感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。
お待たせしました。
執筆は気分ですが読む方は毎日欠かさない零崎記識です。
他の方の作品が面白すぎて才能の差を感じます。
切実に文才が欲しい今日この頃。
004
……さて。
羽川の謎の気迫に影響されてとんでもないことを口走ってしまったが、ちょっと俺に弁解をさせて欲しい。
うん、言いたいことは分かる。
前話で
『女?恋?興味ないね(クラウド感)』
みたいなことを言っておいて内心ド変態かこのムッツリが
……と、ツッコミを入れたくなるのも無理はない。
ただ、俺としても最初の予定ではこんなことを言うつもりではなかったのだ。
単純に羽川の傷を治させろ…と、最初は言うつもりだった。
吸血鬼の体液には治癒効果があるのだが、当然俺にもそれは当てはまる。
まさに『唾つけときゃ治る』を地で行く能力だが、別に俺は本当に唾をつける気は無かった。
針でも使ってちょっと血を出してそれを塗り付けて治療を施すつもりでいたのだ。
いたのだが……。
「……ほら、舐めるなら早く済ませなさいよ………やるならちゃんとやってよね」
羽川がガーゼを外し、頬を突き出す。
この何故か妙に積極的な羽川に押されて思わずあんなことを口走ってしまったのだ。
一応、彼女を茂みに連れ込んだのは吸血鬼という化物の異能の発動を見られないように…という、真っ当な配慮があっての行動で、やましい下心があったわけでは無く、犯罪臭がどうのというアレも只の冗談だった。
うん、いやマジで。
冗談……だったんだよ?
絶対服従とか、俺の女に~とか、本気で言ってたわけじゃないからね?
しかし、『吐いた唾は飲み込めない』とはよく言うもので……。
「い、いや羽川、実はだな……」
「何かな阿良々木君、まさか『さっきのお願いは雰囲気に呑まれてしまっただけで、本気じゃなかったから訂正させてくれ』……なんて言う訳がないよね?阿良々木君は一度言ったことを覆して女の子に恥をかかせるような骨なしチキンじゃないよね?」
「お、おぅ……そうだとも」
「だよね、よかった」
羽川さん、さっきから俺の逃げ道をことごとく潰してきます。
もう勘弁してください(土下座)
やはり
「因みに後回しにしようとしたら悲鳴を上げて阿良々木君に襲われたーって言いながら街中走り回るから」
「俺、何かお前に恨まれるようなことした?」
一体何がお前をそうさせるんだ……。
クッ……これは腹括らないとダメか……。
……ってか、何で俺の方が追い詰められてるんだ?
何で俺が覚悟決めてるんだ…?
何でお前はそんな堂々としてるんだ……?
普通逆じゃない?
おかしくない?
あるぇーどうしてこうなった?
「じゃあ……い、行くぞ?」
「来なさい」
こうしていても埒が明かないので、覚悟を決めて俺は舌を羽川の頬に近づける。
そして……
ベロンッ
この味は!……
……現実逃避は止めよう。
「一回だけでいいの?」
「十分でございます」
「ふーん……ちなみにどんな味だった?」
「へ?」
「だから、私のほっぺはどんな味だった?阿良々木君」
「いや、あの……言わなきゃダメですか?」
「それくらいは聞く権利があると思うな」
えぇぇぇぇ……
こんなのどう答えろと……。
仮に『美味しかった』なんて言ってみろ
下手すればセクハラものだぞ。
「羽川、自分の味を詳細に把握しても何の役にも立たないと思うぞ?」
「そうだね。で味は?」
「いやだから、知ったところで意味はないし俺もお前も恥ずかしい思いをするだけだから聞かない方がいいって」
「確かにね。で味は?」
「あの、だから「で味は?」
「いや「で味は?」
「だから「で味は?」
「羽川?「で味は?」
「あのさぁ…「で味は?」
「RPGの村人かお前は!」
もうヤダこの娘。
自分の味気になりすぎだろ……。
蛇かな?(白目)
流石に食べられないから……。
食ったらダメな奴だから。
「……で味は?」
「……」
あ、コレ言うまで永遠にループするやつや……。
「…………鉄の味の中に……その、ほんのり甘さがありました」
