日常の傍らで
「硬球を買いませんか?」
汚染獣との戦いの後、直接汚染獣と戦ったレイフォンはもちろん、過労で入院していたニーナも復帰し、再開された訓練の冒頭での事だった。
「硬球?訓練に使うのか?」
「はい、園でやっていた訓練方法なんですけど、硬球をばら撒いてその上で動く練習は活剄の基本能力を高められますし、硬球を打ち合えば反射神経と肉体操作の練度も高まります。より高度な訓練であれば硬球に衝剄を絡め、硬球に絡まった衝剄をまた新たな衝剄で相殺するという訓練もできます」
「ふむ、そんな訓練はしたことないが有用そうだな」
「今は新しい技を覚えるより活剄と衝剄の基本的な能力を向上させ、底上げした方が良いと思うんです」
「……よし、分かった。硬球を購入しよう」
硬球を訓練に導入することが決定した。ならばここからは私の出番だろう。
「ちょっと待って下さい。一口に硬球と言ってもどんな物が良いんですか?場合によっては私が専用の硬球を調合しようと思うんですけど」
「えっと、ある程度硬い……当たったら痛いで済むけど踏んでも潰れないくらいの適度な硬さがあって、大きさは10センチぐらいがいいかな?」
「じゃあ、そんな感じで……調達はアニーに任せて良いか?」
「はい、任せてください!……ところで私からもちょっと提案があるんですけど……」
「ん?何だ?言ってみろ」
「はい、これです!」
そう言いながら私は以前レイフォンが言っていた事を参考に作ったアイテムをみんなに見せる。
「これは……マスク?」
「はい、そうです。名付けて剄息呼吸法矯正マスクです」
「名前からすると剄息を習慣にするための器具か?」
「そうです。剄息を続けないと呼吸ができなくなる仕組みです」
「ふむ、付けてみても?」
「はい、お願いします」
ニーナが剄息呼吸法矯正マスクを身につける。
「コーホー、これは……なかなか辛いな、だがいい感じだ。これを付けて訓練すると良いかもしれない」
「本当ですか!」
「ほら、お前らも付けてみろ」
ニーナがシャーニッドとレイフォンにも勧める。
「う~ん、俺様のカッコイイ顔が隠れちまうな」
「……確かに付けっぱなしで生活したら効果ありそうですね」
シャーニッドには不評のようだ。とは言え彼の言うことも一理ある。作っておいてなんだが、こんな不審者じみた格好で日常生活は厳しいだろう。ということは使えるのは訓練の間だけという事になる。それでは効果は限定的だろう。残念ながら半ば失敗作のようだ。けっこう自信があっただけに残念だ。
その次の週末、対抗試合も早5戦目、強豪と噂の第5小隊との試合が始まった。チームワークの差で順当に力負けした2戦目、不戦敗に終わった3戦目、それらが終わった後、ニーナが倒れてからの第17小隊は強くなったように思う。
個々の実力が極端に向上した、という訳ではない。ようやくチームとしての形ができてきたとでも言うべきだろう。
単純に個人最強のレイフォンを正面からぶつけ戦力差を潰し、その対応に手間取っている内にニーナが本陣を強襲、さらに銃を使った格闘術――銃衝術――もこなせることが発覚したシャーニッドが後方を撹乱する。人数差という明確な弱点とレイフォンという特出した戦力を有する利点を活かした良い作戦だろう。
「いやぁ、第17小隊、調子いいね」
ミィフィが試合を見ながら言う。
「そうだな、今回も見事に作戦通りに行ってるな」
「そうね、だいぶチームとしてのまとまりが良くなったわよね」
今回も第5小隊は小隊長ゴルネオ・ルッケンスとその相棒シャンテ・ライテという攻撃と指揮の要をレイフォンの相手に投じており、17小隊の目論見通りに事は運んでいると言っていいだろう。
比較的少人数という第17小隊と同じ弱点を抱えている第5小隊も無策という訳ではないのだろう。だが人数差がなく単純な実力でも劣っていると見える第5小隊の隊員ではニーナとシャーニッド相手に時間稼ぎするのが精一杯と見える。
