『良かったの、友達を探さなくて?』
「ん? まあ、アカデミアの方に入学してるなら、其処で会えるだろうしな……」
はっきり言って、完全にヒール扱いされているあの空気の中で友人達を探す気にはなれなかった。残念ながら、時間ギリギリだったために友人達の実技試験は見れず、恐らく一部のメンバー……と言うよりも幼い日の友人達は恐らくリーダーの『その方が面白そうだ』と言う意見で黙っていたのだろう。
(いや、正確には初代リーダーって所か? 最近はアイツにリーダーの座を譲ったらしいし)
向こうから有った近況報告の内容を思い出しつつ、一つ年上の勇斗達のチームのリーダーだった友人を除いて全員が無事合格している事を祈るしかない。年上だけにデュエルアカデミアに去年無事合格した事を知った時は内心では当然とも思ったが。昔から妙に人間のスペックは高かったし。
それ以前に去年、近況報告で全員が修学旅行の時に事故に有って二人を除いてクラス全員が生命の危機だったと聞いた時には驚きの余り本気で絶叫したほどだった。
ある事情で去年は“とある事情”から一時期世間の情報が手に入らなかったとは言え、連絡が来た時には学校もサボって急いで見舞いに言ったほどだ。
……その後引っ越した先での友人達には心配された上に事情を説明するまで泣かれたり怒られたり大変だったりした。説明して許して貰った後も、そう言う事なら自分達にも声をかけてくれれば良かった、と言われた。
そっちの友人達からは全員無事に合格したと連絡が有ったが、残念ながら乗ったフェリーが違ったためにアカデミアでの合流になるだろう。
「時々連絡してたけどあいつも変わってなかったし、他の四人も変わってないだろうな」
幼少期に出会った友人達……彼等の仲間としては
『何でドラゴンレンジャー?』
「いや、最初は色々と有ったからな。そうじゃなかったら、アバレキラー……は追加戦士だけど五人目か? そうなるとタイムファイヤーが打倒だろうけど、タイムファイヤーは微妙に違うか」
何故かスーパー戦隊ネタ。チョイスする六人目が全面的に死亡メンバーの追加戦士に限定しているのは彼が一度仲間達と離れたからだろうか? もう一つの共通点でドラゴンレンジャーとアバレキラーは一時期他の戦隊のメンバーと敵対していたと言う点もあるが。……恐竜モチーフなのも共通点の一つだろうか。
『おっ、いたいた』
『待ってくださいよー、アニキー。ゲッ』
そんな声が聞こえてくると其方へと視線を向ける。勇斗の所に近づいてくるのは勇斗の前にデュエルしていた茶色の髪のHERO使いの少年と水色の髪のチ……背の低い少年。
それなりに本気を出していただろう実技担当教師に勝った相手……特に知り合いに一人HERO使いが居るので印象に残っていたので良く覚えている。
「なあなあ、お前、あの入学試験でスゲーカッコイイモンスター使ってた奴だろ。オレとデュエルしようぜ」
「アニキー、こんな奴とデュエルするのなんて止めときましょうよ」
キラキラと無邪気な表情を向けてくる茶色の髪の少年『遊城 十代』と勇斗のデュエルが御気に召さなかったのだろう嫌そうな表情を向けてくる『丸藤 翔』。
(ん?)
