睦月型のお兄ちゃん!!!   作:アロンダイト

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鎮守府陸戦警備隊

孤児院の花梨にエレナ、多恵子に幸の四名が艦娘として徴兵されたのは事実だった

 

神崎は心配だった。東京湾決戦の際の光景、日米の総力があっという間に蹴散らされるあの光景が今でも神崎の頭から離れないのだ

 

そこに巻き込まれる四人の少女の事を思うと心配でならなかった

 

だが、どうすれば……

 

神崎は陸軍、艦娘である四人は海軍の所属にあたる。これには恐ろしいほどの隔たりがある

 

というのも、この時代、陸上自衛軍は縮小傾向にあり、それに反比例して海上自衛軍は増大傾向にあった

 

深海悽艦は海からくる。当然迎撃する海上戦力の拡充は必然である

おまけに、東京湾決戦において核爆弾によって装甲が無力化された深海悽艦を撃滅したのが海上自衛軍の残存艦艇ということもあり、陸上自衛軍はその煽りを受けて弱体化しつつあった

 

その格差からくる隔たりが陸海の間に自然と生まれ、決定的な爆発は無いものの、上層部は互いにギスギスした関係になっていた

 

それに、東京湾決戦の教訓として、深海悽艦を陸におびき寄せ、迎撃するのはナンセンスとの判断が下され、陸海の共同戦線はなかなか実現していない

 

つまり、陸上自衛軍にいる限り、神崎はあの四人に会うことが出来ない。ということである

 

「こうなったら……」

とれる方法は、一つだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陸上自衛軍 西部方面軍 司令部

 

部屋の中を沈黙が満たしていた。それも周りにプレッシャーを与えるような重苦しい沈黙である

 

向き合う二人のうち、一人は神崎、そしてもう一人は西部方面軍の総司令官の今川陸上幕僚長である

今川陸上幕僚長は元は陸上自衛隊の幹部候補生の戦車乗りだったが、その後日本各地での深海悽艦に対する戦闘で功績を重ね、総司令官まで昇進していった男である

東京湾決戦にも参加しており、乗車した戦車の履帯が破壊されても、果敢に砲撃を加えるほどの剛の者である

 

「許可は出来ん」

 

「なぜですか」

それは机の上に置かれた『転属願い』の事である

 

「なぜですか、それは貴様もわかっておるだろう。今の陸自に人員移動させる余裕はないのだ」

今川はそういいきった

 

実際、深海悽艦による戦闘のメインが海に移ると陸自の予算はゴリゴリ削られ、代わりに海自と空自の予算が増えた

 

「なぁ、神崎。俺はお前が防衛大にいた頃から知っている。だからわかるだろ、今の上層部は海自に髪の毛一本渡すのすら嫌がるんだ。お前のような優秀な狙撃手を海自に移して遊ばせるなんて、上層部が知ったら絶対にやらないぞ」

 

「……全てわかっています。ですが!それでも、お願いします!どうか、海自への推薦状を!」

神崎の狙いはこれだった

 

現在、日本の深海悽艦の南の最前線は沖縄、北は幌筵、他にも様々な戦線を抱えている

そんな中、神崎が陸自から鎮守府に配属になるには『鎮守府陸戦警備隊』に入隊するしかないのである

となれば、それにあたり、上官に陸自から海自へ転属する旨の諸々の許可が必要となる

その際、推薦状があればなお心強いといえよう

 

「ならん!貴様には今までいろんな事をしてもらった。だが、それは外部に漏らしてはならない事も含まれているのだ!決して許される事ではない!」

 

「それらの件を漏らすことはありません!来世の墓場まで持っていきます!」

 

「当たり前だ!」

 

話はいつまでも平行線である

 

「……貴様の事情は聞いた。孤児院の子達は、残念だが、このご時世だ、艦娘という存在に頼らねば、人類は間違いなく滅亡する。彼女達は人類の希望として、この危機を乗り切れば未来永劫語り継がれるだろう」

 

「…………」

 

「艦娘は今の所女性でしかなれない。貴様は例え鎮守府配属になったとて無力だ。どうすることもできんし、艦娘になったということは、貴様といた今までの記憶は無い。赤の他人だ」

 

「…………」

神崎は俯いた

艦娘として軍艦の記憶を得た女性は代わりに今までの記憶を失う。つまり花梨と遊んだ日々も、エレナの誕生日を孤児院の皆で祝った事も、多恵子や幸と料理を作ったりおしゃべりした記憶もないのだ

 

「貴様に出来ることは、彼女達の無事を祈り、職務を全うすることだろ」

今川幕僚長はそう言葉を締めくくった

 

「…………は」

神崎が呟くように小さく呟いた

 

「ん?」

 

「花梨には兄が二人いたそうです。長男は会社員、次男は消防士で休みの日は兄に肩車してもらって公園で遊んだそうです。私もよく花梨を肩車してやりました。兄の二人は東京湾決戦で死に、両親は軍需工場で働きづめで、中々会えないのですが、エレナは毎日笑顔で明るく、皆に振舞って、落ち込んだ子も励ますような優しい子でした」

 

「…………」

 

「エレナは最初、母親にここへ預けられる事を嫌がっていたらしく、最初は一人で、友達も出来なかったんです。どうやら私のことを父親と被って見えるらしく、たまに寝ぼけている時、パパと呼ぶんですよ、父親じゃないのに」

 

「…………神崎」

 

「多恵子は、本当に賢い子なんです。面倒臭がり屋で荷物を持つとかそういう仕事はしたがらないのですが、雨が降ったら誰よりも早く子供達の着替えとタオルを用意していて、孤立気味の子でも遊べるように声をかけたり、遊び自体を変えたり、本当によく気の利く子なんです」

 

「…………神崎やめろ」

 

「幸は、すごくいい子です。気遣いが大人顔負けなんです。管理人の方のお手伝いも率先して行い、自分が遊ぶよりもお手伝いを優先させて、よく働いて」

 

「神崎」

 

「孤児院の子達の世話もよくしていて」

 

「神崎」

 

「私なんかを好きに」

 

「神崎ッ!戻ってこい!」

今川の呼びかけで神崎は正気に戻った

 

荒い息を吐き、冷や汗を大量にかき、どこか呆然としたような。まるでーーー

 

「神崎、意思を強く持て」

 

「ッ!」

 

今川は神崎の肩を掴み、揺さぶりながら言った

 

「子供達は無事だ。生きている。だからお前も生きろ!諦めるな!神崎!」

 

「…………はい!」

 

「声が小さいッ!」

 

「ハァイッ!」

 

「……まったく」

今川は頭を掻き毟ると机の引き出しから書類を何枚か出した

 

「この書類にサインしろ、貴様が自衛隊時代にやってきた任務を死ぬまで口外しない同意書だ」

 

「で、では……」

 

「……掛け合うだけ掛け合ってみる。その後は貴様の実力だぞ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後、呉鎮守府

 

門扉の前に大荷物を担いだ神崎がいた

 

「陸上自衛軍より参りました、神崎覚です!」

 

「お前が神崎か。話は聞いている、俺は酒田軍曹だ。貴様の教育係でもある」

 

「酒田軍曹殿、本日より、お世話になります!」

 

「おう、まぁ慣れない事もあるだろうが、頑張ってくれ。ついてこい」

 

「はい!」

 

見事、鎮守府陸戦警備隊の試験に合格した神崎は今日、鎮守府に着任したのだった

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