『外物語』   作:零崎記識

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筆者は小説投稿初心者です。
過度な期待はせずに気楽に見ていくことをお勧めします。
感想・批評は歓迎ですが暴言・悪口は炎上の原因となりますのでおやめください。



006

011

 

エピソード

 

体格のおよそ三倍、体重のおよそ三乗はあろうかという巨大な十字架を肩に担ぐ。

 

白ランを着ている。

 

ギラギラとした三白眼が特徴。

 

口調や口癖やや幼さが垣間見える。

 

キスショットから左脚を奪った。

 

吸血鬼と人間の間に生まれる。

 

ヴァンパイアハンターにしてヴァンパイアハーフ。

 

以上がエピソードの基本的な情報なのだが……。

 

「何だ、半端者か」

 

「もう……そういう事は言っちゃダメだよ」

 

「だが事実だろ?」

 

「言い方って言うのがあるでしょ?」

 

「はぁ~分かった俺が悪かった」

 

「よろしい」

 

敵わねぇなぁ……ホント。

 

「で、そのヴァンパイア・ハーフってのにはどんな利点があるんだキスショット?」

 

「ヴァンパイア・ハーフは不死力や身体能力、物質創造能力を始めとした吸血鬼としての能力が劣っている代わりに、太陽や聖水、後は十字架といった吸血鬼の弱点が殆どないことが特徴じゃ」

 

「やっぱり半端者じゃないか」

 

「こら」

 

「へいへい」

 

「つまり―――逆の言い方をすれば、利点が半減する代わりに弱点がほぼ全滅するという事じゃな」

 

「それだけか?」

 

「儂が覚えている限りじゃとそうじゃな、何なら、直接脳をまさぐって記憶を掘り返してもよいが」

 

「いややらなくていい、寧ろやらないでくれ」

 

お前の眼中にはいないかもしれんが、ここには羽川もいるんだぞ……。

 

そんなスプラッタな光景見せたらトラウマになるかもしれないだろうが。

 

「ともかく主な利点としてはそれだけか」

 

「うむ、うぬの敵にはどうしたってなり得ぬよ」

 

所詮半端者じゃ。

 

お前までそれ言うのかよ……。

 

羽川も流石にキスショットを窘める気は無いようである。

 

怖いからとかじゃなくて、単純に聞いてもらえないからだろう。

 

「ともかく、脅威にはなり得ないか」

 

「ただし奴の攻撃には当たらないようにするべきじゃろうな」

 

「何で?」

 

「奴がこれ見よがしに担いでおる十字架を見れば分かると思うが、エピソードは恐らく人間離れした身体能力や吸血鬼の能力を用いて吸血鬼の弱点を突くことが主な戦術じゃろう。まぁ当たったところで吸血鬼ではないうぬに通用するはずもないじゃろうが、問題はうぬはあくまでも()()()()()()奴らと戦ってるという事じゃ」

 

「あぁ、明らかに弱点を突いたのに効果がないと吸血鬼じゃないことがバレるかもしれない……ということか」

 

「うむ、故にうぬが奴と戦う時は奴の攻撃を食らわないように努めるべきじゃろうて」

 

「ふむ、縛りプレイか……別に楽勝だな」

 

「かかっ、まぁうぬにとってはそうじゃろうな。適当にあしらってくるがよいわ」

 

「ところで、奴は何で吸血鬼を狩ってるんだ?」

 

人間(エサ)もいらない、能力があるから金もそこまで必要ない、ならばエピソードは何のためにヴァンパイアハンターをしているのか?

 

「私怨じゃよ」

 

「あー……なるほど」

 

「ヴァンパイア・ハーフは稀少である故、断定的なことは言えんが、たいていの場合ヴァンパイア・ハーフという存在は吸血鬼を憎むことになるのじゃ」

 

「ありがちな話だな」

 

吸血鬼にもなり切れず、かといって人間にもなり切れない()()()

 

吸血鬼としても、人間としても異端な存在。

 

そう言った類の存在に与えられるものは得てして『迫害』だ。

 

「中でもエピソードは吸血鬼に対して並々ならん憎悪を抱いておるようじゃ」

 

俺は初めてエピソードと遭ったあの夜のことを思い出す。

 

あの時のエピソードの眼には尋常じゃないほどの憎悪が宿してギラギラと輝いていた。

 

「奴がどんな育ち方をしたのかは知らないが、まぁ知らんほうがいいような育ち方じゃろう、まず確実に碌なことではないのう」

 

だからエピソードは―――憎んでいる。

 

自分を産んだ両親を――

 

自分を受け入れなかった世界を――

 

そして何より――自分自身を

 

嫌って憎んで、恨んで罵って、そうやってさらに怒りを募らせる。

 

きっとエピソードは

 

何もかもが

 

どうしようもなく

 

取り返しがつかないほどに

 

吸血鬼が―――嫌いなのだ。

 

嫌いと嫌いが嫌いで嫌いの嫌いへ嫌いは嫌いを嫌い―――嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで―――嫌いなのだろう。

 

だが、だからと言って負けるつもりは微塵もない。

 

エピソードがいかに吸血鬼が嫌いでもそんなことは()()()()()()()()()()()

 

俺の前に立ちふさがるというのなら完膚なきまでに叩き潰すのみだ。

 

()()』なく―――

 

そんな会話をしたのが三日前――

 

本日4月4日の夜

 

私立直江津高校のグラウンド

 

学園異能バトルの第二ラウンドが始まろうとしていた。

 

そこで一人佇む俺は―――

 

「……遅い」

 

スゲェ暇してた。

 

いやぁ、約束の時間よりも三十分位余裕をもって出かけたはいいものの誰もいないからスゲェ暇。

 

しかも約束の時間を過ぎてるっていうのにエピソードは一向に現れないしさぁ。

 

もう暇で暇でしょうがない。

 

あーあ羽川がいればなぁ……。

 

楽しくおしゃべりできるのに…。

 

ま、無理な話だがな。

 

というか寧ろ何があっても絶対に来ないように釘を刺したくらいだが。

 

『来るなよ!絶対来るなよ!フリじゃないからな!!』

 

ってな感じで。

 

やっべぇ……今考えるとスゲェフラグ立てた気がしなくもない……。

 

これダ〇ョウ俱楽部的なノリで受け取られてたらどうしよう。

 

いや、羽川に限ってそんな受け取り方をする性格してないけれど。

 

まさか…来ないよな?