ふと、視線を向けてみると彼らが居た時には既にレヴィアタンの姿が見えない。カードの中に隠れているのだろう。どうやら、彼らも彼女にしてみれば警戒の対象の様だ。
「相手になっても良いけど、今じゃなくてもデュエルならアカデミアに着いた後で幾らでもできるだろ?」
「えー、今しようぜ」
不服そうな十代に対して勇斗はアカデミアの有る島を指差す。
「もう直ぐ島に着くのに今始めても半端な所で中断するだけだぞ」
「ちぇー、それもそうだよな。じゃあ、デュエルアカデミアに着いたらデュエルしようぜ! 約束だからな」
「ああ。何時でも良いぞ」
その後互いに自己紹介しつつ手を振って去っていく十代と此方を睨んでいる翔を見送りつつ、
『……行った?』
「ああ」
恐る恐ると言った様子でカードから姿を現すレヴィアタン。
「別に見られても……」
『ごめん』
「こっちこそ悪かった」
一応、彼女の事情を知っている身の上としては彼女が十代も警戒している理由は分かる。あまり警戒し過ぎも良くないと思っているのだが、それでもまだ敵の正体も彼女の友達の安否も分からないのは不安なのだろう。
「……健全な精神を持ったデュエリストを目指して頑張ってください」
(『長かった……』)
『主、奴を切っても宜しいでしょうか?』
小中学校と続いて校長の話は長い物と言うのは理解しているが、此処デュエルアカデミアの校長の話は平均以上に長かった。しかも、三分に一度は『リスペクト』と言う単語が出る。
サイバー流の元師範らしいがこう言う場で自分の流派の事を話して良いのだろうかと疑問に思う。付け加えるなら朝礼等で無駄に話の長い校長と言うのは総じて嫌われる物らしいが……。
呆れて内心で溜息を吐く勇斗とレヴィアタンはまだ良いとして、殺気だって爪を研いで物騒な事を言っているレオニスについてだが、遠回しにだが彼ら
『……あの人、嫌い』
『全力を出す為に妨害をするな? その程度の障害乗り越えてこその戦士でしょう』
(まったくだ。あんなアホなデュエルで何が得られる。……デュエルモンスターズの進化は攻撃力では無く効果に有る)
『魔法・罠は宜しいので?』
(それについてはカードデザイナーに任せるしかないな。だけど、モンスター自身の進化は効果の一点だろう。攻撃力じゃあ既に
少なくとも、DMの攻撃力3000は最も有名な所では
要するに戦闘で大半のモンスターを排除する為には攻撃力は『3000』有れば十分と言った所だ。実際、戦闘破壊するのは簡単では無い数値でもあるし。だが、逆に言えばトドメを刺す瞬間以外では3000以上有っても無駄な場面が多い。そもそも、守備表示のモンスターが相手なら貫通効果なきゃ10000も3000も大差は無い。
だからこそ、モンスターの進化は効果を持ってこそだと考えている。だが、
(サイバー・エンドにパワーボンドの効果による攻撃力8000を超える事も不可能じゃない上に機械族であるが故に一万を越えるも可能なサイバー流。そんな力で捻じ伏せる戦い方は……あいつ等の言う『リスペクト』は所詮モンスター同士の殴りあいだ。それって、結局の所はデュエルモンスターズを先に進ませない様な物だろう)
『あの様な戦い方で何が得られるんでしょうか?』
(時には全力で叩き潰さなきゃ相手は弱点に気付けない。どんなに非情に見えても相手の弱点を見たら其処を正確に其処を突く、結果的にそれが相手の為になる)
確かにモンスター同士のバトルはデュエルモンスターズの最も基本的なルールの一つだ。だが、飽く迄一つであるだけで全てではない。
敗北が許されるデュエルに於いて己の欠点に気付けない敗北は何も価値が無い、ただの『敗北』と言う事実が有るだけだ。サイバー流の言う所のリスペクトデュエルは相手を甘やかして、己の実力を過剰評価させるだけの結果になる。正しく己の実力を知れない事は成長を阻害するどころかマイナスに働く事にもなる。なにより、
(『勝利よりもリスペクトしたデュエルにこそ価値がある』。そんな物、勝利を当然と思ってる傲慢と、勝つための努力の放棄にしか聞こえない)
だからこそ変えたいと思った。間違った
