とあるハンターとギアノスの奇妙な関係   作:いちごの入った大福

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その関係を聞けば、少年はこう答えるであろう。
「ライバル」である、と。


中編

「凄い雨…嫌になるなぁ」

 

土砂降りの中、木々の生い茂る密林地帯を歩くのは、金属で出来たメイルに身を包む少年。

彼はモンスターを狩り生計を立てるハンターの新米であり、まだ幼さの残る顔立ちに似合わず、さ腕には大きな傷跡があった。

少年はまだ新米だ。だが、驚くべき成長速度と高い潜在能力により、将来を期待されていた。

 

少年の目的は、この地帯で最近問題になっている「ダイミョウザザミ」の討伐だ。このモンスターは地中に潜むことがあるため、周囲にはいつも以上に気を付けねばならない。にも関わらず、この視界を遮る大雨である。

 

「もうすこし探して見つからなかったら一旦引き上げようかな…」

 

日中に帰ることの出来る距離に村がないため諦められず、周囲に気を配りながら進んでいく。

 

「……あれ?」

 

そんな中、ふと何かを感じ取る。雪山で何度か感じたことのある感覚に導かれるように、そちらへ歩みを進めた。

 

「……こっちかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グルル…」

 

ところ変わって同じ密林のとある地帯で、この場所にいるはずもないギアノスが走っていた。

 

密林という温帯地帯におり、しかも背中に大きな傷跡のあるこのギアノスは、間違いなく普通ではなかった。

ただのランポスの色が薄い個体ではないのか?確かにぱっと見ではそう判断されるであろうが、所々にある低温対策の身体的特徴が、このモンスターがギアノスであることを物語っていた。

 

そんなギアノスは、急に降りだした大雨にうんざりしながら、自分の即席の巣穴に向けて走っている。

雪山には餌の少ないため、はぐれであるこのギアノスが餌にありつける可能性は低い。そんな環境にうんざりして山を降りて数ヵ月。こうやって単独で生きていられているのは、ひとえにこの個体のスペックが非常に高いからであった。

 

狩人らしい賢しい知能に幾度となく死線を潜り抜けた経験、それに裏付けされた戦闘力。飛竜とまではいかなくとも、そこらの大型生物に遅れをとることはない。

 

「グル…?」

 

そんなギアノスは、ふと何かを感じ取った。優れた嗅覚や聴覚も役に立たない現状で何を感じ取ったのかは定かではない。

この大雨に体力を奪われながらも、そちらには行かねばならない。そう本能で感じとり、そちらへ方向転換した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ」

「グル?」

 

こうして雪山で幾度となく戦いを繰り広げていた一人と一匹は、思わぬ場所で再会したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せいやぁっ!」

 

出会い頭に大きく踏み込み、先手必勝とばかりに片手剣を高速で振るう。普通なら不意を突けたであろうその攻撃は、このギアノスには通用しない。

 

「ガウッ!」

 

その攻撃を軽く身体をずらして避けると、向こうから間合いに飛び込んできたのを幸いにと盾のない方から噛みつきをしようとする。だが少年はこれに即座に反応、剣を振った体勢のまま勢いよく横に跳び変則的なタックルを放つ。

 

「グルッ…!」

「ぅぐ…!」

 

その攻撃に今度こそ不意を突かれよろめきかけたが、即座に飛び退いて体制を建て直す。少年も無理な攻撃を放った反動で追撃を放てないでいた。

 

「……まさか、こんな場所でばったりするとはね」

「ガルル……!」

 

仕切り直し。互いにいつでも飛び出せるように構え、大雨の中向かい合う。

出会い頭でこのような事になるのは初めてではない。互いに因縁の相手と化した一人と一匹は、雪山で顔を合わせるなり争い、全て引き分けに終わっていた。

 

それは密林に場所を移した後も変わらなかった。

 

「今度こそ僕が勝つ!」

「ガウッ!」

 

ただ、このとき唯一違ったことは……

 

 

 

ドシャァッ

 

『ギギィィィ!!』

「え?うわぁっ!?」

「ガルッ!?」

 

横槍を刺す存在がいたことであろう。

突然地面から飛び出した巨大な頭蓋骨…ダイミョウザザミの殻に一人と一匹は軽く吹き飛ばされる。

 

その先には、雨で濁流となっている川。

 

「うわぁぁぁ!?」

「ガァァァ!?」

 

その流れに逆らうことなど出来るはずもなく、流されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぐ……」

「グ……」

 

二人と一匹は同時に目を覚ます。なんの偶然か、同じ場所に流されていたようだ。

 

「ガルルル…!」

「っ、まずい…」

 

今、自分はダメージが大きくて動けない。すぐ近くには宿敵の肉食獣。

手詰まり。チェックメイトと言っても過言でない状況であった。

ここで終わりなのか。いつ来てもおかしくない身体を噛み千切る感覚に身構えた。

 

「………」

「………」

「……あれ?」

 

いつまでたっても変わらない状況に気付き、ギアノスの様子を見る。

よく見ると、あちらもダメージが大きく動けない様子だった。

 