 

やべぇ……ちょっと不安になってきた。

 

なんかもうエピソードとかどうでもよくなるくらい不安なんだが……。

 

俺の心をここまで揺さぶるとは……。

 

流石バサ姉、侮れない……。

 

略してさすおねだ。

 

俺の一番の天敵って羽川なんじゃね?

 

ヤベェ……もし将来何らかの理由であいつと衝突することになったらどうしよ……。

 

ま、それは無いか。羽川だし。

 

\フラグガタチマシター/(上手に焼けましたー的な意味で)

 

うん?何か今フラグが立った気がするぞ?

 

マジで大丈夫だよな……。←(フラグ)

 

そんなことを考えているうちに、エピソードはいつの間にかそこにいた。

 

霧のように―――現れた。

 

「超ウケる」

 

開口一番、彼はそう言った。

 

相変わらず子供っぽい……。

 

「本当、笑うよな―――ドラマツルギーの旦那が、てめぇみたいなガキに逆退治されちまうなんてよ。どんだけ油断してたんだって話だよなあ―――俺ァ吸血鬼が、吸血鬼退治の連中を含めて嫌いだけど、それでもドラマツルギーの旦那だけは評価してたってのによ――」

 

敵意も悪意も満々か……。

 

結構結構

 

まぁこの程度で腹を立てたりはしないが。

 

というより何というか、全体的に無礼で上から目線なところとか、何となく大人ぶって粋がっている子供みたいで寧ろ微笑ましいまであるんだが……。

 

「で?俺はどうすればいいんだ?ガキ」

 

「どうすればとは?」

 

「勝負すんだろうがよ―何で勝負すりゃいいんだ?別に暴力沙汰じゃなくたっていいんだぜ、俺ァ―お前なんかに何やったって負ける気しねーよ」

 

ヤバイwwますます子供っぽいwwww

 

しかしバトル展開じゃなくてもいいとは良いことを聞いた。

 

はいはいじゃあエピソード君はおじちゃんと一緒にかくれんぼでもして遊びまちょーねぇー(爆)

 

よーしおじちゃん本気出しちゃうぞー(棒)

 

というか真面目な話、これかけっことか言ったらエピソードの奴どうやって勝つつもりでいるんだろ。

 

所詮ヴァンパイアハーフのエピソードの身体能力じゃあどうやったって俺に勝てるはずないのに……。

 

やはり子供だな(確信)

 

「はっはっは、なかなか面白いことを言うねキミ。ご褒美にハンデをやるよ、勝負の内容は君が決めていいよ、勝ったら賞品にアメちゃんでもやろう」

 

「何ソレ超ウケる、いるんだよなーお前みたいに調子こいてるヤツ。モスキートみてぇな能力手に入れただけで世界の支配者気取りの奴。超ウケる」

 

ぶはwww

 

待ってヤバイ本気で吹き出しそうwwww

 

超ウケる二回言ってやんのwwww

 

マジ超ウケるんですけどwwwww

 

お前スゲーなww

 

ここまで俺を(腹筋崩壊的な意味で)苦しめるとはやるじゃないかwwww

 

それを言ったらお前はそのモスキートにもなれない存在なのですがそれはwwwww

 

自虐してまで俺を笑わせに来るとは見上げた芸人魂だなwww

 

よしよしあとでご褒美に後でアイスでも買ってあげまちょーねぇwww

 

「ま。そういう奴には俺が現実を教えてやるんだけれどな、特にお前は教え甲斐がありそうだぜ。だから、今日は特別サービスだ」

 

やめろ…笑うな……。

 

堪えろ俺……。

 

エピソードはウインクして言った。

 

「後遺症が残らない程度に殺してやるよ」

 

「ぶははははwwwもうダメ勘弁してくれwwwwwヒーヒッヒッヒww腹いてぇwwwwwwwwwwwwww」

 

ダメでした。

 

後遺症が残らない程度に殺してやるよ(キリッ

 

だってさwwwwww

 

ウインクは反則だろwwwww

 

痛いwwww痛すぎるwwwwww

 

完全に厨二病じゃないですかヤダーwwww

 

「何笑ってんだよ」

 

「クククッあははははwちょっとまってタイムwwあははははははははははははwww」

 

額に青筋を浮かべるエピソード。

 

「何がおかしいってんだよガキ!」

 

「はははwwwごめんねぇ必死に背伸びして粋がってるエピソードちゃんを見てたら笑いが止まらなくてね……大人ぶりたいお年頃なんでちゅねぇw」

 

「ざけてんじゃねぇぞガキ!本気でぶっ潰すぞ!」

 

「ほら、そうやって直ぐ感情的になるとことか、子供そのものじゃんww」

 

「んだと!」

 

「そもそも人のことをガキガキ言ってくれちゃってるけれどさぁ、お前はそのガキに前に一度殺されかけたの覚えてないわけ?」

 

「あれは只のマグレだっての!俺が本気を出せばてめぇみたいなガキ一捻りだ!」

 

「で、出たーw都合が悪いことは偶然のせいにして言い訳奴~www」

 

「てめぇ……マジでぶっ潰す」

 

「やれるもんなら……やってみな。モスキートにも成れないモスキート以下の半端者が」

 

「ぶっ殺す」

 

「来いよ、お前はこの例外が全身全霊全力をもって限りなく手加減したうえで完膚なきまでにパーフェクトに叩き潰してやるよ」

 

「………」

 

あまりの怒りに言葉もないか。

 

この程度の煽りも流せないとは、やはり子供だな。

 

こういう時は常に冷静を心掛けないと、勝てるものも勝てないだろうに。

 

だからお前はガキなんだよ。

 

「やりあう前に条件の確認だ」

 

「……いいぜ」

 

「お前が勝てば、俺はキスショットの居場所を教える」

 

「万が一にもお前が勝てば、俺はハートアンダーブレードの左脚を返す」

 

「忘れんなよエ・ピ・ソ・ー・ド・君☆」

 

「………そう言っていられるのも今のうちだ」

 

「エピソード君」

 

「んだよ」

 

「ジャーンケーン―――ホイ」

 

