神崎が鎮守府警備隊として着任してから数ヶ月
鎮守府陸戦警備隊の主な仕事は鎮守府に侵入しようとする不審者の排除、逮捕。そして鎮守府が攻撃を受けた際に鎮守府内部にいる民間人の避難誘導といった事が主な仕事であった
そのため、神崎は相棒の島本と共に小銃を担ぎ、艦娘が出撃する波止場の警備に当たっていた
「そういや神崎、お前噂になってるぞ」
「はっ、何がだよ?」
「お前がやけに気にかけている艦娘の三日月ちゃんだっけか?お前あの子とできてんじゃねーのかって」
島本の一言に神崎は軽くため息を吐いた
「んなわけねーだろ、艦娘との必要最低限以外の接触は禁止ってあるじゃねーか」
「いや、にしても噂になってるぞ。お前、いつも艦娘が帰ってくる時、出迎えしてるじゃねーか、非番の日でも」
「いや、そりゃあ、危険な任務から帰ってくる艦娘達を出迎えて何が悪いんだよ」
「お前なぁ……」
島本は疑うような目で神崎を見る
「主計課や警備隊だけじゃない、鎮守府中でお前がロリコンなんじゃないかって噂だぜ?」
「バッ!ちげーよ!」
「知ってるか?主計課のアイドルの早苗ちゃん!お前の事が好きだったのに、その噂聞いてお前のこと諦めたって」
「そうかよ……」
神崎は軽く頭痛がしてきた頭を抑えた
「……なぁ、神崎よ」
島本が声のトーンを落とした
「俺は、この仕事の前は海保にいたんだ、舞鶴の第八管区のな」
「舞鶴って……」
「そう、南作戦に参加した」
南作戦。それは日本で初めて確認された艦娘である、駆逐艦吹雪、電、叢雲、五月雨、漣の五人を中心とし、中韓両海軍と共同で深海悽艦のいる南沙諸島への攻撃し、南沙諸島に防衛線を築く作戦であった
結果は成功した。南沙諸島に上陸した日中の陸軍は橋頭堡を築き、防衛線を構築することに成功した
しかし、作戦に参加した艦艇の損耗率は80%を超え、韓国海軍に至っては全滅。日本も西部、中部の海自、海保の艦艇の七割が撃沈され、中国軍も南洋方面軍の半分を失うという全滅に近い結果だった
「今でも思い出すよ。俺が乗った巡視船は深海悽艦の砲撃でぐしゃぐしゃに揺さぶられて、俺は投げ出された。その瞬間奴らの魚雷が命中。船長以下三十二人全員戦死した」
島本は水平線をぼおっと眺めながらそういった
「俺は海に浮いてた韓国軍の浮き輪に掴まりながら見たんだよ。艦娘と深海悽艦の戦いを」
「……どうだった?」
「……最初は距離を開けて砲撃戦をしていた。幼い女の子の艦娘がバカでかい大砲を振り回しながら水上を走り回って、深海悽艦もとにかくめちゃくちゃに撃ちまくって、中には被弾した艦娘もいた、直撃だったよ」
深海悽艦の放つ砲弾は何処にその威力が?と言わんばかりの破壊力があり、普通の艦船なら致命傷、戦艦の砲撃なら一発轟沈もありえる威力であった
「けど、その子は小さく呻いただけで、血まみれでボロボロになりながらも、手にした薙刀みたいな武器で深海悽艦を串刺しにしたんだ……」
島本はタバコを加え、ライターで火をつけ、煙を吸い込む
「神崎よぉ、確かに艦娘は世界を救う切り札だよ。俺たちがどんだけミサイルや艦砲をぶち込んでも、深海悽艦はケロッとしてる。それに比べ、艦娘の攻撃は論理的だし、深海悽艦を撃退できる」
島本はタバコを吸い終え、吸い殻を携帯灰皿に押し込んだ
「でもな、艦娘は人間じゃない。全身血まみれになっても砲撃をやめないし、沈むその直前まで深海悽艦と戦う。俺にゃどっちも……な」
島本は途中で言葉を切った。神崎にもその言葉の意味がわかった
「だから神崎よ。仕事の先輩として、なにより相棒として言う。艦娘と関係を結ぶとか、艦娘と関わりを持つってのはやめておけ。世の中、艦娘は人間だとか言うやつもいるけど、俺にはそいつの気持ちが理解できん」
そう言い切った島本は二脚を立てて地面に置いた小銃を肩に担ぎ直した
「まぁ、お前にも色々思うところはあると思う。でもこれだけは覚えとけ。艦娘に手を出すなよ」
