警察署から練武館に戻ってみるとレイフォン達がどこかに行こうとしていた。
「あれ?どこに行くんですか?」
「ちょっと生徒会長に会いに、な」
「また、勝手な行動をするんですか?」
「む、それは……」
「アニーちゃん、これは俺が決めたことだ、そうニーナを責めなさんな」
シャーニッドがニーナを庇う。シャーニッドの瞳を覗き込む。いつも通りの飄々とした何を考えているか分からない瞳だ。……生徒会長に相談に行く、これは悪手ではないだろうと思う。だがナルキの事を考えると、また独断専行するのかという思いしかない。
そして生徒会長に相談するとなるとただの犯罪から政治の話になる。そうなるとどんな結末が待っているか私には予想できない。シャーニッドはどんな結末になるとしても受け入れる覚悟をしたのだろう。軽薄なように見えてそう言う人物だろう、シャーニッドは。
「……覚悟の上ですか」
「仕方ねぇだろ。あいつらはそういう場所に立っちまったんだから」
シャーニッドはただそう言う。
「はぁ……分かりました。私も付いていきます」
ナルキには悪いが止められそうにない。ならば見届けるだけだ。
案内してくれた女性が通してくれたのは、生徒会長室ではなく使われていない会議室だった。やや間が空いて、カリアンが現れた。
「やぁ、待たせてすまない。それで、話というのは?」
「実は……」
ニーナが事情を話すのをカリアンは黙って聞いていた。違法酒という不祥事なのに、カリアンの表情はかすかにしか動かない。流石都市のトップだけある。ポーカーフェイスはお手の物らしい。
「それで、わたしにどうして欲しいのかな?」
その作り笑いの奥でどんな思考を繰り広げているのか判然としないまま、こちら側の考えを聞いてくる。それにはシャーニッドが答える。
「この時期に問題を起こしたくないのは会長も同じはずだ。できれば内密の処理を願いたい」
「内密に、ね。警察長からはまだ話は来ていないが、まぁ、事実関係はあちらに確かめればいいことだろう。……事実だとして、確かにこの時期にそういう問題はいただけない。かといって厳重注意程度では済まない話でもある。上級生たちからの突き上げや、ヴァンゼの罷免なんてのもそうだ。かといって彼らを見過ごし、このまま放置したとして、一番に問題になるのは武芸大会で使用してしまった場合、だ。その事実を学連にでも押さえられれば、来期からの援助金の問題にもなる。最悪、支援を打ち切られでもしたら……援助金の方はどうでもなるとして、学園都市の主要収入源である研究データの販売網を失うことにも繋がるからね」
すらすらと今後の展開……最悪のパターンを予想していくカリアンの表情は次第に厳しいものに変わっていった。
「では、どうするか?という話だね?」
確認するようにニーナを見るカリアン。
「そうです」
ニーナが頷くのを見て、カリアンは厳しい表情のまま、おもむろに話し始める。
「なら、話は簡単だ。警察長にはわたしから話を通して、捜査を打ち切らせる」
「しかし、それだけでは……」
「もちろん、それだけではないさ。ディン隊長には事故にあってもらう」
「……暗殺する、ということですか?」
ニーナが苦みばしった表情で呟く。
「別に殺す必要はない。半年は本調子になれないだけの怪我をおえばいい……そう言えばもうじき、対抗試合だね。君たちと第十小隊との」
「……それは私たちに『やれ』という事ですか!?」
ニーナが声を荒げそうになるのを必死に抑えている。
「そういうつもりはないさ。君たちがやらなければディン君は不幸にも突然死することになるだろうというだけだ……ところでレイフォン君、神経系に半年は治療しなければならないほどのダメージを与えることができるかい?」
カリアンはこう言ってるのだ。
「……そんな選択を強いないでください、会長」
「……だが、実際他に手がないのも事実なのだよ。これより穏便に済ませようというのが無理な話なのだ。私だって好きでレイフォン君に押し付けようとしている訳じゃあない」