「そう、甘かったんだ私って」
い、いや吸血鬼的な味覚かもしれないですし
『血』が甘かったんだよきっと。(震え声)
とはいえ、流石にもう羽川も満足したようで、俺達は茂みから出た。
ふぅ……女友達の傷を治療しようとしただけですんごく精神的に疲れたでござる。
確かに俺でストレス解消すればいいとは言ったけれどさぁ。
『俺になら好きなだけ愚痴っていいぞ』っていうつもりで言ったのだが、ちょっとあれは予想外だった。
「阿良々木君」
「ん?」
俺が1人、内心で嘆息していると、前を歩く羽川が、前を向いたまま話しかけてくる。
「―――ありがとね、いろいろと」
どうやら、俺の真意は彼女にはお見通しだったようだ。
「あぁ、取り敢えずガーゼはしておけよ。流石にお前の親父も怪我人を殴ったりはしないだろ?」
「どうだろうね、怪我してるからって殴るのを躊躇うほど、私は大切に思われていないから。仮にそうだったとしても、今度は右側を殴られるのが関の山じゃないかな?」
あはは、何だかキリストみたいだね。と冗談めかす羽川。
「『愛の反対は憎しみではなく無関心だ』なんて言葉があるけれど、そう考えれば、強ち間違ってはいないのかも。愛ゆえに殴られるのが神様なら、無関心に殴られる私は……何だろうね?」
「お前はお前だろ」
お前は羽川翼だ。
人の子として生まれ育った普通の女の子。
良いことがあれば喜び、許せないことがあれば怒り、嫌なことがあれば哀しみ、面白いことがあれば楽しむ。
誰かを好きになったり、憎んだりも普通にする……人間だ。
だから…そんな聖人みたいに笑うなよ。
嫌なことがあったなら悲しめよ。
理不尽には怒れよ。
そんなろくでもない父親は憎めよ。
お前は……人間なのだから。
「結局、お父さん達は私の事なんてどうでもいいのよ。私が怪我をしていようといなかろうと、私がいてもいなくても、……私が生きていても、死んでいても。お父さんたちは気にしない」
「それは最早……」
「『家族とは呼べないのではないか』…そうだね、『家族』の在り方は色々あるけれど、もし仮に『家族』というものを定義するための条件が『愛情』なのだとしたら、その真反対の私たちは、法律上は『家族』なのだとしても、その本質は『家族』とは真逆に位置するんだろうね。どれだけ外面を取り繕っても、どれだけ私が仲良くしようと努力しても、そこに『愛情』が存在しないなら、私たちは『家族』にはなれない」
「…………」
だから何でお前は……そんな残酷で悲しいことを平然と言えるんだ。
哀しみを押し殺して平静を装っている。というならまだわかる。
だが、彼女をどう見たところで、彼女自身が本気で悲しんでいるようには見えなかった。
どう見ても異常だ。
親に殴られて大怪我をして、客観的に自分の家族を分析する。
俺が思うに、羽川翼という人間には
他の人間ならば憤っていても、失意に沈んでいても、憎悪に身を焦がしていても、全くおかしくないような境遇の中、彼女には怒りも、悲しみも、憎しみも、全く見られない。
まるで、初めから存在しないかのように。
だが、そんなことはあり得ない。
感情というのは、別々に分けられるようなものではない。
哀しみがあるからこそ、人は喜びを感じるのだ。
どれか一つだけ欠落しているなんてそんな都合のいいことは無い。
一部の感情の欠落は、他の感情の欠落と同義なのだから。
もし羽川翼という人間に負の感情が存在しないならば、正の感情もまた存在せず、羽川翼という人間は機械のような人間になっている筈なのである。
だが、現に存在する羽川翼には、しっかりとした感情がある。
彼女は普通に笑うし、普通に喜ぶ。
ならば、やはり悲しみや怒りも、彼女は感じている筈なのだ。
それが意味することは、つまり…。
羽川翼という少女は、自分の負の感情を無意識下まで押さえつけ、正の感情のみを彼女は知覚している…という事。
『いい子』でいるために、彼女は幼いころからそうやって感情を押さえつけているのだろう。
我が儘を言うような子は『いい子』じゃない。
――故に彼女は欲を殺した。
