~Aqoursの生誕祭~   作:ほおずきん

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ファーストキスはレモン味


~国木田花丸生誕祭~

 

 

 マルがその人に初めて出会ったのは中学生の頃のことだった。

 地元の知り合いに連れられて初めて出た内浦のお祭り。

 家にいるときも学校にいるときも本ばかり読んでいて、お出かけしても服はあまり買わずに一目散に本屋に立ち寄っていた。

 

 地元のお祭りは何度か出てみたかったけれど臆病だったマルはどうしても新しい一歩を踏み出すことができなかった。

 今回も知り合いの誘いがなければ勇気が出せずに、家で指をくわえて浴衣きている人やリンゴ飴、チョコバナナをもって食べ歩きをしている人を眺めているだけだっただろう。

 

 マルが身に(まと)ったのは明るい蛍光色の黄色が基になっている浴衣で水玉や金魚がかわいらしく描かれている。

 お母さんが昔着ていたものをおさがりとして着させてもらった。

 姉や兄のいる友達はみんなおさがりを嫌うけれど、マルは一人っ子だからむしろ羨ましいし、もし仮に兄や姉がいたとしてもおさがりを嫌ったりすることはないと思う。

 

 だって今まで大切に着られていたっていう思いが、魂がこもっているから。

 それを受け継ぐってことはとてもありがたいことだし、マルみたいにできない人もいるのだからありがたく受け取るべきだと思う。

 物は大事にするべきだし。

 

 髪型もただおろしているいつもとは違ってお団子にしてもらった。

 それもまた普段とは違っていてわくわくさせてくれる材料の一つだった。

 恰好も髪の毛もばっちり決めてもらったマルはウキウキ気分で外を歩く。

 提灯(ちょうちん)が放つ淡い光がそれらしい雰囲気を作っていて胸を弾ませながら足を運んでいく。

 

 

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 少し歩くと先には屋台がずらりと並んでいて、食べることが大好きなマルはあちらこちらに目が移ってしまう。

 

 何もかもが初めてのマル。

 周りの人の多さに若干の戸惑いを感じながらも、人の波を避けて前へと進んでいく。

 右を見れば綿菓子屋さん、左を見れば焼き鳥屋さん。

 今度また右を見るといつの間にか網の上で焼かれているトウモロコシが見える。

 

 移り変わる景色が楽しくて、見てるだけでお腹いっぱいになりそう……。なんて思っていたけど身体は正直でお腹がグゥーとなってしまう。

 おじさんに笑われて1000円札を渡される。『好きなものを買って食べなさい』って。

 楽しんだ後は花火を見るからそこで落ち合おう。ってことになって単独行動を始める。

 

 ざっと見渡すだけで20~30の屋台が並んでいる。

 商品一つ当たりは400円~600円だから多く変えても2つ。

 慎重になりながら、目を凝らしながらあたりを見渡す。

 

 

 まず目にとまったのはかき氷。マルの中で勝手に祭りといえばこれ! というものがかき氷。

 少し涼しげな浴衣を着ながら、いまだ拭えない蒸し暑さをかき氷でさらに外へと逃がすために。

 だけど夏に便乗して熱いものも食べたいからかき氷はあと。味くらいは先に決めておこうかな……。

 

 ブルーハワイ、メロン、ブドウ、ストロベリー。やっぱり種類が多くて悩んでしまう。

 よかった、やっぱり先に決めておくべきだよね。迷ってたら後ろの人に迷惑だもん。

 

 そう思いながらさらに足を運ぶと、マルの目にとまったのはたこ焼き。

 家で何度か食べたことがあるものの忘れられない思い出がある。

 おじいちゃんが景品でとってきた全自動たこ焼き機、生地を流し込んでタコを入れて焼くところまでは一緒。

 焼けてきたらスイッチを押すとたこ焼きが勝手に回りだす。

 思わず『未来ずら!』なんて叫んでしまって。目をキラキラ輝かせてまじまじ見つめていたのを思い出す。

 

 たこ焼きなら種類もないし、買うことを即決して列に並ぶ。

 そこそこ長い列がみるみるうちに()けていってすぐにマルの番がやってきた。

 

「たこ焼き一つお願いするずら!」

 

