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更新が不定期ですが、頑張っていきたいと思います。
「あ、あれ……」
少年は目を覚ました。
「……生きてる?」
二度と目を開けることはないと思っていた少年は自らが感じている生を実感した。
先ず少年は生への感謝を感じ、次に感じたのは光の眩しさ、そして、胸に走ったのは絶望と悲しみだった。
「……どうして?」
少年は最後に訪れた感情に囚われた。
少年はまだ父母に愛されなければ生きていけない歳である。
それは身体的にもそうであるが、同時に精神的な意味でもある。
時に人は人間の子が成長し、親の許から独立することを鳥の巣立ちに例えることが多いがそれは誤りである。
人間は口減らしとして子を売ることや捨てることはあっても殺すことは稀である。
鳥は我が子の中で成長が遅れるものを巣から落として間引きすることがある。
それは自然界で多くあることである。
なのに人は美徳を生物に例えようとする。
それは人と言う生き物が社会と言う世界を創り出して、その中で生き続けることによって生み出していった倫理、法、愛による成果であり影響だろう。
いづれにせよ、人間ほど命に対して執着する生物は地球上にはいないだろう。
だからこそ、弱者を見捨てられない。
個人としても、集団としても、社会としても。
そして、その中で人は歩み続ける。
仮令理想論であっても構わない。
それこそが人々が当たり前、いや、当たり前であって欲しいと思うことである。
だが、それなのに少年は奪われた。
両親はあの時、自分を見ていなかった。
それでも自分じゃない人間を自分だと、我が子だとみなしたことに喪失感を抱いた。
それは両親に愛されていた少年にとっては信じたくないことであった。
「お。起きたか」
そんな時、少年に声をかける人間がいた。
少年はその声へと目を向けた。
「あ……」
「その様子だと怪我の方は大丈夫そうだな。
良かった」
少年が目にしたのはあの時の女だった。
今は外套を脱いでおり、下に着ていた男物のジャケットも纏っておらず、身に着けているのはYシャツとスラックスのみであった。
ただ長い少し癖毛な金髪とアメジストのような眼は確かに存在していた。
「あ、あの……」
少年は改めて女を目にして戸惑いを覚えた。
少年は明らかに気恥ずかしさを感じていた。
幼いながらも、いや、純真だからこそ少年は女の美しさに気恥ずかしさを感じているのだ。
「ははは。その様子だと身体の方は大丈夫そうだな?」
その様子を見て女は安堵したのと同時に意地悪気に笑い飛ばした。
当然、女は最善を尽くした。
それでも人を助けることを生業としていることから、少年の身体を気遣ってもいた。
同時に少年が子供ながらに恥ずかしく思っていることに子供らしいと思って微笑ましいのだ。
「で、お前―――いや、君の名前は何だ?」
「……え?えっと……ひょうどう いっせい……」
少年は言われるままに自分の名前を名乗った。
少年は未だに自分の名前を漢字で書くことはできない。
そのために両親が何を思って自分に名前を贈ったのかすらも分からない。
それでも少年は名乗る。
己に唯一残された両親との繋がりに縋る様に。
「そうか。では、いっせい……私の名前はエリーザベト・ホーエンハイムだ」
女は当然の礼儀として少年に自らの名を告げた。
「エリーザベト……?」
「そうだ。他にも長い名前があるが、そっちの方は師……いや、私の先生の名前だ。
呼びにくいと思うだろうし、エリーゼとでも呼んでも構わない……
あ~あ……まさか、あのクソ野郎のことを先生とか呼ぶとか……マジで恥ずかしい……」
「……え?」
少年はエリーザベトの突然の粗暴な発言に戸惑った。
それは見た目から思っていた彼女のイメージとは全く違うからだ。
彼女はまさに少年の目からは優しい美人なお姉さんと言った感じである。
それをエリーザベトは見事に粉々にしたのだ。
「あ、あの……俺……」
しかし、それでも少年には訊かねばならないことがあった。
目の前の女は夢ではなく、現実の存在だった。
それはつまり自分が死にかけたことも両親を奪われたことも全て現実であったと言うことである。
だが、今の己の身体は千切れかけていた全ての手足が確りと繋がり、傷の一つもないのだ。
明らかに違い過ぎる。
「うっ……」
「こら、無理するな。
下手に思い出すと辛いだけだ」
少年は自らの痛みの記憶を思い出し、恐怖と吐き気を感じ、何よりも痛みをイメージしてしまった。
転んだ時に傷を負った時、それを思い出すと人は古傷が痛みだすことがあるだろう。
どれだけ傷や痛みがなくなろうと、怪我をしたと言う記憶があるだけで人は心に傷が蘇るのだ。
