作者ながら、こいつ乱暴だなぁ……といった感じです。
「先生。ミカエルさんから依頼書が来ました」
十年の時が経ち少年は成長し十六歳となった。
「またか……」
十年前、ある意味では気まぐれ、ある意味では義務感、ある意味では本人は否定するであろうが慈愛から弟子として引き取った少年からの報告を受けてエリーザベトは宙を仰いだ。
十年の時が経ちながらもエリーザベトの美貌は衰える、いや、そもそも歳すらも取っていないかのように変化は全く見られなかった。
「今度はなんだ?
手に負えなくなったはぐれ悪魔の討伐か?それとも保護か?」
エリーザベトは聖書三大勢力の中の一つからの依頼と聞いて辟易しながら弟子にその依頼の内容を確認した。
「いや、先生……
それはどちらかと言えば冥界側の方じゃ―――」
弟子は師匠の物言いに物申すが
「それぐらいは解っているさ。
私が言いたいのはあの三大勢力の持ってくる依頼はどれもこれもめんどくさい事この上ないのに内容はどれもこれも監督責任の欠如と言った身から出た錆と言うことだ
それ位は察しないと世の中生きていけんぞ馬鹿弟子」
「い、いや、それは事実ですけど……」
エリーザベトはかなり理不尽に弟子を黙らせた。
弟子は師の歯に衣着せぬ物言いと殆どパワハラに等しい言い方に何も言い返せなかった。
ちなみに馬鹿弟子と言う呼称に関しては既に慣れているらしい。
慣れと言うのは恐ろしいものである。
「全く、「神器」持ちの人間の殺害と誘拐、人間や他種族の無理矢理な転生、正義の名の下の人体実験……
下手したら他の神話大系を巻き込んだ全面戦争だぞ……
まあ、サーゼクスもアザゼルもミカエルも個人としては絶対に看過できないものだがな。
いや、アザゼルの場合は……まあ、怪しいが……
ただアイツは何だかんだで人間が大好きだからな。
そこら辺には心を痛めているだろうし」
「信用しているんだかしていないんだか分からない評価ですね……」
三大勢力のそれぞれの首領を人格を信用しながらも堕天使総督に関しては毒を吐く師の言い方に少年は複雑な気持ちになるが割と心当たりがあることだらけなので何とも言えない気分になってしまった。
「信用はそこまではせんが友人としては最高の奴さ。アイツは。
そうじゃなきゃ、とっくのとうに縁を切っている」
「……先生にそうまで言わせるってすごいですね」
「どいつもこいつもあの三大勢力の首領は個人としてはマトモだから性質が悪いのさ……
もっとも、奴らとの付き合いと金がなかったらあれらの勢力の連中など知ったことか」
「先生て現金なようで情が深いですね……」
弟子は師の聖書三大勢力に対する見解を聞いて、辟易しながらも友人たちを見捨てない師の姿勢を微笑ましく感じた。
「……そうでもなければ、とっくのとうに貴様を見捨てているところだ。イッセー」
弟子の暖かい目に苛ついてかエリーザベトはそう言い捨てた。
そして、続け様に
「大体なぁ……貴様も貴様で色々と厄介事を持ち込み過ぎだ!
特に女関係……!