本来であれば攻撃の要であるゴルネオがシャンテとの連携で相手を叩き潰し、即座に救援に入れるのであろうが、残念ながら相手はレイフォン、学園都市にいるはずのない超一流の武芸者である。全力は出していないようだとは言え学生武芸者にはあまりにも荷が重い。
「そう言えば知ってる?第5小隊のゴルネオ隊長なんだけどさ、グレンダン出身なんだって!」
「へぇ、それは知らなかったな……それは……大丈夫なのか?」
ナルキが思わずミィフィの方を見て尋ねる。私もナルキと同意見だ。グレンダン出身ということは天剣授受者であったことを知っている可能性が高い、ということだ。
「……どうしようもないでしょ、それとも脅しちゃう?」
「バカな、そんな事はしないぞ」
「でもそれぐらいしか方法はないでしょ」
「まぁ、今のところ噂になってる様子はないんだし静観するしかないんじゃない?」
「それは……そう、だな」
結局試合は、レイフォンが何人にも分身(!)してゴルネオとシャンテを圧倒し、ほぼ同時にシャーニッドがニーナの動きに一瞬気を取られた相手の隙を突いてフラッグを狙撃、破壊する事に成功し第17小隊の勝利となるのだった。
控室にお祝いに行くと以前までとは全く違う明るい空気が満ちていた。
「今日も俺様はイケてたね」
シャーニッドが絶好調に言い放ち、二本の錬金鋼をクルクルと回している。確かに今日の殊勲はシャーニッドだろう。まず相手との狙撃戦を制し、その後に狙撃手にも関わらず接近戦で小隊員の相手にしながらフラッグを撃ち抜くという大戦果を挙げたのだから。
「確かにシャーニッド先輩は大活躍でしたね」
「そうだろ、アニーちゃん」
「うん、ここまでうまくいくとは思わなかったよ。ニーナの作戦勝ちだね」
「おいおい、俺がいたからっていうのを忘れてもらっちゃ困るよ、ハーレイ」
「それはもちろん」
ハーレイが肩をすくめながら、シャーニッドに相槌を入れる。そしてシャーニッドから錬金鋼を受け取るとチェックを開始する。
「実際、ここ二戦は隊長の作戦がすごくうまくいっていると思いますよ?」
黙って腰掛けに座っていたレイフォンが言う。
「みなの能力があればこそだ」
苦笑するニーナの表情もまんざらではなさそうだ。
「シャーニッドが銃衝術をいままで隠していたから効果があったな。……だが、さすがにこの二戦でうちの戦力分析は完了しただろう。当たってない小隊には武芸長の第一小隊もある。気が抜けないのは変わらない」
「おいおい、せっかく気分良いんだから、ここで水差すのはなしにしようぜ」
「しかし……な」
「今日はパーッといこうぜ、考えるのは明日からでも問題なしだ」
何か言いたげなニーナだが、シャーニッドの言葉でそれを飲み込んだのが分かる。
「まぁ、それもいいか」
「よし、じゃあ、かたっくるしい話はここまでってことで、祝勝会やろうぜ。店はいつものミュールの店な。予約はおれがしといてやるから六時に集合ってことで。んじゃ、解散」
「おい、勝手に決めるな」
言いたいことだけ言うとさっさとシャワールームに向かっていくシャーニッドに、ニーナは呆れたため息を零した。
「仕方ない、解散だ」
学園都市ツェルニには商店の集まる通りがいくつかある。中でも一番栄えているのは放浪バスの停留所があり、放浪バスに乗ってやってくる都市の外の人間が止まる宿泊施設もあるサーナキー通りだ。そのサーナキー通りにあるミュールの店に私たちはいた。
半地下の、カウンターとわずかばかりのテーブルしかない店では普段はアルコールが振る舞われるのだが、今夜ばかりはそれらの瓶のほとんどはカウンターの奥で留守番をさせられ、普段はつまみ程度の軽いものしか並ばないテーブルでは大皿にここぞとばかりの大量の料理が盛り付けられていた。
その中には私が錬金術で作ったパイも並んでいた。最初は恐る恐ると言った感じでなかなか手が出なかったパイも場が盛り上がるに連れ気にする人は少なくなっていた。
