俺は、目蓋越しに目に入って来る光が止むとゆっくりと目を開けた。
そんな俺の目に飛び込んできたのは、中世ヨーロッパの様なレンガ造りの街並みとそこを行き交う人々の姿、そして燦々と照る太陽の光だった!ということにはならず暗くて細い路地裏の様な場所だった……
しかしここは、しっかりお約束の反応をしなきゃマズイ気がする!
「おぉ!ここが異世界か!素晴らしい!素晴らしすぎる!ここだったら俺でも冒険者としてリア充ライフを満喫出来るしかもしれない!」
しかし、冒険者ギルド的なとこは何処だろうか?少なくともここからはそんな感じの建物はみえないんだが…と言うかここ、本当に路地裏かどっかじゃないか?
どうも自分で探し始めたら迷いそうなので、俺は近くにいた女の子に聞いてみる。
ナンパと思われたら面倒だが他に人も見当たらないし仕方ない。
「すいませーん、この街の冒険者ギルドみたいなところに行きたいんですけど。良ければ何処にあるか教えてもらえませんか?」
俺が声を掛けると、その女の子は俺に向けて不思議そうな顔をした。
「この街の冒険者ギルドを知らないということは、他所から来た人ですか?それにしてもこんなところまで入り込んでくるとは、相当な方向音痴の様ですね」
今気づいたが、特徴的な紅い目の彼女は黒のローブにトンガリ帽子という典型的な魔法使いの様な格好をしている。
「ああ、遠いとこから旅をして来てついさっきこの街に着いたばかりなんだ。だからこの街の地理に詳しくなくて」
俺はとっさに思いついた設定で彼女の質問を躱す。
「そうですか、私も冒険者なので私が付いて行ったら早いのですが…生憎この路地裏で店を出している知り合いのもとへ行かなければならないので、道順だけ教えますね。まずこの路地真っ直ぐに行きます、すると大通りに出るのでそこを左に曲がってしばらく真っ直ぐ行きます、しばらくすれば果物屋さんが見えますのでそこで右に曲がればギルドは、目と鼻の先なのです」
この子、恐らく俺より年下だと思うのだが…俺より相当しっかりしてないか?
「ありがとう、このお礼はいつかするよ」
俺は、そう行ってその場を後にした。
ーーーーーーーー冒険者ギルドーーーーーーーーー
「おぉ!冒険者ギルドだ!すげーソレっぽい!」
俺はネトゲなどで見たギルドと今、目の前にある建物を比べてそんな感想を声にした。
このまましばらく外から建物を見ているのもいい気がするが、それよりも早く冒険者になりたいという気持ちが強い俺は、足早にギルドの中へ入って行く。
「あ、いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ、お食事なら空いてるお席へどうぞー!」
「お、おお!これは…凄いな…」
「おーう、どうした坊主!変わった格好だが、もしかしてオメーも冒険者になりてーのか?なら奥のカウンターに行ってこい、細かいとこまで説明してくれんぜ」
ウェイトレスのものと思われる声を聞きながらギルドの内装をキョロキョロと見ていると、モヒカン頭の厳ついおっさんが声を掛けてきた。
「あ、ありがとう…こざいます」
見た目と言葉遣いに反して結構優しいおっさんに少しビックリしながら礼を言うと真っ直ぐ奥のカウンターへ向かう。
…しかし、思ったより優しかったな。俺の個人的なイメージでは『冒険者=荒くれ者』という感じだったからなぁ……ってか俺、学校の制服のまま転生してんじゃん!今気づいたわ!
そんな事を考えている間にギルドの奥のカウンターについた俺は、栗色の少しウェーブがかかった髪のお姉さんに声を掛けた。
「あの、すいません。冒険者になりたいんですけど」
「そうですか、では始めに登録手数料がかかりますが…」
……登録手数料?つまり金?
