いやまあ、今回のは戦闘とは言い難い感じなんですけどね?
あ、そういえばカズマが異世界に降り立ったとき、彼はアクアとその時着ていた服しか持ってきていませんでしたが、ユウキは一応下校途中だったので、学生鞄とその中に入っている体育のジャージやら勉強道具を持って異世界に来ています。
このすばの世界では転生特典の他に、転生のときに(ただしくは死んだ時に)持っていたものも異世界に持っていける仕様らしいですよ。(原作12巻、あとがき参照)
チート能力の説明で多大な精神的被害を受けた俺は、カズマに一つの疑問をぶつけた。
「…で、ここは?」
「冒険者ギルドだよ。登録の時に来たろ?」
うん、そこは分かってる。
「じゃなくて!なんで俺は冒険者ギルドに連れてこられたのかって話だよ!」
そう、俺は今カズマ達と共に冒険者ギルドに来ていた。
「わざわざ着替えさせて、装備まで整えさせて…俺にクエストでもやれってのか…?」
「そういうことだが?」
「何でだよ…?」
「俺達の屋敷に住ませてやる代わりに少し頼みたい事があるって言ったろ?ずばり、その頼みってのは俺達の元に届いた依頼をユウキにして欲しいってことだ!」
…は?こいつ今…なんて…?
「待て待て待て待て!冗談にもなってないぞ!?俺は、昨日ここに来たばかりの駆け出しでレベルは1だぞ!?まだ現状では一般人と変わらないんだ!魔王を討伐したパーティーに届いた依頼なんて出来るわけ無いだろ!?」
しかも、この世界で生まれて冒険者になるため鍛え続けてきたような連中とは違って、日本でぬくぬくと平和な日々を送っていたただの学生だ。
「そんな大声をだすなよ、他の冒険者達に迷惑だろ?…まあ、そこまで心配しなくても危険過ぎるから代わりにやれって言っているんじゃない」
当たり前だ。
そんな事ならカズマの屋敷から出ていって馬小屋生活なりなんなりしてやる。
「じゃあなんで俺に頼むんだよ…。自分達で出来ないのか?」
「いやまあ…出来ないというか…出来るというか…」
なんだその煮え切らない返事は。
「とりあえず詳しく」
******
話はこうだった。
カズマの元に届いたのはいわゆる『塩漬けクエスト』というものらしい。
討伐対象はとある雑食の虫型モンスターらしく、そのモンスターがとてつもなく気持ちが悪いらしいのだ。
ソイツは異常に強いという訳じゃなく、厄介なのは強靭な顎による噛みつき攻撃と身体の表面に着いている『ねちょっ』とした感じの体液らしい。
どうやらその体液は、クッションのような役割をしていて、物理的な攻撃の威力を半減させてしまう効果があるというのだ。
つまり遠距離から攻撃を出来る魔法さえあれば、そこまでの脅威ではないらしいが…。
「カズマは魔法を使えないのか?というか、めぐみんは爆裂魔法って魔法が使えるんだろ?」
「冒険者な上に魔力が凄い訳でもない俺の魔法じゃ大したダメージは入らない。だから、爆裂魔法で一撃粉砕ってのが一番なんだが…。そこの爆裂バカが魔法を撃つのを拒否してな…」
「その、爆裂バカという呼び方はやめてもらおうか!爆裂魔法をあんな汚いモンスターに使うなんて死んでもお断りです!」
なんだか、モンスターが可哀想になってきたな…
実際に見たわけじゃないが、ここまでの事を言われるということはかなりのモノなのだろう。
「でも、それだけ苦戦するモンスターなんだ。そいつを討伐すれば少なからず経験値が入るんだろ?」
「ああ、雑食だから行く先々で色々なものを食ってるらしくかなりのでかさだった…。あれだけ成長していればそれなりに他のモンスターやらを食ったりしているだろうし、溜め込んだ経験値はかなりのものだろうな」
「だったら…」
だったら尚更、レベルが上がってそれ以上のレベルの上がりが悪くなったであろうカズマ達が倒した方がいいんじゃ…
そう言おうと口を開こうとすると、カズマは苦虫を噛み潰したような顔で重々しく一言放った。
「だが、それを完全に掻き消すくらいに気持ち悪いっ…!おまけに臭い!」
………。
「そこまで言われると、余計に戦いたく無くなるんだが…。というか、別にそんな依頼受けなきゃ良かっ…」
俺の言葉を言いかけで止めたのはカズマの行動だった。
なんと、公衆の面前で俺にDOGEZAをしたのだ。
「頼む!なんなら少しの間と言わず、ずっと屋敷に住んでくれても構わない!!だから頼む!こんなの引き受けてくれる奴なんて他にいないし、受けなきゃ良かったろって言われればそれまでだ…!けど、どうしても受けなきゃいけないような事態だったんだよ!!」
この男、仮にも魔王を倒した者なのにプライドがないのだろうか…?