「それは……そう、ですが」
実際私には代案がない。代案なき否定など現状を悪化させるだけなのも分かっている。だが、その選択と重さを全てレイフォンに負わせていい訳がない。
「……レイフォン、できないのならできないと言え」
ニーナが迷いに迷った末、そう言う。それはディンよりもレイフォンの方が大切だという言葉のように私には聞こえた。
「できるさ~」
答えたのは、その場にいた誰でもなかった。ドアの向こうからその声はした。その声を聞くやいなやレイフォンが立ち上がり錬金鋼に手をかける。
「立ち聞きとは趣味がよくない」
レイフォンを抑え、カリアンがそう呟く。
「ん~それは悪かったさ~。だけど、気になっちまったもんは仕方がない。おれっちも、そこの人に話があったしさ~」
ドアが開き、声の人物が会議室に入ってくる。
「ハイア……」
レイフォンが今まで聞いたことのないような冷たい声で名前を呟く。
しかし、驚きはそれだけでは済まない。
「フェリ……先輩?」
ハイアの背後に見覚えのない少女が控えている。その隣に、気まずげに視線を逸らすフェリの姿があった。
「貴様……何者だ?」
一見してツェルニの生徒とは見えないハイアにニーナが警戒の色を見せた。
「おれっちはハイア・サリンバン・ライア。サリンバン教導傭兵団の団長……って言えばわかってくれると思うけど、どうさ~?」
「なんだって?」
サリンバン教導傭兵団、それはグレンダンを有名にした腕利きの傭兵団の名前だった。そんな有名な傭兵団の名前をニーナも知っているようだ。戸惑う様子でレイフォンを見るということはグレンダン関係者だと分かっているのだろう。
私にとっても縁がないわけじゃない。ヨルテムでミィフィが一時絡んでいたからだ。まさかツェルニで出会うことになるとは思ってもみなかったが。
「どうして、できると思うのかな?」
仕方がないと、カリアンが諦めのため息を零してハイアに答えを促した。
「サイハーデンの対人技にはそういうのもあるって話さ~。徹し剄って知ってるかい?衝剄のけっこう難易度の高い技だけど、どの武門にだって名前を変えて伝わっているようなポピュラーな技さ~」
「それは……知ってる」
突然現れたハイアに驚きを隠せない様子のニーナが頷く。サイハーデンというのはレイフォンが所属していた流派の名前だったと思う。レイフォンの事をよく知っている人物なのだろうか。
「だが、あれは内臓全般へダメージを与える技だ。あれでは……」
「そっ、頭部にでもぶちこめばそれだけで面白いことになるような技さ~」
「それでは死んでしまう」
カリアンが顔をしかめた。
「まぁね。それに徹し剄ってのはそれだけ広範囲に伝わっている分、防御策も充実しちまってるさ~。まぁ、ヴォルフシュテインが徹し剄を使って、防げる奴がここにいるとは思えないけどさ~」
「なにが言いたいんだね?」
カリアンが先を促す。
「おれっちとヴォルフシュテイン……まぁ元さ~、はサイハーデンの技を覚えている。おれっちが使える技を、ヴォルフシュテインが使えないなんてわけがない。なにしろ天剣授受者だ。天剣授受者こそいままで生まれなかったけど、だからこそ戦うことに創意工夫してきたサイハーデンの技は人に汚染獣に、普通の武芸者が戦って勝利し、生き残るにはどうすればいいかを、真剣に考えてきた武門さ~。だからこそサイハーデンの技を使う連中がうちの奴らには多い」
ハイアがレイフォンを見る。レイフォンが睨み返そうして、できずにレイフォンは視線を外す。
「あんたは、おれっちの師匠の兄弟弟子、グレンダンに残ってサイハーデンの名を継いだ人物から全ての技を伝えられているはずだ。使えないなんてわけがない。使えるんだろう?封心突さ~」
「封心突とは、どのような技なのかな」
当事者のレイフォン以外を代表してカリアンが聞いた。
