試験が終了してからはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
ある貴族は俺を悪魔だのなんだの言い出し持つものも持たず逃げ去るし、俺が自分で倒した騎士達を回復させれば奇跡だのなんだの騒ぎだすし……
とにかく大変だった。それはもう大変だった。そして何故かその勢いでガイル王国軍に正式に参加することが決定したし、俺の提示した条件も受け入れられた。まあ理由の大部分があんなバケモノと連携なんて出来る筈が無いからと軍の連中が頼み込んで来たかららしいが。
そして軍への参加が決まったのは良いが、通常の軍への参加ではなく俺一人で一軍扱いなのである。こんなところでもぼっちスキルが発揮されている……まあ面倒な上下関係とか無いから寧ろ感謝すべきか。兵なら【土石魔法】でゴーレム作れば良いし。
「……ここか」
ハルノさんに指示された通りに王宮の一室へと入る。案内くらいしてくれても良さそうなものだが誰も引き受けてくれなかったのだから仕方ない。
「……あら、ようやく来たのね。遅刻ガヤ君」
バタン。
……中に誰かが居た気がするな。疲れてるのか幻聴まで聞こえてきたぞ。よし。さっさと部屋で休もう。流石に徹夜で護衛した後に試験までして疲れたよ。うん。さっきのもそのせいであって決して中にユキノシタなど居ない。
「ちょっと。何故閉めるのよ」
そう自己暗示をかけもう一度ドアノブを掴もうとすると、部屋の中から少し拗ねているユキノシタが現れた。誰か、嘘だと言ってくれ。
「……なんで居んだよ」
「何故って、まだ報酬を渡して無いじゃない。誰も貴方に近づこうとしなかったから私が直々に渡しに来て上げたのよ。感謝しなさい」
そう冗談目化してユキノシタが微笑む。それだけでまあ良いかと思えてしまうあたりやっぱり美人は得だと思う。
「……はぁ」
「ため息なんて吐くものじゃ無いわよ」
「あぁ。うん。分かった。分かったからさっさと用事を済ましてくれ」
「ええ……ほら、これ」
そうしてユキノシタから渡されたのは、雪の結晶があしらわれた腕輪だ。大きすぎず小さすぎずの丁度良いサイズである。
「それがあればこの国の大抵の場所に入れるわ。もちろん他人の私室や宝物庫には入れないけれど。それとあなたのこの国での階級は地方司令官と同等位に考えて貰えば良いわ」
この国での地方司令官の扱いがどの程度かは分からないが悪いわけではないだろう。寧ろ何処の誰とも分からない俺を迎え入れてくれただけ感謝すべきである。
それに大抵の場所に入れるならば図書館にも入れると言うこと。俺は自分の力に知識や経験が追い付いて居ない状況だから少しでも知識は増やさなければならない。
「おお。ありがとな」
「あなたの働きに対する対価なのだから、これくらい当然だわ。あなたは何人もの命を救ったのよ」
そう言って優しく微笑みかけてくるユキノシタ。そう言うことを不意打ちでやるのはずるいと思うな。
****
「あ、あの!」
王宮の図書館で魔法や魔物など、一般常識では補えない知識を仕入れるため一人黙々と本を読んでいたらいきなり話しかけられた。実際は大分前からこの部屋に居たのだがずっともじもじしていただけなので放っていたのだ。
「……えっと、どちらさまで?さっきからずっと居たみたいだが」
「あ、え、えっと、ユイ・ユイガハマ二等魔法官でしゅ!……です」
最後噛んでたが誰かは分かった。二等魔法官ということは軍所属だろう。見た感じバリバリの戦闘タイプには見えないので回復術士だろうか。
「はぁ、ハチマン・ヒキガヤ特殊遊撃軍司令官です。一人だけだが……一人、だけだが」
ほんとまじふざけんな。気楽とか言ってたの何処の誰だよこんちくしょう。一人ってことは書類仕事も戦闘も全部一人でやるってことだろうが!しかも任務中に神の試練が来たらと思うとまじでキレたくなる。
「あ、あの、その……あの時は、ありがとうございました!」
「は?」
「えと、覚えてない……ですよね」
「あ、ああ。すまん」
ありがとうと言われるようなことをした覚えは無いのだが……俺が名乗っても特に間違えたとかそういう素振りは見せなかったし俺への言葉で合っているだろう。周りには俺達以外に人居ないし。
「……ゆきのん、じゃなくってユキノ様の馬車が襲われた時に」
「……ああ、あの時か。じゃあお前はあの時の護衛の一人か?」
「は、はい」
「そか。無事で良かった」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってユイガハマはまたもじもじし始める。コミュ力高そうな見た目してるが人は見かけによらないってか。
そして勿論俺のコミュ力で気の利いた話題など提供できる筈もなく、お互いに沈黙する気まずい空間が出来上がった。【隠蔽】で隠れたいがそんなことをすれば更に面倒なことになると思う。
しかしそんな気まずい空間は、ある伝令によって一瞬で壊された。
「ヒキガヤ様!」
「うおっ!なんだよ一体。どうした、何かあったのか」
「し、指令です!王都より南西の森に魔物の大群が出現!速やかに討伐せよとのことです!」
「ま、魔物!?」
偶然居合わせたユイガハマが怯えているようだがそんなことを気にしていられない。
「数と種族は?」
「は、はい!現在確認できているだけで一千から二千程度。しかしまだ増えています!種族はオーク、ゴブリン、トロールが確認されています!」
「……分かった。直ぐに行く」
「はっ!ただ今第一軍から第三軍が討伐へ、残りは王都の守備をしております!」
第一軍か第三軍を出動させると残りの戦力は千五百程度だったか。こりゃさっさと殲滅しないとヤバイな。
「ユイガハマは自分の軍に戻れ。俺は直ぐに出発する」
「は、はい!」
ユイガハマに自軍に戻るよう言い聞かせ、俺は【転移魔法】を使用して森へと向かう。
森に着いた途端、頭の中で鈴の音が鳴り試練の発生を知らせる。
(《ステータスオープン》)
神様の試練:増え続ける魔物を討伐し、王都を守れ!
制限時間:44分59秒
そして、俺のガイル王国軍としての最初の任務が始まった。