『ZOIDOS Genesis 風と雲と虹と』第二部「騒擾」   作:城元太

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第拾参話

 純友は、アースポートに螺鈿色のレドラーが玻璃の翼を並べ、次々と降り立つ様子を覗っていた。

「警護が少ないとは思いませぬか」

 拱手傍観を保つ頭目に、佐伯是基が問いかける。

天上人(ソラノヒト)とはいえ、あれはあれで豪胆な奴よ」

 純友は駐機したレドラーの奥のクルーザーを凝視する。

「デカルトドラゴンにせよギルドラゴンにせよ、護衛はいくらでも随伴できるものを、奴は過ぎた警護が民への不安を(あお)ることを知って最低限での護衛で降りてきたのだろう」

 手ごわい奴だ。無為に北家の政争を勝ち抜いて権力を得た人物ではない。

「是基、滝口どもは曳き付けてあるか」

傀儡(くぐつ)の操るマッカーチス陽動部隊を都の反対側に上陸させております」

「恒利、手筈は整ったか」

〝首尾は上々、抜かり無く〟

 腰の通信機から雑音混じりの返信が届く。純友の口許が上がった。

「都の近衛の実力とやら、(とく)と見物させてもらう」

 純友は右手を直上に掲げ、ゆっくり振り下ろした。

 

 海面が泡立ち、鋼鉄の怪魚が群れを成して浮上する。背部の弾倉が一斉に噴煙を上げ、幾つもの放射状の軌跡が放たれる。放物線はやがて下降線となり、アースポートに翼を並べるレドラーに殺到した。

 連続する破裂音に螺鈿色と玻璃の破片が硝煙に混じり、刃となって飛散する。

「海賊衆だ!」

 悲鳴を上げ殺気立つ群衆の中、海岸を指差す者の指先に、次々と水面より細長い首が(もた)げる。

 頭部に眼窩を持たないブラキオスは無機的な威圧感を纏う。四肢を踏み締め上陸を開始する頃には、アースポート周辺は混乱の極みに達していた。

 純友の予想通り、迎え撃つべき近衛の兵は少なく、咄嗟の事態に応戦し切れない。

「海賊だ、海賊衆が襲ってきたぞ!」

 都の市井では、事前に潜ませておいた煽動役が群衆の混乱を助長する。全ての警邏がアースポートに集約される中、人の群れとは逆向きに進む一団がある事を見(とが)める者はない。彼らもまた海賊衆の一味であり、騒擾に紛れ義倉など公儀の財を掠め取るのが役割であった。

 純友にとって忠平など襲撃の目的ではない。(おおやけ)の無能さを知らしめ、無為な舎人を嘲笑うことこそ狙いであった。

 水際のブラキオスを察知し、(ようや)くツインホーンとイグアンの混成部隊が接近する。

「恒利、やれ」

 水上から閃光が(はし)る。ブラキオスの胸部ビームキャノン砲と喫水上に現れたウオディックの中口径ビーム砲が、警邏の地上部隊に放たれた。イグアンは爆風と共に片足が削ぎ落とされ無様に倒壊する。ビーム砲の直撃を受け、鼻梁と牙を失ったツインホーンは怖気づき引き下がって行く。

「いずれ我らの手中に収めるゾイドだ」

 純友が完全破壊を戒めていたため、ゾイドは止めを刺されることは無い。

 奇襲は完全に成功した。海賊衆による大胆な正面攻撃に警邏隊は完全に面子を失う。摂政忠平下向の(ハレ)の日に、海賊衆の思惑にしてやられたのだ。拱手したままの純友は、配下達の鮮やかな連携に満悦していた。

 

 刹那、ブラキオスの首が切断され吹き飛ぶ。

 突然の事に、海賊衆は襲撃者の姿を追う。

 正に碧き風の如き速さであった。

 大型ゾイドでありながら、ブラキオスの胸部ビームキャノン砲の攻撃を立て続けに(かわ)し、装甲のソーラージェネレーターを(むし)り取り、海上のウオディックに迫って行く。驚嘆すべき敏捷さの、都で見慣れぬ獅子型ゾイドである。

「まさか、あれが桔梗の前を破ったという坂東の荒武者か」

 荒々しい戦闘が、村雨ライガーと小次郎の野性を呼び覚ましてしまったことが、純友の誤算であった。

 碧い獅子は、海浜に横たわる無数のゾイドの死骸を踏み越え飛躍する。上陸したブラキオスはもとより、僅かな岩礁を足場に、砂州に着底するウオディックにも襲いかかった。背部に背負った巨大な太刀を機体横ぎりぎりに傾け、喫水上に表出しているウオディックの対艦ミサイルランチャーポッドと中口径ビーム砲座を瞬時に切断した。4機のブラキオスの首と2機のウオディックが破壊され、1機のウオディックに至っては完全に沈黙する。

