バスコといっしょに外見至上主義   作:マリシャス

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第三話 言葉足らずのラブレター

 真琴はある意味で無駄に頑張り屋であった。

 

 

「……え?」

 

「な、んだ、と?」

 

 

 動揺が下駄箱の一角に広がる。バスコが下駄箱をあけた瞬間、その風圧で一通の手紙が空を舞ったためである。

 

 

「ら、らぶれたー?」

 

 

 バスコの親友、翔瑠は声すらあげれられなかったところに大木が呆然と呟く。

 

 バスコ本人も驚きで思考停止状態である。口を半開きで手紙を拾ったが、中腰のまま停止。

 

 その封筒は薄ピンク地で可愛らしく花がちりばめられている。さらにハートのシールで封されているのだ。

 

 トドメとばかりに表部分には「バスコさんへ」と可愛らしい丸文字で書かれていた。仮にもし、誰かの悪戯で男が書いたならばそれはそれでその男が変な趣味でもあるのではなかろうか、と疑われるような仕様である。

 

 

「バ、バスコ、あけてみろよ?」

 

 

 バーンナックルのメンバー、大木は思わずそう声かける。坊主頭で巨漢な大木は恋人は当然の如く居ない。そしてそんな容姿ゆえに当然のごとくラブレターなど貰ったことがない。

 

 普通に考えれば悪戯である。バスコに恨みのある男など正義感溢れるバスコには五万と居る。

 その手の男が知人友人彼女などの女に用意させた可能性だって十分あるとバスコ以外は本能で察知していた。

 

 だが、しかし。

 

 よく見れば整った顔をしているバスコ。

 

 年上お姉さんから見れば可愛らしい顔立ちの男に見えないことはない。ただ、その顔が乗っている体は戦闘特化型筋肉装甲だが。

 つまりはいかつい男で普段接点のない女性には男らしいという点以外のアピールポイントに乏しい。

 

 さらに加えるならば対イケメンを除けば己の信ずる正義のため以外で力をひけらかす事などバスコに出来る訳もなく、彼の男らしさが女性らに目撃されるケースは非常にレアと言えた。

 

 レア、だが、あり得ない訳でもない。

 それを表層意識に出てこない段階で悪戯と同じくらいの疑いでもって心に抱いてしまうバーンナックルの翔瑠以外の面々。

 

 

「バスコ、ここで開けるのはやめておけよ」

 

 

 やっと復活した翔瑠。悪戯であれば笑い話だが、他の生徒も「なにやってんだあいつら? ん? 何、持ってんだ? もしかして……ラブレターか?」と好奇心の視線を向けている。

 

 

「そ、うか?」

 

「おう。手紙なんだから、ちゃんと一人で読めよ。もしかしたら困ってる奴からの内緒の相談事とかかも知れねぇだろ?」

 

「……そうだな。さすが翔瑠だ」

 

 

 十中八九、というよりも完璧に悪戯だと思っている翔瑠。

 

 公衆の面前で開封し悪戯に填められればきっと、「バーカ(笑)」や「何期待してんだよ?(ゲラゲラ」とヴォーカルダンス学科のサングラスあたりが笑って出て来るに違いない、と確信していた。

 

「なんだよ翔瑠~」

 

「良いじゃねぇかよ、ちょっとくらい」

 

「なんだよ。じゃあお前らがもしそういう内容で書いたらそれ相手のダチらに回し読みされても良いっつぅのか?」

 

 ぐうの音も出ない。考えただけでモテ要素の欠片もない強面の、特に大木あたりは想像だけでダメージを受けた。

 

 

「……翔瑠、お前頭良いな」

 

「頭の出来は関係ねぇだろ……たくっ」

 

 

 親友が大事そうにポケットにしまうのを見て、翔瑠は不安混じりにため息をついた。

 

 

「って、おい、どこ行くんだよ」

 

「トイレだ。読んでくる」

 

「もうすぐ授業だぞ? 後にしろよ」

 

 

 ラブレターっぽいものを受け取ったなら気持ちは解らないでもないが、と思いつつも出来るだけバスコが落胆するのを先送りにしたい翔瑠はそう提案するもバスコらしく断られる。

 

 

「翔瑠。お前はさっき、誰か困ってる奴が助けを求めてるかもしれないと言った」

 

「お、おう?」

 

「なら、早い方が良い。放っておけん」

 

 周りの仲間たちも「ああ、流石だ」「バスコ、男だぜ」「バースーコ! バースーコ!」と妙な盛り上がりを見せる。

 

 

「お前ら本当にそういうの止めろ!? 解ったバスコ、さっさと行ってこい!」

 

 

 翔瑠としては盛り上がれば盛り上がるほど悪戯を仕掛けた奴らの思うつぼである。

 「ギャハハお前らバカじゃねーの!」とヴォーカルダンス学科の埼玉貴仁(グラサン)あたりが出てきたら面倒だ。

 

 埼玉貴仁はこれまでのところ絶対にグラサンを外さない。そのため特に眼鏡をしている相手を殴ることに忌避感が強いバスコが喧嘩で先手を取ることは非常に難しい。

 