まだはっきりとしない少年は判断する。この状況での無駄な戦闘は避けるべきだと。

故に発言した。すぐに後悔する事になるが。

 

「ねぇ。ここは一旦休戦しない?」

「……グルル」

 

威嚇するギアノスを見て、自分は何をやってるんだと頭を抱えたくなる。

モンスターに話しかけたのだ。ここまで何度も戦ってきているとはいえ、目の前のギアノスが人の言葉を理解できるとは思えなかった。

 

「……グルル」

「…え?」

 

故に威嚇を止め、警戒に留めて牙を納めたのは少年を大いに驚かせた。

 

実の所、このギアノスは人語を理解しているわけではない。

だが、この少年と何度もぶつかってきたためか、人の感情を機敏に察知する事が可能となっていた。

鳥竜種はモンスターの中でも感知力は高い方だが、ハンターと何度も戦って生き残る個体は少ない。そのため判明していない意外な特技とも言えた。

 

少年は意思が通じてギアノスが牙を収めたのを確認した後、運よく中身が流されていなかったポシェットから回復薬を取り出して服用する。

無論、それだけでは身体は治らない。体力が一時的に戻り動く力を得ると、包帯を取り出して応急処置を施していく。運よく骨折などの重症はなかった

 

「んぐっ……くそっ」

 

それでも痛みは伴う。悪態をつきながら十分に処置を終えると、横からの視線に気付く。

ギアノスだ。こいつはモンスターであり、人のように回復薬のような便利アイテムは持っていない。

だが、その分野生の知識を持つギアノスは、付近の薬草を噛み潰し、体に塗り付けていた。

 

「……おぉ」

 

このギアノスが他の個体とかけ離れているのは分かっていたが、これほどとは思っていなかった。

普通の鳥竜種は傷を癒すために別個体と舐めあったりする事はあるが、自然治癒が主体だ。だが、このギアノスは人間も使用する治療の概念と薬草の性質を理解している。

 

あきらかに異常。だが、少年は恐れるでもなく燃えていた。

 

(こいつが僕のライバル…絶対に勝つ!)

 

そのためにも、互いに万全な状態じゃない現状で戦うつもりは無かった。

これはギアノスも同じ意思らしく、別の意思を持った目でこちらを見ていた。

 

「ガルル…!」

「うん、分かってる」

 

その視線を受けた少年は頷く。共通の言葉は無い。だが、この一人と一匹の意思は同じだと言う事を理解していた。

双方にとって重大な意味を持つ決闘。それを邪魔した忌々しき赤いアレ。鍋の材料に良しとされる大型のモンスター。

 

 

ダイミョウザザミ。共通の敵である無粋な奴を倒す同盟がここに結成された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギチチ…』

 

幾分雨のおさまってきた密林を、一つの大きな影が移動していた。

巨大な殻…竜の頭骨を背負い、サイズの違う大きな爪を二つ持つこの生物は、ダイミョウザザミと呼ばれるモンスターだ。

 

ヤドカリをそのまま化け物サイズにした風貌のこのモンスターは、縄張り意識が強い。先ほどもテリトリーに侵入した人間と鳥竜種を吹っ飛ばしてきたところだ。

ダイミョウザザミは地中に潜伏する事が得意であり、気付かず近寄った哀れな生物は突如突き上げられた竜の頭骨の餌食となる。

不意を撃たれた獲物は、その大ばさみで両断される。間違いなく危険と言えるモンスターである。

 

しばらくして、ダイミョウザザミは一つの影がこちらを伺っている事に気付く。

 

「グルル…」

 

ギアノスだ。ギアノスはダイミョウザザミを一瞥すると、フッと煽るように一鳴きした後、どこかへ走って行った。

それが先ほどふっ飛ばしたギアノスだとは気付かなかったが、それを見たダイミョウザザミは神経を刺激される。

たかが鳥竜種に明らかに煽られたのもそうだが、あのギアノスは悠々と自身のテリトリーを走り抜けたのだ。

食性の広い鳥竜種とはいえメインとなる獲物が競合する事は少ないが、自分の家付近を歩き回られて頭に来ないはずがない。ダイミョウザザミはギギギと鳴き声を上げると、意気揚々と追い掛け始めた。

 

 

ダイミョウザザミは鈍重な見た目と裏腹に、六本の脚による移動は俊敏だ。

だが、あのギアノスに追いつけない。それどころか、余裕で後ろの様子を伺われる始末だ。

ダイミョウザザミの知った事ではないのだが、このギアノスは規格外だ。雪山で鍛え上げられた脚力は、密林であっても決して劣らなかった。

それどころか、速度は同種の中でも群を抜いている。天性の才能と経験の賜物である。

 

勝ち目のない追いかけっこを続けていると、少し開けた場所に出る。

ダイミョウザザミは警戒せず突き進んだ。この周辺にダイミョウザザミを害せるモンスターは生息していないのだから、当然だ。

だが、その慢心が今回は裏目にでた。広場の中心部を通る途中、巨体が大きく沈み込んだのだ。

 

