私は海に潜ること、海を見ること、海と一緒に生活することが好きだ。
海は悩んでいるときに語りかけてみれば、何も言わずに優しく包み込んでくれる。
時には人間に対して猛威を振るうこともあるけれど、基本的にはおおらかで優しくて、お母さんやお父さんみたいだ。
昔からおじいしかいなかった私にとって、海は本当の親そのものだった。
そんな私が好きな海だけど他にも好きなものがある。
――――それは星空だ。
きっと私は大きなものか際限のないものが好きなのかもしれない。
海だって星空だって地球の裏側に行っても存在していて、いつでも私のそばにいると思える。
普通の青空だって変わらないかもしれない。だけど私は星があるだけでなぜか安心できる、見守られてるっていう感覚になるからかな。それともキラキラしてるからかな。海も感覚的にはキラキラしているし、きっとそうなんだと思う。
だから普通の空よりも星空のほうが好き。そんな優しい安心できる星空と海が好きだ。
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「なぁ、果南って星好きだっただろ。今から見に行かないか?」
「どうしたのいきなり、どういう風の吹き回しなの?」
私が店の片づけをせっせとやっていると、突然ソファーに座ってコーヒーを
普段はこんなこと言わないやつなのに、何か企んでいる気がしてならない。というか少しは手伝ってくれてもいいのに。
「あぁいや、たまたま果南の部屋にある天体望遠鏡が目に入っちゃって。そんなに興味なかったんだけど気になって調べたらのめりこんじゃったから、よければいろいろ教えてほしいかなって」
「なんだ、和也が何か企んでるのかと思ったよ。それにしても女の子の部屋を覗くなんていい趣味してないなぁ」
まぁ別に私の部屋には男の人とは違ってやましいものが置いてあるわけでもないし、いいんだけれど。ただ少し部屋が汚いくらいで……。
「うっ、それはごめん。必要なものがあったからさ、まぁでもいくら仕事の後も着るからといって下着を脱いだまま放っておくのもどうかと思うぞ」
「………………」
あまりのカウンター攻撃に身動きが取れなくなってただただ立ち尽くす私。
和也に下着を見られたという事実を頭の中で
「あ、顔真っ赤になった」
「和也のバカ! このろくでなし!」
とりあえずその場にあったものを和也へと投げつける。当たらないように気をつけようって頭では思っていても本能がそれを許してくれない。
和也へ向けて物はすべて飛んで行った。だけど和也はひょいひょいと物をよけ続ける、それはそれでまたむかつく。
「まぁまぁそういうなよ果南。一緒に住んでる時点でデリカシーもくそもないんだからさ、落ち着けよ」
「お、お、お、落ち着けるかぁ! あぁ……私の大事な何かが奪われた気がする」
なんだか今まで積み上げてきた私の何かが崩れ去っていく音がした。
何とか和也に
だけど乙女の下着を見た罪は重い。いつかこの罪を償わせてやろうと心に決めた。
「それじゃあ今日の夜に出発な。どこで星を見るかは果南に任せるからよろしく」
そういって和也は自分の部屋へと入っていった。そうかぁ、私がしっかり星を見るのも数年ぶりかも。
ここ数年は仕事に追われてばっかりで煮詰まってたし、いい気分転換になるかも。
インストラクターの資格を海外で取得してから、なんでか知らないけど私の店はありがたいことに繁盛して毎日のようにお客さんが来てくれるようになった。
中には変なお客さんもいたけれどいろんな人がいるって知ることができたし、対応の仕方も勉強できた。さすがに最初は和也が横から入って止めてくれたけど。
そんな息抜きの意味も含めて和也は私を天体観測に誘ってくれたのかも。
ほんとに考えてるかはどうかは別として、ね。
それから一緒に晩ご飯を食べて、お風呂に入って時間が来るまでは星を見る話は一切しなかった。
というか私がしない限り和也は絶対にしないと思っていた。