泣きわめいてうるさい子は『いい子』じゃない。
――故に彼女は哀しみを殺した。
親に反発する子は『いい子』じゃない。
――故に彼女は怒りを殺した。
誰かを嫌うような子は『いい子』じゃない
――故に彼女は憎しみを殺した。
殺して殺して殺して…彼女はいろんな自分を無意識まで押し殺して『いい子』であり続けたのだ。
だが、押し殺したといっても、それは彼女が意識していないというだけで、無い訳ではない。
彼女の無意識下では、今まで彼女が殺してきた負の感情が存在している筈である。
そして、それは日々増え続けている。
『堪忍袋』というものが、もしもあるのだとすれば、彼女の無意識下で膨らみ続けるそれは、今やどれほどの大きさになってるのだろう。
そして、彼女が感じる負の感情が、彼女の無意識のキャパシティを超えて
その想像は、何故か俺の中では真実味を帯び始めていて、近いうちに、それは現実に起こるような予感がした。
その予感に俺は少し、恐怖を感じるのであった。
その後の俺達は、先ほどまでの話題を切り上げ、打って変わって他愛のないおしゃべりをしながら散歩を続けた。
俺も羽川も、先の話題はもう蒸し返さない。
何故か、蒸し返してしまえばこの楽しい時間が壊れてしまうような気がしてならなかったのだ。
特に羽川は、まるで俺とこうして話していれば、家族の問題など初めからなかったことになると信じているかのように、いつもより饒舌に喋った。
途中、不幸にも車に轢かれた白猫を羽川と埋葬してやった。
尻尾が無かったことが軽く気にかかったが、そう言う種類の猫だろうと結論付けた。
どういう訳か、忍野の顔が頭に浮かんだ。
何故だろう?
まぁ確かにあいつは根無し草な奴だから、野良猫とどこか通じるところがあるかもしれない。
見るからに『自由』ってやつだからなぁ…。
すると、こうして野垂れ死んでいる猫を見てアイツが思い浮かんだのは何だろう、あいつも近いうちにどこかで野垂れ死ぬという予感だろうか。
放浪の果てに野垂れ死ぬ忍野か…。
ありうる。
あぁーでもアイツ、あれで結構しぶといからなぁ。
無人島でも普通にサバイバルしてそうな、謎の生命力がある気がする。
まあそんなことはどうでもいいとして、とにかく俺達はそうやって些細なイベントこそあったが、何事もなく適当に歩き回った後、別れた。
家に帰ると、何やら深刻そうな顔のキスショットが玄関で仁王立ちしていた。
「帰ったかお前様よ」
「……どうした?そんな所でつっ立って」
「話がある」
005
「な、なんじゃこのわっか状の食べ物は!?こんなにうまいものを食べたのは生まれて初めてじゃ!こんなに素晴らしい食料がこの世界に存在しようとは!正に甘味の詰まった指輪の宝石箱じゃ!儂は今、猛烈に感動しているぞ!やっぱり自殺なんてしなくてよかった!生きてるって素晴らしー!ぱないの!」
「うん、お前が感動しているのは分かったから、取り敢えず落ち着け」
周りの人からの目線が痛いから。
「全く、深刻そうな顔して改まっているもんだから何事かと思ったが、まさか『ミスタードーナツに連れていけ』とは……」
現在俺はキスショットの頼みで街外れにあるミスドへ来ていた。
玄関で待ち受けていたキスショットにミスドのチラシを見せられ、連れて行けと言われたのだ。
何でも、以前から知ってはいたが、如何せん土地勘のない彼女には場所がわからなかったそうだ。
で、そんな彼女はといえば、俺の呆れたような言葉も耳に入らんとばかりにトレーの上に山積みになったドーナツをすごい勢いで食べている。
全種類10個ずつ買わされた……。
それもまた、周囲からの視線を集める一因であることは言うまでもない。
「仮にも伝説の吸血鬼が、たかが人間のファストフードごときにどれだけ喜んでんだよ」
「たかがとは何じゃたかがとは!ドーナツはまぎれもなく人類最高の発明じゃ!儂が保証する!人間はもう少し自らが発明した物の偉大さを自覚するべきじゃ!ドーナツの発展のためなら儂は協力を惜しまんぞ」
「それでいいのか怪異の王……」
ドーナツにつられる怪異ってどうよ?
