てくる涙を濁流のように流した。

 

「なんで……ほかの人じゃなくて、なんで将也くんなの……こんなのあんまりだよ……」

 

 

 どうやらいつのまにか寝てしまったらしい……

 

 何も考えられない……身体を起こす気力すら起こらない。

 

 ああ、大切な人を失うという感覚ってこうなんだ。

 子供のころひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんと亡くなって、私以外の人はみんな泣いていた。

 なんで泣いているんだろうって思った。涙なんて一切出なかった、死に対する感覚がわからなかっと言ってしまえばそれまでだ。だけど当時の私は一番悲しそうにしていたおじいちゃんとおばあちゃんの頭をなでて慰めてあげることで精一杯だった。悲しいなんて感覚はなかった。

 

 大事を取って入院していた私だったが特に身体に影響はないということでその日のうちに退院することができた。

 ただ旅館に帰ってもまともに仕事ができるはずもなく、私は病院の時と同じようにただただぼーっと時間が過ぎるのを待ち天井眺めていた。

 

 

 

 

 

 そのまま何も起きることもなく7月ももう終わろうとしていた。

「千歌ちゃん今大丈夫?」

 志満ねぇが申し訳なさそうに私の自室へと入ってくる。

 将也くんのことを考えそうになってまた涙があふれてきそうだったからちょうどよかった。

 

「うん……どうしたの?」

 

 溢れそうになった涙をぐっとこらえながら私は返事をする。すると志満ねぇが一枚の紙を差し出した。

 

「なにこれ?」

 

「万一のことがあったら千歌ちゃんに渡してほしいって前々から将也君から預かっていたのだけれど……私も中身までは見ていないから何が書いてあるかわからないわ。見るかどうかは千歌ちゃんに任せる。それじゃあ」

 

 そういって志満ねぇは私の部屋から出て行った。

 

 志満ねぇから渡された紙は小さな5cm四方の紙が折りたたまれたものだった。

 

 なんとなく紙を開くのが怖かったけれど……将也くんからのメッセージなら読まないわけにはいかないと思い、恐る恐る紙を開く。

 

『千歌へ、この文章を読んでいるということは俺になにか起こったということだと思う。本当に申し訳ない。気は進まないかもしれないが机の上から二番目の引き出しの一番奥を見てくれないか?』

 

 私はこの文字を見たときに一目散に机の引き出しに飛びついた。上から二番目の引き出し……私と将也くんの今までの思い出を詰め込んでいた場所。

 

 ばれてないと思ってたけど見られちゃってたのかぁ、彼女の秘密を探るなんてイケない彼氏さんだなぁ。

 

 将也くんがいなくなってから初めてくすっと笑うことができた。なんて思いながら引き出しに詰まっているものをすべて外へ投げ出した。奥にあったのは黒い正方形の箱。

 

「これって……」

 

 慌てて手紙の続きを読むと、『たぶん指輪の箱が入っていると思う。千歌の誕生日に渡そうと思って、よければこの箱をもって8/1になる0時に淡島の祠の場所まで来てくれ。』と綴られていた。

 今の時刻は23時。自転車で全速力で行けば間に合う時間だ。考えている暇はない、私は考えるよりも行動に移すほうが得意なのだから。

 

 急いで服を着替え部屋を飛び出す。

 

「志満ねぇ! ちょっと出かけてくる!」

「ちょっと! 千歌ちゃん! こんな遅くにどこに行くの!」

「あんまり遅くには帰らないから!」

 

 そう言い残し私は玄関を出て、自転車に跨る。

 あぁまたお客さんの入り口から出ちゃったや、お母さんにまた怒られちゃうな……

 

 

「ハァ……ハァ」

 

 息を切らして自転車を漕ぎ、祠につながる階段へとたどり着いた。

 あとはこの階段を上りきるだけ。一時期体力づくりのために毎日のように上っていたけどここ5、6年はさっぱりだ。大丈夫だろうか。

 いやそんなことを考えてる暇はない。自転車を漕いですでにガタガタになった足を何とか動かし階段を上る。

 

 この階段……こんなにきつかったっけ。切れる息とおぼつかない足をなんとか前へ前へと運ぶ。

 

 なんとか頂上に到達することができた。

 

 息を整えるため膝に手をつくが、膝が笑っている。

 

『千歌、来てくれたんだな』

 

 誰もいないはずの頂上、その祠から声が聞こえた。将也くんの声だ。

 

「将也くん!? 将也くんなの!?」

『あぁ、迷惑かけてすまないな千歌』

「将也くん! どこにいるの? 声は聞こえるのに……」

『ごめんな千歌、姿まで見せてやることはできないみたいなんだ』

「そっか……急にいなくなったり声だけ聞かせたりほんとダメな彼氏だなぁ君は」

 

 自然と涙がぼろぼろと溢れてくる。

 

「ごめんねせっかく会えたのに涙が止まらなくて……」

 

 ふわっと身体が何かに包み込まれるのが分かる。このぬくもりは将也くんのだろう。

 