 さらに北原流星のようなボクサータイプとも限らず、もし組技などが得意な場合、バスコとは相性が悪く、未知数の相手とバスコを戦わせたくないというのが翔瑠の本音である。

 なので危険の種は潰す、が基本である。

 

「あぁまったく。ガキみてぇな真似しやがって……クソッ」

 

 だが今は、落ち込んで戻ってくるであろうバスコを慰める言葉を考える方が優先順位が高かった。

 

 友はああ言ってはいたが、実際には生まれて初めて貰ったであろう、しかもこのITなご時世に紙媒体のラブレターを貰ったのである。見た目に反してロマンチストなバスコが胸ときめかない訳がない、と翔瑠は見抜いていた。

 

 

 

 

 

 

 ドッドッドッ

 

 ドッドッドッ

 

 ドッドッドッ

 

 

 バスコの鼓動は高まる。バスコとて男だ。そしてイケメン・モテモテな男が大嫌いだ。だが、自分がそうなりたくない訳ではない。モテたい。いや、高望みどころか多くは望まない。もし万が一、自分に好意が向けられたとして、うれしくない訳がないのだ。

 

 逸る気持ちを抑えながら、綺麗にハートマークのシールを軍隊の爆弾処理班のごとく慎重に慎重に剥がす。

 そして出てきたのは一枚の三つ折りにされた手紙。

 

 ドッドッドッ

 

 静かに、ゆっくりと三分の一をめくる。

 

 ドッドッドッ

 

「……『大』?」

 

 B5程度のサイズとはいえ、三分の一を占める大きな一文字が目に飛び込む。

 

 しかもやたらと達筆だ。表書きはボールペンで書かれていたにも関わらず、中は毛筆である。

 それは例えるなら、可愛らしいウサギのマスコットな着ぐるみが、その姿形とはかけ離れたダンディな声色で急に話し出すかのような違和感であった。

 

「…………」

 

 しかし、バスコはバスコである。その一言に尽きる。そんな毛筆がどうだとか文字サイズがどうだとか達筆かどうかなど、今は頭にない。

 

 インパクトは大きいが、『大』に続く言葉でラブレターと言えば決まっている。ロマンチストバスコは続く文字を読むべく慎重に慎重に、震える手で広げた。

 

「ッ!? す、すすすすす、か!? 『す』か!?」

 

 徐々に明かされる二文字目。その文字の上部パーツはどうやら線と線が縦横に交わるらしい。

 

 

 

 

 

 

「翔瑠」

 

「お、おう……どうだったよ?」

 

 特に落ち込んだ様子のないまま戻ってきたバスコを見て、若干動揺する。

 

「どうした?」

 

「い、いや?」

 

 内心の動揺を悟られぬよう姿勢を正す。

 

 

「翔瑠。これはどういう意味だ」

 

「は?」

 

 

 親友に見せられたのはどうやら先ほどの手紙の中身のようであった。

 

 

「…………なんだこれ?」

 

「俺が聞いているんだ」

 

「いや……なんだよ、それ」

 

 

 達筆かつ大きな文字で、その手紙にはこう書かれていた。

 

『大きち』と。

 

 

 

 

 

(バスコ……読んでくれたかな……字が汚くなりそうだったから文字大きく書いたけど……かなり短くなっちゃったけど、大丈夫だよね)

 

 もちろんバスコに出された奇々怪々な手紙は恋する四宮真琴(ストーカー)謹製であった。

 

 

 大好きです! ちょっとだけでもお話できたら嬉しいです!

 

 真琴はこう書きたかった。だがいかんせん、何度も書いて、書き直して、試行錯誤し徹夜で思考の迷宮にはまってしまったのである。

 

 結果、彼女は二つのポイントを重視するあまり、その点は線で繋がらず、点だけを手紙に記すこととなってしまった。

 

 略して『大きち』

 

 一、字は綺麗に

 

 綺麗だが厳つい文字に。

 

 二、内容は簡潔に

 

 略し過ぎて暗号化。

 

 そしてその結果が何故か『大きち』となってしまったのである。

 

(あぁ! しまった!)

 

 そして、真琴は気づく。

 

(自分の名前、書くの忘れちゃったぁ!)

 

 それもそうなのだがそれだけではない、ということに気付けるだけの考えに、元々常識に疎い上に寝不足でナチュラルハイの真琴が到る訳がないのであった。

 

 

 

 

 

「大きち……大吉?」

 

「やはりそうか。俺もそうじゃないかと思っていた」

 

「手紙にする意味が解んねぇよ。何も解決してねぇし。差出人名もないのか」

 

 

 受け取った本人は、『大きち(吉)』ならば縁起が良さそうで、なおかつ達筆な中身はともかくそれ以外は全体的に女の子っぽい手紙だったのが素直に嬉しかったのである。

 

 

「今日は大吉だ」

 

「いや、まぁ……お前が嬉しいなら構わねぇけどよ」

 

「筋トレ日和だ」

 

「毎日やってんじゃねぇかよ……ったくよぉ。仕方ねぇ、付き合うよ」

 

「おう」

 

 

 バスコはその日、上機嫌で筋トレに励むのであった。

 

 

 








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