全力で相手の元にある勝利を奪い取り、ルールの許す範囲でなら全ての戦術に反則も何も無い。それが本当の全力のデュエルだ。相手の動きを封じるロックもパーミッションも、相手のデッキを破壊する事により戦術を崩すデッキ破壊も、バトルを行わずに安全に相手のライフを削るバーンも、だ。そして真の強者とはそう言った、あらゆる状況に対処できてこそだろう。
敗北は決定的であるほど己の弱さや弱点も浮き彫りになる。それに気付いてこそ、間違いなく昨日より強くなれる。
(結局の所、最近のリスペクトは単なる盤外戦術の口実になってる節が有る上に……。前にテレビで見たプロリーグのデュエル……周りが相手のパーミッションを『カウンター
『攻撃の無力化』も立派なカウンター
『そ、それは……確かにそれもカウンター
『……ああ』
まあ、周りが『リスペクトに反してる』から『無効だ』『反則だ』等と騒いでいてもプロリーグの
『それにしても、主はラーイエローですか』
(ああ、ブルーは中等部からと女子だけで、それ以外の生徒は成績優秀者がラーイエローらしいな)
特別枠での合格と試験官相手の勝利……結果だけ見れば文句無く成績優秀者として扱われるだろうが、一応の不安はあった。それは主にこの学園の風潮なのだが、後で知ったことだが勇斗に負けたクロノス教頭が彼のラーイエロー入りを押してくれたらしい。多少エリート意識は強いがそれ以外は良い先生だったりする。
「さて……」
長々とした話から開放されて伸びをすると各寮の位置を確認、
(……寮に行く前にレッドに居る十代とデュエルするか。そう言う約束だったしな。あいつ等の中でレッド寮になった奴が居るのかも気になるし)
手持ちの三つのメインデッキの一つ……入学試験にも使った頻繁に使っているセイクリッドデッキの入ったデッキケースに触れる。セイクリッドデッキについて興味を持っていた十代ならセイクリッドデッキの方が良いだろうと言う判断だ。残りの二つのデッキを使うのも悪くは無いが、なるべくなら初のお披露目は仲間達の前の方が良いだろう。
女子は兎も角男はラーイエローとオシリスレッドの二つの寮を廻って確認しなきゃならない。
―緋勇勇斗くん、この後校長室まで来てください―
突然の一言に怪訝な表情を浮かべつつ支給されたPDAの地図を頼りに校長室に着くと、鮫島校長が勇斗を見ていた。
「それで何のようですか、校長」
「ええ、突然呼び出してすみません、今年度の“アジアチャンプ”の緋勇勇斗君。君の様に非常に優れたデュエリストを生徒として迎えられた事をデュエルアカデミアの校長として嬉しく思います」
そう言って鮫島は勇斗に座る様に促す。相手の目的が見えないのが気になりながらも、警戒しつつソファーに腰を下ろす。
「単刀直入に言いましょう。君の持っているあのカードを渡してください」
「済みませんが……“あのカード”と言うだけじゃ分かりませんが」
「とぼけないで下さい! サイバー流の象徴でもあるサイバー・ドラゴンのカードデザイナーの息子である貴方が持っている事は分かっています。サイバー流の全力でのぶつかり合うというリスペクトに反する、サイバー流の恥と言うべき『サイバー・エルニタン』のカードを」
(止せ、お前達)
『しかし、主!』
今にも武器を構えて飛びかかろうとするセイクリッドの精霊達を止めながら勇斗は立ち上がり鮫島を一瞥する。
「……確かに、エルニタンは使用禁止こそされて居ませんがカードデザイナーへ渡された試作品が六枚作られただけの希少なカードで、その全てのカードは所持していますが……何故それを渡さなければ?」
「たとえ、恥ずべきカードとは言え『サイバー・エルニタン』はサイバー流の系譜のカードです。ならば、私にはサイバー流の師範として責任を持って封印する義務が有ります。さあ、分かったのならあのカードを渡してください」
「お断りします」
薄っすらと笑いを浮べて勇斗は鮫島に背中を向ける。
「エルニタンやセイクリッドのカードは母の形見ですよ。何故そんな大切な物を渡さなければならないんですか?」
「先程も言ったはずです。あのカードはリスペクトに反する暴虐なカードだからです」
「……そんな理由で『はい分かりました』なんて言う奴が居たら有ってみたいんですが」
「……分かりました。それなら、デュエルで勝負しましょう」
「へ?」
鮫島の提案に思わず呆けた声を出してPADを取り出して校則を調べる。
