「…………問う。お前が…………僕の、マスター?」
光の中から現れた姿に、流石の綺礼も絶句を隠せない。
少年だ。それもまだ子供と言い換えて不思議でない年齢の、どこか茫洋とした眠たげな無表情を顔に貼り付ける、それは紛れもない少年であった。
召喚時の莫大な魔力を思い出さねば、そのまま市井に溶け込むこんでも違和感がないと綺礼には思えた。英霊という格が持つはずの威風を少年は持っていないのだ。まるで綺礼の後ろに佇む影法師の如く、恐怖や畏怖さえ感じ得なかった。
だからこそ困惑も露わに綺礼は口を開く。
「……念のため、訊ねよう。お前はいつの、何代目のハサンだ?」
「…………ハサン?」
不思議な言葉でも聞くように少年が首を傾げる。その僅かな挙措に綺礼はいよいよもって明確な
……聖杯が誤作動? あるいは、召喚術式に何らかの齟齬があったか……?
思考の海に沈んでいた綺礼は、無言のままじぃーっと見上げてくる少年を前にして、一先ず嘆息の形でこちらの意を示して見せる。
いずれにせよ召喚は成された。再召喚が不可能である以上、この少年をサーヴァントとして契約する他に手はない。盟主である遠坂時臣がこのあどけないアサシンにどのような顔をするか、今から考えても悩みの種だ。
「……我が名は言峰綺礼。汝がマスターとしてここに契約する」
「契約、完了。…………僕は、ファン・イルマフィ。……アサシンの、サーヴァント」
右手の甲に浮かび上がった令呪が淡く輝き、綺礼の前で佇む少年とパスが通じたことを知らせる。無事、契約は結べた。しかし安堵の息を吐く間もなく、新たな問題が浮上し、綺礼は眉をひそめる。
ファン・イルマフィと名乗ったこの英霊。ステータスが、見えない。まるでそこに姿と気配しか現さない影絵の如く、マスターとしての透視力がすり抜けるように無効化されていた。
「……何と説明すればよいものか」
「…………?」
英霊であるにも関わらず現代風の衣装を纏っていることもまたおかしく。訊ねるべき事柄が多すぎて、頭から足の爪先までクエスチョンマークを貼り付けたような少年をどう扱い、師にどう説明すべきか、綺礼は悶々と思い悩む。
こうして、第四次聖杯戦争最初で最後のイレギュラーが冬木の地に降臨した。アサシンとは思えない少年の戦闘能力の高さに、マスターである綺礼を含めその他全員が舌を巻くのは、そう遠い先の話ではない。