アニーのアトリエ~レギオスの錬金術士~   作:Flagile

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一巻終了まで毎日投稿したいと思います。



鋼殻のレギオス
第一話 旅立ちの日


「私、ツェルニに留学しようと思うの」

 

 こう三人の幼馴染に宣言したのが私の物語の初まりだったのだと今なら思う。

 

 毎日傷薬や洗剤といった簡単な日用品を調合し、あまり役に立たない新式錬金術(こう言うのは私ぐらいのものだけど……)を学ぶ日々は私には流されているように感じられていたのだ。そんな毎日に小さな満足感とそれ以上に大きなこれではダメだという鬱屈とした思いを抱えていた事が留学という決意に繋がったのだと思う。

 

「ツェルニってアニーのお祖母ちゃんが学んだ都市なんだっけ」

 

 三人が三人共驚いていたが、幼馴染の中でも好奇心の強いミィフィがそう呟く。

 

「うん、ヨルテムじゃ錬金術をこれ以上学べないと思うの」

 

 これは事実だった。ヨルテムにある資料の殆どが祖母の物だ。それ以上の資料はどこにもない。少なくとも私には見つけることができなかった。そして急逝してしまった祖母の遺品から学べることに限界を感じていたのだ。大好きだった祖母が残した書き付けは祖母の備忘録的な物のみで体系だった勉強用の物ではないという現実があった。

 

「……でも……行っちゃうの?」

「メイ……私は新しい事に挑戦したいと思うの」

 

 メイシェンの悲しげな表情に心が痛む。

 

 ――新しい事に挑戦したい――この思いも決して嘘ではない。だが、それだけではない、どこか違うような違和感が余計に心を痛める。心の底にあったのはきっと安穏とした日常への何と言って良いのか分からない嫌悪感だ。それは安定した日常を求めるメイシェンには理解してもらえないだろうと思えた。そう思ってしまう自分が嫌で嫌でしょうがなかった。

 

「アニー……メイもミィも聞いて欲しい」

 

 今まで黙って私の話を聞いていたナルキがおもむろに話し出す。

 

「私も……私も留学しようと思ってるんだ」

「えー!?ナッキも!?なんで?なんで?」

 

 ミィフィがこれでもかと言わんばかりに驚きを露わにする。傍らのメイシェンもミィフィ程ではないが目を丸くしている。 

 

「私はこのままじゃ武芸者として、その……何と言って良いのかちゃんとした武芸者になれない、と思うんだ。それについて悩んでいたら親が進めてくれたんだ。一度武芸者について外から見てみる必要があるんじゃないかって……だから私は、私も留学しようと思っているんだ」

 

 ナルキはナルキらしく拙いながらもまっすぐに言葉を伝えてきた。

 

「それって悩んでるって言っていた戦争で人を傷つけるのはってやつ?」

「そうだ。その、私には戦争をする意味が分からない。汚染獣と戦うのは良い。犯罪者を捕縛するのもだ。だけど罪のない人間同士が殺し合う戦争をする事だけがどうしても納得出来ないんだ。そして、こんな考えをしていたらそれこそ戦争で死んでしまいかねないと両親は言うし、私も……そう思った」

「だから……行っちゃうの?」

 

 泣きそうになっているメイシェンの頭を優しくなでながらナルキは言う。言っている内に考えがまとまってきたのか僅かに揺れていた瞳がしっかりとメイシェンを見つめる。

 

「うん、悩んでいたけど決めた。私も留学する。行き先は……ツェルニについて調べてみようと思う」

「そっか、決めちゃったんなら仕方ないね……私も行こうかな?……なんてね」

 

 ミィフィが冗談めかしてそんなことを言う。それを真に受けたのは真面目なメイシェンだった。目に大粒の涙を湛えて叫ぶ。

 

「そっ、そんなぁ、みんな行っちゃうの?」

「あはは、私は冗談だよ、行ってみたくもあるけどまだヨルテム(この街)の事だって十分に調べられてないしね」

「ううっ寂しく、なるね……」

 