私のことを信頼してくれているからだ。自分がしたい話をした後私に一任してくれたから、面倒だからとか思う人もいるかもしれないけど私はそうは思わない。だから私はこの関係性がすごく好きでとても気に入っている。
話はしないけど想いは伝えないけど信頼しあえる。そんな感覚がたまらなく好きだ。
「よし、それじゃあ淡島神社の頂上目指して夜中に出発しようか」
「は!? あそこに行くのか? 階段は車じゃ登れないぞ?」
私が淡島神社を提案すると和也は少し驚いていた。
車で行けるところを想像していたに違いない。あそこは近くまでは車で行けるけれど途中に階段があるため頂上までは自分の足で行かなくてはならない。またその階段が急だし、長いしでたくさんの地元の人たちが苦しめられてきた。
私も最初は車だけの移動のほうが楽だと思ったけどせっかく和也が誘ってくれたし、初めてやる天体観測なら一番いいものにしてあげたいと思って淡島神社の頂上にした。
高校生の時は毎日のようにランニングに行っていたけど、ここ最近はからっきしだ。
もう年齢が年齢なのか2年前からあの急な階段を走って登ると膝が痛くなってしまうから、そういったところは控えるようにした。
もちろん毎日のランニングは永遠と続けるつもりだから、体力の面では全く問題ないと思うけど。
「そんなこともちろんわかってるよ、でも近場であそこが一番星がきれいに見れるんだから我慢してよ。あ、あと天体望遠鏡は和也が担いでいってね」
「俺かよ……。俺より果南のほうが男勝り……」
また失礼なことを……。ほんとに女性に言うセリフなの? それ。
「何か言った?」
「そういうところだと思う」
「うるさい!」
まったく……言いたいことをいうのはいいところかもしれないけど、ストレートすぎるんだよね。
おかけで言わなくてもいいことまで言っちゃうし、ほんとに困るよ。
もしかして私女として見られてないんじゃ……。
ああだこうだ考えてるうちにまた和也は自室に戻って準備をし始めてしまった。
私は特にすることもないのでリビングでゴロゴロしながらテレビでも見ることにした。
…………和也が私のことをしっかり見てくれているか心配になっちゃってテレビどころではないし、内容も言葉も全く入ってこなかった。
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「果南! 起きろ! もうすぐ時間だぞ」
次に私の耳に飛び込んできたのはテレビを介した人の声ではなく、生の人間の声で、その声にハッとして目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。ぼんやりとする目をこすりながら壁にかかっている時計を見ると、短い時計の針はもうすぐ2の数字を刺そうとしていた。
「あぁ、ごめん。寝ちゃってたみたい、さぁ行こうか」
「車の中で寝てていいからさ、毛布か何かもってけよ。星見るにしてもこの時期じゃ寒いしどうせ毛布いるだろ」
和也に悪い気がしたしなんだか不本意だったが言葉に甘えて車の中でさらにひと眠りすることにした。
どうやら思っていたより疲れていたようですぐに眠ってしまい、次に意識がはっきりした時にはすでに目的地の近くに来ていた。
「うへー、ほんとに上るのかこれ……」
「あたりまえだよ、さぁいくよっ」
「ったく、果南は車の中で寝てたからいいよなぁ」
「えー? 和也が寝てていいって言ったんだよ? 私悪いかなぁ」
こうやって私はまた意地悪を言ってみる。和也は少し不貞腐れたような顔をするが私を見て少し微笑んだような気もした。
「へーい、何にも悪くないでーす」
「よろしい。それじゃ行くよっ!」
階段を上っていくとようやく頂上が見え始めた。
一緒に登っている和也は天体望遠鏡を担いでいて、ひぃひぃ言っていたから途中で代わってあげようかとも思ったけど、私に対して失礼なことを言った罰ゲームなので助けたい気持ちを少しぐっとこらえて、精一杯の意地悪をしてやった。