「……わかってるよ」
神崎は遠征から帰投した三日月を見ながらそういった
最初は同じ遠征隊の駆逐艦と話していたが、神崎に気づくと三日月は大きく手を振ってきた
神崎はそれに返しながら島本の言葉を思い返し、口を開いた
「あの子は、本当に……幸……だよな…………」
誰にもその答えは答えない。神崎は思い込むようにそう呟いた
呉鎮守府 駆逐艦寮
「ふぅー、今日も一日、遠征疲れたぁー」
そういうと三日月は寮の二段ベットに飛び込んだ
木目の床に学習机が二脚、壁際に二段ベットがあるだけの簡素な部屋、しかし冷暖房は完備。窓から見える景色も海がキラキラと輝いており、見慣れた景色が三日月の心を落ち着かせてくれた
(私……艦娘になる前は、海辺に住んでたのかな……)
三日月はぼんやりと考えると、胸元から出したメモ帳に『海沿いに住んでいた?』とメモした
艦娘の中には記憶を失う以前のことが気になり、自分の過去を調べようとする艦娘もいる、三日月もその一人だ
しかし、帰ろうとかそういう思いはなく、ただ単に暇つぶしのようなものだった
メモ帳を枕元に放り出し、夕食まで昼寝するかどうするか迷っていると部屋の扉が開いた
「あっ、弥生ちゃん!おかえり!弥生ちゃんも遠征?」
「ん……演習してた」
入って来たのは三日月と同じ睦月型駆逐艦の弥生である。紫浴びた銀髪にサファイアのような碧眼、サイズが少し合わず、小さめの制服のせいか、おへそがチラチラ見えてしまう、無防備だがその鉄仮面のような無表情はあらゆる意味で隙がなかった
「演習かぁ、誰と?」
「川内さんと……」
そういうと弥生は自分の椅子に座り、机にもたれかかった
「川内さんかぁ……あの人の夜戦訓練はマジだからね、私もキツかった印象しかないなぁ」
三日月も遠い目をして天井を眺めた。同期の望月と文月の三人で襲いかかったが、あの人は砲撃と魚雷を魔法のようにかわし、的確に砲撃を三人に叩き込んでしまったのだ
「川内さんは後ろから魚雷を放っても避けるらしいからね、凄いよ……」
「ん……同感」
弥生は口数が多い子ではない。しかし同室の三日月とは仲も良く。これでも比較的話している方である
弥生と他愛のないおしゃべりをしていると扉がノックされた
「はーい」
三日月が扉を開けると外には皐月が酒保の袋を持って待っていた
「やっほー!三日月!女子会しよ!」
「わぁ!いいよ!入って!」
酒保の袋に入ったお菓子を見て目を輝かせた三日月は皐月とその後ろに張り付くようにしていた望月と文月を部屋に入れる
「弥生!さっちんとふみちゃんにもっちーだよ!」
「もう三日月!さっちんはやめてよぉ!」
「ごめん、私もみっちゃんでいいから」
三日月と皐月がじゃれ開いながらお菓子の袋を開けていく
ここは海自の施設だが、世界のため、文字通り命がけで戦う艦娘達にはこれくらいの女子会を開く自由も認められている(ただし、ゴミを放置したりするのはNG)
なにを隠そう、彼女ら五人は同時期にこの鎮守府に配属となったいわば同期のであり、仲も良いのである
しばらく五人はお菓子を食べていたが、文月がジュースを飲みながらこう言った
「そういや、みっちゃん、神崎さんとはどうなの?」
「……どう?どうって?」
ポッキーを食べながら三日月は首をひねる
「なんだよ、水臭い、付き合ってるんでしょ!」
皐月の一言に弥生と三日月はお菓子を吹き出した
「なんで弥生まで?」
「……初耳」
「そっかー、弥生は初耳かぁー。今!この鎮守府中で噂になってるのは、第三遠征隊の三日月と、陸軍から彗星の如く現れた警備隊のホープたる神崎さんとの、淡く切ない恋のものがイタタタ!」
「もう!さっちん!やめてよぉ!付き合ってなんかないんだから!」
皐月の語りを実力で防いだ三日月は顔を赤くしながら否定した
「へぇー、でも鎮守府中で噂になってるよ、あたしが聞いた限りじゃ、警備隊に主計課、主力艦隊にも伝わってるよ」