 そんなこんなでまずは私とナルキの留学が決まったのだった。留学を決めてからは早かった。まずは留学先の選定だ。私はツェルニに行くつもりだが、まず錬金術が学べるかどうかが分からないし今もツェルニが存在しているのかどうかも分からないのだ。

 

 そう言った事を調べるためにナルキ達とともに学園都市連盟の支所を訪れる事になった。ミィフィとメイシェンは付き添いだ。ミィフィに限って言えば興味本位のような気もするが。

 

「初めて来たけどここが学園都市連盟の支所かぁ」

「ここで学園都市について調べられるんだな」

 

 ミィフィが早速係の人に色々質問しているのを横目に用意されている端末を操作する。メイシェンはそんなミィフィと一緒に職員の話を聞いているようだ。

 

「ツェルニ、ツェルニ……っと、あった」

「どうだ?どんな都市なんだ?」

「えっとね、ツェルニは学園都市としては一般的な形式の都市みたいだね、学生が主体となって運営・統治していて大人の手をできるだけ排除しているんだって……あっこの人知ってる。ツェルニの卒業生だったんだ」

「ああ、この人の作品は見たことあるな結構有名な建築家だったか」

 

 リストに乗っていたのはこの都市にも建物が立っているほど有名な建築データを作成した建築家の名前だった。他にも映画で見たような名前もチラホラと見受けられる。

 

「へー、結構知ってる人が卒業生に居るもんだね」

「おい、見ろ、ここサンドラ・リグザリオって書いてあるぞ」

「うわっ、お祖母ちゃんだ……こうして見るとツェルニに居たって実感できるね」

 

 思いもかけない所で見る祖母の名前は祖母が生きた証のように思えた。

 

「そうだ!武芸科の方は…………よく分からないね」

「うーん、平和そうだし武芸科の質はあまり良くないのかな?錬金術の方はどうなんだ?」

「結構良さそうだよ。でも最近の研究には私みたいな錬金術はなさそうだね、と言うか古式錬金術がないんだけど」

 

 それからしばらく古式錬金術について調べてみるがろくな情報が出てこない。

 

「聞いてみた方が良くないか?」

「そうだね、聞いてみる……すみませーん、ちょっと聞きたいことがあるのですが」

 

 ミィフィに質問攻めにされていた職員に声をかけると安堵したような顔でこちらにやってくる。

 

「はい、どうしましたか?」

「あの私、錬金術、えっと所謂、古式錬金術を学びたいんですけど……」

「古式、ですか……という事はあなたがアナスタシアさんなのですね。ちょっと待っていてください」

 

 どうやらこの職員さんは私のアトリエの事を知っているらしい。私のアトリエは知名度はあるのだ。もっともその知名度のほとんどは祖母の功績である。私にはできないことが多すぎる、というのが私のコンプレックスであり、それをどうにかしたいが故の留学なのだが……

 

「……残念ですが、古式錬金術で募集をかけている学園都市はありませんね」

「そんな、どこも古式錬金術を教えてないんですか?」

「そのようで……いえ、ちょっと待って下さい。そう言えば特記事項があったような……」

 

 そう言うと端末を調べ始める職員。固唾を呑んで見守っていると

 

「ありました!ツェルニが古式錬金術士を特別生として受け入れると書いてあります」

「本当ですか!?」

「ええ、確認してください」

 

 そこには短く古式錬金術士は特別生として受け入れると記載してあった。だが、その短い情報からは読み取れることはそう多くない。

 

「でも、特別生ってどういう意味なんでしょう?」

「さぁ?私もそこまでは……」

 

 職員さんも困ったような顔でそれ以上は知らないようだ。こうなると一ヶ月以上掛かるであろう手紙で確認するぐらいしか方法がないのが自律型移動都市(レギオス)の宿命だ。

 

「まぁ、良いじゃないか、当初の目的通りツェルニが受け入れてくれそうなんだから」

「そうだね。ちょっと不安だけど良いんだよね。きっと」

 

 そして職員のお姉さんに知りたいことを一通り聞いた後、入学に必要な願書と論文のテーマ、それにテストの日程を教えてもらいその日は帰ったのだった。

 