「とりあえず、土下座をやめてくれ。あと、受けなきゃいけないような事態だったってのを詳しく説明してくれ」
手をを引っ張って立たせると、カズマはポツポツと語り始めた。
「あれは、魔王を倒してからちょっと経ったころだった…、その時は少し浮かれて調子に乗っていたんだけだったんだ。だが、そんな俺に…いや、俺達に一つの依頼が届いたんだ…」
「ねえ?カズマさん、その言い方だと私達まで調子に乗ってたみたいで嫌なんですけど…」
「うむ、それはアクアに同意だ。あくまで調子に乗っていたのはカズマだけで、そんなふうに言われるのは心外だ」
「ですね。ということでカズマ、訂正してください」
こいつらは…。
「う、うるさいな!俺は確かに少し調子に乗り過ぎたところはあるが、お前らも少しくらいハメ外しただろ!?」
「「「…」」」
外したのかよ…。
「カズマ、続けてくれ…。あと、三人は極力口出ししないでくれ…話が長くなる…」
俺の言葉を聞くと、カズマは話を戻した。
「で、その依頼というのが『ジャイアントブラッタの討伐』ってのなんだが…これを依頼してきたのが国のお偉いさんでな…。『魔王を倒した英雄ならばきっとやってくれるだろう?』って言われて断るに断れなくて…」
なるほど、魔王を倒した者って言われて引くに引けなかったと…。
それで、こんな状況に…。
ジャイアントブラッタか…、名前からはどんなモンスターなのか全く想像出来ないな…。
「で、そのジャイアントブラッタってのは…どんな見た目をしてるんだ…?」
「でっかいゴキブリのモンスターだ…」
それは…!!
「うん、断る。ごめん俺、荷物の準備があるから…」
まずは制服とかいろいろ置いてきちゃったしな、それを取りに行かなきゃ。
そういって立ち去ろうとする俺の腕を、
「待ってくれ頼む!」
カズマがしっかりと掴んだ。
「おい、離せ。俺はもうカズマ達の屋敷から出てくから、後は自分達でなんとかしろよ!」
「頼むからそこをなんとか!」
「なんとか、じゃねぇよ!カズマがしっかり自分の意見を言っていれば良かったんだろうが!」
「いや、だってそれは…ほら、魔王を倒したんだって威張ってたから…そこで引くのはちょっとまずいかなって…」
どっちにしても自分のせいじゃないか!!
「そうか、それは災難だったな。よし、いい加減俺の腕を離してくれ。俺はもっと割の良いクエストを探して、それを受ける。そして、その報酬で宿に泊まるから」
「待てよ!そんなふうに言っていいのかな?俺たちは屋敷から出た時に鍵を掛けたよな…?その鍵はここにある。そして、ユウキの荷物は屋敷の中…。この意味が分かるな?」
くっ…!カズマめ、ついにこんな手段を!
「「「「「うわぁ…」」」」」
そこかしこで冒険者達の非難の声が上がるが、カズマはそれもお構い無しに言葉を続ける。
「いいかユウキ?お前が故郷から持ってきた唯一の日本の品や、これからの生活に必要であろう物資なんかは俺の手の中にある!ここは駆け出しの街だが、簡単で割の良いクエストがある訳じゃない!わざわざ集めた生活必需品をもう一度買うほどの金は一日じゃたまらないぜぇ?さあ、どうする?!」
こいつぅ…!!