頂上に登り切って空を見上げると、そこには満天の星空が広がっていた。
家からなんとなく星を眺めることはあったけどやっぱりここに来ると眺めが一段と違うし、なんだか癒される。
「最近煮詰めすぎてただろ、誰にも言わずに勝手に頑張るんだから、少しは休めよ」
隣で和也がボソッと、だけど私に聞こえるようにつぶやく。やっぱり私のこと心配してくれて誘ってくれたんだ。
そのことがうれしくてつい顔が
「……和也」
「ん? どした?」
「私の事、女の子として見てくれてる?」
私がそう聞くと和也は少し驚いたような顔をして、少しのあいだ時が止まったかのように私のことを見つめていた。
和也がどうかしてしまったのかと思った矢先、今度はぷっと噴き出して笑いだしてしまった。
「ははっ、いきなりどうしたんだよ果南。星を見てセンチメンタルな気分になっちゃったか?」
いきなり笑い出したと思ったら急にそんなことを聞いてきて……私のほうは大真面目なんだけどな……。
「そんな涙流すほど笑わなくたっていいじゃん!」
「いや、だってあの果南がまさかそんなことを聞いてくるとは。それに真剣な顔してたからもっと別な話だと思ったのに、そんな今更女の子として見てくれてるか? なんておかしくておかしくて」
「私にとっては真剣なの!」
もう、人の気なんて知らないで。
割と気にしてるんだからね。私、女の子っぽくないかもって。
そのために髪だって伸ばしてきたし、そういうファッション雑誌だって読んできた。
髪の毛は気にならなかったけど、ファッションに関してはどうしてもむず痒くてかわいいふわふわした服は着れなかった。
男の子は絶対そういうの好きって頭でわかってても私が供給することは一切なかった。
もちろんデートしてるときに和也がそういう系統の女の子を気にしながら見ていたのも知っていたし、幼馴染とか身近な人にどうすればいいか聞いてどうにか、どうにかって思ってたけどダメだった。
「わかった、わかったって。果南にとっては真剣だろうけど俺にとってはどうでもいいの! そんなこと聞いてくんな! って感じだよ。もちろん女の子として見てるし、ちょっとした仕草にドキッとする時だってあるし果南はちゃんと女の子だよ」
「……和也」
和也の言葉に少しホッとする。
私ちゃんと女の子に見られてたんだ、その事実が何よりもうれしくて。
私が女の子なのは和也の中では当たり前なんだって、曲がることのない真実なんだって。
そう思うと死ぬほどうれしかった。
「ちょっと男勝りなところはあるけどな?」
少しでも見直した私がばかだったのかもしれない。
「………………ぶん殴るよ?」
「冗談だって!」
「ほんとに?」
私は疑いの目を向ける、出発前に言われたこと忘れてないんだから。
「本当だよ。まぁ思ってはいるけどな」
ついに私のこぶしと和也の頭がゴチンと鈍く鳴った。
「冗談じゃないじゃん!」
この男はいちいち一言余計なんだから。
海の藻屑にでもしてやろうかとも思ったけどその前にうれしいこと言ってくれたから、殴るだけで許す。
頭を痛そうにしている和也だけどなぜか少し照れ臭そうに頬を掻きながら言った。
「イテテ。ほら、そろそろ帰るぞ。手だせ、手」
「手?」
そういって手を差し出すと上に和也の手が重ねられた。少しごつごつとした男らしい、だけどどこかにやさしい雰囲気のある手。
好きだなぁ、この手。言わないけど。
「つないで帰るぞ、久しぶりにな」
「和也からそんな提案あるなんて明日は
「お前もなかなか失礼だな、やめるか? 手つないで帰るの」
「やめないよー! さ、行こっか」
もちろん帰りも天体望遠鏡は和也が担いで帰ってくれた。
星も満足に見れてすっきりしたし、和也に女の子だって言ってもらえた。
今日は何でもお願いを聞いてくれそうだ、ハグでもねだろうかな。
最後主人公が果南からお前に呼び方が変わっているのは精一杯の照れ隠しです。
では来月もどうぞよろしくお願いいたします。