アニーのアトリエ~レギオスの錬金術士~   作:Flagile

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コンフィデンシャル・コール開幕です。
後編は明日投稿します。


コンフィデンシャル・コール
前編


 レイフォン達が廃都市の探索から戻って数日後、ツェルニはセルニウム鉱山に到着していた。これから一週間採掘作業のため学園は休講になるという話だ。そして私は廃都市にやって来ていた。休講期間中に有志による廃都市調査チームが組まれ、私もそれに参加したのだ。

 

 今回の調査の目的は主に三つ、資源の回収とデータ類の回収だ。そして、レイフォンが遭遇したという謎の生物の調査だ。実は第十七小隊と第五小隊の合同調査中にレイフォンが謎の生物に遭遇しているのだ。正体は一切不明、この存在があるために今回の調査も見送られそうになったのだが、存在するかどうか怪しいという理由で賛成派が押し切ったという経緯がある。そのため調査の優先度は低く、遭遇したら逃げて報告する程度しか決められていない。

 

 また、ニーナが言うには電子精霊の可能性があるのではないかという事だった。そして電子精霊ならば悪いことをすることはないだろうというのも判断の根拠の一つとなった。レイフォンが感じた脅威というのはあまり重要視されなかったらしい。

 

 データの回収班は主に図書館と研究所、そして政府の調査を行う。そう言った重要施設からデータを吸い出し、ツェルニの役に立つものをサルベージするのが目的だ。私も所属する事になる資源回収班は資材倉庫を回り、主に金属資源の回収を行う予定になっている。私と極少人数だけは動植物の回収も行うことになっている。

 

 移動には放浪バスが用いられた。都市には万が一に備えて放浪バスも何台か準備されているのだ。このバス一杯に有用な物を回収するのが今回の目標だ。

 

「無残ね……」

 

 事前に写真でも確認していたが、実際に目にするとやはり違う。私の目の前には折れた脚の断面が無残にも晒されており、そこが有機プレートの自然修復によって苔と蔓に覆われている。

 

 放浪バスを係留するための係留索は完全に破壊されている事が事前の調査で分かっているため、工業科が突貫作業で作り上げた昇降機をまずは設置する作業から始まる。

 

 護衛として同行している武芸科の生徒がワイヤーで都市外縁部まで上がり、昇降機を上げるためのワイヤーを固定する。そして昇降機を外縁部まで持ち上げて仮固定する。そこまで準備ができてから工業科の生徒が昇降機で登り始める。私たちは工業科の生徒が固定作業を終えてから登ることになる。

 

 機関の一部が爆発してしまったっているが辛うじてエアフィルターが稼働しているのを確認する。だがヘルメットは脱がない。いつ機関が停止するかも分からない中迂闊な事はできないからだ。

 

 そこからは事前に決められた幾つかの班に別れ行動を開始する。私たちの班はまず都市の地下を目指すことになる。ロックされている外部ゲートを開放するのが最初の目標なのだ。外部ゲートが使えるか使えないかで持ち帰れる資源の量や作業効率が全然違うのだ。私にはあまり用のない場所なのだが、班行動である以上、あまり勝手なことはできない。

 

 まずは地下への入り口を探す。こういったゲートは都市中にあるのだが、その多くは避難場所であり、外部ゲートに直結しているものは少ない。地下を繋いでいる通路もあるのだが、地下は半ば迷宮のようになっているため迂闊に入ることはできない。幸い第十七小隊の努力(フェリ先輩の念威の力とも言う)の結果、簡単な地図はできているため迷うことはない。

 

 無事、外部ゲートまで辿り着くとまずは制御室を確認する。この辺りの構造はツェルニと大きな違いはない。幸い外部ゲートにも電力は来ており、制御室から外部ゲートのロックを解除する。これで放浪バスとの行き来が楽になった。その事を帯同している念威繰者を通じて全体にアナウンスする。

 

 ようやく本番だ。まず目指すべきは農協の施設だ。いくらなんでも農場区画の全てを回ることは物理的にできない。そこである程度当たりをつけるために農協にある情報が必要なのだ。

 

 ここもツェルニと同じような配置になっている事を信じて農場区画の中心にある建物を目指す。残念ながらここからは念威繰者の支援は受けられない。調査の優先度が低いからだ。おそらく農協であろう建物を目指して歩く。その間にも何か有益な物がないか目を凝らしておく。