「なら警察に駆け込むわ。サトウカズマって奴に生活する上で必要な物を盗られたってな!」
「俺はバインドという敵を拘束するスキルも持っていてな!今この場から抜け出そうとすれば、このスキルの餌食だぞ?いいのか?いいんだな?」
あー、どんどんカズマを見る周りの視線が冷たいものに…
「なぁ、アレって昨日冒険者登録をしに来てた新人だよな?」
「ああ、冒険者始めて早々カズマに絡まれるなんて運がねぇな…」
近くのテーブルで酒を飲んでいた二人の前衛職の男の声。
「可哀想…」
「あの鬼畜、本当にクズね…魔王を倒したって言うから少し見直してたのに…」
「今もあのクズに関する変な噂は絶えないものね!最近じゃ、王女様にまで手を出したって話よ?」
三人で野菜スティックをつまんでいた女性冒険者の声。
「っておい!王女様はまずいだろ!?」
「手は出してねーよ!」
どうやら、周りの冒険者の声は聞こえていたらしい。
「あーもう、分かったよやるよ。やらせて頂きますよ。」
「マジで!?受けてくれんのか!」
マジでなんでこんなことになったんだか…
「カズマ…本当にあなたにはプライドというものがないのですか…?駆け出し冒険者を脅してクエストを受けさせるだとか、魔王を倒した人間がすることじゃないですよ…」
「うむ、私が見込んだだけはあるな!」
ダクネスは他人の人柄を見る時にどんな部分に注目しているのだろうか。
「言っておくが、めぐみんが爆裂魔法さえ撃てばこんなことしなくて済んだんだからな?ユウキが可哀想ってなら、お前が攻撃しろよ」
「それはお断りします」
即答かよ。
めぐみんが爆裂魔法って魔法をどれだけ大切にしているのかは分かった。
そこは良いのだが、いい加減出発してはいけないのだろうか。
「なあ、行くなら早く行こうぜ?装備も整えてあるしこのまま出発しても問題はないだろ?」
「なんだよ、ユウキ意外と乗り気だな」
面倒くさそうな依頼を一秒でも早く終わらせたいだけなんだが…。
カズマ達もちゃんと武装はしてきているみたいだし…。
「じゃあ、もう行こうぜ。さっさと行ってさっさと終わらせよ…って、あれ?アクアはどうした?」
カズマの声に周りを見回してみるが、確かにアクアが見当たらない。
…ん?なんだ…?
「なあカズマ、あそこに人だかりが出来ているんだが…」
「花鳥風月〜♪」
おおっ!
「うん、間違いないアクアだ。ちょっと連れてくるからユウキはめぐみん達と一緒に馬車を確保していてくれ」
そういうと、カズマは人だかりの方に走って行ってしまった。
なんというか…カズマも大変だな…
「ではユウキ、行きましょうか」
「ん、私達の目的とする場所を通る馬車はかなり少ないからな。早く行くに越したことはないだろう」
「なあ、さっきから馬車とか言ってるけどさ…。目的地って意外と遠かったりする?」
ここに来たばかりで遠くに行くのはなんだか嫌なんだが。
「「…日帰りはできる」」
遠いのか…。
******
「待たせたな」
馬車の前で少し待っていると、カズマがアクアを連れてきた。
「もう少しで一番盛り上がるところだったのに…」
アクアは、あそこでいったい何をしていたのだろう…。
「お客さん、揃いましたか?では、出発しますよ」
「あ、お願いします」
全員が座ったのを確認すると御者のおっちゃんは馬を歩かせ始め、だんだんと街が遠くなっていく。
まさか、街に来た次の日に馬車を使った長距離移動をするとは…
「で、具体的には聞いていなかったんだが…。そのジャイアント・ブラッタってのはどこにいるんだ?」
「あ、ああ、この馬車はとある山道を通って王都まで物資を運ぶ貨物車なんだが、ヤツはどうやらその山道がある山に巣を作ってるらしいんだ。だから、その山で馬車を降りてヤツを探す。幸い俺は、敵感知スキルを持っているから幾分か見つけやすいはずだ」
そういえばといった表情で話し始めたカズマは、それだけ言い終えると刀の様な片手剣を点検する作業に戻った。
しかし、山でたった一匹のモンスターを探すとなるとかなり骨が折れそうなクエストだな。
俺としては、疲れるのは好きじゃないので山を歩き回るのは遠慮したい所なのだが…
これはカズマの敵感知がどれだけの効力を発揮するかによって戦いのモチベーションが変わって来そうだな。
確か、カズマの
魔法は使えるって言っていたし敵感知も使えるということは、最弱職である冒険者の唯一の利点を上手く活用出来ているということだ。
…そういえば俺って完全に魔法特化だし、冒険者の利点の意味なくしてないか?