とっさにエピソードが出したのはチョキ

 

俺が出していたのは――――グーだ。

 

「ざーんねん、俺が勝っちゃったね」

 

「……殺すッ!」

 

エピソードはそういうや否や、霧となって俺から距離をとる。

 

「悪いがまともにやりあうつもりはねぇ―――単純な力じゃ怪異殺しの眷属であるお前の方が圧倒的に上だからな」

 

「へぇ……じゃどうするんだ?」

 

「こうするんだよ!」

 

そういってエピソードは肩に担いでいたあの十字架を高速で投擲してきた。

 

「おっと危ない」

 

全然危なくないけれど。

 

避ける必要すらないね。

 

俺は体の一部を霧化させ十字架を透過する。

 

そうしているうちにエピソードは既に体を霧化させていた。

 

彼が再び現れたのは、背後の俺から約10メートルくらいの場所。

 

俺をすり抜けたあの巨大な十字架が半分ほど地面に突き刺さっているところだった。

 

「あぁ―――なるほどそういう作戦か」

 

エピソードはああやって俺をじわじわと削り殺すつもりだろう。

 

確かに霧化していれば攻撃を食らうこともないし

 

ああやって突き刺さってる十字架を安全に取りに行ける。

 

おまけに俺は吸血鬼(という設定)だからあの十字架に触ることができない(ということになっている)から武器を奪われる心配もない。

 

子供っぽくはあるけれど、奴も立派なプロフェッショナルという事だろう。

 

リスクを減らし、確実に俺を殺しに来ている。

 

だけど―――

 

「ワンパターンと思われてもマンネリと思われても構わねぇ、何度でも同じことをやってやる。十字架ってのは吸血鬼のどうしようもない弱点なんだからよ!」

 

だけどな――――

 

だけど――――あまりにもショボすぎる!

 

えぇぇぇぇ……

 

あれだけ大口叩いといてそれだけかよ……。

 

もっとなんかすごい隠し玉でもあるのかと思ってたのに……。

 

警戒して損した。

 

言うに事欠いてチマチマ削るだけとか………。

 

なんかもう……ガッカリした。

 

非常にガッカリだ。

 

あーもういいや、なんかもう……萎えた。

 

さっさと終わりにしよ。

 

その時だ―――

 

「あ―――阿良々木君!」

 

あ――あいつ!

 

「まだ諦めちゃ駄目!相手は、霧なんだから―」

 

「羽川!」

 

あれほど来るなって言ったのに!

 

「霧なんだから―――つまりは―――」

 

「……超ウケる」

 

そう言うとエピソードは躊躇なく―――十字架を()()()()()()投擲した。

 

能力で作った十字架だとか材質が吸血鬼の苦手とする銀でできているとかそう言うのを抜きにしても、アレが()()()()()()()であることには変わりない。

 

それが普通じゃない精神性を持ってるとはいえ肉体は普通の人間である羽川が食らえば……無事じゃすまない。

 

かすっただけでも致命傷だ。

 

させるかよ―――

 

羽川に向かって飛翔する巨大な十字架は、しかし突如としてその動きを止めた。

 

「影だと……?」

 

十字架には蛇のように黒い影が巻き付いていた。

 

悪いがエピソード、羽川がここに来た以上さっさと終わりにさせてもらうぞ。

 

「エピソード、お前のその作戦には三つ、致命的な欠陥があるぞ」

 

「ああ!何だってんだよ!」

 

「一つ目―――」

 

俺は影を巻き付けた十字架を手繰り寄せる。

 

「確かに俺自身は十字架に触れないが、だが触れないのは『俺自身』だけだ、つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。従って―――」

 

俺は影を操ってからめとった十字架を幅跳び用の砂場に向けて投擲する。

 

「こうして受け止める手段がある以上、()()()()()()()という手段はみすみす敵に武器を渡してしまうというリスクが高い!」

 

「―――クソがッ!」

 

エピソードが霧になって十字架の下へと向かう。

 

「二つ目―――」

 

俺の姿が掻き消え、刹那にして十字架の下に出現したエピソードの眼前に現れる。

 

「物を投げて取りに行く―――つーことは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして―――」

 

俺は拳を握り、振りかぶる。

 

「いくら霧化していれば物理的な攻撃を食らわないと言ったって、お前は霧になったまま十字架に触れることはできない。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

「モスキートがァ!!」

 

エピソードは咄嗟に霧化しようとする

 

「そして三つ目―――」

 

すかさず俺は逆の方の手の指を鳴らす。

 

パチンッ!

 

そして砂嵐が吹き荒れ、エピソードは霧化を封じられる。

 

「霧になったっつっても、それは消えて無くなった訳じゃねぇ。霧ってのは、つまり水分だ。だったら―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っつー事だ!」

 

砂をかぶせるとか、火を放って蒸発させるとか、もしくは氷点下まで温度を下げて凍らせるとか、やりようはいくらでもある。

 

俺の拳がエピソードの顔面に炸裂し、エピソードのは大きく吹っ飛ばされる。

 

「だがな―――」

 

俺は一瞬にして吹っ飛ばされている途中のエピソードに追いつき、片手で首根っこを掴んで持ちあげる。

 

「お前の敗因は―――このどれでもない、てめーの敗因は……たった一つだぜ……エピソード…たった一つの単純(シンプル)な答えだ……()()()()()()()()()()

 

未遂とはいえ俺の友人に手を出そうとしたことを……後悔しろ。

 

そう言って俺はエピソードを地面に叩きつけた。

 

グラウンドに大きなクレーターができる。

 

人間ならまず命は無いがこいつは半分吸血鬼だ。

 

重傷で留まるように手加減はしておいた。

 

エピソードはクレーターの中で完全に白目を剥いて伸びてしまっていた。

 

「勝負あり―――だな」

 

生きているだけ、ありがたいと思え。

 

「阿良々木君!」

 

「馬鹿野郎!羽川!何で来やがった!あれだけ来るなと言っておいただろうが!」

 

「ごめん……」

 

「ここに来たところでお前ができることは何もない!それはお前ならよくわかっていることだろうが!なのに――――何で来やがった!危うく死ぬかもしれないところだったんだぞ!」

 

「阿良々木君のことが!心配だったからだよ……」

 

「――――っ!?」

 