「不利だ恒利、引き上げろ」

〝言われずとも逃げまする。なんということだ、都にこんな猛者がいたとは〟

 信じ難い機動性の碧いゾイドに、海賊衆は翻弄された。

〝頭、獲物は頂戴しました〟

 見上げればシンカーが水平線に向かって飛び去って行く。初期の目的を半ば遂げることが出来たが、純友は歯噛みをする思いで碧いゾイドを睨み付けた。

「村雨ライガーか」

 太刀に刻まれたゾイド文字が、機体の銘を示していた。見れば、村雨ライガーの後方から、見慣れた鋼色の虎型ゾイドが追って来ていた。ブラストルタイガーに続き、レイズタイガー、ワイツタイガー、ソウルタイガー、グレートサーベルなど十数機の強力な虎が結集する。

「あれは平貞盛のブラストルタイガー。さては彼奴も坂東育ち故、繋がりがあるやもしれません。透破(すっぱ)に素性を洗わせます」

「滝口め、漸く嗅ぎつけて来たか。傀儡(くぐつ)衆のマッカーチス部隊めしくじったな。

 退くぞ。急速潜航、全機離脱」

 純友は再び右手を挙げ引き上げの命令を下す。首を失ったがコアの無事なブラキオス達が一斉に波間に消えていく。

 破壊したウオディックを咥え、磯の岩礁に執拗に叩き付けていた村雨ライガーは、獲物の一部を嚥下し海中に没していくゾイドを口惜しそうに見送る。短時間の水中戦は可能であっても、深追いできるほどの性能も蛮勇もない。

 村雨ライガーは海賊衆撃退の雄叫びをあげていた。

 

 

「此度の戦功、誠に鮮やかであった。近衛を含め滝口迄も引き離され、検非違使も警護使も陽動に釣られ動けずにいた。そなたが駆けつけてくれなければ更なる被害に至ったものを、よくぞ海賊衆を撃退してくれた。礼を申す」

 移築されたアースポートの清涼殿で、小次郎は藤原忠平の前に平伏しつつ謁見の機会を得ていた。

 小次郎は清涼殿の華やかさに圧倒された。内裏で見た廃墟とは雲泥の差であった。摂関家の威光を誇示するが如く、これまで見たことも無い鮮やかな色彩と、眩しいばかりの金泥に彩られた絵画が並んでいる。

 小次郎にとって、忠平を守ったというより、無為に破壊され四散するゾイドの姿にいたたまれず、太郎貞盛が止めるのも聞かず無我夢中で村雨ライガーを出撃させたのだった。そしてまた、海賊衆の実力がどれほどのものか、純粋に手合わせをしたかったというのも本音である。

「咄嗟のことゆえ賊を取り逃してしまったのが口惜しく、せめてあと一太刀でも斬り付けてやりたかったものを……」

 背後で咳払いがする。取次の別当が渋い顔をして睨んでいた。「決して摂政殿には血生臭い話をするのではないぞ」と言われたことを、緊張のあまり完全に忘れていた。慌てて言葉を切り「お言葉、身に余る光栄でございます」と付け加える。

 忠平は穏やかな口調で語りかけた。

「そなたが先の鎮守府将軍、平良持(たいらのよしもち)の嫡子であったか」

 その手には少し色褪せた菅家の花押が印された書簡がある。

「良持は蝦夷の鎮撫に(こと)(ほか)功績があった武士であったな。景行(かげゆき)公も息災で何よりだ。推薦状しかと受け取っている。成程さすが菅公の推挙だけのことはある。滝口には最高の人材だ」

 小次郎は平伏するのみで、天上人との謁見に圧倒されていた。決して激しい気性の人物ではないが、天上と地上に(またが)り権勢を誇るだけの威厳を漂わせている。問い掛けに体裁の良い言葉を返そうとしたが、何一つ頭に浮かんでこない。忠平はそんな若武者の姿を見て追及することは無く、ただ一言「滝口を任せる」とだけ残し清涼殿の寝殿を後にした。

 (くるま)宿(やどり)でブラストルタイガーと、そして村雨ライガーと共に控えていた太郎は、未だ緊張の解けない小次郎の肩を掴み、嬉しそうに揺さぶった。

「小次郎、災厄が慶事になったな!」

 坂東で過ごした従兄は、まるで自分の事のように祝ってくれた。

 突然の小一条大臣の召喚に肝を冷やし、清涼殿への参内の方法も知らぬ小次郎に、様々の段取りをとってくれたのもまた太郎貞盛の配慮である。

 小次郎は、太郎が都に毒されたのではないかと懸念していたが、変わらずに友情を保っているのを心強く思った。

 そして(あや)に一歩近づけたことが嬉しかった。

 

 

 

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