「簡単に言えば、剄路に針状にまで凝縮した衝剄を打ち込む技さ~。そうすることで剄路を氾濫させ、周囲の肉体、神経に影響を与える。武芸者専門の医師が鍼を使うさ~。あれを医術ではなく武術として使うのが封心突さ~」
レイフォンが苦虫を噛み潰したような表情になる。これでできないとは言えなくなった。とは言え『やらない』という選択肢はまだ残っているのだが。
「だけど……」
ハイアがさらに何かを言おうとする。それに反応してレイフォンが視線を上げハイアを見る。が、それだけで何も言わない。
「だけど、剣なんか使ってるあんたに、封心突がうまく使えるかは心配さ~。サイハーデンの技は刀の技だ。剣なんか使ってるあんたが十分に使える技じゃない。せいぜい、この間の疾剄みたいな足技がせいぜいさ~」
「それなら、刀を握ってもらえば解決……なのかな?」
カリアンがレイフォンに問う。レイフォンは答えない。何かに耐えるようにただうつむいているだけだ。レイフォンの事情は分からない。分からないから手を突っ込んでいいのかも分からない。ただ分かるのはレイフォンがいろんな物に縛られているということだ。
「すまないが……」
ニーナがゆっくりと手を上げた。
「こちらから申し出たのにすまないが、時間が欲しい」
「……いいのかね?」
「かまわない。そうだな?シャーニッド」
「……だな」
「君たちがそう言うのなら、待とう。だが、試合前までには返事が欲しいね。都市警にはとりあえず逮捕はとどまるように言っておくが、長くとどめておけるものでもないぞ」
「分かりました」
ニーナが立ち上がり、私達も遅れて立ち上がった。とりあえずこの場はこれで終了したのだろう。これから対策を練らないといけない。
「あ、レイフォン君、ちょっと待ってくれないかな」
ニーナの後に付いて部屋を出ようとしたレイフォンをカリアンが呼び止める。
「なんですか?」
「君には少し話がある。悪いが待ってもらえるかな」
「なんでしょうか?」
「悪いけれど、これは重要な話だ。用のあるもの以外に軽々しく話していいものではない」
あからさまに警戒の色を見せるニーナに、カリアンはそう返した。カリアンに譲るつもりはないようだ。
「かまいません。隊長は行ってください」
「…………む」
レイフォンにまでそう言われて仕方なくニーナは部屋を出る。がやはりきになるのだろう何度も振り返りながらレイフォンを気にしている。
部屋を出ると行きに案内してくれた女性が入り口まで先導する。立ち聞きもされたくないらしい。仕方ないので生徒会棟の入り口でレイフォンを待つことにする。
「ニーナ隊長はレイフォンの刀の事、知っていましたか?」
「……いや、知らなかった。あんなに強いのに得意武器ですらなかったんだな……私たちはレイフォンの事をあまりに知らない」
ニーナが悔しげに言う。
「……これから知っていけばいいだけの話ですよ、きっと。それよりも今はレイフォンがどんな選択をするかが気になります」
「わたしはまたレイフォンに負担を掛けることになってしまったな」
「そうですよ。この結末は予想できませんでしたが、これも隊長の行動の結果です」
私がそう言うと、ニーナはバツが悪そうにする。
「まぁ、そうニーナを責めなさんな、さっきも言ったがこれは俺の提案なんだしな……覚悟を決めなくちゃいけないのは俺の方なんだよ」
「シャーニッド先輩が
「……ああ、俺がもっと完璧に壊さなかった結果だからな、俺が後始末するのが筋だろうよ」
シャーニッドがいつも通りの飄々とした態度のまま言い切る。
「はぁ、シャーニッド先輩に半年間動けないようにする技があるんですか?」
「……ねえんだよな、これが。頭を撃つぐらいしか思いつかねぇ」
「そんなあからさまじゃあ……生徒会長が許可しませんよ」
「やっぱ、そうだよなぁ」
そこでみんな黙り込んでしまう。
「あれ?待っていてくれたんですか?」
どれほど時間が経っただろうか、よく分からないがレイフォンとフェリがやってくる。
「ああ、何の話だったんだ?」
「僕が見た謎の生物の話でした」