その一言で、俺の怒りはすっかり収まってしまった。

 

全く……それは殺し文句だ。

 

そんなことを言われれば、俺だって怒るに怒れないじゃないか……。

 

「友達だもの……心配するに決まってるよ」

 

「………はぁ~本当にお前は……」

 

やっぱり、羽川翼は異常だ。

 

人外同士の決闘に首を突っ込めば普通の人間は無事じゃすまない。

 

こんな当たり前のことが、聡明な頭脳を持ち、尚且つ人外同士の戦闘という物を一度見たことがある羽川に分からないはずがない。

 

つまりこいつは、本気で俺のことが心配だからここに駆け付けたのだろう。

 

命の危険があることを十分承知の上で―――

 

自分の命よりも、俺のことを優先した。

 

はっきり言って度が過ぎている。

 

所詮俺が釘を刺したぐらいではこいつを止めることは不可能なのだ。

 

あぁもう、本当にお前はどうしようもなく『例外』だよ。

 

この俺にここまで手を焼かせるなんて、前の世界の誰にもできやしなかった。

 

困った友人だよ全く……。

 

だが……最高の友人だ。

 

012

 

あの後、羽川を帰らせた後、いつも通りグラウンドを整備し、気絶しているエピソードに俺の血を少量振りかけることで何とか動ける程度の状態まで回復させ、後は忍野に任せて俺は学習塾跡へと帰った。

 

俺が学習塾跡へと帰ってから大体2時間後ぐらいに忍野は左脚を持ち帰ってきた。

 

見た目に反して仕事は速い。

 

右脚は膝から先だったが左脚は付け根から先だった。

 

まぁだから何って感じだが……。

 

うん、後のことは察してくれ。

 

恐怖!吸血鬼バラバラ殺人再び……。

 

「おかしい……」

 

「何がだ?」

 

左脚を食べ終わった後、キスショットは不可解そうに首を捻った。

 

「奪われたうちの半分のパーツを取り戻したにもかかわらず、スキルが思ったより回復しないのじゃ」

 

「ふむ……想定していた回復量と実際の回復量に誤差があるってことか」

 

「仮にいま残った両腕を取り返したところで、儂の全力には到底及ばん」

 

「つまり、手足以外にも失っている可能性がある……ってことか」

 

「いや、それは無いじゃろう、それがもし仮に本当じゃとすれば、儂に一切感づかせずに儂のパーツを持って行った輩がいるということになろう、それはありえぬよ」

 

「だが他にどう説明をつける?」

 

「…………」

 

「それに、吸血鬼の再生能力は肉体を常に最高の状態に保つんだろ?」

 

「それはそうじゃが、それと何の関係があるのじゃ?」

 

「だがお前、俺が以前何でヴァンパイアハンターの連中に負けたのか聞いたらこう答えたよな『あの時はなんだか()調()()()()()()』って、再生能力で常にベストコンディションを維持しているはずの吸血鬼が、体調を崩すことなんてありうるのか?」

 

「それは……考えてみれば確かに妙じゃ」

 

「少なくとも自然に悪くなることはあり得ないはずだ。となれば―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことじゃねぇのか」

 

「しかしそうなると儂の眼を欺いた存在がいることになるが……」

 

「戦って勝つことは難しくとも、目を欺くだけならばいくらか難易度は低いのかもな、尤も、それでも相当の手腕が無ければ至難の業だとは思うがな」

 

そう言った俺の脳裏には、()()()の顔が思い浮かんでいた。

 

「ふむ……もし仮にそうだとすると厄介なことになるのう、そうだとすれば儂も知らない誰かが、儂のパーツを持っていることになる。流石の儂もどこの誰かも分からない輩を探しだすことは不可能じゃ」

 

「その心配はないかもしれん」

 

「何故じゃ?」

 

「もしも仮に秘密裏にお前のパーツを奪ったやつがいるとして、そいつの目的は推測する限りお前の弱体化だ」

 

「それぐらいは儂にも分かるわい、恐らくは前もって儂を弱体化させてくことでヴァンパイアハンター共に儂を殺させるのが目的じゃろう」

 

「いや、恐らくそれは違う」

 

「何?なら他にどんな理由があるのじゃ」

 

「根拠は二つ。一つはヴァンパイアハンター共にお前を狩らせるのには弱体化が不十分ってことだな。連中によってお前は無残にも四肢を捥がれて瀕死の状態まで追いやられてしまったが、逆に言えば弱体化していたにもかかわらず結局連中はお前を狩り損ねたってことだ。つまり、お前を殺すためには弱体化が不十分だったってことだ」

 

「それはそうかもしれんが、しかしそれは件の輩が儂を弱体化できたのは精々そこまでが限界だったってことではないのかのう」

 

「そこで二つ目だ。二つ目の根拠はメリットだ。お前にそうやって近づいてパーツを抜き取るなんてこれ以上なく危険で命がいくつあっても足りないような真似をするメリットが見当たらない。そこまでやっておいて後はヴァンパイアハンター共に任せるのはなぜだ?それで奴らが仮に成功したとして、そいつには何の見返りもないだろうに」

 

「ヴァンパイアハンター共と裏で繋がっていたのではないか?儂を弱体化させれば報酬を払うと前もって結託していたのではないかの、人間はよくやるじゃろ?」

 

「じゃあ聞くが、お前が連中と戦った時、連中は陰で協力者が動いているような素振りはあったか?ちなみに俺の方は全くない。ゼロだ」

 

「なかったが……そんなことをいちいち口にする必要もあるまい」

 

「じゃあこれで最後だ。お前にすら気付かれずにお前のパーツを抜き取ることができるのなら()()()()()()()()()()()()()………できるんじゃないのか?」

 

「………」

 

俺がそう言うと、キスショットは顎に指を当てて考え始めた。

 

「確かに……できなくはない――かもしれん」

 

「ということはつまりだ、ソイツにはお前を殺す気は無かったんじゃないか?そいつの目的はもっと別のところにあるんじゃないのか?」

 

「儂を殺さずに生かしておく目的……見当もつかんわい。人間にとっては間違いなく殺しておいたほうが有益じゃと思うし……殺す目的は思いつくが生かしておく目的など……」

 

「案外ヴァンパイアハンター共にハンデでもやることが目的だったりしてな」

 