 たこ焼きを食べられるうれしさで思わず方言が出てしまったことにすら気づかないほど待ち遠しかった。

 たこ焼きを頼んだ後、屋台の人がひょいひょいと素早くパックに詰められる丸い球体たち。

 ソースがさっと塗られ、線の細いマヨネーズが上にたっぷりとかかる。

 仕上げに青のりとかつおぶしがふぁさっとたこ焼きに覆いかぶさりゆらゆらと陽炎のようにかつおぶしが揺れる。

 

「はい! たこ焼き一つね! 400円になりまーす」

 

 そういって手渡してくれたの屋台の子はマルと同い年くらいの子で、なんだか急に親近感がわいた。

 お金を渡そうと裾から1000円札を取り出そうとしたらその子はさらに口を開いた。

 

「君、かわいいね。地元の子?」

 

 たこ焼きを買おうとするマルのことを軟派(ナンパ)してきた。

 軟派なんて一度もそんなのは体験したことがなくかわいいなんて言われて自然と顔が熱くなる。

 

「か、かわいいなんてマルはそんな……」

「ううん、かわいいよ。自信持ちなって」

 

 念を押されてたじろいでしまう。だけどなんだか悪い気はしない。

 よく恋愛小説を読んでいるけれど本の主人公はこんなドキドキした気持ちを感じているのだろうか。

 次に読む恋愛小説の見方が大きく変わりそうだ。

 

「俺、山内拓海(やまうちたくみ)っていうんだ。今から時間ある? 二人きりで話そうよ」

 

 そういわれ戸惑っていると屋台の袖から山内君は出てきてマルの手を握って歩き出した。

 

「おやっさん! ちょっと店あけるわ!」

「おい! 拓海てめぇ待ちやがれ!」

 

 もう一人いた店の人も声を荒げて怒っているけど、お客さんが後につっかえているからその場を離れるわけにはいかなくて追いかけてはこなかった。

 

「ちょっ、ちょっとどこに行くずら!? マルこのあと予定があるんだけど……」

「大丈夫! その予定までには間に合わせるから!」

 

 

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 そうやって山内君に連れられてやってきたのは屋台の明かりの届かないところにある池だった。

 

「俺、ここお気に入りの場所なんだ。内浦? だっけここのお祭りは前に一度しか来たことがなかったんだけど、たまたまこの場所を見つけてさ。ほらあそこみてよ」

 

 そういって山内君が指さしたのは蛍の群れだった。

 実際内浦に住んでいるマルでさえこの場所は初めて訪れた場所で、こんなきれいな蛍をたくさん見ることができる場所はなかった。

 

「わぁ、すごい」

 

 一匹一匹が淡い光を発しながら飛んでいるのを思わず見惚れてしまう。

「そういえば、名前聞いてなかったね、なんていうの?」

「あっ、ごめんなさい。名乗らなきゃいけなかったのに……。おら、じゃなくてマルは国木田花丸って言います。よろしくね山内君」

「へぇ、花丸っていうから一人称は”マル”なのかなんだかかわいらしいな」

 

 屋台の時に軟派されたようなテンションとは違い今回の山内君はなんだか照れ臭そうにしゃべっていた。

 何が違うんだろう……。

 

「あと、方言気にしになくていいと思うぞ、それもまたかわいらしいところだよ」

 

 山内君は自然とそういうことが言えてずるい。

 褒められていやがる人間なんてほとんどいないしマルもなんだか勘違いしちゃう。

 

「そっか……。ありがと、ずらっ」

「うん、どういたしまして。あとは名前だな」

 

 あとは名前ってマルの名前何か変だったかな? さっきは褒めてくれたんだしそんなわけないよね。

 

「えっ?」

「名前、名前で呼んでほしいな」

 

 疑問をそのまま返すと名前で呼んでほしいと要望が返ってきた。

 異性とあまり話すこともなかったし名前で呼ぶのって何気に初めてかもしれない。

 山内君はマルのことも名前で呼んでくれてるしお返ししなきゃね。

 

「あ……ええっと。た、拓海君」

「うん! 花丸、よろしくな」

 

 名前で呼ばれるのがうれしいみたいで、輝く笑顔を見せながら拓海君は嬉しそうにした。

 少し緊張したけれどすごく喜んでくれたみたいでマルもうれしくなっちゃう。

 