「三番っ!ミィフィっ!歌います!」
マイクを握り締め、ミィフィのハイテンションな声がハウリングとともに店内に響いた。ミィフィは一度マイクを持つとなかなか手放さないのだ。一緒にカラオケに行ってもなかなか帰ろうとしない。フリータイムギリギリまで歌うなんてこともザラだ。おかげで喉が鍛えられてしまった。
「幼生体との戦いの時、一緒に戦っていたのは署の先輩なのか?」
「はい、そうです」
「そうか、なかなかいい連携だったのは普段からの成果なのかな?」
ニーナはナルキにあれこれと聞いている。それに困惑しながらも答えるナルキ。先程まではレイフォンがその役だったのだが、既に逃げ出して少し離れたバーカウンターに居る。ニーナはナルキに興味があるようだ。もしかしたらナルキを小隊に入れたいのかも知れない。身内びいきになるがナルキもそれなりに強いのだ。もっともナルキは武芸大会自体に忌避感があるから参加したがらないだろうが。
その状況から逃げ出したかったのだろう。そろそろ遅い時間になるからとメイシェンを連れて祝勝会を去ることにしたようだ。ちょうど良いので私も帰ることにする。……このままいくと次の生贄は私になりそうだというのもあるが。
「あ、課長」
ナルキがいつの間に居たのだろうか?レイフォンと話している上級生を見つける。ナルキの言葉からすると都市警察の上司なのだろう。入学の年齢制限が16歳のツェルニだからそう歳は離れていないはずだがどう見ても30代に見える。
「おう」
「なにか事件ですか?」
勢い込んでナルキがそう尋ねる。
「やれやれ、俺はどれだけ仕事一辺倒な人間なんだ?これでも一応は学生なんだがな」
「課長がそれを言っても説得力はありませんよ」
「仕事馬鹿なのはお前の方だな」
「まだまだ課長には負けますから。勝ちますけどね、そのうち」
「やめとけ、貴重な学生生活を無駄にするぞ」
「どう楽しむかはあたしの自由ですよ」
ナルキと課長の間柄は良好らしい。流れる雰囲気が気安い。それを確認できたことは喜ばしいことだ。どんな仕事であれ人間関係が良好であることは素晴らしいことだ。その絶妙な連携をレイフォンとメイシェンが視線を交わして笑いあっている。
「……もう帰るね」
「そうなんだ。送ろうか?」
「ううん、ナッキがいるから」
「そっか。……たしかに、大丈夫だね」
「うん」
メイシェンもだいぶレイフォンに慣れてきたように思う。もうちょっと積極的になっても良いと思うのだが、それは高望みしすぎなのだろうか?今も送ってくれると言ってるのだから素直に送られれば良いのだ。
「あら、じゃあ送ってもらおうかしら?」
「アニー?……あっ!そっか、アトリエに住んでるんだよね……分かった、送るよ」
「ふふ、冗談よ、私よりもミィの事をお願いしても良いかな?」
そこでレイフォンは初めてミィフィが居ないことに気づいたのだろう。視線が彷徨い、店の奥で歌の本を読み漁っているミィフィを見つける。
「……ミィは、歌い出すと止まらないから」
「じゃあ、ミィは僕が送るよ」
困った顔のメイシェンにレイフォンがそう言ったところで、掛け合いを終わらせたナルキがレイフォンに話を振る。
「あたしたちは帰る。レイとん、明日は頼むぞ」
ナルキの言っている明日というのはメイシェンとレイフォンの初デートの事である。もっともレイフォンはこれがデートだと理解していない節があるのだが。とりあえず今は実績を積み上げる時期なのだろう。もう少ししたらデートをしてるのだとちょっとづつ意識させてやろうと思う。
「ああ、うん。でも本当にいいのかい?なんなら日を変えるけど?」
「気にするな、邪魔するタイミングは心得ているから」
「ナッキ!」
メイシェンが悲鳴をあげ、快活に笑うナルキを引っ張るようにしながら店を出て行く。
「それじゃあね、レイとん。明日はメイっちをよろしく」
それだけ言うと私もメイシェンたちを追いかける。