『アイツ』ならいかにもやりそうなことだ。

 

「…………その可能性も…なくは無いのかのう」

 

「ともかく、お前が順調に力を取り戻しているとソイツが知ったら、今度はソイツ自身が出張ってくる可能性がある。そうだとすれば奴が動くのは恐らく……お前がすべての手足を取り戻した時、ギロチンカッター戦の後だとみていいだろう」

 

「じゃったら、今は兎も角ギロチンカッター戦に集中すべきじゃろうな」

 

「あぁ」

 

俺はエピソードが言い残して言った言葉を思い出す。

 

「――――俺の負けだ」

 

去り際にエピソードは存外潔くそう言った。

 

「ったくとんだピエロだよなぁ、つい最近吸血鬼になったばかりの素人かと思ったら、ハートアンダーブレード級のバケモンだったんだからよぉ。そんな奴を相手に強がりとはいえあれだけ調子こいてたって言うんだから笑うぜ、ホント――――超ウケる」

 

だが、俺を倒したぐらいでいい気になってんなよバケモノ――――

 

と、彼は捨て台詞のようにそう言った。

 

「イカレてるのは、俺も大概だがよ、だがあいつの―――ギロチンカッターのイカレ具合は俺なんかとは次元が違う」

 

アイツはマジで――――エグイぜ。

 

この俺ですらドン引きする程にな。

 

そう言い残し、エピソードは立ち去った。

 

「ギロチンカッターか……」

 

同業者からでさえ警戒されるほどの異常さを持つと言われている男。

 

特別な力を持たず

 

一切の武装もなく

 

普通の人間の身であるのにも関わらず、ここまで警戒されるのは一体……。

 

「本当にギロチンカッターは只の人間なんだよな?」

 

「うむ、頭髪の一本一本から足の爪に至るまで、全てが純粋な、純度100%の人間じゃ」

 

「あの服装ってやっぱり…」

 

「うむ、奴は聖職者じゃ」

 

「テンプレートだなぁ」

 

同族狩りの吸血鬼と吸血鬼嫌いの半吸血鬼ときて、最後には聖職者の人間か……。

 

ありきたりというか、お約束というか、むしろ王道というか……。

 

定番中のド定番じゃねぇか。

 

しかもあれだろ、それで聖職者っつー事はギロチンカッターは多分―――――

 

「この国の言葉では……どう表現したものかのう。まぁ直訳でよいか」

 

別に原語で喋ってくれても俺は構わないけれどな。

 

「ギロチンカッターはのう、とある歴史の浅い新興宗教の大司教じゃ」

 

「お偉いさんか――ますますテンプレだな」

 

「その宗教に名前は無い―――儂にとってもよく分からん組織じゃ。ただはっきりしておることは―――――その宗教は教義によって怪異の存在を否定しているという事じゃ」

 

「神は信じるくせに怪異は否定するのか?」

 

「まぁ宗教など得てして部外者から見れば矛盾の塊じゃろう」

 

「そりゃそうだが」

 

「話を戻すぞ―――ギロチンカッターはその宗教において、存在しないはずの怪異の存在を消去する役割を自らに課しておるのじゃ。まあつまりはギロチンカッターは大司教であると同時に怪異を滅ぼすための実戦部隊というか、所謂特殊部隊の隊長ということじゃ」

 

「だとするとやっぱり、奴は―――――」

 

間違いない、確定だ。

 

「裏特務部隊第四グループに属する黒分隊の影隊長――――とか言ってたのう」

 

「………」

 

うわぁ……。

 

スゲェ厨二っぽい……。

 

ともあれ、これで確定だ。

 

俺の予想が正しければ恐らく、ギロチンカッターという人物は―――

 

「ギロチンカッターは―――所謂『狂信者』ってやつか」

 

「うむ、その通りじゃ」

 

あーやっぱりそうか……。

 

そりゃ恐れられるわけだよ。

 

ああいう手合いは教義のためなら―――自らが信仰する神のためなら命すら惜しくないような輩だ。

 

だからこそ『()()()()()()()』何をしてくるか分かったモノじゃない。

 

「実際儂が連中と戦った時も、ギロチンカッターの攻撃が一番苛烈じゃったぞ。奴は端から()()()()()()()()。自分の命がどうなろうと一向に構わないって感じじゃったぞ。『死兵』という奴じゃな。儂もやつの捨て身の勢いに負けてまんまと両腕を奪われてしまったわい。そこからはもう知っての通りじゃ。ギロチンカッターが儂の両腕を奪い取り、次にエピソードが左脚を奪い、儂が慌ててジャンプして撤退した時にドラマツルギーに右脚を奪われた」

 

「そして俺と出逢った――ってことか」

 

「うむ、ギロチンカッターさえいなければ、儂も負けることは無かっただろう」

 

「お前にそこまで言わせるとはな」

 

「ドラマツルギーは『仕事』、エピソードは『私情』で吸血鬼を狩っているのだとすれば、ギロチンカッターは――――」

 

「さしずめ『使命』でヴァンパイアハンターをやっているってことか」

 

「儂が言うのもなんじゃが、信仰というのは本当に厄介じゃ」

 

死を恐れない防御無視の特攻戦術。実際にやられたら厄介なことこの上ないだろう。

 

「じゃがまぁ儂はそれでもうぬが勝つと確信しておるよ。仕事だろうと私情だろうと使命だろうと、うぬが負けることは絶対に無いと思っておる。うぬが見事ギロチンカッターから両腕を取り返し、うぬの願いを聞くのが楽しみじゃわい」

 

「ははっ、お前にそこまで言われたら、頑張るしかねぇな」

 

しゃーない、珍しく気合入れますかね。

 

狂信者が相手だろうと、俺は負けねぇよ。

 

「任せたぞ、我が同族よ」

 

そう言ってキスショットは眠ってしまった。

 

さて……俺も羽川が来る日没まで暇だし、寝るか。

 

吸血鬼の再生能力によって俺やキスショットのコンディションは常に最高に保たれるため。『疲労』することは一切ない。つまり体を休めずとも、そもそも疲れることがないために俺たちは『睡眠』という行為を必要としない。

 

俺たちにとって『睡眠』とは、『肉体の休息』を意味しない。

 

