「う、うわぁぁぁ!!」
「く、来るな!」
「いやぁぁぁ!」
その悲鳴が聞こえてきたのは俺が起きたところから千メートルほど離れたところだ。【千里眼】と【地獄耳】で場所を特定し、【転移】を使って近くまで瞬間移動する。するとそこには
「うわぁ……」
一つの馬車に群がる無数の魔物が居た。その馬車を守るように十五、六人の鎧を着た騎士と、ローブをかぶった魔法使いのような人たちが応戦している。余程身分の高い人でも乗っているのか、馬車を守る騎士達は皆生半可な強さでは無いようだ。しかし精鋭であろう騎士たちでも数には勝てず、しかも民間人なのか武器も持っていない人たちまで居るようだ。それだけの人数を守りながら無尽蔵に沸き続ける魔物と互角に戦える筈もない。
「認めたくないが……あの女神の言ってたことは事実、か」
既に何人か民間人が犠牲になっているようで、血のいやな臭いがする。
……さっさと助けないとやばいな。
そうして俺は【自動防御】を発動して魔物の群れに突っ込む。気づいた魔物が手に持った棍棒らしきもので攻撃してくるが【自動防御】によって阻まれ、辛うじて俺に入ったダメージもすぐさま【自動再生】で回復する。
すぐさま【高速思考】と【並列展開】を発動する。体感時間が加速し、どんどん世界がゆっくりになっていく。【武具召喚】によって片手剣を二本召喚し、【魔法付与】によって両手の剣に【火炎魔法】、【雷撃魔法】、【暗黒魔法】を付与する。そして【身体強化】を使って自身の身体能力を底上げし、黒炎と黒雷を纏った剣で手当たり次第に魔物を切り裂く。
魔法を付与した剣は呆れるほどに高い攻撃力を発揮し、【高速思考】と【身体強化】を併用していることもあり一秒に十体程の魔物を殺していた。
「「「「「なっ……」」」」」
「っ……え、援軍よ!この隙を逃さず畳み掛けなさい!」
「「「「「りょ、了解っ!」」」」」
俺の乱入により一瞬動きを止めた騎士達だが、馬車の中に居た指揮官らしき長い黒髪の少女の指示でまた動き出す。
それにしても戦闘に関してはアニメの知識しか無いのに随分戦えている気がする。スキルぱねぇ。と、明らかに【高速思考】の無駄遣いをしながら魔物を殲滅する。
ゴブリンの首を落とし、蜘蛛のような魔物を両断する。付与した魔法の出力を上げ、少しでも剣にかすった魔物を片っ端から黒焦げにしていく。固い装甲など易々と貫き、砕き、破壊していく。そうして三分ほど魔物を狩り続け、ようやく全ての魔物を片付け終えた。
「【解除】」
俺は発動していた魔法を解除し、周りの惨状を見回す。……うわぁ。我ながら何してんだよ。と、思わず自身の所業に軽く引いてしまうような光景が広がっている。辺りの木々は薙ぎ倒され、魔物の死体が散らばっている。
……臭い。魔物の死体から悪臭が漂っている。あれな、鼻が曲がるような、って表現は別に例えとかじゃないわ。あれ。これはまじで鼻曲がる。もう性根は曲がってるけど。
このまま悪臭に耐え続けられる気がしないので【火炎魔法】を発動し、魔物の死体を焼き払う。ぱちぱちと肉が爆ぜ、むしろ臭いが酷くなるので火力を上げて一瞬で蒸発させる。
ようやく悪臭から解放されて、そういえばあの馬車の人たちは大丈夫かなと馬車の方を向くと、ぽかーんとした顔でこちらを見つめる騎士たちの姿があった。
ぼっちは人に注目されることに慣れていないのでかなりキツい。
すると、さっき馬車の中から指示を出していた少女が近づいてくる。
「助太刀感謝するわ。私はガイル王国第二王女、ユキノ・ユキノシタよ。よろしければ貴方の名前を教えて貰えるかしら?」
「え、あ、おう……俺の名前は比企谷八幡だ」
端正な顔立ち、流れるような黒髪、凛とした表情。その少女はただの美少女と評するにはあまりに勿体無い。そしてそんな美少女と相対して声が裏返らなかった俺は凄いと思う。いや、これはむしろ【精神強化】の効果か。……スキルに頼らないとまともに人と話せない俺って一体……
「そう。ではヒキガヤさん。すまないのだけれど、負傷者の手当てを手伝って貰えないかしら?まともに動けるのが数人だけなのよ」
「ああ、良いぞ」
そう言って、俺とユキノシタ……さんは騎士や数人の民間人(ユキノシタさんが言うには貴族らしい)の手当てをする。
「《ヒーリング・ライト》」
傷ついている騎士達や貴族達に範囲回復魔法を掛ける。一瞬で傷が塞がった人たちを見て何やらユキノシタさん達が騒がしくなったが、スキル一覧に【蘇生】があることを思いだし急いで死んでしまった人のところに向かう。
切り飛ばされていた腕を治癒魔法でくっつけ、【蘇生】を発動する。幸いにも死んでから数分しか経っていなかったため、体から出てしまった魂もほとんど劣化していない。【蘇生】で出来るのは魂を体に戻すことだけだから、劣化した魂を回復させることは出来ないのである。
同じように死んでしまった人たちに【蘇生】をかけ、どうにか犠牲者を無くすことができた。何だか体に力が入らないがこれが魔力切れなのだろうか。……【魔力自動回復】があるからあんまり困らないけど。
「あの、ヒキガヤさん。そちらの方々は、もう……」
「ああ。死んじまってたんで【蘇生】しといたぞ。後数時間経てば目を覚ますと思う」
「え……」
するとユキノシタさんは困惑しながらも俺が【蘇生】した騎士の一人に近づき、脈を取る。そして目を大きく見開き……
「い、生きて、る……」
そのまま他の俺が【蘇生】した人たちの脈を一人ずつ確認し……混乱し始めた。いきなり馬車の中に数人を連れて入り、何やら会議のようなことをし始めた。【地獄耳】を使えば簡単に聞こえるのだが、態々馬車に入ったということは聞かれたくない話なのだろう。そんな話を聞こうとするほど俺はクズじゃない。
そして俺は何をするでもなくただただぼーっと待っていた。途中騎士達の視線に耐えきれなくなって【隠蔽】で姿を消してみて更に騒然となったりしたが特に問題はない。
ゆきのんの態度が丁寧だけど、いきなり現れて苦戦してた敵を片っ端から軽々と殺してくやつが現れたらこうなる。むしろ普通に接してるゆきのん凄い。