 

「あっ!黄金リンゴだ。すみませんちょっと採取していっていいですか?」

 

 その甲斐あって黄金リンゴを見つけることに成功する。黄金リンゴは錬金術でかなり重宝する素材だ。ヨルテムでは生産してもらっていたのだが、ツェルニでは生産していない。申請はしていたのだが、遺伝子のデータが高く予算の都合で却下されていたのだ。ここで黄金リンゴの種を手に入れることができれば育てることも可能だろう。

 

 農協につくと早速、調査を開始する。どんな物をどこに植えているのか、どんな工夫が凝らされているのか、そう言った情報を集めていく。特に生産技術の情報は重要だ。生産マニュアルのようなデータは外部に出づらいためどうしても入手しにくいのだ。

 

「何か妙な感じね……」

 

 データをまとめているとどうにもおかしな感じがする。だが、なにがおかしいのか分からない。しばらく考えた後

 

「まぁ、分からないものは仕方ないわね」

 

 そうしたデータを一通り洗った後、私は実験農場へやってきていた。ここでは量産する前の植物のデータ取りや、新種の植物の開発などが行われているところだ。

 

「これは……トーンみたいだけど何か変異しているわね、何かに使えるかも知れないし、これも採取しておこうかしら」

 

 変異トーンのような通常の栽培ではできない物も回収していく。やはり実物こそが最大のデータなのだ。一通り採取が終わった頃には日は傾き始めバッグはパンパンになっており、これ以上持ち帰ることはできそうになかった。ちょうど念威繰者から集合の連絡が来たので採取したものを持って集合場所へと急ぐ。

 

 集合場所は外縁部付近にある無事だったホテルだ。工業科の生徒がベースキャンプとして整備してくれたようで、電気も使えるとの事だった。私は割り当てられた一室に荷物を置くと、夕食の準備を手伝いに向かう。今回はそれなりに大規模な派遣とあって食材を持ち込んできたのだ。

 

 そして、夕食もつつがなく終わり、夜。私は何かに誘われるようにホテルを抜け出していた。意識の奥で何かが訴えかけている。そんな謎の焦燥感とでも呼べるものに従って私は歩いていた。

 

 ハッとして、振り返る。

 

 そこには黄金に光り輝く牡山羊が居た。これがレイフォンの言っていた謎の生物だろう。その確信がある。

 

《お前は……母の母の系譜の物、か?》

「あなたが呼んだの?」

《……どちらにせよ力なき者に用はない》

 

 低い声が一方的に告げる。会話するつもりはないようだ。だが、敵意も感じないし、レイフォンが言うような危険な物とも思えない。ただその澄んだ青く輝く瞳が印象的だ。そして胸の内から悲しみが溢れてくる。

 

《伝えよ、我が身はすでにして朽ち果て、もはやその用を為さず。魂である我は狂おしき憎悪によって変革し炎とならん。新たなる我は新たなる用を為さしめんがための主を求める。炎を望むものよ来たれ。炎を望む者を差し向けよ。我が魂を所有するに値する者よ出でよ。さすれば我、イグナシスの塵を払う剣となりて、主が敵の悉くを灰に変えん》

 

 それだけ告げると牡山羊はゆっくりと背を向ける。

 

「待って!あなたはこの都市の電子精霊なの!?」

 

 そして黄金の牡山羊は何の痕跡も残さず消え去る。胸の奥に感じた悲しさと焦燥感は強くなる一方だが、その方向性を失い霧散する。一人取り残された私は暫くの間呆然と立ち尽くすのだった。

 

 その後は何事もなくホテルへと戻る。結局あの獣について報告することはしなかった。探しても無意味だという謎の確信があったからだ。あれは悲しい物であっても人に直接害を為す類のものではない。

 

 そして胸の奥に重い物を感じながらもそれを振り払うように採取を進める。二日目は主に動物について採取をしていく、あいにくと水槽や檻は用意していないため屠殺して素材として持って帰る事になる。無心で作業をしているといつの間にかバッグ一杯まで素材が集まっている。

 