いやいや、そんな筈はない。
ステータスに関係なく使えるスキルはあるはずだし、そもそもスキルの発動だって魔力が必要な筈だしな。
うん、念の為にカズマにいろいろ聞いておくか。
スキルポイントも余ってたし、いくつかスキルも教えて貰おう。
******
「お客さん、着きましたよ。ここでしょう?」
御者のおっちゃんが馬を止め、こちらを振り返り言ってくる。
俺達は、辺りを見回しモンスターが居ないのを確認してから馬車から降りた。
結局、俺が教えて貰ったスキルは『敵感知』『片手剣』『窃盗』『狙撃』『潜伏』の五つ。
それぞれの習得のために必要だったスキルポイントは1ずつだったため、まだポイントにはそれなりの余裕がある。
ついでに、スキル・クリエイトも起動しておいた。
「で、どうやって探すんだ?まさか、遭遇するまで敵感知使いながら歩き回るとか言わないよな?」
見る限り周りには大きな木ばかりで別に変わったことは無いが、こんな森の中を探し回るのはさすがに無理がある。
「そんなわけないだろ?この近くに開けたところがある、そこが奴の狩場だ。この時間だと、おそらくそこで何かしらを捕まえようとしているはずだからそこに行こう」
真剣な表情のカズマの指示通りにしばらく進むと、言う通り開けた場所に到着した。
「結構広いな…!」
確かに、これだけ広ければ大きなモンスターの狩場になってもおかしくないのかも知れない。
カズマもいるけど念の為に敵感知を使っておくか…。
「どう?カズマ、見つかりそう?見つけたら私に一番に教えなさいよ?」
「ユウキも見つけたら教えてくださいね?」
「ふむ…。この近くには居ないようだな。流石の私もあのモンスターの相手は遠慮したいのだが…」
おい、そこの上級職三人…。
というか、めぐみんは俺を押すのをやめろ。
「あのな、お前らも少しくらい手伝えよ!もともと、これは俺たちの所に届いた依頼なんだからな?あとアクア、俺を押すのはやめろ」
そうだそうだ!カズマ、もっと言ってやれ!
…というか、ダクネスはともかくアクアとめぐみんはモンスターが出たら俺たちを突き飛ばして囮にするつもりじゃないだろうな?