望月が言った主力艦隊とは、戦艦や空母の艦娘が所属する第一、第二艦隊であり、現在、南方での作戦のため訓練の真っ最中なのだが、艦娘とはいえ女の子、独自のネットワークというやつである
ちなみに余談だが、鎮守府には艦娘に配慮して女性自衛官が多い。主計課のような事務方はもちろん、酒保や食堂の運営はほとんどが女性であり、男性は提督のような上級将校や警備隊といった一部の人に限られていた
これは深海棲艦の登場から軍人の殉職率が跳ね上がり、男性の軍人の減少という事に繋がり、逆に女性の社会進出にも繋がるというのは皮肉以外の何者でもなかった
「う、うそぉ!?」
「まぁ、あれだけ仲良くして、神崎さんも欠かさず見送りに来てくれたら、誰でも別れを惜しむ恋人達にしか見えないし、ねぇ〜」
文月もマシュマロをつまみながらそう呟いた
「ち、ちが!違う!神崎さんとは、そんなんじゃ……」
尻すぼみなっていく三日月。その態度をみた皐月と文月はお互いに向き合いニヤニヤ
「これは、決定かなぁ……」
「……むぅ」
意地悪そうなニヤニヤを浮かべる望月と無表情だが、何処か機嫌が悪そうな弥生
「わ、私は!神崎さんの事なんか、こ、これっぽっちも!」
「などと、被告は申しておりますが、裁判長!これは明らかに虚偽の発言ですよ!」
「うむ、被告三日月!真実を述べよ!吐いて楽にな〜れ!」
「もぅ!さっちゃんもふみちゃんも話を聞いて!」
「でも実際よぉ、三日月はともかく、神崎さんはやたらあたしらに気を使ってるよなぁ」
「そうかな?」
「確かに、あたしもよく間宮の食券取っておいて貰ってるよ〜」
「うーむ、こりゃ本格的に神崎さんロリコン説もあるかもな……そのターゲットは三日月!お前だ!」
「……危険」
「そうだね、この鎮守府の駆逐艦はあたしら含めて十人、その中でもうちらだけやたら気にかけてくれるね」
望月はビスケットをかじりながらそういった
「うーむ、色々便利な神崎さんをカウンセラーの先生に相談するべきか、それともこのままにするか……悩みどころですな」
「……不安だから突き出す、べき……」
「あたしゃ、三日月を弄れるネタが減るのは嫌だからこのままでいいかな」
「もっちー!だから違うって!」
「いゃ!わかった!わかったから!あひゃ!くすぐりだけは!」
「許さん!このこの!」
三日月と望月がベットの上でじゃれあう中、文月と皐月、弥生は黙々とお菓子を食べる
「でも、本当に神崎さんが、僕たちの、事を狙ってるとしたら、ちょっと、キモいよね」
「いい人だけどね〜」
「そういうのは……ちょっと……」
「じゃあ!こうしよう!しばらく神崎さんの行動を見極めるんだ!僕は明日一日非番だから、神崎さんをつけまわす!」
「皐月、それ……」
ストーカーみたい、と言おうとした弥生の口を塞いだのはくすぐりから解放された望月だった
「みんなも非番の日は神崎さんをつけて、もし怪しい行動をしたら、問答無用で吊るし上げよう!」
「面白そうじゃん、あたしもやるやる」
「ちょっとさっちゃんにもっちー!ダメだよ、艦娘がむやみに他の人と接触するのは」
「なぁにいってるんだ、三日月ぃ、それは逆、他者が艦娘と接触するのは禁止なだけであって、逆に艦娘が接触するのはアリなんだよ」
望月が悪い笑みを浮かべて三日月を見る
「で、でも……」
「それにあたしゃ心配なんだ。三日月が変な男に騙されて酷い目に合わないか、だから、ね?」
「で、でも……」
「じゃあ、三日月は寮で待ってて〜あたし達がばっちり引導を渡してくるから〜!」
「文月、いくら艦娘でも殺人はマズイ。こう、うまい感じに線路に足を滑らせたとかそういう事にしないと」
「このご時世、軍人の失踪はめずらしくない……」
彼女達の中ではどうやら神崎は既に亡き者にされているらしい
「そんなことはダメですって!」
三日月は凶行に走ろうとする同期達を必死で止めたのだった