ならば俺達にとって『睡眠』はどのような意味があるのかといえば、主に『精神面』における役割が大きい。

 

つまり俺達にとっての『睡眠』とは『精神の休息』もしくは『暇つぶし』である。

 

これは言ってなかったことだが、キスショットはもちろん、俺も外出は自粛している。

 

前に言った吸血鬼の設定が云々というアレではなく、単純に俺もキスショットも、ヴァンパイアハンター共のターゲットになっているからだ。

 

連中は最早ギロチンカッターを残すのみとなりはしたが、さりとて俺達を狙っている輩がまだ存在することには変わりはない。

 

別に襲われてもどうってことは無いがそれだと忍野が折角お膳立てしてまでやっているこれまでのゲーム(茶番)が水の泡になってしまう。

 

故に俺は基本決闘の時を除いて一切外出はしない。

 

キスショットに至っては俺がここに運び込んでからはずっとこのままだ。

 

暇を持て余すのも仕方がないだろう。

 

故に俺達には寝ることくらいしか時間を潰せる手段がないのである。

 

羽川とおしゃべりしているときは楽しいけれどな。

 

だが、キスショットには話し相手は俺ぐらいしかいない。

 

意外と話好きであるキスショットは、一度会話をすれば結構長々と喋るのだが、そうしているうちに話題が底をついてしまい、最終的にはまた寝てしまうのだ。

 

所詮二人だけの、しかも同じ相手だけの会話では長続きしないのであろう。

 

ちなみに忍野はよく喋る。

 

すんごい喋る。

 

こっちが聞いてなくても構わず喋り続ける。

 

しかし会話の内容そのものは面白く、あいつが日本各地を放浪して蒐集した怪異譚を話してくれる。

 

しかしお前……怪異の情報ってお前にとっちゃあ商売道具みたいなものだろうに……。

 

そうベラベラ喋ってもいいのか?

 

それは兎も角、忍野は交渉に出かけており、羽川との約束の時間もかなり先である今、俺にできることは精々寝ることくらいである。

 

そんなことを考える今日この頃。

 

四月五日の午前。

 

春休みも残すところ後二日。

 

それまでにこの問題が終わることを祈りつつ、俺は眠りについた。

 

吸血鬼は棺桶で眠るらしいが、俺にはそんな趣味は無いので普通にベッドで寝た。

 

キスショット作の豪華絢爛な奴。

 

天蓋とかついてんだぜ?

 

ちなみに寝心地は最高。

 

めっさ寝やすい。

 

ベッドに入ってから10分も経たないうちに俺の意識は途絶えた。

 

夢を見た。

 

夢の中で俺は阿良々木暦と会った。

 

成り代わった役割としての阿良々木暦ではない、正史における、原作の阿良々木暦そのままだった。

 

特に会話はしてない。

 

阿良々木が俺に一方的に一言言っただけだった。

 

「『忍と羽川の事は、お前に任せたぞ――――』か、お人好しな奴だ」

 

誰だよ忍って……。

 

所詮は夢だ。意味など見いだせるわけがない。

 

こんな夢に意味など無いのだ。

 

故に―――あの阿良々木暦も、所詮俺が見た夢の中の人物でしかない。

 

もし本物の阿良々木暦が俺のことを知ったならば、何て言うだろうな。

 

俺は『物語シリーズ』なるものをあらすじ程度しか知らないため、阿良々木暦という人物がどのような人間なのか断言することはできない。

 

でもまぁ、自分の命を投げ打って吸血鬼を助けちまうって言うのだから相当なお人好しなんじゃないかと思うがな。

 

そんな彼ならば、俺に対してどのような感情を抱くのだろう。

 

普通に怒るか。

 

当たり前だよな。

 

そんなことを考えているうちに羽川がやってきた。

 

約束の時間より少し遅れているがそれは結界の所為なので。仕方がない。

 

道に迷ったのだろう。

 

幾ら一度来たことがあるからといって結界の効果は依然として有効だ。

 

つまり彼女はここに来るたびに何度でも道に迷わされるのだ。

 

それでも文句の一つも言わず毎日来てくれるあたり、良い友人である。

 

羽川さんマジ天使。

 

HMTだ。

 

「来たよ、阿良々木君」

 

「いらっしゃい羽川。喉乾いただろ、何か飲む?」

 

「ありがとう、阿良々木君。じゃあダイエット・コーラもらえる?」

 

「オッケー、ホレ」

 

俺はダイエット・コーラを創造して羽川に渡す。

 

「飲み物まで出せるんだ…」

 

「物質として存在していればなんでも出せるぞ、まぁ吸血鬼は飲食する必要がないから出せても意味ないんだがな」

 

「うーん…使いようによっては一人で社会問題を解決できちゃうね」

 

「面倒だからパスで」

 

できなくはないが、色々と面倒すぎる。

 

見ず知らずの他人のことまで面倒を見ようと思えるほど、俺はお人好しにはなれない。

 

本物の阿良々木と違ってな。

 

俺も普通のコーラを出して飲む。

 

うん、旨い。

 

安っぽい味だが、それがいい。

 

ところで思っていたんだが―――

 

「ダイエット・コーラにもいろいろ種類が出てきたが、羽川違い分かる?」

 

「そりゃ分かるけれど」

 

「俺には分からん」

 

というかコーラは普通の奴しか飲んだことがない。

 

ゼロとかト〇ホとか邪道だと思う。(※あくまで個人の見解です)

 

「ふーん。……こんなこと、考えてみました」

 

「聞こう」

 

「新製品開発、某飲料会社が、コ〇コーラと全く味が変わらないダイエット・コ〇コーラを制作することに成功しました」

 

「ほほう」

 

「ただし色がブルーハワイ」

 

「それはコ〇コーラじゃない!」

 

コーラはあの真っ黒な色がいいんだろうが……。

 

最近金色のコーラができたとか聞いたけれど俺は飲む気になれない。

 

楽しい会話だった。

 

割と面白い。

 

成績優秀で公明正大なしっかり者の委員長。

 

俺が羽川と出合う前はそんなイメージによる先入観で勝手に羽川という人間を想像して、きっと堅物なのだろうと解釈していた。

 

ところが蓋を開けてみればそんなことは全くなく、気さくで面白い話もできるし、周りに常に気を配れて、面倒見がいい。

 