 その帰り道

 

「ねぇ、ナルキ」

「なんだアニー」

「結局、ツェルニの願書しか貰わなかったけどそれで良かったの?」

 

 ナルキは他の都市についても色々調べていたが結局ツェルニの願書のみを持って帰っていた。受け入れ先がツェルニ一択の私と違い武芸者のナルキはもっといい環境があったのではないかと思ったのだ。

 

「ああ、その事か……私も一人じゃ心細かったんだ……恥ずかしいから二人には言うなよ」

「にしししし、聞いちゃってるんだよね」

「あう、ごめんなさい」

「ふふふ、良いじゃない。私だって一人じゃ心細いわ」

 

 ――――――――――

 

 ツェルニから待ちに待った連絡がやってきた。これでも勉強には自信があったし、論文の出来も悪くはなかったと思う。

 

 結果は……特待生、奨学金Aランクの書類を見たときには小躍りするほど嬉しかった。実際に奨学金Aランクの書類に頬擦りしたのは忘れて欲しい。

 

「やった!見て特待生だって!」

「良かったな、アニー」

「アニー、おめでとう」

「おおー、凄いね……ん?何か落ちたよ」

「えっ?何だろ……手紙?」

 

 合否を通知する封筒の中にもう一通手紙が入っていたようだ。宛名は私、差出人はカリアン・ロス。どうやらツェルニから来た書類と一緒に入っていたらしい。

 

「……えっ?生徒会長って書いてあるよ」

「生徒会長って学園都市だと最高権力者だよな?」

「えー、何かよく分からないけど読んでみようよ」

「えっと、何々……」

 

 手紙には思いもよらない内容が書いてあった。まず古式錬金術を教えられる教師はツェルニを含め他の都市にもまず存在しない事、元々ツェルニが唯一古式錬金術を教えていた都市であった事。しかし30年程前の事故が原因で制度が一変し、古式錬金術を教えることはなくなってしまったとの事だった。しかし古式錬金術の有用性や資料は現在にもある程度受け継がれており、古式錬金術復興の動きもある。そこで私には特別に工房を与え錬金術士として仕事をしながら実践の中で学び、古式錬金術の復興に尽力して貰えないだろうかと締めくくられていた。なお、この話を受けなかったとしても一般生として通知通り奨学金は出るとの事だった。

 

「どうしよう……」

「えー、行けばいいじゃん、聞いてる限りそんなに悪い話じゃなさそうだし」

「えっと、みんなで行けたら良いな」

 

 メイシェンが控えめにそう言う。みんなで、そうみんなでツェルニに行くのだ。実はこの間ミィフィがやらかしてしまいヨルテムに居ないほうが良いのではないかという話になったのだ。何でも有名な傭兵団に一泡吹かせるというある意味で偉業をなしとげたらしい。そして、せっかくだからツェルニに留学するという選択を行い。それに合わせてメイシェンもツェルニに行くことを決めたのだった。

 

「うん、そうだね、みんなでツェルニに行こう!」

 

 

 




自律型移動都市(レギオス):荒廃した大地を彷徨う都市、人類はこの上でしか生きていくことができない。

汚染物質:世界荒廃の原因でほとんどの生物を死に至らしめる謎の粒子状物質。これが大気と大地に充満したことで全世界が人の住めない荒野と化した。

汚染獣:ほぼ唯一汚染された大地に適応した凶暴な巨大生物、人類の天敵

交通都市ヨルテム:常に動き回る自律型移動都市全ての正確な位置を把握している交通の要衝

学園都市:機能特化型都市の一つ、教育機関に特化しており都市の機能も全て学生によって管理、運営され、教育に関しても上級生が下級生の授業を受け持つ

戦争:都市の動力源となる金属「セルニウム」の鉱山の保有権を賭けて都市間で行われる。学園都市では武芸大会と称される。

武芸者:汚染獣や戦争において都市を守るために戦う者達。剄と呼ばれるエネルギーを操る技術を駆使し、錬金鋼(ダイト)と呼ばれる特殊合金の剣や銃を武器に戦う。

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