『ZOIDOS Genesis 風と雲と虹と』第二部「騒擾」   作:城元太

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第拾七話

 都に迫る異形の群れの報告を最初に伝えたのは、洛外巡察中の検非違使が操るヘルキャットであった。決して索敵能力に長けたとは言えないゾイドの感知器に、(ひつじさる)(南西)より接近する巨大な影が浮かび上がったのだ。無謀にも単機で目視に向かった都の警護職は、短い悲鳴だけを残し通信を絶っていった。

 ウィルスに冒され痘痕を都の海浜に晒す無数のゾイドの残骸が小刻みに震える。垂れ下がった下顎をカタカタと揺らし出したブラキオスの骸が錆び付いた頭部をボロリと落とす。大陸奥地に連なる連峰の向こう側、地震竜の異名を持つゾイドの群れが、眷属を引き連れ出現した。

「敵機数15、内セイスモサウルス3、レーザーストーム、シザーストーム、スティルアーマー各3、ディアントラー2、最後尾にロードゲイル1を確認す、至急警戒されたし……」

 消息を絶ったヘルキャット探索の為飛び立ったプテラス隊は、大毅(だいき)規模のゾイド部隊が押し寄せて来るのを確認するが、同時に3機のセイスモサウルスの小口径2連レーザー機銃の洗礼を受けた。噴き上げる弾幕の豪雨を掻い潜り、決死で状況伝達を終えた直後、プテラスは敢え無く空の藻屑と消えていた。

 蔵人所は早急の建議を行うも、煩雑な手続きに追われ派遣対応が後手後手に回る。滝口に出撃命令が下ったのは、小次郎が単騎で出撃し、既に半刻経過した後であった。

 セイスモサウルスは恰も律令の暗愚を嘲笑うかの如く、洛外の海浜部にその機体を留める。公儀を畏れ進撃を停止したと考えたのは、舎人の浅墓さであった。

 一閃の光芒が奔った。距離にして2里(=約8㎞)からの超長距離砲撃である。線条は地磁気の影響を受け、放物線を描き朱雀大路の正面に到達した。一瞬にして羅城門が崩れ落ちる。セイスモサウルスの放った超集束荷電粒子砲が、都の象徴を薙ぎ払ったのだ。充分な余力を持つ破壊の光芒は羅城門を突き抜け、東寺院の伽藍を吹き飛ばし、東京極大路(ひがしきょうごくおおじ)にまで達した。都は、応天門のクーデター以来の騒擾に包まれた。

 

 噴き上がる都の炎を見つめ、最後尾の、胸の中央に紫弁をあしらったロードゲイルに身を委ねる群盗の女頭目は、欣悦の表情を浮かべた。兜の後ろから垂らした射干玉(ぬばたま)の髪に、再度発射されたゼネバス砲の輝きが映える。

(復讐の鬨は来た)

 黒煙が噴き上がる様を遠望する瞳が潤む。

小藺笠(こいがさ)志多羅(したら)、八面。お前ら夷神(えびすがみ)の恐ろしさを、今こそ都人に味あわせよ」

 眼下のディアントラーを介し、3機のセイスモサウルスは長大な首を再び都へ向け、ゼネバス砲発射態勢を整えていた。

 警報がロードゲイルの操縦席に響く。敵を示す光点が一つ、急速に接近してくる。

「弾幕」

 直ちにシザーストーム、レーザーストームが背部のストームガトリングを巡らし、地平線上の敵に向けて無数の弾丸を撃ち放った。

 濛々たる砂塵の壁の向こうから、碧き獅子が白刃を煌めかせ踊り来る。

(奴だ)

 桔梗は怒りとも歓喜とも取れる複雑な感情を抱いていた。

「碧き獅子、坂東の武士よ。決着をつけるのであれば望むところだ」

 桔梗はロードゲイルのマグネッサーウィングを輝かせ、セイスモサウルスの背後に飛び移ると同時、右腕の二振の槍を振り下ろす。

「小藺笠、ベルセルクセイスモへチェンジマイズ」

 ロードゲイルの指示を受けたディアントラーのプラズマブレードアンテナが微細な振動を始め、小藺笠(にいがさ)と呼ばれた黒のセイスモサウルスが雄叫びを上げる。傍らのスティルアーマーが瞬時に機体を分解し、ブロックスコアをセイスモサウルスのゾイドコアと共鳴させる。見る間に変化する黒い機体は、背部に強力な電磁砲を備え、長大な首にスティラコサウルス特有の巨大なフリルを持つ狂戦士(ベルセルク)へと変身を遂げていた。