たった一つの擦り傷でもそう言うトラウマが蘇る。
痛みのルフランとも言えるだろう。
少年が苦しむのも無理はない。
女はそれを見て少年を嗜めた。
「はあはあ……エリーザさんが俺を助けてくれたんですか?」
動悸と吐き気、神経による痛みの中、少年は女に訊ねた。
少年は痛みの記憶を確信し、それが基であの痛みが本物であることを理解した。
記憶が本物であることを理解したが少年は同時に自分がなぜ生きており、手足がつながっていることに疑問を抱いた。
全てが現実であるとすると目の前の女が自分を助けたとしか思えなかったのだ。
「そうだな……
だが、それは半分正解で半分間違いだな」
「……え?半分?」
女は否定もしなかったがそれは少年が思っていた答えとは違っていた。
「私はお前に具わっている力に頼ったに過ぎないのさ」
「……力?」
少年は女の言っている意味が理解できず首を傾げた。
それを見て女はほくそ笑む。
「フフフ……
そうだな。では、そのことを説明する前に一つ言っておくぞ、いっせい。
私は魔法使いだ」
「……え?」
女は自らの素性を明かした。
その顔は悪戯をする子供のようであった。
「魔法使い……?」
少年はそれを聞いてさらに訳が分からなくなりきょとんとしてしまった。
女が言った言葉は絵本に出てくる悪役であり、人を幸せにする存在であるからだ。
ただ少年にとっては目の前の女はとても真っ直ぐに見えた。
とても魔女のようには見えなかった。
「そうだ。
私は「錬金術師」と言う魔法使いなんだ」
女は少年の不思議なものを見る目と好奇心に気を良くして自らのことを話していく。
それは本人は自覚していないが一種の母性でもあった。
父親や母親が我が子に何か昔話を聞かせて、我が子が目を輝かせたり、続きをせがんだり、不思議な気持ちになったりうするのを見て微笑ましく思うような気持である。
「……れんきんじゅつし……?」
少年は女の口から出て来た聞き慣れない言葉に混乱してしまった。
当然である。
錬金術師と言うのはゲームやファンタジーの世界では有名であるが、そう言ったことを知らない人間からすれば、それを知るのは中高生の化学の授業になってからなのだから。
「詳しいことは後で話そう。
まあ、簡単に言うといっせい。
お前が助かったのは半分は私の魔法の力でもう半分はお前自身の力のおかげだ」
女は自らの秘術を目の前の年端もいかない少年に説明することが難しいことを理解し話の要点だけを話した。
同時に女は決して、自分を控え目に言ったのではなく事実を言っただけである。
女は基本的に商売相手以外の人間には謙虚にならず、それ以外には容赦がなくそれは三大陣営の長に対しても同じである。
いや、むしろ厄介な依頼を持ち込んでくる彼らに彼女はどこまでも辛辣である。
ただその影響もあってか、三大陣営の全ての幹部には一定の信頼を得ているのも事実であるが。
詰まる所、少年の具わっていた力が本物であることを彼女は認めているのは紛れもない事実なのである。
「そうなんだ……
あ、その……あの……あいつは……」
女の説明に納得はいかないがある程度は心で理解した少年は次に少し怯えながら自分を殺そうした人間のことを訊ねた。
それは少年にとっても精神的に、肉体的にも辛いことに他ならない。
ただでさえ、自分を殺そうとした人間を思い出すと言うのは大人でも辛いのに、それが子供がやるのだ。
苦しくないはずがない。
しかし、それでも少年は訊きたかったのだ。
自分と同じ顔を持つ人間が何者なのかを、なぜ自分がこんな目に遭ったのかを、理由を知りたかったのだ。
「……そうだな。
それを説明する前にもう一つ紹介しなくてはならない奴がいる。
……ドライグ」
『……待たせ過ぎだ。エリーザベト……』
「……え?」
女が友の名前を呼ぶとどこからともかく少し不満げな声をした低いながらも威厳に満ち溢れた声が近くからしてきた。
しかし、少年は周りを見回してもその声の主は見当たらなかった。
「ククク……
いっせい。腕を見てみろ」
「……うで?」
その少年の反応が愉快に思えて女は笑いを堪えながら、いや、正確には堪え切れずにいたが少年の左腕を指差しながら指示した。
女の声に従った少年は自らの左腕を見てみるが
「て、うわぁ!!?」
自らの腕が得体のしれないものに変わっていたことに少年は驚きを隠せずに驚きのままに体勢を崩してベッドの上に転げ倒れてしまった。
「アッハハハハハハ!!」
『エリーザベト……貴様なぁ……』
それを見てエリーザベトは腹を抑えながら大笑いする。
それを見ていた龍は500年程前からこの女の性根が全く変わっていないことに呆れを感じていた。
エリーザベトは見た目はかなり美人ですが中身はマジで傍若無人です(笑)
ちなみにドライグともかなり付き合いが長いです。