翌日、メイシェンとレイフォンのデートの日、私はレイフォン達を尾けようとするミィフィを阻止しながらミィフィの記者の仕事に付き合っていた。
「むう、今からでも行かない?きっとわたしおすすめの店でご飯食べてるとこだよ、きっと」
「行かない。そんなことしたらレイとんに気づかれてデートが終わっちゃうでしょ」
「それは……そうなんだけど、気になるじゃない!」
「気になるけど、ここはメイっちを信じて待ちましょう。……それより仕事は良いの?」
「ううっ、そうだね……仕事しよう」
ようやくミィフィがレイフォンたちの事を諦める。このやり取りも何回目か分からないから、きっとまたやるのだろうと思うと少しゲンナリとする。
「今日の仕事はアニーにも関係あるんだよ」
「確か武芸大会についてのインタビューだったかしら」
「そう!題してなぜ武芸大会に負けたのか!?その真相!!だよ」
「今回は武芸長にも話を聞くんだよね」
「そうそう分かってるじゃない!」
気を取り直したのかミィフィが嬉しそうにターンをする。それにしてもこんなタイトルでよくアポイントメントが取れたものだ。
「じゃあ、早速聞きに行きましょう?アポイントは取ってあるのでしょ」
「もっちろん!試合の合間ならいつでも良いって言われてるわ」
ヴァンゼ武芸長にインタビューすべく野戦グラウンドの小隊員用の観戦ブースの一つを訪ねる。今日は対抗試合が行われている。ヴァンゼ武芸長が戦力査定のために毎週欠かさず対抗試合を観ていることはその筋では有名らしく、今回のインタビューも試合の合間ならという事でOKが出たそうだ。
「こんにちは~、『週刊ルックン』の取材できました。一般教養科一年のミィフィ・ロッテンとその連れで~す」
「ん?ああ、取材だな、聞いている……ん?、確かお前は第17小隊の錬金術師だったな……カリアンが無理矢理引っ張ってきた」
「あはは、まぁちょっと強引でしたけど、別に意に沿わない選択という訳ではないので」
「そうか、それなら良いのだが。それで何について聞きたいんだ?」
「はい、前回の武芸大会についてお聞きしたいのですが」
「武芸大会か」
そう顔をしかめながら言う。普通の人だとここで怯えてしまいそうだが、ミィフィに付き合って散々取材してきた私から見れば単に話しづらい事だと思っている程度だと分かる。
「二戦戦って一戦目はこちらがどう動いてもそれ以上に相手の対応が早く尽く攻め手を潰されて押し切られてしまったというのと二戦目は順調に攻め込んでいるように思えたのだが崩しきれずにいつの間にか潜入された部隊にフラッグを取られたという話は聞いたのですが」
「む、よく知ってるじゃないか……それだけ知ってるとなると俺から言えることはあまりないな」
「ズバリ!敗因はなんだと思いますか?」
ミィフィがそう思いっきり切り込む。毎度思うがすごい度胸だと思う。
「そうだな……一戦目は全体訓練の練度が足りなかったというのは言えるな。相手よりも指揮に対する反応が鈍かった。というより相手が徹底してその訓練をした結果のように俺には思えたな。まるで一つの生物のように動いていたからな。よほど訓練したのだろう。……もちろん対策として全体訓練を多く取り入れたりより効率的な部隊配置と言った研究も行っている」
「なるほど、対策はできている、と」
「ああ、完璧ではないにしろできる手は打っている。……それで二戦目は、そうだな一戦目の敗戦が原因だろうな、一戦目の失敗を恐れるあまり正面戦力を集中させすぎた、そこに優秀な念威繰者が居たのだろうな見事に潜入されて対応しきれずに負けた」
「念威繰者の差で負けた、と」
「そう言ってはなんだが、そうだ。こちらの念威繰者が気づいた時には既にレッドライン間際だった。そこから戦力をかき集めたのだが間に合うはずもなく、な」
「こちらの方の対策は何か手を打っているのですか?」