『いや、俺のほうこそ悪かった。いきなり事故にあって千歌のこと一人にしてしまって、それにしても幽霊でも物体に触れることはできるんだな……』

「いや千歌もびっくりだよ……」

『もうこうしていられる時間も少ない。千歌、指輪持ってきてくれてるか?』

「うん、ここに」

 

 私が指輪の箱を差し出すと指輪はその場でひとりでに浮き始めた。

 

『さぁ千歌左手を出してくれ』

 

 私が左手を差し出すと指輪は私の薬指にスッとはまった。はたから見ればきっとポルターガイストのような現象に出会っていると思い込むだろう。だけど私はその瞬間将也くんの姿がはっきりと見ることができたんだ。

 

「将也くん……千歌ね今将也くんの事はっきり見えるよ、ありがとう」

 

 目の前の将也くんにハグをする。私のほうからは将也くんをつかむことができなかったけれど、将也くんは私を抱きしめてくれた。

 

『俺のほうこそこんな形で指輪を渡すことになったけど、俺と出会ってくれてありがとう』

 

 次第に将也くんの声が遠くなっていく。

 

『ごめんな千歌、そろそろ時間みたいなんだ』

「ううん、最後にこうして出会えただけで十分だよ、それじゃあね……」

『ああ、本当にお別れだ、俺の分まで元気に生きろよ』

「うんっ! ばいばいっ……」

 

 お別れをすると将也くんを感じられなくなった。本当にいなくなっちゃったんだなぁ……

 私はそのまま上を向いて将也くんとの最後の涙を流した。

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 もうあなたは私の目の前にいない。

 今までずっと目の前にあった光景それが今はない。あなたにちゃんと寂しいって伝えればよかった。

 あなたがいなくなったとき私はもう身体から水分が抜け切ったように泣いた。

 自分がどんな状況になっているのか考えられないほどに前を向いて歩いて行くのはつらい。そんなことを思い知らされた出来事だった。

 だから楽しいことをして、誰かと笑っている方がいいんだ。って思っていた。

 だけどそれは本当の自分じゃない。あなたといた時の私が本当に笑っていたんだ。

 つらいよ、あなたにもう会えないことが。それに気づいてしまった自分がつらい。でも大丈夫、痛みはまだ残っている。あなたと過ごしてきたときのことは私の中に残っている。

 でも理想と現実は違う。私があなたと思い描いていた理想、未来。だけど現実はそうでなかった。あなたとの思い出は確かにそこにある。だけどあなたはここにはいない。

 なんでこうなったのかわからない。あなたといることがとても幸せだった分、今はとても暗い。

 

 

 

 ときどき頭が熱くなるほどあなたのことを考えてしまうことがある。だから眠るんだ。

 眠って夢の中だとしてもあなたと会うと楽になる。いい意味であなたのことを考えなくて済むから。

 だけど一度目を覚ましてしまえば全然気持ちが晴れるような感じはないし、真っ暗だ。

 あなたを思い出すとたくさんの光の中に埋もれてしまう。

 私の中であなたとのことは和らいできている。

 泣かなくなったし、靴が擦り切れるほど歩いてきて何度も新しくしたけど大丈夫。

 あなたとのことは一度も忘れていない。あなたとの事があったから大切なことを得ることができた。あなたと出逢えたから今の私がいる。

 

 今思い出してみれば伝えきれてないことがたくさんあったような気がする。

 ありきたりのことでも伝えきれてないことがたくさん……たくさんある。そんな気がする。

 時々熱が出て、風邪をひいてしまうことや、時間があれば眠ること、そんなありきたりなこと。

 だけど伝えきれていない。だから今伝えるんだ、ちゃんと時々熱が出るよ、時間があるときに寝ているよ、って。

 

 あなたと見たあの一瞬の光はあなたと別れてからはなぜか見えなくなってしまったけど、

 それでもその一瞬の光があなたと見えた事実は変わらない。

 あなたと一緒にいたあの事実は変わることはないんだ。

 

 他人なんてどうでもいい。正解なんてどうでもいい。

 この世界なんてどうでもいい。そんなことを考えているより自分らしく生きていく。

 それが最高だ。

 

 大丈夫、本当の笑顔が作れるようになるまでは適当に笑っていくよ。

 

 大丈夫、この先の人生も何とかやっていける。

 あなたがいたから、今の私があるんだ。この痛みはあなたといた証、あなたといたから今の「私」がいるんだ。

 

 痛みはなぜ忘れたって消えないのか。

 

 基本的に"痛み"は自然と消えてしまうものなんだ。時間が癒してしまうものなんだ。

 だから『「私」は悲しい過去をできるだけ思い返さないようにして来た結果、『痛み』を忘れてきてしまう。』というよりは自然とあなたのことを忘れていってしまうのかなって思うんだ。

 でも私はその時感じた痛みや悲しみを忘れたくない、絶対に忘れないと言い聞かせているんだと思う。あなたといた時間やあの時の痛みがあったから今の私がいるから。

 

 

 

 

 

 

 ありがとう……将也くん。

 




最後まで読んでいただきありがとうございました!

生誕祭の話なのにシリアスなんておかしいと思ったそこのあなた、私も思っているので大丈夫です。


千歌ちゃん誕生日おめでとう!
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