「あ、あの鮫島校長。この学校の校則って知ってますよね?」
「当然です、校長なのですから」
「……アンティって校則で禁止ですよ……」
『あー……』
毒気を抜かれた様子で呆れた表情で鮫島を見るセイクリッドの騎士達+レヴィアタン。校則を決める側にある人間が破って良いのかと言う視線を向けている。
「はい。ですが、アカデミアでは生徒同士だけでなく教師とのカードの交換や譲渡等の行為は寧ろ推奨しています」
不要なカードの交換や譲渡……それは有る意味カードゲームの醍醐味の一つであるのだから、アンティルールこそ禁止でもそれらが推奨されているのは当然だろう。それによって互いに必要としているカードを入手してデッキを強化する事も出来る。
「で?」
「ですから、私が勝ったら貴方の持っているサイバー・エルニタンのカードを全て渡してください。私が負けたらそのカードのアカデミアでの使用を認めましょう」
「なるほど……飽く迄オレが負けた場合は譲渡となる訳か……。断る……ってかそんな条件で受ける訳無いだろう。その賭けを受けた所でオレには何のメリットも無い」
勇斗の言葉に『うんうん』と頷いている精霊一同。ハッキリ言って相手の提示した賭けの内容は勇斗にとって何のメリット等無く、そんなハイリスクノーリターンの賭け等受ける訳が無い。
「リスペクトに……」
「だからどうした? そもそも、持っているだけで殆ど使ってないしな」
勇斗の主力は多数の種族の含まれる
「封印だとか言ってるなら、ペガサス会長辺りにでも直訴したらどうですか? そっちが正しいならルールで禁止してくれるんじゃないんですか?」
そう言って手を振りながら勇斗は校長室を後にする。
「あっ、勇斗くん、こっちやでー」
「はやて。なのはにフェイト」
そう言って校長室から出た勇斗に手を振っている少女『八神 はやて』。一緒に居る金色の髪の少女は『フェイト・テスタロッサ』、茶色の髪をツインテールにしているのは『高町 なのは』。アカデミアに入学した同じ中学出身の革命の為の仲間達だ。
「入学式の後で急に心配しちゃったよ」
「でも、何だったの?」
「ああ。オレの持ってるカードの事に付いて……ちょっとな」
勇斗の言葉に納得と言った表情を浮かべる三人。彼女達……と言うよりも中学時代に出来た革命の仲間達には自分とサイバー流の関係は話してある。他の仲間……主に男の仲間達は先に自分の寮に荷物を預けている様だ。
「それより、フェリーでデュエルする約束した奴に会いに、これからレッド寮に行くけどどうする」
「うん、私も行く」
「私も面白そうだし」
「勿論私も行くで。勇斗くんの新しいデッキにも興味有るしなー」
「へー」
上からフェイト、なのは、はやての三人の順だが……はやての言葉に笑みを浮かべる。セイクリッドやレヴィアタンとも違う新しい精霊の存在に気付いているのだろう。同様になのはとフェイトの二人も『あっ』と言う様な表情を浮かべる。
フェイト達と合流してアカデミアから出て暫く歩いていると、レッド寮の上空に見慣れたモンスターの姿が見えた。
「あれって、勇斗のトレミスM7だよね」
「せやけど、セイクリッドって勇斗くんしか持ってへん筈や無いの?」
「いや……他のセイクリッドは兎も角、トレミスだけは一人だけオレ以外に持ってる奴が居る……。間違いない」
上空に見えているセイクリッドの守護龍たるトレミスの姿に疑問に思うフェイトとはやてだが、勇斗にとってそれは……幼い日に分かれた古い仲間の五人の中の一人に託した、
仲間達との再会の約束でも有り、自分の代わりに自分が加わる前から他の三人に守られていた弱かった少年にお守りの心算で託したカード。
最初に出会った精霊でもあるトレミスの精霊には彼が強くなった時にだけ勇斗や彼等の前に姿を表す様に言って置いた。
驚いているフェイト達を置いて走り出す勇斗。慌てて彼を追いかける彼女達。
トレミスの存在していたのは丁度レッド寮の上空。まるで、トレミスの精霊が『此処に来い』とでも言う様に。
レッド寮の近くに集まっている五人の男女が勇斗に気付いて手を振っている。そして、後ろからはフェイト達三人が追いついてきた。
「久しぶりだな……理樹、鈴、真人、謙吾、恭介」
それが、勇斗にとっての最も古い仲間達……『リトルバスターズ』の五人との再会だった。