さすがにそんなことはしないと思うが、背中に手を置かれると怖い…。
******
「なあ、見渡す限りそれらしき影はないし、敵感知も反応ないんだけど…。本当にここがヤツの狩場だとしても、もう食事を終えている可能性もあるだろ?」
結局、かなり長いあいだ茂みに隠れて待ったが、野生の動物以外に目に付いたものは無かった。
日の高さを見る限り、時刻はもう昼過ぎだ。
正直、食事を終えている可能性の方が高いと思うのだが…。
うん、これ以上ここに居ても意味がない気がする。
「まあ、少し待てよ。少し先に鳥が止まっているのが見えるだろ?ジャイアントブラッタの悪臭はどんな生物も嫌う臭いだし、その場にしばらく留まるものなんだ。だから、少し前までアイツが居た場所にはどんな生物も寄り付かない。つまり、今日はまだアイツはこの狩場には来ていないってことだ」
得意げな表情で言い切り、ドヤ顔でこちらを見てくるカズマに何となく腹がたったが、そこは敢えてスルーしておく。
「そうか、ならここで待っておいた方が良いのかもな」
「…ああ」
スルーされただけで残念そうにするなよ。
「ぶふっ…」
「おい、今ユウキ笑ったろ」
「笑ってない」
昨日今日の付き合いなのであまり詳しくは分からないが、なんとなくアクアとカズマは似ている気がする。
なんだかんだ、カズマも子供っぽいとこあるみたいだし。
まあ、絡んで来ないだけカズマの方がマシだが。
「カズマ、ユウキどうだ?敵感知に反応はあるか?」
「ん?ああ、俺の方は反応ないよ。カズマは?」
「反応あり。少し遠いけど、こっから真っ直ぐ先にモンスターの反応がある。こっちに向かって来ているし、おそらくヤツだ。ここからは極力音を出さずに、目指できる距離に来るまで待機していよう。」
へえ、カズマの方には反応があるのか。
スキルレベルが違うとやっぱり性能も違ってくるものなんだな。
何となく頭の中でスキルについての新たな情報を確認していると、よほど戦いたいのか、俺の隣にいるドMのダクネスがソワソワし始めた。
あと、なんか震えてる。
「なあ、ダクネスがドMなのはなんとなく察してるけどさ、さすがに戦いの時くらいは自重できるよね?歓喜に震えるのやめてくれる?俺、この初陣に不安しか感じないんだけれど…」
「馬鹿なことを言うな!ほかのモンスターならまだしも、あのモンスターだけは私でもダメなのだ!油の様な粘液の様な体液が付いたあの虫のことを見ていると、夜逃げしたあの男のことを思い出して仕方がないのだ!それにこれは武者震いだ!」
「嘘つけ」
「う、嘘ではない!嘘じゃないと言っているだろう!嘘つきを見る目で私を見るのはやめろ!んっ…頼むから信じてくれ」
「おい、今の、んっ…ってなんだよ」
「いや、本当のことを言っているのになかなか信じてくれない蔑んだ目に心を抉られてな」
「そこまで酷い目はしてなかったろ!?」
ここまで酷いドMに嫌われる上に、あのモンスターで思い出される男って…。
「というかお前、さっきほかのモンスターならまだしもって言ったよな?」
「黙秘する」
否定しろよ。
「ダクネスもユウキも、馬鹿なことをやっていないで戦う準備をしてくださいよ。言っておきますが、私は何も出来ませんからね?」
「そうよ、特にユウキは今回の作戦の要なんだから、もっと真面目にやってちょうだい。あと、私も何も出来ないから。」
こいつら…!!
「お前らふざけんなよ?アクアにはしっかり支援してもらうし、めぐみんはいざという時には嫌でも魔法を使ってもらう。分かったらお前らも準備しろ。」
「だとよ。一応、このパーティーのリーダーはカズマなんだから従っておけ。」
「はあ…、仕方がありま…」
「あー!あーー!嫌よ!私の神聖な魔法を間接的にでもあんなモンスターにぶつけたくないもの!ね?めぐみんも嫌よね?あんな害虫に自分の魔法をぶつけたくないわよね?!」
アクアのやつ、味方を失わないように大声を出してめぐみんの声をかき消しやがった…。
そんなに魔法を使いたくないのかよ…ん?敵感知が反応してる?
しかも凄い勢いでこっちに向かってるな…。
これってもしかして…!
「おい馬鹿!大声を出しやがって!!ヤツに気づかれた、凄い勢いで来てるぞ!」
ですよねーー!
「おい、どうするんだ!?まだ爆裂魔法の詠唱始めてもないぞ!?」
「ユウキは詠唱を始めてくれ!ダクネス、嫌かもしれないがしばらく俺と囮を頼む!めぐみんはユウキが詠唱している横で待機、次第によってはぶっ放せ。そしてアクア、お前は支援魔法を…」
「嫌」
こいつはこの後に及んでまだ言うのか!
