魔法少女まどか☆マギカに関する短編集   作:曇天紫苑

2 / 2
ツイッターのワンドロ(お題『君の銀の庭』)で公開した作品です。


君の銀の庭

 

 

 

「まどか、貴女にはどんな未来が見えるの?」

 

 何となく、聞いてみた。

 特に意味はない。ここは夢の中で、目の前にいるまどかが本物だとは限らない。

 悪魔だって夢くらい見る。魔女の結界とは違って、ここは本当の夢の中。まどかが、私と仲良くしてくれる夢の中。

 この椅子も、テーブルの向こうのまどかもきっと夢でしかない。

 だから聞いても、それがまどかの答えとは限らない。

 

「わたし?」

「ええ。貴女がどんな目で未来を見ているのか、聞いてみたくて」

 

 まどかはたっぷり考えた後で、わたしに向かって答えてくれた。

 

「わたしは、ずっとこのままかなぁ、って思う」

「そう?」

「みんなが居て、ほむらちゃんが居て。そんな今まで通りの未来が、きっとずっと続くんだと思うよ」

「それは、まどかが見たい未来なの?」

「どうかな……? でも、何も代わり映えしなくて、ちょっとつまらないかも?」

「そんな事ないわ。素敵よ」

「そうかな?」

「そうよ」

 

 素晴らしい未来の筈だ。

 まどかの側に、まどかを愛してくれる人達が居る未来。素敵で、だからこそ実現するのは難しかった。本当に、難しかった。

 

「ほむらちゃんには、どんな未来が見えるの?」

 

 不意にまどかが尋ねてくる。

 ストローで紫のジュースを飲みながら、本当に何の事もない、ただの世間話みたいに聞いてくる。

 きっと、まどかにとってこの会話は大した事じゃない。

 あまり真剣に答えたら、重たいと思われるかな。少しだけそう思ったけれど、やめた。

 

「私にはね」

 

 答えようとして、言葉が出てこなくなった。

 

「ほむらちゃん?」

「っ……私……私の、未来は」

 

 まどかの不思議そうな目が貫いてくる。

 そうだ。私に未来への希望なんかない。絶望すらもありはしない。

 私が見ているのは。見えているのは。

 

「今」

「今?」

「そう。今が、見えるの。未来という名前の、今が見える」

 

 表情を見なくても分かる。まどかには意味が伝わらなかっただろう。私の気持ちを理解する必要なんて、まどかには一つもない。

 

「そう。貴女には分からないよね。いいの、まどかはまどかの見える世界を大切にしてくれたら、それで」

 

 まどかは私の顔を見つめて、心配そうにしている。

 

「わたしね、今が凄く幸せだよ。ほむらちゃんは、違うの?」

「……」

 

 幸せかどうかで聞かれれば、答えは一つしかない。私は悪魔だけれど、まどかとまた会えた。リボンを返せた。だから私は、

 

「幸せよ。これ以上ないくらい」

「そうなんだ」

 

 まどかは安心してくれたのか、笑いかけてくれる。

 私も、その表情で安心した。まどかの心に負担をかけたくなかった。

 

「あのねっ」

 

 そんな安心を胸にしていると、まどかは身を乗り出して、私に顔を近づけてくる。

 

「この先の未来も、きっと幸せになるって信じようよ」

 

 まどかは眩しい程に輝いた面持ちで、楽しそうに私の両手を握った。

 

「この今が、ずっと未来まで続きますようにって!」

 

 希望に満ち溢れた、慈悲すら感じさせる声。

 それは私の心に入り込んで、拒む暇すらないほど素早くとけ込んでいった。

 まどかの手は柔らかい。思わず握りしめてしまわない様に、そっと手を離す。

 

「ほむらちゃん」

「……その、目よ」

「え?」

「まどかの目には、とっても綺麗な未来が見えているのね」

 

 挑発的に笑おうとして、失敗した。自分でも驚くくらい弱々しい声が出てしまった。

 不敵な笑顔を作ろうとしていたのに、昔みたいな弱い顔が出てしまう。しかし、今の私はもうまどかに慰められていいモノじゃない。

 

「それでいいわ。貴女はその瞳で、未来を見ていればいい。貴女が、貴女としてそこにいる。そんな未来を夢見ていいの」

 

 まどかの顔を見ない様に、目を伏せながら続ける。

 

「どんなに傲慢だと思われても、どんなにおぞましい物だと言われても、どこまで嫌われてしまっても、どれほどのモノに否定されたとしても」

 

 一度言葉を切って、続きを言うべきかと迷う。

 でもこれは夢だ。だから、本当の気持ちを言っても誰も困らない。

 

「……貴女が、当たり前の様に来る筈だと思ってる、そんな未来を形にしたいの」

 

 まどかがまどかのままで、まどかという女の子のままで居られる様に。

 まどかがどこにも行かない様に。

 

「その為に、貴女のいる庭を守ってみせる」

 

 そっと顔を上げて、まどかの顔色を伺った。

 まどかは首を傾げていて、そこには理解の色はない。

 やっぱり、まどかには何一つ伝わらなかった。伝わらなくて良かった。

 

「ほむらちゃん、難しい事言うんだね」

「……妄想癖なのよ。幸せなのが怖いだけ」

 

 顔を逸らして、まどかの眩しさから目を背ける。

 そんな事をしていたからだろうか。

 まどかは椅子を蹴って立ち上がり、私の横へ来た。

 

「まどか?」

「それなら、ほむらちゃんが怖くない様に、一緒にいるね」

 

 ぎゅっと私の肩を抱き、こんな私に寄り添ってくれる。

 弱い自分が溢れるくらい嬉しかった。

 

「……ありがとう。でも」

 

 それでも。

 もう、まどかに救われる訳には行かない。

 

「ごめんなさい」

 

 小さく手を叩く。

 ぱちん、と。そんな音が響いた。

 それだけでまどかは眠って、私に倒れ込んできた。まどかの体に負担がない様に抱き止め、支えながら座り込む。

 まどかはあったかい。生きてるんだ。それがまた、泣いてしまうくらい嬉しい。

 

「その優しさは、もっと身近な人達に向ければいいの」

 

 眠るまどかの耳元で、うるさくない様に囁いた。

 

「もう私は大丈夫。大丈夫だから。貴女の幸せさえあれば、私には未来も過去もいらないから。この為に私の全てがあるんだから」

 

 例えここが、まどかにとって檻の中でしかなかったとしても、まどかを縛る鎖でしかなかったとしても。

 それでも、まどかが沢山の人達と一緒に笑えるのであれば。

 それが檻の中でも、鳥かごの中でも、構わない。

 

「……」

 

 まどかの頭を撫でながら、私は歌う。

 まどかが安心して眠れる様な、そんな歌を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ……ほむらちゃん……」

 

「ん、んー……?」

 

 

「夢オチ?」

 

「えっと、あれ? んー。あれ?」

 

 

「……誰と話してたんだっけ?」

 

 

 

「……いっか。夢だし」

 

 

 

 

 

  おはよう、まどか

 

「え?」

 

「……空耳、かな?」

 

「んっしょ。んんっー。さてっ」

 

 

 

「おはよー、パパ!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。