「あのぉ、遠いとこからきたばかりで分からないんですけど手数料ってどのくらいですかね」
俺がそんな事を聞くと、お姉さんは心配そうな顔になり、
「千エリスになりますが、大丈夫ですか?」
どうやら、この世界ではお金の単位が『エリス』と言うらしい。
そして1エリス=1円だと言う事はなんとなく感覚的に分かった。
これも恐らく、神々の親切サポートとやらのお陰だろう。
俺がそんな事を考えながらポケットに手を突っ込むと何かメダルのような物があった。
これって…おぉ!金だ!しかも一万エリス!
これも恐らく親切サポートだろうが、無一文だと思っていた時にポケットから金が出て来るのは、凄い感動である。
「これで良いですか?」
嬉々として一万エリスを差し出す俺の様子を見てお姉さんは、ホッと安堵のため息をついた。
見ず知らずの俺のピンチをここまで心配してくれるとは、本当に優しい人なのだろう。
「一万エリスからですね、九千エリスのお返しです。では冒険者について改めて簡単に説明をしたいと思います。
……まず、冒険者とは街の外に生息するモンスター……。
人に害を与えるモノの討伐を請け負う人のことです。とはいえ、基本は何でも屋みたいなものです。……冒険者とはそれらの仕事を生業にしている人達の総称。そして、冒険者には、各職業というものがございます」
そうそう、これこれ!冒険者と言えばジョブだよな!個人的には、魔法を使ってみたりしたいんだよな!
そんな自分の憧れを心の中でさらけ出していると、受付のお姉さんが俺の前にカードを差し出してきた。
「こちらに、レベルという項目がありますね?ご存知の通り、この世のあらゆるモノは、魂を体の内に秘めています。どの様な存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり。他の何かの生命活動にとどめを刺す事で、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値、と呼ばれるものですね。それらは普通、目で見る事などはできません。しかし……」
お姉さんがカードの一部を指差した。
「このカードを持っていると、冒険者が吸収した経験値が表示されます。それに応じて、レベルというものも同じく表示されます。これが冒険者の強さの目安になり、どれだけの討伐を行なったかもここに記録されます。経験値を貯めていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。俗に、レベルアップだの壁を超えるだのと呼ばれていますが……。まぁ要約すると、このレベルが上がると新スキルを覚えるためのポイントなど、様々な特典が与えられるので、是非頑張ってレベル上げをしてくださいね。では、まずこの書類に年齢、体重、身長、身体的特徴等の記入を願います」
自分の特徴か…
年は16、身長167センチ、体重52キロ、黒髪黒目っと…
「はい、結構です。ではこちらの魔道具に手をかざしていただけますか?それで貴方のステータスが分かりますので、その数値に応じてなりたい職業を選んでくださいね」
おぉ!キタキタ!これが序盤の一番の楽しみなんだよな!
「…はい、ありがとうございます。ヨルマ ユウキさん、ですね。ええっと……。どれも平均値ですね。あれ?これは……。はぁ!?魔力が人外級ですよ‼︎何ですかこれ!」
「何ですかと聞かれましても……」
そう言えば俺の転生特典は、魔法作成の才能だってあの女神が言ってたな……しかし魔力だけ人外級ってのはどうなんだ?魔力だけじゃ魔法使いなんてなれないだろ……そこらへんどうなんだ、ズボラ女神よ……
「しかし、魔力が高いだけではウィザードにはなれませんし、このままでは基本職の《冒険者》にしかなれませんよ。多分、この魔力だと冒険者になるより魔道具職人になった方が現実的だと……」
「冒険者で!……お願いします。」
しまったぁー!あまりに居た堪れなくて大声を出してしまったぁー‼︎でもしょうがないじゃん!折角のファンタジー世界で現実的とか言われたらしょうがないじゃん‼︎
「ま、まぁ、レベルを上げれば転職も可能ですし、冒険者は全ての職業のスキルを習得し使うことができますし、それに、えぇっとほら!魔王を倒したサトウ カズマさんも冒険者ですので!最弱職だからといって悪いことばかりではないですよ!」
お姉さんが必死にフォローしてくれるのはとてもありがたいが俺はそんなにポジティブにはなれない…
今日はもう休もう……武具の事もお金の事もまた明日考えよう……。
そんな事を考えながらトボトボとギルドを出ていく俺だった……。