……まぁでも――
「モグモグ……はぁ~幸せじゃ……」
蕩けるようなうっとりとした表情をするキスショットを見ていたら、それでいい気がしてきた。
彼女が幸せなのだからそれでいいのだろう。
キスショットもまた『例外』なのだから。
吸血鬼とか怪異とか、そんな柵に拘らず自由に生きて幸せになることには何の問題もないのだ。
「……おい、食べかすが口についてるぞ」
食べるのはいいがもうちょい綺麗に食べろよな…。
「む、どこじゃ」
「ここだここ」
そう言って俺はキスショットの口についていたドーナツのカスをとってやる。
「全く、んながっつかなくてもドーナツは逃げたりしな――」
その瞬間、俺ですら視認できないほどの速さで俺が取ってやったドーナツのカスがかすめ取られ、気が付いた時にはキスショットドーナツのカスを口に放り込んでいた。
「このドーナツは儂のじゃ、例え食べカスであろうと渡さん」
「食い意地張りすぎだろ!?」
訂正、『例外』でも最低限の節度くらいは気にするべきだと思う。
文字通り山盛りになったドーナツを平らげたキスショットは、ものすごく名残惜しそうにしながら俺と共にミスドを出た。
「うぅ……さらばじゃこの世の楽園よ……」
「随分ありふれた楽園だな」
日本国内だけでも1294箇所もあるんだが……。
ありがたみの欠片もない。
「週一で連れてきてやるから」
「そんな!あんまりじゃ!後167時間45分20秒もここに来れないなんて!」
「ドーナツに依存しすぎだろ……」
若干涙目になってるし。
怪異の王ェ……。
「う~~うううあんまりじゃ……」
あ、泣き始めた。
「HEEEEYYYYあァァァんまリじゃァァアァ!」
柱の男みたいな泣き方するなよ……。
お前は食われるほうだろ。
「……あ~分かった分かった、週3ぐらいで連れてきてやるよ。これでいいだろ」
「フースッとしたわい」
あのさぁ……(諦め)
こんなのが最強の吸血鬼とか世の中おかしい……。
一旦家に帰って翌日の4月30日の午前0時過ぎ。
キスショットと俺は忍野への差し入れとして買っておいたドーナツを持参し馴染み深きあの学習塾跡へ向かった。
「……おいキスショット、いい加減忍野への土産用に買ったドーナツを付け狙うのは止めろ」
昼に散々食っただろ…。
「あんなアロハ小僧になんぞくれてやらんでもよろしい!あの小僧にとってドーナツは過ぎた食料じゃ、高貴で誇り高い儂にこそドーナツは相応しい」
「今のお前のどの辺が高貴で誇り高いんだよ」
貴さも誇りも微塵も感じられないんだが…。
好物ってのはここまで性格を変えてしまうのか?
「そうは言うがのお前様よ、実際肉食獣の前に新鮮な生肉をぶら下げて我慢しろというのは酷過ぎやしないかの?」
「お前肉食獣と同レベルなのかよ…」
尊厳もへったくれもあったモノじゃない。
眼を獣のように輝かせてドーナツを狙うキスショットから必死にドーナツを護りながら、ようやく俺達は廃墟へと到着した。
「やぁ阿良々木君遅かったね、待ちかねたよ」
言わずと知れた二階の教室の一つ。
春休みに俺とキスショットがリフォームして寝泊まりしていた教室に忍野はいた。
相も変わらず胡散臭い…。
映画版傷物語では躍動感あふれる迫力満点の疾走シーンでスタイリッシュに登場したり、アニメ版終物語では久々に登場して、随分と美味しい所を持っていったりしているようだが、一目の前にいるこいつにはカッコよさの欠片もない。
ただの怪しくて小汚いおっさんだ。
「はっはー、どうやらハートアンダーブレードから僕のお土産を随分頑張って守り通してくれたようだね、ごくろーさん阿良々木君」
「あぁ、差し入れにと思ってな」
俺は忍野にドーナツを渡す。
おいキスショット、歯噛みするな親の仇を見るような目で忍野を見るな「ぐぬぬ…」とか言うな。
「ドーナツね、これはありがたい。何を隠そう、僕は甘いものが大好きでね。特にミスタードーナッツの中ではオールドファッションが好みなのさ。何せ古風な男だからね」
「ファッションのファの字もないお前が言っても説得力無いけれどな」
古風もくそもない、お前は只のおっさんだ。
それじゃ、いただきます。
そう言って忍野は箱に入っていたドーナツを一つ摘まんで取り出すと、見せびらかすかのように食べ始めた。
絶対わざとやってる……。
おいやめろ、キスショットの眼がそろそろ人を殺しそうな目になってきてるぞ。
吸血鬼には視線で物をぶっ壊すスキルがあるんだからマジで洒落にならねぇぞ。
お前が殺されようとしても俺は助けないからな?