アクアの反発にカズマの顔がみるみる引き攣っていく。
「今はお前と遊んでる暇はねえんだよ!支援魔法さっさとしろ!」
「嫌だって言ってるでしょ!顔だけじゃなくて、耳まで悪くなったの?このクソニート!アイツを相手に私の魔法の恩恵を受けたければ、それなりの供物をいだいっ…!」
さすがにこれ以上の無駄話は危険なので、無防備なアクアの頭に目掛けて拳骨を落とし、詠唱を始める。
…何となくあと数回殴っておこう。
「痛い、痛いから!やめてやめて!」
これは、決して怠惰な駄女神の職務態度を思い出し、そのイライラを発散しているわけではない。
仮にも今はパーティーメンバーなので、命を預ける仲間としての、言わばこれは愛のムチだ。
「分かったわよ、魔法をかければ良いんでしょ!…ほら、行ってきなさいよ。ちゃんと魔法使ったんだから、帰ったらシュワシュワ奢りなさいよ?」
こいつ、とことん女神の風上にも置けない女だな。
と、それまで黙って聞いていたカズマが、ふと顔をあげた。
「お前、ちゃんと小遣いやってるだろ…。それはどうしたんだよ」
「そんなものもう使っちゃったわよ」
この言い草である。
「お、お前…。はあ、アクアには後で話がある。覚悟しとけ。おいダクネス、行くぞ」
アクアを指差しながら言ったカズマは、すぐに振り返るとダクネスの手を掴み、はやくはやくと引っ張る。
「お、おい…、さすがにあのモンスター相手だと、私にも心の準備というものが…。ちょ、カズマ!引っ張るのをやめろ!ああ、行きたくもない戦場に無理やり連れていかれるなんて…!カズマは本当に鬼畜だなまったく!」
「なんで嬉しそうなんだよ!」
こんな状況でもブレない変態と、その保護者は茂みから飛び出ると、一気に走って行った。
カズマ、意外と足速いんだな。
さて、俺も詠唱の方に集中を…
「ほんと、カズマってば、魔王を倒してレベルが一気に上がったからってステータス上がりすぎよね?」
ん?
「そうですよね、普段からほとんど戦わないくせに無駄にレベルだけ高くなってどうするつもりなんでしょうね?」
ほほう…、みんながそれぞれの役割を果たしているあいだに君たちはお喋りですか、そうですか。
というかこの2人、本人がこの場に居ないのをいい事に散々言ってんな。
ちなみにこれは盗み聞きでは無い、2人が詠唱をしている俺の横で勝手に話し出したのだ。
したがって俺は悪くない。
「戦場に出てもすぐに死ぬくせに、なんであんなに態度が大きいのかしらね?私がいなきゃ、もう第二の人生を送っているところよ?」
「そうですね、そこに関してはアクアが本当に女神であったことに感謝していますよ?」
うん、やっぱり盗み聞きは良くないな。
というか、この会話を聞いているのは妙に気恥しい。
仲間同士のやり取りを盗み聞きしてるみたいで気が引ける。
「こんなに長いあいだ一緒にいるのに、なんでカズマはめぐみんのこの素直さを見習えないのかしら。」
なんだかカズマの話題ばっかりだな。
いや、言い争った後なんて基本的にそんなもんか。
俺が2人の聞きながら勝手にそんなことを考えていると、
「それにしても意外ですね。アクアはもっと、そういったことは本人に直接言うタイプだと思ったのですが」
めぐみんがもっともなことを言い出した。
確かにアクアは、陰口が言えるような器用さは持ち合わせていなさそうな感じがする。
「はぇっ…?あ、ああ、それはあれよ、カズマって馬鹿だからいくら言っても分からないじゃない?だから、言うだけ無駄かもなーって…」
「本当ですか?最近アクアの様子が少しおかしいような気がしたのですが、カズマと何かあったとかじゃないんですよね?」
「だ、大丈夫よ!確かに最近ちょっと、カズマを見ると変な感じになったりするけどそういう時はちゃんと自分に回復魔法をかけてるから!」
心配そうにアクアを見つめるめぐみんに対し、当のアクアは心配するなとでも言うように明るく笑っていた。
「そうですか。もし、カズマとアクアのあいだに何かあったらこのパーティーが解散になるんじゃないかと少し心配していましたが…、杞憂でしたね」
「当たり前よ!私達はずっと一緒にいるんだから!」
屈託のない笑顔で言うめぐみんに同調するように、アクアも明るく笑い返す。
そんな、少し感動的なシーンを詠唱しながら見ていると、
「おおおおいいいいいい!何話してんだお前らあああああああ!!」
アクア達が話をしていたことに気づいたのか、カズマが全力でこっちに向かって走ってきた。
「え、ちょっ、カズマ!?なんでこっち来てるの!?カズマさん、ついてきてる!気持ち悪いのついてきてるから!!」
何故かジャイアント・ブラッタをトレインしながら。
「うるせえええええ!俺にはどうにもできねえんだよおおおお!!」
お前…、ウッソだろお前…。
まだ飛び出してから五分も経って無いぞ…。
ていうか…!待て待て待て、あと少し!あと少しで…!