「もちろん打っている。念威繰者の警戒ネットワークを前回の失敗を元に強化している。とは言えそうすると前線に命令を届ける念威繰者が足りなくなるから痛し痒しといった所なのだがな。重要なのは相手の意図をいち早く見抜き、それに対処することだ。」
念威繰者の不足、これは如何ともしがたいだろう。この点に関してであれば私が手伝うこともできそうだ。だが私にはもっと根本的な問題があるように思える。戦術家の不在だ。私には順当に戦って力負けしたと言っているようにしか思えないのだ。武芸大会に必要なのは個人技ではない全体を活かす戦術だと思うのだが、そう言った人材を探している様子がないように思える。対抗試合も所詮小隊規模の戦闘で、全体を動かす才能とはまた別なように私には思える。
「あの、差し出がましいようですが、戦術家を探す取り組みはされていないのでしょうか?」
「それは、対抗試合以外で、という事か?」
「はい、そうです。全体を指揮する才能と小隊を指揮する才能は別物だと思うのですが……」
「それは……そうだな、そう言った取り組みも行う価値があるだろう。……良いだろう検討しておく」
「……ありがとうございます」
それからさらに二、三質問をし回答を得るとそこで時間切れとなる。次の試合が始まったのだ。
「すまん、試合が始まったから今日はこれくらいにしてくれ、もし何か聞きたいことがあればマネージャーに聞いて欲しい」
「はい、今日はありがとうございました」
「ありがとうございました」
その日はメイシェンからデートの結果を聞くべくメイシェンたちのマンションに泊まり込んだ。
「……でね、お昼はミィのおすすめのパスタを食べてね……」
メイシェンがデートについて嬉しそうに報告する。その様から特に問題なくデートは進んだらしいことがわかり、私も嬉しくなる。後の問題はレイフォンにどうやってメイシェンの事を意識させるか、だ。あの鈍感なレイフォンにはっきりと意識させるには何かしらのきっかけが必要だと思うのだ。
翌日の朝、ニーナから第17小隊に呼び出しがかかった。
「急に呼び出してすまない。だが、緊急事態だ」
「また、汚染獣なんて言わねえよな?」
シャーニッドがそれはないだろと軽口を叩く。
「ああ、今回は汚染獣じゃない……はずだ。汚染獣に襲われたと思われる都市の探索を行う」
「都市、ですか?近くに居るんですか?」
「ああそうだ。どうもツェルニの鉱山に寄ろうとした結果、近づいてしまったらしい。飢えは都市をも狂わせるということだな」
汚染獣に襲われたと思しき都市がツェルニ保有する鉱山のすぐ側にいるらしい。これから採掘のために近寄ることになるだろうからその前に、生存者の確認や汚染獣が潜んでいないかの確認のために私達が派遣されるということだろう。
「その都市に何らかの危険がないかどうかを確認するのが私達の任務だ」
「なるほど、その探索に同行することはできますか?」
「ダメだ。危険がないとも言えないし、第一都市外装備が足りない。……今回の探索は第5小隊との共同任務にになるのだが、私達の小隊が選ばれた理由が都市外装備が足りないから、だ」
ちらりとレイフォンを見ながら言う。なるほど、都市外装備が足りない以外にもレイフォンが居るからというのが我が隊が選ばれた理由らしい。それにしても付いて行けないのは残念だ。足手まといになるのは分かっているからダメで元々だったのだが、未知の材料や技術を調べる良い機会だと思ったのだが。
「安全が確保されれば正式な調査隊が組まれるはずだ。行きたいのであればそちらに参加すると良い」
確かに安全が確認されてからでも良いだろう。それよりも今気になるのは第5小隊との共同任務になるということだ。
「あの、第5小隊と共同任務になるというのは決定ですか?」
「決定だ。……何か不安材料があるのか?」
「……ゴルネオ隊長なんですけど、グレンダン出身なんだそうです」
「それは……知らなかったな。レイフォン覚えはあるか?」