翌日
念願の休日に入った神崎は呉鎮守府から出ていった
その神崎の後ろをつけるのは同じく非番の皐月と三日月の二人である
「ねっ、皐月ちゃん。やっぱりやめよう。男の人をつけまわすなんて女子のすることじゃないよ。今からでもやめて、パフェでも食べに行こ?」
消極的な三日月に対し
「いいや!これこそ乙女の沽券にかかわる問題だよ、ストーカーや誘拐犯は身近な人が犯人なんだよ!その理論だと、神崎さんは怪しいんだ!」
「それ、ストーキングしてるあたしたちが言えるセリフじゃあ……」
「細かいことは気にしない!行くよ!」
「あっ」
「おっ」
偶然だった
孤児院の子供たちにお土産としてお菓子の詰め合わせを買おうとショッピングモールに入ったところだ
いつもの艦娘としての服ではなく、水色でフリルついたのシャツにスカート、クリーム色のパーカーにベレー帽のワンポイントがオシャレな私服の川内とでくわした
「神崎の旦那ぁ。こんなとこであうたぁ、奇遇ですなぁ」
「川内さん、本当に奇遇ですね」
「今日は非番だし、川内でいいよ。あんまり勘ぐられるのも嫌だからね、敬語も無しの方向で」
「……わかった川内」
艦娘というのは人類の救世主であると同時に、国家機密の塊でもある。その機密は女の子である事以外、民間には明かされていない
そして、見るからに修羅場をくぐっている軍人めいた神崎が一人の女の子に敬語で接するというのは、見る人から見たら妙な光景なのだ
神崎の返事を聞いた川内は満足そうにうなづくと神崎の隣に並んで歩き出した
「川内、は何しにここへ?」
「呉では初めての非番だから、どこに行こうか決めてなくて、取り敢えずブラブラっとここに」
「そうか、俺は買い物があるから、二階に服屋がたくさんあったから行って見るといいんじゃないか?」
「そぉ?神崎氏、ここは男をあげるチャンスだよ〜?」
「いや、んなこと言ったって……」
「んじゃさ!あたしも神崎の予定に付き合うよ、行くとこ決めてないし、誰かといたい気分だったんだよねぇ」
「そんな、いきなり……」
「えー、いいじゃん。デートしようよぉ、デート」
「デートって……」
「ひょっとして…いや?」
「……わかった。ジャージを買ってくるよう頼まれてたから、まずは二階の服屋から回ろうか」
「わーい!神崎大好きぃ!」
調子の良い猫のように神崎の腕に張り付く川内
それを見てため息を吐くが、たまには悪くないなと感じる自分がいた
初々しく寄り添い、お互いに意識しているのかいないのかわからないけどいい雰囲気を醸し出す川内と神崎
を離れた柱の陰から覗き見る皐月と三日月であった
「まさか、あの川内さんが……」
「ムムム……」
一方的に腕を組んでアクセサリーを冷やかしている川内と、困った顔を浮かべながらも律儀に返事を返す神崎を見て、皐月はほのかに頬を赤らめ、対する三日月はへの字に口を曲げていた
二人は世間一般でみたら小学生。自我に目覚めつつあり、女としての自覚を朧げにながら掴みつつある多感な時期である
そんな二人にとって、社会人と中高生の川内の絡みはいささか刺激が強いようだ
「あっ、移動するよ!さっちゃん!」
「ま、まってよ三日月ちゃん!」
二階の服屋やアクセサリー屋をざっと冷やかした川内と神崎さんは一階の食料品店に来ていた
「なんだか、新鮮だなぁ」
「なんだ、野菜の良し悪しがわかるのか?」
「そうじゃないよ、艦娘になってからこういう店はこなかったから」
そういう川内は並べられた野菜を楽しそうに眺めている
「そうなのか……」
「そう、あたしは元々横須賀からここに来たからね、あたしがいた頃は物資不足が酷くてね、今は改善したのかな……」
「俺が東京にいた頃の横浜は普通の街だったがな」
「そっか……」
「しかし、川内は横浜出身なんだな」
「うん、そういうことになるね」