「よし!爆裂魔法の詠唱終わったぞ!って…、熱っ!」
詠唱を終えた俺の手のひらの上には爆裂魔法の光が浮遊し、とんでもない熱を放っていた。
しかも、集中してないとこの場ですぐに爆発しそうなほどだ。
なんでめぐみんがこんなに制御しにくい魔法を好んでいるのかが疑問すぎる。
それとも、この世界の魔法は全部こんなもんなのか?
どちらにしろ長くこの状態を維持するのは不可能だろう。
カズマは目視できる範囲に居るが、ダクネスはどこだ。
爆裂魔法の効果範囲が分からないうちは簡単に飛ばすことは出来ないぞ、下手したらダクネスを巻き込みかねん。
「カズマ!ダクネスはどこだ!もうそろそろこの状態を維持するのは限界だ!」
正確に言えば、周りに意識を向けた状態でこれに集中するのが限界なわけだが。
というのも、正直、この魔法を制御して撃つだけなら、俺はなんの苦労もせずにできてしまうだろう。
なぜなら、他人より深く集中しやすいという生まれ持った能力があるからだ。
基本的な生活ができるくらいにこの能力の制御も訓練していたが、それでも初めてのことにはめっぽう弱い。
初めて魔法を使ったこの不安定な状態で、こちらに深く集中してしまえば周りの様子が分からなくなるのが目に見えている。
もちろん、周りから物理的な干渉があればすぐにその状態は解けるだろうが、それは集中力が完全に切れ、魔法を制御する意識が瞬間的に無くなるということにほかならない。
「ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!カズマ早く答えろおおおおおお!ダクネスはどこだあああああああ!」
「なんだってえ?聞こえねーよ!!」
なんでここで難聴スキルを発動しちゃうんですかねぇ!
こっちは魔法の制御で手一杯なんだからこれ以上声を出させないで欲し…、あ、ちょっとヤバいかも…。
「カズマああああああ!ごめええええん!これもう無理だわ!!」
あ、そういえばあとダクネスも巻き込んじゃうかもな。
まあ、何となく大丈夫な気がするし…。
うん、モンスターから攻撃されるのもやぶさかではないみたいな事言ってたし大丈夫だろ。
「は!?ちょっ、待っ…!!」
「『エクスプロージョン』!!」
直前にカズマが何か言おうとしていたが、そんなものはしらん。
一応、世界を救った人だしなんとか出来るだろう。
うん、そう信じよう。
本人も幸運のステータスが高いって言ってたし。
爆裂魔法の光を宿した片手を突き出し、呪文を唱えると、光は尾を引きながら一直線に飛び、カズマの後方を走る虫に突き刺ささった。
そして、その光景を視認した直後、
「ユウキいいいいい!お前絶対許さねえからなああああああああああ!!!」
熱気を含んだ強烈な衝撃波と轟音がカズマの怒声をかき消し、その場を包み込んだ。
ここまで読んでくださっている方ならもう気づいている方も多いかも知れませんが、私は複数の人が会話をするシーンを書くのが特に苦手です。
まあ、そこはこれから治していこうと思っていますので温かい目で見守って頂けると助かります。
とりあえず、次回予告…
次回!『ユウキ、死す!』(唐突)
デュエルスタンバイ!