本当、最高の友達だと思う。

 

だからこそ――――

 

「羽川」

 

「何?阿良々木暦」

 

「もうここには来るな」

 

「……ま、言われると思ってたけれど、一応理由を聞いてもいい?」

 

「勘違いしないでほしいのは、お前が足手まといになるからこんなことを言っているわけじゃないってことだ」

 

「分かってるわよ、阿良々木君だものね」

 

「次の相手なんだがな、所謂『狂信者』ってやつで、戦いになれば何をするのか分からないような危ない奴なんだ。もしかすれば俺を倒すためにお前すらも巻き込む可能性がある。エピソードの時は助けてやれたが、俺がお前と会っていないときにまで手を出されれば終わりだ。俺ですらどうしようもない。だから羽川、お前には少なくともギロチンカッター戦が終わるまでは自分の身を優先して行動して欲しい。くれぐれもこの前のようなことはしないでくれ」

 

もし仮に羽川が誰かによって傷つけられるようなことがあれば――――俺はソイツに手加減できる自信がない。

 

とことん残酷に、ソイツの一番苦しむ方法でソイツを死に追いやるだろう。

 

俺は本来そういう人間なのだ。

 

何処までも自己中心的で、他人のことなどどうなろうが知ったことではない。

 

それが『零崎無闇』という存在なのだ。

 

「……分かった、そういう事なら仕方ないね。あーあとうとう私もお役御免かー」

 

「いや、お前には一つ、大事な役割が残ってる」

 

「え?そんなのあったっけ?」

 

「待っててくれ」

 

「…………」

 

「新学期、あの学校で。俺のことを待っててくれ」

 

羽川のような人間にとって、何もせずに待っているだけのことがどれだけ大変なことか、どれだけの苦痛、どれだけの不安を伴うものなのか、それは羽川本人でないと分からないことではあるけれど、それでも羽川には、待っていて欲しいのだ。

 

なぜなら――――

 

「またお前とおしゃべりできることを、俺は心から楽しみにしているから」

 

「……おおっと」

 

そう言って、羽川はなぜかそこで一歩下がった。

 

ヤベェ……余りにクサいセリフすぎて羽川さん、ドン引きしちゃったのかも……。

 

もしそうだったら俺、立ち直れないかもしれない。

 

プライドとか投げ捨ててキスショットに泣きつきに行く自信がある。

 

しかし、そんな思いとは裏腹に羽川は

 

「ピピピ、ピピピ、ピピピ」

 

「ん?何の音だ?」

 

「ときめいた音」

 

「えぇっ!?女子ってときめいたときにそんなアラーム音みたいな音が鳴るの!?」

 

女子の心は目覚まし時計だったのか……知らなかった。

 

「危ない危ない、惚れちゃうところだった」

 

ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!

 

こんな良い女に惚れられそうになっているだとぉ!?

 

ヤバイ、メッチャ嬉しい。

 

どれくらいというと今すぐ飛び上がって喜びたくなるくらい嬉しい。

 

「惜しい!でもまだ惚れてはいなかったか……」

 

「あはは、私の恋心はそんなに安くないよ阿良々木君。それに…私なんか恋人にしても幻滅するだけだよ……本当の私はずっと自己中心的で我が儘なの」

 

「ふざけるな、()()()()()()()で俺がお前に幻滅なんてするか!お前こそ俺の心をなめんな、良いか羽川、俺はな、お前が例えどんな裏の顔を持っていたとしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っつーの!だからお前は、安心して俺に惚れてろ!」

 

「………やばい、本気で惚れそうかも」

 

マジか!?

 

聞こえてたよ?

 

今確かに聞こえたよ?

 

俺別に難聴属性とか持ってないからね?

 

鈍感でもないからね?

 

今の言葉小声で言ったつもりだろうけれどちゃんと聞こえてたからね?

 

うん、赤面する羽川も可愛い。

 

写真に撮っておきたいくらい。

 

羽川としても、この返しは予想外だったようでしばらくの間赤面していた。

 

俺は赤面する羽川の顔を完全記憶能力まで使ってしっかりと焼き付けた。

 

羽川はしばらく赤面した後、花が咲いたような笑顔を浮かべた。

 

それは、初めて見る羽川の心からの笑顔だった。

 

「ありがとう……阿良々木君」

 

羽川はそう言うと、俺の頬にいきなり接吻をした。

 

「――――――っ羽川!?」

 

「えへへ…ちょっとしたお礼と、頑張ってのプレゼント」

 

マジでビックリした……。

 

不覚にもドキッとしてしまった。

 

唇じゃないがズキュゥゥゥン!!!て感じ。

 

心臓ぶちぬかれたね。

 

「新学期にまた会えたら今度はお祝いに唇にしてあげるね」

 

MA・JI・DE・KA・!

 

これは俄然やる気になってきたぜ。

 

フハハハハハ最早ギロチンカッターなど恐るるに足らんわ!

 

ボッコボッコにしてやるぜぇ!

 

「じゃ、健闘を祈る」

 

「おう」

 

そう言って羽川は帰っていった。

 

うし、やる気十分だぜ!

 

生まれてから一番やる気に満ち溢れてるぜ。

 

待ってろよ!ギロチンカッター!

 

そんな別れの余韻に浸りつつ一人やる気を漲らせて3時間ぐらいが経った時、忍野が帰ってきた。

 

「大変だよ阿良々木君――――」

 

忍野は珍しく深刻そうな面持ちで言った。

 

「委員長ちゃんがさらわれた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうも皆さんこんにちは。

あとがきではフリーダム系作者の零崎記識です。

うん、まず言わせてもらいたいことがある。

ど う し て こ う な っ た

キャラが全く思い通りに動いてくれねぇ……。

特に羽川さんのヒロインパゥアーがヤバイ。

キスショットの影がどんどん薄くなっていく…。

メインヒロインなのに

メインヒロインなのに!(大事なことなので二回言いました)

羽川さんのせいで無闇君が当初決めていたクールキャラからは全く別物になっていく…。

あれれーおっかしーぞぉー(某名探偵並感)

これじゃあ原作の阿良々木君と大差ないじゃないか!