やだよ俺こんなキスショットの相手するの。
「小僧が……その選択がいずれ身を滅ぼすことになると覚悟しておくがいい……」
お前もドーナツ一つで大物みたいなセリフを吐くな。
色々と台無しだ。
「それで阿良々木君、態々家族が寝静まったのを見計らってこんな夜中に僕を訪ねて来たってことは、何か用があるんだろ?」
「あぁ、俺の用はこれだよ」
俺はそう言って影の中からかなりの厚みがある封筒を取り出して忍野に投げ渡した。
「春休みの依頼料だ。キッチリ200万入ってる」
「あぁお金ね、へへまいど~なんつって」
そう言って忍野は200万円の札束が入った封筒をぞんざいにズボンのポケットに入れる。
財布もないのかよ……。
「悪いな、結構準備に手間取っちまった」
「構わないさ、ある時払いでいいって言ったのは僕だしね」
え?一体どうやって学生の俺が200万円なんて大金を用意できたのかって?
そうだな、一言で言うなら……
吸血鬼のスキルって滅茶苦茶便利だよな。
……はい、今俺が物質創造能力で偽札作ったり金やダイヤを作って売っぱらったと思った奴、後で体育館裏な。
そんなガチな犯罪はしてねえよ。
俺が使った能力は『分身』だ。
容姿は勿論、性別や髪の色までバラバラに作った俺の分身を作って日本国内のあらゆるところで働かせている。
彼らには俺の持つ才能を一部だけ与えてある。
種類は様々だ。
科学の才能、野球の才能、歌の才能etcetc……
学問、スポーツ、芸術、ありとあらゆる分野における才能をそれぞれ一つずつ分身は持っており、それぞれがその分野におけるトップクラスの能力をふんだんに使って様々な場所で大活躍している。
ある者は常識を覆す論文を発表し世界を驚愕させ
ある者は最強のアスリートとして世界で活躍し
ある者は最高の歌手として世界中で人気を集め
他にも上げればキリが無いが、俺の分身たちはこのようにあらゆる分野において数々の功績をあげて一人一人が巨額の金額を稼いでいる。
彼らの稼いだ金は彼らがその中から生活に必要な分だけを引いて後は全て俺にまわってくるようになっている。
俺が先ほど言った『準備』というのは、彼らが社会に溶け込んで活躍の下地を整えるまでの下準備の事だ。
俺の分身と俺本体の関係はもちろん、分身同士の関係すらも全く無いようにするのは骨が折れた。
俺の能力や吸血鬼のスキルをフル活用して最速で準備を整えたが、それでも活躍までに一ヶ月近く費やした。
だがその甲斐あってか、今は全てスムーズに上手くいっている。
で、今現在俺の手元には国家予算を超えるほどの金が集まっているわけだが……。
正直多すぎて使い道が全くない。
消費が供給に対して極端に追い付いていない。
今のままだと、恐らく数か月後には経済を左右できるレベルの額が集まっている。
因みに、この分身から俺への莫大な金の流れを誤魔化すことが、最も準備で苦労したことだ。
お陰で分身だけで構成した銀行を設立する羽目になった……。
こうして、俺はほぼ合法的に莫大な金を稼ぐことに成功した。
ま、戸籍を作るのにちょっとばかし法に触れたかもしれないが、別に犯罪目的じゃないからセーフってことで。
以上、『零崎無闇の完璧☆分身お金稼ぎ(ほぼ合法)』の方法だ。
さぁ皆もこれで億万長者だ!(無茶振り)
「そういや、お前はいつまでこの街にいるんだ?」
「まだもう少しはいるつもりだよ。この街の怪異譚の収集もしたいし、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの来訪が引き起こした怪異の対策も必要だし、君たちが及ぼした影響の調査もあるし、まだまだやることは多いね」
「へー結構真面目に仕事してるんだな」
一日中遊び歩いてるようなイメージだった。
「まぁ今のところ、ハートアンダーブレードの観察って言うのが目下の課題なわけだが……」
「キスショットの観察?」
「怪異ってのは人間の信仰に大きな影響を受けるわけだけれど、では怪異から外れてしまった存在である元怪異のハートアンダーブレードはどうなのか……とか、それが周囲にどんな影響を与えるのかって言うのを調べて報告しろって言われていてね」