「それって廃都市で見たっていう?」
「あっ!その事でレイフォンに話したいことがあったのよ」
重い話題が連続して言い出せる雰囲気じゃなかったが、その事で相談したかったのだ。
「アニー?……もしかして見たの?」
「ええ、そうよ。黄金の牡山羊を私も見たわ」
「何もされなかった!?」
レイフォンが私の身を案じる。正直全く危険だとは思わなかったのだが、レイフォンにとってはそうではないのだろう。
「何もされなかったわ、私にはあれが直接害を為すとは思えなかったわ」
「そんなバカな」
「別にレイフォンの感覚を信じない訳じゃないの、私にとってはってだけ」
レイフォンが疑わしげな目線で私を見る。が、すぐに安堵のため息をこぼす。
「私にもあれが電子精霊なのかどうかは分からなかったわ。でもとても悲しい存在のように思えたの」
「悲しい存在?」
レイフォンが繰り返すのに頷く。
「そう、レイフォンは感じなかった?」
「僕は……感じなかった。ただ理解不能な恐怖と危険な物だっていう確信だけがあった」
認識の違いがどこから来るのかは分からないがとにかく状況は共有できた。それで今回はよしとしようと思う。
「そう。それでハイア達はなんて言ってたの?」
「あれはやっぱり都市を滅ぼされた電子精霊で廃貴族って言うらしい。それと滅びをもたらす物で危険だって事は言ってた。他は聞いてもはぐらかされた」
それまで黙って話を聞いていたフェリが唐突に言う。
「あれは強い者に不幸をもたらすそうです」
「強い者?」
そこで全員の視線がレイフォンに集まる。この都市で強い者といったらレイフォンをおいて他には居ないだろう。もしかしてだから危険を感じたのだろうか?いや、何か違う気がする。
「……あれは主を求めていました」
ポツリと呟く。
「そうです。主を求めていました。……その強い者というは主になり得る者という意味だと思います」
「……そう言えば、僕は違うと言われました」
「レイフォンじゃない、強い者?」
「分からないな。何かが足りないような気がする」
ニーナがそう言い、そこで話が途切れる。それでとりあえずこの話題はおしまいになった事が何となく分かる。
次の話題は皆が分かっていた。だが、なかなか言い出せない。
「あのさ、レイフォン、さっきのカリアンの旦那の話だが……」
意を決したのかシャーニッドが話し出す。が、それを遮ってレイフォンが言う。
「僕がやります」
その断定に鼻白むシャーニッド。
「いや……それは俺が……」
「シャーニッド先輩に封心突みたいな技があるんですか?」
「いや、それは……ない、だが……」
「だったら僕に任せてください。死ぬよりはマシな結末でしょう」
レイフォンが言い切る。だがどこか無理をしているような気配がする。
「レイとん……刀を握るの?」
「それは……」
「ねえ、レイとん、なんで刀を握らないのか聞いてもいい?」
悩んだ挙句、レイフォンが頷く。そして語りだす。
「僕は……刀と一緒に育った。でも天剣授受者になるときに、闇試合に出るって決めた時に刀を握らないと決めたんだ。だってそうだろう裏切ったのに何も失わないなんておかしい、そんなおかしな事があってたまるか。だから僕は刀を握らない。そう決めたんだ」
レイフォンが自罰的にそう言い切る。その様が私には悲しい。その理由はとてもレイフォンらしいと思った。レイフォンが一番自分のことを許していないのだ。レイフォンが自分を許せるときが来ることを願う。
「その決意を置き去りにしていいの?」
「だけど!そうするしかないじゃないか!」
そう言われてしまうと弱ってしまう。確かにレイフォンが刀を握らざる負えない状況に追い込まれていると言っていいだろう。そして問題はレイフォンの精神的な物なのだ。どうしても判断の比重が偏ってしまう。
「そんなに背負い込まないでレイフォン、他人の命が掛かっているとは言え、それはあなたの責任じゃない。どんな選択をしようとそれはレイフォンが決めることで、他人である私がどうこう言うことじゃないと思います。……でも私はレイフォンが自分を許せるようになれることを願っています」