艦娘としての能力が発現した人は最初の数年は一番近くの鎮守府で艦娘としての水上歩行訓練や射撃訓練を行う。つまり、最初の数年いた鎮守府の近くが自分の生まれ故郷なのである
「川内は、故郷に帰りたいとは思うか?」
「うーん、あたしは艦娘歴結構長いし、もうそういう未練はないかな……家族がまだあたしの方を待ってくれているかわからないからなぁ」
「そんなことないと思うぞ?自分の娘の帰りを待たない親はいないと思うがな……」
「……そうだよねぇ」
手に取ったリンゴをぼんやり眺めながら川内はボーッと呟いた
「そうなら、いいんだけど」
「あっ!神崎にいちゃんだ!」
その一言を皮切りに孤児院の子供たちが一斉に駆け寄ってきた
「おぅっ!お前ら、うぎゃ!まてまて!お菓子はあるから!」
袋が破けないように庇いながら子供の波をかき分ける
「深堀さん、これを!」
「神崎さん、いつものありがとぅねぇ」
幸達が艦娘として徴兵されたショックで一時期は寝込んでいたが、今は持ち直したようだ
「か、神崎ぃ!」
後ろを振り向くと子供達にもみくちゃにされている川内がいた
「神崎にいちゃん、この人だれぇ?」
「神崎にいちゃんの彼女!?」
「えーっ!?お姉ちゃん彼女なの!?」
「こらぁ!ガキども!その人にちょっかいかけるな!」
神崎が怒鳴ると子供達は歓声をあげながらダッシュで逃げ出した
「大丈夫か、川内?」
「う、うん……いやぁ、子供って元気だなぁ」
呆然としたような川内はそれでも笑顔で服の埃を叩いていた
「神崎さん、そちらの、川内さんは……?」
「深堀さん、彼女は軍の関係者なので、あまり詳しくは……」
「あらあら、そうですか。ではお茶を入れましょう」
「いいえ、お構いなく。それよりも子供達と遊んでもいいですかね?」
「構いませんけど……」
「いいのか川内……ここの子は凶暴だぞ?」
深堀と神崎は川内を不安そうに見た
「大丈夫!手のかかる妹二人世話してきたから!」
そう誇らしげにいった川内だった
「そう……幸ちゃん達、元気でやってるの」
外では川内と子供達が歓声をあげながら鬼ごっこをしている
深堀と神崎は誰もいない食堂で近況について語っていた
「詳しくは軍機だから話せないが、主戦場はここじゃなくて太平洋だから、この辺りまで戦火が来ることはないですよ」
「でも、最近は物資も値上がりしてるし、疎開も相次いでる。深海棲艦の大規模攻勢が開始されるって噂もあるんだけど……」
「よくあるデマだよ。軍だってくわしい動向を掴めてないんだ攻勢は起きないよ」
「……確かに、そうだね。うん、そうだよね」
深堀さんは納得したようにうなづいた
「ところで、何人か見かけない子供を見たが、あの子達は……」
「……何人かは預かったんだけど。五人、子供だけでここまでやってきたんだ」
「……嫌な世になったもんだ」
神崎はそう呟くと窓の外を眺めた
「あの子が、艦娘っていうのかい。なんだ、いい子じゃないか」
深堀がそう呟いた。子供達と戯れ、活発に笑う川内はごく普通の女の子だった
「あぁ、いい子だよ」
「テレビでは、艦娘は半分人間、半分機械とか言われてるけど、そんな事ないね、いつもテレビや新聞は嘘ばっか」
「艦娘は未知の存在だからな。理解のある人は鎮守府内にも少ない」
「大変な事だけど、頑張ってね。無理だけはしないでね」
「わかってるよ」
腕時計を確認し、神崎は立ち上がった
「深堀さん、わかってると思うけど、川内の事は」
「わかってるよ。誰にも話さず墓の下まで持っていくさ」
深堀はそう答え、食堂から包みを持ってきた
「これ、おはぎ。職場のみんなで食べて」
「いいんですか?」
「何いってんだい。神崎さんも、大事な家族なんだから。これ食べて、元気だしな」
「……ありがとう」
「あぁ、それと……」
深堀さんは声を低めにすると
「川内ちゃんもいい子だけど、幸ちゃんだけは泣かせるんじゃないよ」
「……?わかった」
ついぞ神崎は深堀の言ってた事を理解する事はなかった