「影響ねぇ……」
俺は横目でキスショットを見る。
「ふん、儂にドーナツを献上するなら調べさせてやらんでもない」
お前そればっかだな……。
「こいつのこの豹変ぶりも、怪異から外れた影響って奴か?確かに俗っぽくはなったが……」
「それに関してはまだ何とも言えないね、ハートアンダーブレードが怪異だったならば彼女の性格の変化は魂レベルで繋がっている君の影響を強く受けた結果……ということで話は分かりやすかったんだけれど……」
「これが俺の影響の結果ぁ~?」
俺は別にこんな中毒みたいなレベルでドーナツが好きなわけじゃないんだが……。
それが本当ならかなり凹むぞ……。
「親の期待通りに子が育つとは限らないだろ?でも子は親の影響を強く受けて育つ。概ねそういうことさ」
「親の良い所に似ることもあるし、悪いところも似ることだってあるってことか?」
「そゆこと」
「だからって何をどう影響を受けたらこんなドーナツジャンキーみたいになるのか……」
「ドーナツジャンキーとは失敬な、ドーナツ信仰者と言うがいい」
「既に宗教レベルなのかよ……」
「今ならギロチンカッターの気持ちがわかるかもしれん。儂はドーナツのためなら死ねる」
「不死身が何言ってんだか」
しかもそれ、本末転倒じゃね?
死んだらドーナツ食えないじゃん。
「時に阿良々木君、委員長ちゃんは元気かい?」
「あぁ?」
藪から棒に何だよ一体……。
今日俺が羽川と会っていたことを知っている?
あるいはただの偶然か……。
そういえば、春休みの頃から忍野はやけに羽川を警戒している節がある。
確かにあいつは色々と異常だが、しかし怪異とは関係ない以上、忍野の管轄外だと思うのだが……。
「別に羽川は怪異と直接関わってはいないぜ?まぁお前見たいなプロの専門家にしてみれば、ああいう怪異を知っていながら、怪異の脅威を恐れていながら怪異に関わる素人は厄介な存在かもしれないけれどさ」
「僕にとってだけじゃない、彼女は誰にとっても厄介だよ」
忍野は真面目な口調でそう言った。
「阿良々木君にとっては……違うのかもしれないけれどね。君の相棒であるハートアンダーブレードの来訪は、この街の怪異事情を随分と歪めてしまったけれど、それに則って言うなれば、委員長ちゃんの在住はこの町の人間事情をそれなりに歪めてしまってるだろうね」
「人間事情の……歪み…」
歪み。不和。仲違い。
奇しくも、俺は今日羽川が『家族』という最も身近で最も基本的な人間関係において。深刻な歪みが存在することを聞いたばかりだ。
勿論俺は、忍野に羽川の事を話してはいない。
だが忍野は、春休みの一件で羽川の異常性を知っている。
彼女の歪みを――知っている。
「人間関係の歪みって言うのは、誰にとっても共通で最も厄介な問題だよね。何せ、明確な答えや最善策があるわけでも無いし、解決は当事者同士だけでしかできないんだから。だから人間関係の歪みって言うのは人を不安にさせやすい。そしてその場合人は、怪異に縋りやすい」
―――人間関係の歪みは、怪異を惹き寄せるんだよ
「『目には目を』ってことでも無いけれど、解決法が不明確な問題を前にしたとき、人は不明確な物に縋りたくなるのさ。例えば恋愛成就のお守りとかね。普通に考えればあんなものがあったところで実らない恋は実らないし、別になくても恋は実るさ。でも何故か、そんな意味のないものに縋る人は大勢いる。別に普段から神を信仰しているわけでも無いのに、そう言う時は神に縋る。つまりそういうことだよ」
―――まぁ、そんな不明確な物を糧にしている僕が言えた義理じゃないかもしれないけれどね。
と、忍野は軽薄に笑って肩を竦めた。
「兎に角、委員長ちゃんの存在はこの町に怪異が蔓延る下地を整えちゃっているってことだよ。それに加えて怪異を引き寄せるハートアンダーブレードの存在だ。まさに相乗効果だ。やばいなんてものじゃないね。ハートアンダーブレードの方は一応僕が対策しているけれど、委員長ちゃんは野放しだ。というより、専門外の僕には手が出せないと言ったほうが正しい、だから友人である阿良々木君に聞きたいんだけれどさぁ―――」
―――委員長ちゃんは元気かい?