『ギギギィィ!?』

 

ダイミョウザザミは突如自身を襲った事態に混乱する。

気にも留めなかったが、ギアノスはその部分で意図的に大きく跳んでいた。これは作為的に仕掛けた物であることを意味する。

無論、ギアノスが仕掛けた物ではない。仕掛け人である少年は、隠れ潜んでいた横の茂みから飛び出す。

 

「今だっ!」

「グルッ!!」

 

ギアノスも向き直り正面から、少年は左方向から突撃する。狙うは脅威となりえるハサミだ。

ダイミョウザザミはもがくのに必死で自身に迫る危機に気付いていない。勝負は一撃だ。

 

「せやぁっ!!」

 

まずは少年がハサミの根元に斬りかかる。斬り込みは入ったが、斬りおとすには至らない。

一瞬後、今度はギアノスが反対側のハサミに噛みついた。ダイミョウザザミは悲鳴を上げて振り払おうとするが、それは敵わなかった。

 

「グルァッ!!」

 

ギアノスは噛みついたハサミの根元をひねるように引っ張ると、見事噛みちぎったのだ。

ダイミョウザザミは脱出するのも忘れてハサミのない腕を振り回すが、軽く飛び退いたギアノスに当たるはずもなく、ギアノスはペッと大バサミを吐き捨てた。

 

それを横目で見た少年は歯噛みする。速度勝負では少年の負けだ。何かと対抗心を抱くのはライバル故か。

こちらも負けてはいられない。地面を薙ぐように振られたハサミを曲芸のように飛んで躱すと、振り向きざまに回転斬りを放った。

 

『ギアァァァァ!!』

 

その一撃は見事に斬りこみの入った場所に吸い込まれ、二度目の正直と言わんばかりにハサミを斬り飛ばした。

大きく飛び退くと、一足先に下がったギアノスと目が合った。

 

 

――今回はこっちの勝ちだね。

 

 

そう言わんばかりの得意げな視線に少年は苦々しい表情となる。いちいち勝負したがるのは、似た者同士のようであった。

さてダイミョウザザミはというと、腕となるハサミを失ったことで落とし穴からの脱出はより厳しい物となっていた。

得意の突進も使えない。この状況を打開するため、ダイミョウザザミは最後の札を切る。

 

「……!避けて、来る!!」

 

ダイミョウザザミの口が泡立っている事にいち早く気付いた少年は声を上げると、左に飛び退く。

声によりギアノスも気付き、右に飛び退いた。

 

『ギアアア!!』

 

ダイミョウザザミの口から水流が放たれる。いわゆるブレスである。

だが、その決死の一撃もあっさりと躱された。二度目のブレスを放つには多少の時間がかかる。

 

一方、少年はギアノスに対し得意げな表情になった。

 

「どう?先に気付いたのは僕だし、そもそもこの作戦を考えて落とし穴を設置したのは僕だ。僕の方が働いてるんじゃない?」

 

その言葉にギアノスは不服と言わんばかりに吠える。

 

――誘導したのはこっちだ。ノロい人間の足じゃすぐに追いつかれて餌になってたさ!

 

通じたわけじゃなかったが、ニュアンスを感じ取った少年はギアノスを睨む。だがにらみ合いが続いたのは一瞬、既に一人と一匹の意識は別の方向へ移っていた。

 

 

「じゃ、せっかくだし今回の勝者は…」

「ガルルッ!」

――こいつに先にトドメを刺した方。

 

 

もはや動けないダイミョウザザミの命運は決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。もうソロでダイミョウザザミを討伐できるようになったんですか。すごいです!」

 

ハンターギルド。もはや酒場と一体となっているこの場所で、受付をしている女性は目の前の少年ハンターに賛美を贈った。

少年はまだハンターになりたてであり、この年齢と経験から大型モンスターを単独で倒すのは難しいとされていた。

だが、彼を見ていた先輩ハンターの証言とギルド支部長の推薦から、大型モンスターの中では比較的倒しやすい方ではあるダイミョウザザミの討伐依頼が組まれたのだ。

 

受付の女性はあまり期待していなかった。決して無理はするな、命あれば御の字だと少年に言い聞かせた。

その予想に反して、少年はボロボロであったものの、重傷は無し。ダイミョウザザミは無事に討伐された。

 

だが、少年は苦笑いを浮かべ、あまり嬉しそうではなかった。

それを疑問に思って聞くと、少年は言った。「これはソロ討伐ではない」と。

 

「あ、そうだ。ダイミョウザザミの素材のうち、肉の部分も半分ほど貰っていいかな?」

「え?良いですけど…換金するならギルド内でやったほうがいいですよ?」

 

食べるのですか?受付が聞くと、少年は苦笑いを浮かべて答えた。自分が食べるのではない、と。

 

「二人で倒したなら報酬は半分こ。まぁ、契約って奴ですよ」

 

少年はどこか遠い場所…密林の方向を見ながら、そう言った。

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