「……直接は知らないのですが、ルッケンスという家名と流派は覚えています。格闘戦主体の流派で天剣授受者を擁しています。おそらくそこの出かと」
そんな良いところのお坊ちゃんがなぜツェルニまで来ているのだろうか?そこにも何か深い理由がありそうだ。
「それは……大丈夫なのか?」
「分かりません。でも逃げ出せないんだから覚悟を決めておくぐらいしかできることはないかと」
そんな不安を残したままレイフォンたちはすぐさま出発していった。私は見送ることしかできない事に歯噛みをしながらも無事を祈る。
それから三日後、レイフォン達が帰還した。
廃都市で一体何があったのか知らないがレイフォンとニーナだけボロボロになって、だ。シャーニッドとフェリは僅かに汚れているだけなのに対してレイフォンだけが胸の部分を補修したような大きな跡がある。あの大きさからするとそれなりに怪我をしたのではないかと思う。
「レイフォン!どうしたの?怪我してるんじゃない?」
「大丈夫、ちょっと……建物の崩壊に巻き込まれただけだから」
「それは大丈夫って言わないわ、頭打ったりしてない?」
「う~ん、大丈夫だと思うけど……」
そんな事を言って本当は重症なんじゃないかとも思うが、ニーナ達も慌てている様子がないことにようやく安堵する。それにしてもレイフォンの人生は荒れていないとすまないのだろうか?
「とりあえず無事に生きて帰ってくれて良かったわ。さっ、病院に行くわよ」
「そうだな……レイフォンは病院に行ってくると良い。私は生徒会長に報告をしてくる」
そう言うとニーナは生徒会棟へ向かって歩いて行く。私はレイフォンを病院に連れて行くのだった。病院でレイフォンが汚染物質に曝露したことが分かる。やはりという思いだった。きっと何かあったのだ。
「それでレイとん、ホントのところ何があったの?」
「えっ?」
「だって建物が崩れた程度で怪我しないでしょ?」
「それは……うん」
そこからレイフォンがポツリポツリと話し出す。
「ゴルネオ隊長がグレンダン出身だって言うのはアニーが教えてくれたよね。……やっぱり彼は僕の事を知っていたんだ。でも、それだけじゃない。ガハルド――僕を脅迫してきた武芸者――の弟弟子だったんだ。ガハルドを再起不能にしたことを許せなくて……それに共感したシャンテが襲ってきたんだ」
「それでどうなったの?」
「シャンテが無茶して機関部が爆発しちゃったんだ。この傷はその時に……それで、ゴルネオと二人っきりになってガハルドを忘れていないかって言われた」
どれだけ振り払おうと過去は既に確定している。それを消すことはできない。ならば問題はこの先どう生きていくかだろう。だから私は
「レイフォン、ちゃんと謝った?」
「えっ?」
「言ったでしょ、あなたがそのガハルドとか言う人を殺そうとしたのは悪いことだって、悪いことをしたならまずは謝らないと」
「それは……そう、だね」
レイフォンが納得いかなそうな顔をしている。理屈は分かっても実感が伴わないのだろう。というか襲われたのに謝れと言われても納得ができないのは当然なのかも知れない。
「あなたにとって悪でしかなくともその人にも家族や友達がいるのよ。そういう人たちから見たらあなたが悪なの。その事を忘れちゃダメよ」
「それは……うん、ごめんなさい」
「私に謝っても仕方ないわ、許してもらえなくてもゴルネオさんに一度謝っておくべきだと私は思うわ」
此処から先はレイフォンの問題だろう。私にできることは一緒に悩んでアドバイスすることだけ、それをどう判断し、どう行動するかはレイフォンが決めることだ。
幸いなことにレイフォンの怪我は大したことなく、ゴルネオとシャンテも多少怪我したにせよ生きている。それならばいくらでもやり直しが効くだろう。少なくともそう信じることは自由だと思う。
アニーは戦闘員ではないので廃都市に行きませんでした。
これにてセンチメンタル・ヴォイス終了です。
次回は完全に未定です。