ゲンドゥルから毎日の如く、『孫娘の婿殿の様子はどうですか?』と手紙を送られる私の身になれ!!」
弟子に好意を抱く孫娘の初恋を成就させようと躍起になっている友人からの手紙にある意味では三大勢力からの依頼よりも辟易させられていることからその原因を作った女を誑し込むある意味では養子に等しい弟子に対してエリーザベトは文句を言う。
「い、いや……はっきりしない俺も悪いですけど……」
イッセーはエリーザベトの文句を耳にして、自分に好意を持つ異性の一人である白銀の髪を持つ北欧の才媛を思い浮かべた。
幼い頃、魔法使いの会合に師に連れられた際に出会った少し年上の姉のような女性。
二人は最初に出会った時は双方とも優れた魔法使いに育てられたこともあり互いにどちらの師が優れているかとかどちらの魔術の系統が優れているかとかと言い争いになり極めて子供っぽい喧嘩をしていたがとある一件が理由で仲が深まり、今では偶にしか会えないが互いに相手の魔術のことで意見を交換し合う文通仲間になっている。
そんな幼い頃からの二人である。
当然ながら浅からぬ仲になるのは当たり前である。
「……そんなに
「……はい」
イッセーはそこまで鈍感ではない。
自分に好意を寄せる幼馴染たちの好意には当然気づいているし、その好意に応えたいとも思っている。
しかし、それに応えられずにいる。
そのことにイッセーは自分に罪悪感を抱いていた。
「……「約束」がありますから」
「兵藤 一誠」と言う自分を奪われる前にしたとある「約束」。
それがイッセーが自分に好意を寄せる異性たちとの仲を今一歩進めることが出来ない理由であった。
幼い日に交わした「約束」をイッセーは未だに律儀に果たそうとしている。
「……イッセー……こう言っては何なんだが……それは……」
エリーザベトは少し躊躇いながらもその「約束」が果たされることができない、いや、そもそも「約束」の当事者が変わってしまったことを伝えようとした。
「分かっていますよ。先生……
だけど……どうしても確認したいんですよ……あの子がどう思っているのかを……俺は……」
イッセーはそれでも知りたかった。
今、あの少女が何をしているのか。
あの少女がどうしているのかを。
そして、何よりもあの少女が自分に成り代わった男に対してどう思っているのかを。
「……せめて、それぐらいしないと俺は……」
イッセーは諦観を抱きながらもそれでも知りたかったのだ。
きっと真実を知ったら両親と同様にあの少女は傷つくと理解しながらも少年は知りたかった。
そうしなければ、自らが前に進めないと思って。
「……そうか……」
エリーザベトはイッセーのその悲壮な決意を否定しなかった。
エリーザベトもまた、同じような悲しみを持つが故に。
師弟の間に悲哀が漂っている時であった。
「これだから、イッセーはいい男だニャン♪」
「……うおっ!?」
不安と悲しみ、切なさに明け暮れるイッセーの脚に一匹の黒猫が慰めるように頬擦りし出した。
「……もう少し、空気を読めんのか馬鹿弟子の持ち込んだこの厄介事の一つは……」
「にゃあ!?その言い方は酷くにゃいか!?
と言うよりもアタシも弟子の一人にゃ!?先生!」
弟子の一人の乱入にエリーザベトは毒を吐いた。
最早、弟子の名詞すらない呼称に黒猫は抗議するが
「うるさい!!大体、貴様はイッセーに泣きつかれて仕方なく保護してやって傷が癒えたのにも拘わらず、そのイッセーの寝込みをほぼ毎晩襲い続けた恩知らずだろうが!!
それを毎晩、撃退し続けて睡眠時間を削られた私の身になれ!!
ちぃ……サーゼクスめぇ……!!
絶対にああなることを予想して私に依頼を回してきたなぁ……!!
あの時の「笑み」は絶対に私が嘘を吐いていたことに気付いていたぞ!!」
エリーザベトは本来ならば討伐対象であったがイッセーに泣きつかれて仕方なく高額の報酬金を諦めて「使い魔」として保護することになった黒猫だが、イッセーに助けられたこととイッセーのエリーザベトの魔改造とも言える錬金術によって鍛えられた心身の強さに己の種族の本能と年頃の少女として惹かれてまだ対象が幼いにも拘わらず夜這いを繰り返したことを未だに根に持っていることを口に出した。
と言っても、この件に関してはエリーザベトの知己であるサーゼクスがエリーザベトの実力とイッセーの保護者となってから元からお人好しであったがさらに丸くなったことを考えて
しかし、それでも息子や弟のように思っている弟子の貞操を狙い続けるこの弟子にして使い魔に関してはエリーザベトは常に警戒している。
エリーザベト本人は自覚していないがかなりの親馬鹿で過保護なのである。
またこの黒猫はエリーザベトの今いる弟子の中では一番のトラブルメーカーなのであり、その為に当たりは一番きついのである。
「にゃ、にゃあ~……それは一応反省しているにゃあ……
と言うか、師匠強過ぎにゃいか?