 二日に及ぶ調査も終了し、放浪バスに採取した資源を持ち込む。行きはガランとしたバスの内部も帰りは狭くてしょうがない状態だった。無事に探索を終えた事を喜んでいる他の生徒の中、私だけが取り残されたような状況だった。周りのハイテンションに乗れないままバスは進んでいくのだった。

 

 翌日、どうにか気を取り直して、休講中の課題をメイシェン達とこなすために図書館に向かう。

 

「おはよう」

「あ、アニーおはよ!」

「おはよう、廃都市調査は大丈夫だったか?」

「……ええ、大成果だったわ……それよりもそのバッヂ、どうしたの?」

 

 廃都市の調査に行って帰ってきたらなぜかナルキが第十七小隊のバッヂを付けているのだ。気にならないわけがない。

 

「ああ、これは……色々あってな」

 

 ナルキが口を濁す。どうやら自ら進んで小隊員になったという訳ではないようだ。ナルキは戦争の意味を、人同士で争う意味を悩んでいたのだ。その事を考えると武芸大会と言葉を替えたとしてもナルキが小隊に入りたがるとは思えない。きっと何か理由があるのだろう。

 

 そこにレイフォンがやってくる。するとナルキがレイフォンをロックオンしたのを感じる。その事に気付いたのか気付いていないのか

 

「わー、それが新しい錬金鋼なんだー」

 

 レイフォンがあからさまに何かありましたと言わんばかりに棒読みで呟く。言われてみればナルキの剣帯には都市警の錬金鋼以外にもう一本錬金鋼が刺さっている。

 

「ねー、ていうかビックリだよ。一晩明けたら小隊のバッヂ付けてるしさ。なにがあった!?って感じだよね」

 

 これまた察しているのかいないのかミィフィがいつも通りハイテンションに驚きを露わにする。

 

「まぁ、色々とあってな」

 

 渋い顔でそう言うナルキはずっとレイフォンの事を見ている。というよりも図書館で課題をこなしている間、ずっとレイフォンと二人きりになるタイミングを狙っていた。

 

 レイフォンもその事に気づいているようだが、どうにも二人きりになりたくないようで一人にならないようにしているようだ。何があったのか知らないが第十七小隊で何か起こっているらしい。私もレイフォンに聞きたいこと(黄金の牡山羊)があったのだが、これではどうしようもない。

 

 そんな夏休みの宿題をできるだけ後伸ばしにするような努力もついに昼食を食べ終わったところで終わりを告げる。小隊の訓練時間が近づくとナルキが率先して解散を告げたのだ。そして、メイシェンとミィフィの二人と別れ私達三人だけになるとすぐにレイフォンに尋ねる。

 

「で?昨日はどうだった?」

「うん……昨日はなにもなかったよ」

 

 そう言う。珍しくレイフォンにしては嘘がうまい。だが、何が起きているのか全くわからないが、ここまで報告を先延ばしにしといてなにもなかったはずはないと私は思う。

 

「そうか……そう簡単には尻尾を出さないよな」

「ねえ、何があったの?」

 

 私はそうナルキに尋ねる。何やら興奮気味のナルキはレイフォンの不審な様子には気付いていないようだ。

 

「ああ、アニーには説明しとこう」

 

 そう言うとナルキは説明を始める。第十小隊が違法酒――剄脈加速薬というなかなか増えない剄の量が一気に増えるが、8割が廃人になるという禁止された薬物――に手を出しておりその捜査のために第十七小隊に参加することになったのだという。

 

「ふーん、それで昨日はレイとんがその捜査のために第十小隊のディン隊長を尾行していた、と」

「う、うん」

「まぁ、時間がないとはいえ、ここで焦ったら失敗してしまうよな。じっくり行こう」

 

 事件を解決したくてたまらないと言った感じでナルキは言う。

 

「ナッキ、もし……あの人達がこの都市を守りたくて違法酒に手を出したんだとしたらどうする?」

「ん?」

「この都市を守りたくて、でも、自分たちの実力不足に気付いていて……そんな時に違法酒っていう方法に辿り着いてしまったんだとしたら、どうする?」

 

 レイフォンがナルキに問いかける。確かに世の中綺麗事だけではどうにもならないこともあるだろう。今回のこともその一つなのかもしれないとレイフォンは言っているのだ。

 

「そんなことはもう考えたさ」

 

