『ZOIDOS Genesis 風と雲と虹と』第二部「騒擾」 作:城元太
洛外に構えた草莽の中に廃れた
「桔梗の前が動いたか」
純友は渋面を浮かべ押し黙る。
「我らが放った
佐伯是基が澱みなく告げる。
「龍宮は失われた龍の系譜を引き継ぐ
純友は吐き捨てた。
「龍の系譜、ディガルドか」
エヴォルトした疾風ライガーの意識が奔流となって、小次郎の魂に雪崩れ込んで来る。
四肢が己の手足の如く、バイトファングが己の
疾風ライガーが跳ぶ。ストームガトリングと、3機のセイスモサウルスの放つ無数の小口径2連レーザー機銃の弾幕をも掻き分けて。
一閃にして全てを薙ぎ払うゼネバス砲の光芒をも掻い潜り、緋色の獅子は大毅の中心に斬り込む。小柄な甲虫型ブロックスゾイドを2機、右前脚のムラサメディバイダーで叩き斬る。シザーストーム、レーザーストームが
長距離攻撃に特化したセイスモサウルスは、高速ゾイド戦闘には分が悪い。
「小藺笠ベルセルクは援護せよ、志多羅をアルティメットセイスモにチェンジマイズする時間を稼げ」
ディアントラーのプラズマブレードアンテナが再び妖しい輝きを放ち、桔梗の指示に従い銀色のセイスモサウルス1機が後退する。
守勢に回ったその機を逃さず追撃を試みる疾風ライガーに、ベルセルクセイスモと化した志多羅が立ち塞がる。頭部の巨大なスティルシールドを振り翳し、フリルのスパイクを緋色の獅子に叩き付ける。
音速さで接近する頭部を、しかし疾風ライガーは事も無げに退けた。
続いて起こる凍った刃の斬り下ろす響き。
どさり、と重量物が
電磁誘導によってチェンジマイズを完了し、ソードレールキャノンと2基のストームガトリングを背負うアルティメットセイスモと化した小藺笠が、ストームガトリングと地対空8連ビーム砲を乱射し猛進する。
疾風ライガーは雲雀の如く跳び上がり、過剰に武装された背部の火器を物ともせず次々と破砕していく。飛躍する獅子の視線の先には、忌々しくも機獣を操るディアントラーの姿があった。
「殺らせぬ」
桔梗は咄嗟に庇おうと飛躍するが、ロードゲイルのエクスシザースが届く前に、2機の
誘導を失い行動に隙の生じたセイスモサウルス各機に、緋色の獅子は次々と体当たりを喰らわせ横転させる。
腹部荷電粒子供給ファンを剥き出しに、3匹の竜が四肢を天に向け
疾風ライガーは二振の刃で袈裟懸けに切り結び、妖しく光るファンの回転を停止させた。
セイスモサウルスを庇うために両腕を伸ばし、態勢を崩し無防備に胸部操縦席を晒したロードゲイルを、緋色の獅子が見逃すはずもない。ハヤテブースター全開のまま、前肢のストライクレーザークローを交叉させ、桔梗紋の描かれる禍々しい鵺型ゾイドを叩きつけた。
半透明の翼が切断され舞い上がる。
マグネイズスピア、マグネクロー、マグネイズテイル。ブロックスコアを貫かれ、結合力の途絶えたロードゲイルの機体はたちどころに四散した。ヘイズファングに連なった操縦席の中、桔梗の前は激しい崩壊の振動と絶望感に揺さぶられ、意識を失った。
閉じた瞼の裏側に、光に包まれた景色が浮かぶ。桔梗は幼い娘に戻っていた。
(ここは下野、それとも武蔵?)
幼い
(父上、それとも兄上なのですか。何故私は都に昇らねばならぬのでしょうか。私は里を離れたくありませぬ)
幻想の中の人物は、ただ黙ったまま桔梗を導き、そしてそのまま彼の少女を置き去りにしていく。
(待って。待って。待って!)
無限とも思えるような一瞬が過ぎ去り、彼の女の意識が戻った時、桔梗の目尻には大粒の涙が筋を曳いて流れていた。
緋色の獅子が、碧き獅子に変化する。エヴォルトが解除され、元来の村雨ライガーに形態を戻した。
荒ぶる呼吸を整えつつ、小次郎は己の魂がゾイドと一体化していたことに漸く気付いていた。周囲を見渡す。
「俺がやったのか。それもたった一人で……」
信じ難かった。近年出現したことが無かった強力な龍の系譜のゾイド群を、緋色の獅子は単機で完全に沈黙させたのである。
眼前にロードゲイルの操縦席が無造作に投げ出されている。小次郎は村雨ライガーの体勢を目一杯伏せさせ、操作盤の上から身を乗り出し内部を覗き込んだ。
晒された操縦席には、依然意識を失っている桔梗の姿があった。甲冑の後ろから射干玉色の乱れ髪を垂らしている。美しい髪と、艶やかな肌だった。
「……お兄さま」
微細な
割れた甲冑の隙間、僅かに赤みがかった女の頬に、大粒の涙の筋が描かれるのを見止めた。
〝相馬殿、御無事ですか〟
無線音声によって我に返る。電探を確認すると、後方から漸く編制を整え駆けつけたディバイソンやブラストルタイガー、ワイツタイガー達滝口のゾイドが接近して来る。
小次郎は操縦席から、横たわる桔梗の前を抱きかかえていた。
(女とはこんなに軽いものなのか)
予想外に小柄であった桔梗の身体を村雨ライガーの操縦席後部にそっと横たえると、小次郎は風防を閉じ村雨ライガーを咆哮させた。
碧き鉄の野獣の勝鬨が、洛外に長く長く響き渡る。
「俺は坂東に帰る」
村雨ライガーは元に戻った巨大なムラサメブレードを煌めかせ、聳え立つ軌道エレベーターに背を向けた。
「母上、将頼、将平、弟達よ。待っておれ」
都への未練は無かった。
海原を隔てて遠く坂東の大地まで続く水平線に向かって、村雨ライガーは長く咆哮を続けていた。