まじでどうしてこうなった。

当初の予定では無闇君は人間に対して心を閉ざした感じのキャラで異世界に行ってであった羽川さんとかキスショットだけには少しだけ心を開いている…って感じにしようと思ってたのに!

少しどころかメッチャ開いてますやん!

扉ガバガバやないかい!

全部羽川さんのヒロイン力が高すぎるのが悪い!

キスショットだけならこんなことにはならなかったのに…。

おのれ羽川翼ァァァァァァ!(鳴滝的な意味で)

もう勘弁してください(泣)

筆者の中の無闇君のキャラがどんどん崩れていく…。

『キャラ崩壊』タグってこのために付けたんじゃないんですけどォォォォ!

まぁ無闇君が楽しそうだから別にいいか(白目)

この小説の主人公、羽川さんじゃないよね?

無闇君だよねぇ!?

書いている筆者自身混乱しそうです。

それは置いといて、お待たせしました。

今回はエピソード戦です。

いやー無闇君、メッチャ煽ってましたねw

あの辺は筆者自身何でああなったのかよくわかりません。

なんか書いてるうちにノリと勢いでああなってしまったというか……。

あそこまで煽るつもりはなかったんだけれどなぁ……。

全く、それもこれもエピソード君がイジりやすいからいけないんだ。

書いてるうちに筆者もエピソード君がなんだか可愛く思えてきてしまったじゃないか(錯乱)

なんか無闇君が説教系キャラになってしまった気がする。

完全にクサいセリフ製造機になってしまった……。

おのれ羽川翼ァァァァァ!(二回目)

それにしてもこの主人公、戦闘中によく喋るなぁ……。

これが筆者の欠点の一つです。

私が小説書くとなんか矢鱈と説明口調になってしまうんですよね……。

ハーメルンに投稿する前に自己満足で書いていた小説があるのですが

こ れ は ひ ど い

って感じです。

もうね、主人公が戦ってる最中なのにマジでよくしゃべるんですわ。

殴る瞬間に滅茶苦茶長台詞を吐くんですよ。

書いた筆者自身、戦闘中にこんなよく喋る奴いるかい!って自分で突っ込んでましたからね?(寒い)

あぁ……語彙力と要約する能力が欲しい……。

言いたいことを綺麗にまとめられないからそうなるんですよね。

戦闘中に説教臭いのは某幻想殺しだけで十分なんだよォ!!!

まぁ筆者何て鎌池先生には遠く及びませんが。

あ、そうそうこの作品、様々な異世界を巡るというのが目的なのでいずれインデックスの世界にも行く予定です。

誰と成り代わりさせようかなぁ……。

幻想殺しかなぁ

セロリさんも捨てがたい……

大穴で『はーまずらぁ』もいいかもしれないですね。

皆さんはどれが見てみたいですかね?

最強になった『最弱』か

全能になった『最強』か

無敵になった『凡人』か

どれも面白そうだなぁ……。

ちなみに無闇君が成り代わった人物は問答無用で

強靭!無敵!最強ォ!

になります。

また、無闇君は全能キャラなので誰に憑依しようと全レベル5を始めとした学園都市全ての能力者がもつ能力をレベル5と同等かそれ以上の強さで使えます。

まさに外道!(チート的な意味で)

まぁ他作品の話はこれくらいにして

ここからは補足です。

今回無闇君の夢の中に登場した阿良々木君ですが

別に何かのフラグになるって訳ではないです。

彼の言っている通り、あれは只の夢です。

だからその手に持ったビール瓶を下ろそうか。

夢です!夢ですからね!?

皆さんの「阿良々木君はこんなこと言わねぇよ!」って言いたい気持ちはわかりますけれど夢ですからぁ!

全部無闇君の想像でしかありませんからぁ!

というか無闇君は勘違いしているようですが無闇君は別に阿良々木と『入れ替わった』わけでは無いです。

あの世界にもともと阿良々木君はいません。

というと語弊がありますが、無闇君が成り代わる前の阿良々木君は消滅してしまったわけではないです。

彼は彼でちゃんと原作の世界に存在しています。

実は作者、この世界が『物語シリーズ』の世界であるとは一言も言ってないんです。

飽くまで無闇君がそう認識しているだけの話。

序章で『観測者』が言っていた通り、物語とは世界であり、今この時も物語、つまり世界は無限に増え続けています。

無闇君が言ったのは『物語シリーズ』

に、限りなく近い世界です。

強いて言うなら『零崎無闇を主人公とした場合の物語シリーズの世界』っていう原作とは別にある別の世界です。

故にその始まりは無闇君が世界に入ってからになるので、それ以前の歴史は考えなくともいいです。

故にそれまで阿良々木暦という存在もいなかったし。

誰も無闇君が阿良々木君になったことに気づかないという事です。

冒頭の『観測者』の説明、さらっと流しはしましたけれどこのシリーズを読むうえで結構重要な概念とかが書かれていますからね?

気になった人はぜひプロローグを見直してみてください。

そんでもってじゃんじゃん深読みしてくれちゃってください。

さてここからは次回の話

いよいよギロチンカッター戦ですね。

いやー今回で無闇君が暴れるフラグを盛大に立てておきましたから、次回は無闇君に大暴れしてもらいましょう。

哀れギロチンカッター……。(合掌)

お前のことは忘れない(大嘘)

では次回予告

零崎無闇vsヴァンパイアハンターの決闘もいよいよ終盤戦。

最後の相手は吸血鬼狩りを使命とする『狂信者』ギロチンカッター

しかし彼は羽川翼を人質に零崎無闇を脅迫する。

しかしそれは、『例外』の逆鱗に触れてしまうという絶対の禁忌だった。

怒りの頂点に達した零崎無闇はどのような行動をとるのか

そして陰で暗躍する者の正体とは

次回「ギロチンカッター、死す」デュエルスタンバイ!

……冗談です。

いやー本当は杏子ちゃんの次回予告を全部アレンジして『嘘予告』ってことにしたかったんですけれど、筆者には難易度が高すぎましたww

では次回、『外物語』第7話でお会いしましょう。

コメントを書いてくださった神皇帝さん、Cadenzaさん、夕凪さん、うるとぅくさん

そしてお気に入り登録していただいている皆様

ありがとうございました。

質問・ご指摘は感想欄へどうぞ。

ではまた次回。





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