「拓海君はいつから屋台でたこ焼き売ってるの?」

「もう小学校の時から売ってるよ。最初はおやっさんについていったんだけど俺の事かわいいってみんなたこ焼き買ってくれるんだ。そしたらおやっさんが『これは使える!』とか言い出しちゃって、それから毎年売り子にさせられてるんだ」

 

 拓海君はもう何年も外の世界で働いているんだ、マルとは正反対でなんだかちょっと嫉妬しちゃうな。

 

「確かに拓海君よく見ると女の子みたいな顔ずらっ」

「なっ! 花丸までそんなこと言うのかよ! 勘弁してくれよ!」

 

 アハハって二人で笑いあって、もうすぐ花火が上がり始める時間で、だけどこの時間が続けばいいと思うからマルからは別れを切り出せずにいて……。

 少しの沈黙が間に流れ始めたころ拓海君が少し渋そうな顔をして言う。

 

「俺、屋台の手伝いとかしてるとさいろんな祭り転々としなきゃいけないんだ。だから客の顔なんていちいち覚えたりしないんだけど、花丸だけは忘れたくないって思うんだ。またどこかで会えたりするかな?」

「うん、もちろんだよ。来年も再来年もマルお祭り出るから、拓海君も」

「あー、もしかしたら祭りの場で会うのは難しいかも」

 

 マルの言葉を途中で遮る拓海君は申し訳なさそうな顔をしてそう言う。

 

「ど、どうして?」

 

 来年もこの場所で会えるのを楽しみにしているのが、勝手に会えると思っていたマルがなんだかおバカさんみたい。

 

「さっきも転々としなきゃいけない言っていっただろ? ここに来たのも数年ぶりでマルと出会えたのは奇跡に近いんだよ」

「……そっか」

「でもそんなに悲しむことはないよ、お互いが合おうって願っていればいつか必ず出会うことはできるんだから」

 

 マルが悲しそうな顔をしても拓海君は必死に励ましてくれる。

 自分だって相当つらそうな顔をしてるくせに。

 少ししんみりした雰囲気になってしまって、お互い顔を見合わせずにいるとがさっと草が揺れて人が出てきた。

 

「あっ! 見つけた! 拓海こんなところでさぼってやがったのか! 早く仕事に戻りやがれ!」

「やべっ、おやっさんがかんかんだ! じゃあな花丸! またどこかで会おうぜ!」

「う、うん! またどこかで会うずら! 絶対だから!」

 

 楽しい時間は本当にあっという間だ。

 面白い小説を読んでいるときよりも時間の経過が早く感じた。

 

 いつの間にか花火はすでに大きな音を立てて上がり始めていて、マルもあわてておじさんと待ち合わせていた場所へと向かう。

 通り道にあった食べようと思っていたかき氷を買って。

 なぜだかさっきまでの時間を恋しく思いながらレモン味のかき氷を頬張った……。

 

 

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 それ以降毎年お祭りには参加したし、屋台をいくつも回ったけど拓海君と顔を合わすことはなかった。

 きっと今日もどこかのお祭りで元気よく接客をしてお金を稼いでいることだろう。

 いつかまた会えるかな、寂しいな。

 

 けど拓海君と出会えてマルは挑戦することのすばらしさ、大切さを学ぶことができた。

 臆病なままでも構わない、けれどそこから生まれるものは何もない。

 何かしようと思って迷う暇があればまずはやってみる。

 やり始めることに遅いことはないんだって……。

 そして高校1年生になった今、改めてマルは新しいことに挑戦する素晴らしさを知った。

 素晴らしい友達や先輩に恵まれて、運動が苦手だけどダンスと歌を主とした部活に入った。

 歌はもともと以前からやっていたおかげで問題はないけれどダンスに関しては苦手意識が強かった。

 だけど苦手意識なんて関係ない、やらなきゃ本当に苦手かどうかはわからないんだよ。そうだよね拓海君。

 だからマルは毎年拓海君に会うために祭りに足を運ぶんだ。

 

 ――まだまだ引っ込み思案で人ごみを歩くのは嫌だけれど。




次回でラストになります。
読了ありがとうございました。
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