 ナルキは、レイフォンを見ないでそう言った。

 

「ツェルニの状況でそういうことを考えて行ったのなら、彼は英雄的だ。その行為に違法が混じっていたとしても、誰も彼を正面きって批判することなんてできないと思う。少なくともあたしは、そんな恥ずかしい人間にはなりたくない。……だけど、犯罪だということも確かだ。この、学園都市ツェルニではそれは犯罪なんだ。禁じられてるんだ。しかも、自分の体をだめにしてしまう恐ろしいものなんだ。違法酒は、剄脈加速薬は」

 

 わかっているか?ナルキはこちらを見ないままにそう訴えかけてくる。

 

「自分の体を犠牲にしてまで都市を守ることに、意味はあると思う。その行為は悲劇的で美しいのかもしれない。だけど、あたしは納得できない。都市が大事か、人間が大事か……あたしは人間を選んだんだ。この都市がだめになっても学園都市は他にもある。そのために、絶対に彼を捕まえて、止める。何かを犠牲にしなくちゃいけない時に、メイやミィ、アニーが犠牲になるなんてことになった時、あたしは後ろめたさ一つなく助けたい。だからあたしはディンを助ける」

 

 メイシェンやミィフィを助ける時に自分を後ろめたく感じたくない。それがナルキの本心なのだろう。究極的には他人(ディン)のことなどどうでも良いのだ。そう言っている。その事にナルキらしいと私は思う。そう思うナルキだからこそ戦争の意味を悩んでいるのだ。

 

「ナッキも、隊長に負けず、贅沢なこと考えているよ」

「そんなことはない。あたしはやっぱり警察官になりたいんだ。違法なことは許せない、その気持も強いよ。もっと本当のことを言えば、彼に同情もしてないし、考え方に賛同もしてない。悪いことは悪いんだ。自分が正義だなんて思ってない。だけど法律には、多少は作り手のエゴも混じっているだろうけれど、それを許していたら人間社会がうまく動かなくなるから法でダメだと言ってるんだ。それを無視していいことは絶対にないんだ。法を無視したいなら、誰もいない場所で一人で生きていればいい。冷たいかな?あたしは」

「そんなことはないよ、ナッキは正しい」

「ふふ、ナッキらしいわ」

 

 ナルキは人間を、人間生活が維持されることを最も重要だと考えている。日常を乱すものはどんな思想があれ悪だと思っているのだ。まぁ、その日常を守るために法を犯しているのがディンなのだろうが。

 

 練武館に到着するとニーナが待っていた。開口一番

 

「すまん、ディンと接触した」

 

 その言葉を聞いてナルキが硬直している。ぽかんと開けられた唇がやがてわなわなと震えだし、そして全身に伝播していく。

 

「な、な、な、な、な……」

 

 言葉もうまく言えないぐらいだ。口をパクパクさせたまま、ナルキがレイフォンを見た。さっきレイフォンが何もなかったと言ったことを思い出したのだろう。

 

「ごめん、嘘」

 

 レイフォンが素直に嘘だと認め頭を下げる。だいぶ状況が把握できてきた。レイフォンは尾行し、ニーナがディンと接触する場面を見てしまったという事だろう。問題はなぜニーナがディンと接触したか、だ。

 

「気持ちはわかる。任務の邪魔をされれば腹が立つということはわかっている。それでもわたしはわたしの中の筋を通したかった」

 

 また、これはニーナが大暴走したようだ。通したい筋というのが何なのか分からないが、これは大問題だろう。

 

「あ、でも待ってください。昨日、たしかあの人、自分が違法酒を使ってるって認める発言してたじゃないですか。あれ、証拠になりませんか?」

 

 レイフォンが必死で援護射撃をする。が、

 

「録音していない。お前だってそうだろう?それに実際に物を見たわけでもないんだ。証拠能力としては不十分だ。ディンもそれを承知していたから、あれだけ口が軽かった」

「…………」

「……なにを考えているんですか?」

 

 ようやく落ち着いたらしいナルキが口を開いた。その目は怒りでつり上がっていた。

 

「筋を通したいと言いましたね?その筋にどれだけの意味があるというんです。みすみす、犯罪者に情報を投げ渡しただけではないですか?」

「そうだな」

「これは立派な犯罪幇助ですよ。警察情報を犯人に渡すなんて……」

「わかっている。しかし、どうしても、わたしはそれをしなければいけなかった。彼がああなってしまったのには、理由がある」

「理由って……」

「シャーニッド先輩ですか?」

 

 怒りすぎて言葉の詰まっているナルキを遮り、レイフォンが言った。

 ニーナが頷く。シャーニッド?この件にシャーニッドも関わっているのだろうか?