「自分を……許す?」
それからしばらくこの問題を議論したが、結局レイフォンが自分がやるという意見を翻す事はなく、それよりもいい案が出ることもなく物別れに終わる。
そして試合当日、自分がやると言い張る割に刀を持つことへの躊躇いを捨てきれないレイフォンはまだ迷っているようだった。事ここに至っては私から言えることはもうない。後はレイフォンの問題だ。既に準備は万端整ってしまっているのだ。
それよりも私にとって驚きだったのはナルキがこの場にいるという事だった。ニーナが警察情報をディンに流した段階で小隊入りの件は白紙に戻ったと思ったのだが、見届けると言って戻ってきたのだ。とは言え全てに納得したというわけではないのだろう。緊張も相まって仏頂面を晒している。
「大丈夫?」
「あまり、大丈夫じゃないな」
声をかけると、ナルキは力なくそう呟いた。
「けっこう緊張している。こういうのは大丈夫だと思ってたんだが……」
重いため息を吐いて顔に手を当てるナルキの表情は暗い。
「しょうがないわよ、初めての対抗試合なんだし……」
私の言葉も歯切れが悪い。ディンをどうするかをナルキに隠したままだからだ。どうしてもレイフォンがディンを壊すという話をナルキにできなかったのだ。ナルキには課せられている役目、相手の
それからしばらくして試合が始まる。私は重い足どりで観客席へと移動する。
「もう、アニー遅いよ!試合始まっちゃったじゃない!」
何も知らないミィフィが膨れる。
「ええ、ごめんなさい。でも今日の試合は見ないほうがいいわよ?」
「な~に言ってんの。ナッキの初試合見ないわけないじゃない」
「……そう、そうよね……」
試合会場では大規模な煙幕が張られた。手順通り進行しているらしい。その事に心が重くなる。
「うわっ、すごい煙幕!何も見えないじゃない!」
ミィフィが姦しく騒ぐがそれが目的なのだ。第十小隊の結末を観客に見せない。そう取り決められたのだ。
煙幕の中からナルキが駆け出て来る。観客がようやく見えた変化に熱響する。その熱狂を背中に受けてナルキが走る。目標は第十小隊の念威繰者を潰す事だ。ナルキは第十小隊の念威繰者へとまっすぐに駆け寄っていく。当然、迎撃の構えを見せる念威繰者、念威爆雷がナルキを襲う。連続する爆発音にメイシェンに襲われるナルキの姿につい目を閉じてしまうのが目に映る。
ボロボロになりながらもナルキは健在だった。そしてナルキが何かを念威繰者へと投げる。取縄だ。取縄は見事に念威繰者を捉え、縛り上げる。身体能力は一般人並みの念威繰者にもうどうすることもできない。そのまま当身を喰らい気絶する。その一連の動きに会場がさらにボルテージを上げる。
念威繰者の無力化という役割を果たしたナルキは踵を返し再び砂煙の中へと消えていく。そして中で争うような音が聞こえるだけで会場からは何も見えない。その事にフラストレーションを溜める私と会場。
「?」
何かを感じる。だが何なのかは分からない。周りを見渡しても何もおかしな事はない。
そして、ようやく煙が晴れた時、そこにはディン倒れているのが確認できる。すぐ手前にはレイフォンが居る。きっとレイフォンがやったのだろう。その近くにはナルキも居る。ナルキはディンの結末を見届ける事になったのだろうか?もし見届ける事ができたとして果たしてそれを受け入れられるのだろうか?今はまだ分からない。
試合終了のブザーが鳴り響く。
観客が困惑を含ませながらも熱狂する。その中、動かないディンをすばやく担架が回収するのが確認する。たまにあることだけにそう目立つこともなかった。どうやら予定通りに事は進んだようだ。その事に僅かに安堵する。
結局、レイフォン一人に全てを背負わせる結末になってしまったその事に忸怩たる思いがあるが、それは押し殺して私はレイフォン達がいる控室に向かうのだった。