最初は武器ありだったから分かるけど……その後に悪魔と素手で戦えるって……何者にゃ?」
黒猫は自分の若さゆえの過ち、いや、今でも十分若いが。当時の発情期の暴走を反省しているのである。
だが、同時に当時それなりに生きるために必死だったことやはぐれ悪魔の中ではかなり危険度が上であった己を倒し、更には何度も素手で己を圧倒する目の前の師匠の実力に関して常に疑問を抱いていた。
何せ、エリーザベトは種族は人間なのだから。
「はっ!そんなの決まっているだろう!!」
それに対して、エリーザベトはいつもの様に傲慢にも高らかにも
「世界唯一の「赤の位階」の錬金術師だ。
貴様のような才能と種族の優位性だけの小娘などあしらうなどどうということはない!」
さも当然の如く言い放つだけであった。
既にエリーザベトは人を超越している。
錬金術師の夢である「赤き石」を持つ無限の魔力の持ち主。
それがエリーザベト・ホーエンハイムである。
「……い、いや……魔法使いが素手で戦うって一体……」
『黒歌……こいつを人の枠に当て嵌めるな……
こいつはそもそも歴代の「赤龍帝」の何人かを殺している「神秘殺し」だぞ……』
黒猫が未だに疑問に思っているとイッセーの相棒であるドライグがそう言う。
そうエリーザベトはイッセーの前の何人かの「赤龍帝」を殺害している。
「あのなぁ、ドライグ……
それは白いのに勝って調子に乗って「覇龍」を使えない、ないしは使って自滅する奴だけだろうが……
私でも万全の「覇龍」は奥の手を使わなければ返り討ちに遭うだけだ」
エリーザベトはドライグの事実と言えば事実である発言に対して偶々条件が重なって勝てただけであることを補足した。
「その師匠が「赤龍帝」のイッセーの保護者になるのも変わってるにゃあ……」
黒歌は歴代の何人かの「赤龍帝」を殺害しているエリーザベトが、現赤龍帝であるイッセーの保護者であることに対して感慨深く感じた。
「それはお前にも言えることだ黒歌。
はぐれ悪魔の討伐を生業としている私がお前を弟子にしている時点で私が細かいことに拘らないこと位はお前も理解しているだろう?」
エリーザベトはそう言って黒歌を納得させようとするが
「……いや、割と私のことを厄介事と言っている―――」
「よし、サーゼクスに貴様を突き出す。
大丈夫だ。既に時効だろうし、私は報酬金を貰えて一石二鳥……いや、厄介事の種も減って一石三鳥だな」
「にゃあ!?
師匠の鬼!!悪魔!!守銭奴!!」
「悪魔は貴様だろうが!」
黒歌が口答えしたのでムカついたのかそう言っていつもの様に使い魔にして弟子と口喧嘩をした。
「……何だかんだで先生て黒歌のことを大事にしているよな?」
『エリーザベトは素直じゃないだけだ……昔からな……』
イッセーは妹弟子と師のいつものやり取りを目にして決して黒歌を売るつもりはないのに冗談で言う師の素直じゃない師の態度に微笑ましく感じ、ドライグは五百年経っても変わらないエリーザベトの素直じゃないのに親しい人間への愛情の深さを語る。
「貴様ら!好き勝手言いおって!!
えぇい!イッセー、とっとと依頼の手紙を見せろ!
ミカエルの奴……これで下らない依頼だったら過激派のアジトを潰してやるぞぉ……!!」
「いや、そんなテロリストみたいなマネは勘弁してくださいよ!?」
「八つ当たりで潰されるなんて、ちょっと可哀―――いや、そもそもやってることがやってることだからそれはないかにゃ……?」
「黒歌!?納得してないで止めようよ!?」
エリーザベトは弟子と五百年来の友人に見透かされたような言い方に苛立ちを感じて、イッセーから手紙を奪い取ると天界への愚痴、いや、八つ当たりを込めて本気で言った。
と言っても、エリーザベトからすれば、天界、いや、教会に対しては彼女なりの私怨があるのだが。
「……ん?」
「せ、先生……?」
しかし、手紙の内容を読み始めてからエリーザベトの苛立ちは鳴りを潜めた。
依頼書を黙って読む師の姿に内心、イッセーはまさか本気で殴り込みを有言実行するのではとハラハラとしていた。
そして、エリーザベトは顔を上げると
「……イッセー、
「……え?」
唐突にイッセーにそう告げた。
イッセーは師の言葉の意味が理解できなかった。
しかし、その次の一言でその意味を理解させられることになる。
「お前の
「……!!?」
さあ、これから歪められた物語は動き出す。
偽りの赤によって全てを奪われた真なる赤は運命が集う地へと帰還する。
赤を導く黄金と共に。
黒歌てこんな口調とキャラだったけ?