 

 そしてニーナが語りだす。一年の時に所属していた第十四小隊の事、そして第十小隊がディン・ディー、ダルシェナ・シェ・マテルナ、シャーニッドという三人の三年生を起用した事。三人の連携による圧倒的な強さ、それに憧れた事。彼ら三人が新しい時代の運ぶ旗手のように思えた事。そしてその終焉、シャーニッドが隊を抜けた事。シャーニッドが抜けてすぐにニーナは隊を作ることを決心した事。シャーニッドを口説き落として小隊の新設に向けて動いた事。

 

「……わたしが、第十小隊からシャーニッドを奪ったようなものだ」

「それは、違うんじゃあ……」

「事実はそうだが、彼らの感情はそうはいかなかった。許せなかったはずだ。どんな事情かは知らないが、シャーニッドがあのまま、ただの武芸科の生徒でいるだけならこうはならなかったはずだ」

 

 シャーニッドが一生徒のままなら無視もできたのだろうが、十七小隊に入ってしまった。そして十七小隊は無視できないほどに強くなった。……いつから違法酒を使っていたのかは分からないが、その副作用を思えばそう長い期間ではないだろう。そう、それこそ十七小隊が活躍するようになってから、なのかもしれない。だが

 

「ニーナ隊長、その罪悪感は捨ててください。非常に身勝手な上に迷惑です。結局のところどんな理由があろうと違法酒に手を出すと決めたのはディン本人なんです。勝手に罪悪感を持つ方がよほどディンに対して、いえシャーニッド先輩に対して失礼だと私は思います」

 

 勝手に罪悪感を持って、とんでもない行動に出る。これが問題でなくて何が問題だろうか。筋を通したと言ったが、ニーナが筋を通すべきはシャーニッドに対してだと思う。

 

「……迷惑をかけてすまないとは思っている」

 

 ニーナがそれだけ言うと嫌な沈黙が場を満たす。

 

「署に戻って報告させてもらいます」

 

 どれほど経っただろうか、そう長くはないだろう。だが体感時間は非常に長く感じた。ナルキはそれだけ言うと足早にその場を去る。都市警に向かい上司の判断を仰ぐのだろう。私もナルキの後を追う。

 

「ナッキ、ごめんね」

「アニーが謝ることじゃない」

「でもうちの隊長だから……」

 

 警察署に着き、ナルキが慣れた感じで署員に挨拶して奥へと進んでいく。私もナルキにくっついて行く。ダメならダメだと言うだろうという判断だ。

 

「フォーメッド課長」

 

 ナルキが緊張した面持ちで一人の青年に声を掛ける。この前の祝勝会で出会った三十代にしか見えない青年だ。

 

「ん?どうしたナルキ?何かあったか?」

「はい……あの……ニーナ隊長がディンと接触しました」

 

 言いづらそうにした後、意を決したように端的に事実を告げる。

 

「接触?違法酒の捜査のことを話したってか?」

「はい、そのようです」

「んー、そう来たか……、それでディンに動きはあったのか?」

「いえ、その、今接触したと報告を受けまして……まだ何も……」

「まぁいい、よく報告してくれた。こっちでディンに探り入れてみるからしばらく待機しといてくれ」

「はい、あの……はい、了解しました」

 

 失態の報告にしょんぼりしているナルキはそのままフォーメッドの元を離れ、自分の席と思しき場所に向かう。

 

「ナッキ、そんなに落ち込まないで、こんな事で評価を下げるような人じゃないでしょ?」

「ああ、そうだな……」

 

 単に私が声を掛けたから返事をしているだけというのが分かる。これはしばらく復旧するまで放っておくしかないようだ。

 

「じゃあ、レイフォン達が気になるから私行くね」

「ああ……」

 

 それだけ言い残すと私は警察署を後にするのだった。

 

 

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