 両脇に構える銀色のセイスモサウルス、志多羅と八面は、小口径2連レーザー機銃と地対空8連ビーム砲を前方に一斉発射し、接近する村雨ライガーに対して面での制圧を開始する。

 地表には無数の弾痕が穿かれ、爆炎が周囲を包む。ほぼ半円に亘って行われた一斉射撃により、セイスモサウルス前方の全ての障害物は排除されたはずであった。

「思いの外、愚かな男だったか」

 桔梗はロードゲイルの操縦席の中で呟いていた。あの弾幕の中では、碧き獅子も一瞬にして消滅したに違いない。猛き東夷(あずまえびす)の霊を鎮めるかの如く濛々たる紅蓮の焔を見つめ、女頭目は暫し沈黙を以て()の燃え盛る火焔の前で佇んでいた。

「……馬鹿な」

 火焔を見つめ、桔梗が呟いた。

 

 小次郎は雨と降り来る弾丸を前にしても、恐るべき程に自分が冷静になっているのに気付いた。

 怒りの矛先は桔梗には無い。最も忌むべき存在は常陸の伯父達である。都を去るには理由が必要で、奇しくもその絶好の機会を、この女群盗が与えてくれたのだから。

 四肢を弾ませ、時折ムラサメブレードをカウンターウェイトに揺さぶりつつ、弾幕を回避し突進する。小次郎の意志を受け、村雨ライガーは驚異的な運動性で全ての攻撃を避けていく。

「桔梗の前よ、お前が本当に下野の住人であるのならば、俺がお前を坂東に帰してやる」

 漠然とした思考であるが、若い小次郎には確信があった。

「一緒に坂東に帰るぞ」

 その言葉は、村雨ライガーに向けられていたのか、それとも桔梗の前に向けられていたのかは、彼自身もわからなかった。小次郎の意志に共鳴し、村雨ライガーが雄叫びを上げた。

 前方に無数の光の弾が殺到する。レーザーストーム、シザーストーム合計6機の放ったストームガトリングの火焔が渦を巻いて迫る。小次郎は村雨ライガーの操縦桿を倒すが、操作に比べ、村雨の動きは緩慢であった。

「俺の動きについて来られないのか」

 小次郎は慚愧の念に襲われる。

「お前を傷つけたくない、だから頼む、動いてくれ。もっと早く、もっと早く!」

 村雨ライガーの操作盤中央画面に、今まで見たことの無い文字が表示された。

「〝ハヤテ〟?」

 画面には、金色に輝く〝疾風〟の文字が燃え上がる様に浮かぶ。

 小次郎の脳裏に電撃が奔る。ゾイドの心、村雨ライガーの心が、操縦者に響いたのだ。

 小次郎は叫んだ。

「疾風ライガー!」

 

 村雨ライガーの碧い装甲が一斉に燃え上がり、背部のムラサメブレードが天高く舞う。装甲板が碧から緋へ、巨大なムラサメブレードは二振の刃に分裂する。鋭利さを増したカウルブレードが金色の輝きを放ち、背部に巨大なハヤテブースターが装着される。

 四肢の付け根にHYTフィンと、クラッシュバイトファングの傍らに特徴的な一対のチェイスパイルバンカーを備えた緋のゾイドが、黒煙を切り裂き一陣の疾風の如く洛外の平原を駆け抜けていく。

 前肢に装備された二振のリーオの刀、ムラサメディバイダーとムラサメナイフが白刃を煌めかす。

 失われた技、エヴォルトシステムを備えたゾイド。

 平将門の意志を受け、新たなる生命を備えた緋色の獅子、疾風ライガーが顕現した瞬間であった。

 

 

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