「元気ではある、多分な」
元気じゃない子が『良い子』でないとあいつが考えているなら、元気であろうとするだろう。
「それはつまり、元気だけれど問題が無いわけじゃない……そう捉えて良いかな?」
「お前に任せる。ただ具体的に何があったのかは言えないからな」
「なら、アプローチを変えよう。君が言えないことは言わなくていいから、
「……分かったよ」
まぁそういう風に言われては断る理由がない。
俺は忍野に今日の出来事を羽川に口止めされていたことを伏せて話した。
そして、あの猫の件になると、忍野は目を細めた。
「
「あぁ、銀っつーか白っつーかそれは曖昧だが、尾が無かったことは確実だ」
「そうか……ねぇ阿良々木君、少し前に君に話したこと……覚えてる?」
「あぁ?ちょっと変わった怪異譚を調べてるって話か?確か尾無しの銀色の猫が……」
その時、俺はハッとした。
そうか……そういう事か!
あの猫を見た時に覚えた引っかかりはこれの事か!
「忍野……まさか…………」
「気づいたかい?阿良々木君」
忍野は俺の眼を見据えて言う。
「マズいことになった」
「無闇だぜー!」
【…………】
「おい、挨拶しろよ作者」
【……諸君、私は戦争が好きだ】
「は?」
【諸君、私は戦争が大好きだ】
「何言ってんの?」
【つー訳で戦争じゃオラァ!!!】
「いきなりどうした!?」
【どうもこうもあるか!来る日も来る日も花粉飛ばしやがって!お陰で眼は痒いし毎朝目やにで眼開かないし鼻水は止まらないし鼻詰まりで寝苦しいしこちとらもう我慢の限界に来てるんじゃボケェ!】
「あぁ……花粉症か。そりゃご愁傷様」
【こうなったら半径10キロ圏内にある杉の木を一本残らず燃やし尽くしてやるわ!行くぞ無闇君!これは戦争じゃあ!】
「あーうん、気持ちは分かるが落ち着け。今はホラ、次回予告しないと」
【……確かに。という訳でどうも、杉の木を一本残らず駆逐したい系作者の記識です】
補足のコーナー
【二次創作の扱いについてだね】
「この作品における重要なテーマである『物語と世界』の話だが、一つ一つは独立した別々のモノだと作中で述べたが、しかし実際、二次創作は『原作』という大元の物語の存在があってこそ成立しているわけだが……これは独立しているとは言えないんじゃないか?」
【独立はしているよ?ただ『原作』との関係があるってだけで】
「どういうことだ?」
【イメージ的には一本の木かな。まず大元である『原作』という幹があって、そこから『原作』に『もし〇〇が△△だったら』というifの条件で枝別れして、その枝についている葉の一つ一つが二次創作って感じかな】
「つまり、大元で繋がってはいるが葉の一枚一枚は別々の『物語』であると」
【そゆこと。これには主に作中の歴史なんかが大きく影響を受けるね。まず『原作』の歴史があって、枝分かれしたifの条件によってそれぞれ歴史は変化していくのだけれど、設定したifの条件には影響を受けない場合はそのまま『原作』の歴史が引き継がれているんだ】
「この作品の場合だと、俺がこの世界に来た後からが変化した歴史で、その前までの歴史は『原作』そのままってことだな」
【そうそう、そうじゃないと登場人物が皆生まれてこなかったこととかになっちゃうから】
「成程な」
次回予告
【次回は原作006~007までの予定です】
「いよいよ本編開始だな」
【そうだね、今まではプロローグというか、イントロダクションだったからね】
「全5章も費やしてやっと本編か」
【本編部分全295ページあるうちの なんと150ページもこの導入部分に費やしてるから本当びっくりだよね】
「さて、次回はいよいよ怪異化した羽川、通称『ブラック羽川』が出てくるわけだが…」
【フフ……フフフフフフ……】
「おいなんだその不安になる笑いは」
【猫耳……羽川……無闇君暴走……悪ノリし放題】
「おい何かいま不穏なワードが聞こえたぞ!どういうことか説明しろ!」
【次回、『つばさファミリーその參』!】
「聞けよオイ!?」
【質問・意見はコメント欄へどうぞ】
「マジで頼むぞ……」
【確約しかねる】(ΦωΦ)
「悪い顔だ!?」
【「ではまた次回!」】