アニーのアトリエ~レギオスの錬金術士~   作:Flagile

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第二話 新天地での始まり

 長い旅を経てどうにか無事にツェルニに着いた私達は一時滞在のホテルに荷物を置き、それぞれがやるべき事をやるために別れるのだった。私は荷物の整理と言った細々としたやることを終えると錬金科へと向かうことにした。ナルキとメイシェンはミィフィに引っ張られるように物件探しへと向かっていったので別行動だ。

 

「すいませーん、今年度入学しましたアナスタシアです。錬金科長さんはいらっしゃいませんか?」

「私が錬金科長のヴァルターだ。一年生がどうしたんだ?」

 

 そこには細身の、いっそ痩せぎすと言って良いような人間が立っていた。研究者らしく白衣を纏っており、その白衣に一体何の痕跡なのか分からないような毒々しい跡が複数付いているのがマッドサイエンティスト感を加速させている。とは言え人好きのする柔らかな笑みを浮かべており本質的にそう悪い人間ではなさそうだ。

 

「えっと、錬金術――古式錬金術の事で話があるから都市に到着したら錬金科長さんを訪ねるように書いてありまして」

「ああ、なるほど君が噂の子なんだね。ちょうど良い……早速なのだが生徒会長に会いに行かないか?」

「えっ!生徒会長ですか……この都市の最高権力者なんですよね?そんな人に簡単に会えるのですか?」

「ハッハッハッ、そんな心配は無用さ。何せ君を入学させてアトリエまで任せると決めたのはその生徒会長なのだからな……さっ、付いて来なさい」

 

 そのまま私は錬金科長さんに連れられて錬金科から生徒会棟へと移動する。その過程で錬金科長から如何に古式錬金術、引いては私に期待しているのかと言った話をされる。何でも一昔前のツェルニにおいて古式錬金術は都市運営に欠かせないレベルで貢献していたのだそうだ。特に都市内の売上では他を圧倒していたらしく都市の税収の三割が古式錬金術による物だったなんて伝説もあるそうだ。しかし30年前の事故で本当に数少ない錬金術士が死亡してしまい教育を継続することができなくなってしまったらしい。それでも古式錬金術の伝説はツェルニに残り続けており今でも古式錬金術研究会が存在したり復興できないかと言った検討などがなされていたらしい。

 

「まぁ、古式錬金術は念威操者よりもさらに個人の才能に寄った特殊技能だ。芽がなければどうしようもない」

「そんな時に私が来た、と」

 

 錬金科長からツェルニでの古式錬金術の伝説を聞かされた私は肩にずっしりと期待という重みを感じた。同時にやってやるんだというやる気も湧き出してきた。総じて言えば期待と不安が混じり合った複雑な気分だった。

 

「まぁ、そんな感じだ。もっとも会長はそれ以外にも君に期待しているようだがな」

「税収以外にも何か目的があるんですか?」

「その辺は直接説明されるさ、さっ、着いたぞ」

 

 そう言って木材を削り出して作ったであろう重厚な扉をノックする。受付から既に連絡が入っていたのだろう。待たされることもなく直ぐに入るように中から声が掛かる。ドアをくぐり部屋へ入る。目の前には一人の学生が大きな執務机を前に腰を下ろしている。もう大人だと言われてもなんの問題もないだろう。それほど大人びた青年がそこには居た。胡散臭い笑みを柔和に浮かべた青年が挨拶をする。

 

「やぁ、初めまして私が生徒会長のカリアン・ロスだ」

 

 胡散臭いのに親しみやすいのは政治家向きの人間なのだろう。切れ者の雰囲気はあるがまだ歳のせいか頼り甲斐がありそうではない。とりあえず油断できる人間ではないのは確かだろう。

 

「は、初めまして錬金術士のアナスタシア・リグザリオです」

「カリアン、例の古式錬金術士の新入生を連れてきたぞ」

「そうか、ありがとうヴァルター。それでここに来たということは古式錬金術を実践の中で学ぶ意志があるという事で良いのかな?」

「ハいっ」

 

 緊張からちょっと声が裏返ってしまった。その様に苦笑を浮かべながら生徒会長が話し始める。

 

「さて、君に来てもらったのはもちろん古式錬金術を復興するためだ」

 

 端的にカリアンと名乗った青年が言う。そこで一度言葉を切るとじっと私を見る。その目には何か狂信的な物が僅かに感じられたように思った。だが、決して不快な感じはしない。この青年は胡散臭いが真摯なのだ。そして続ける。

 

「だが、それだけではない。君は現在のツェルニの状況を知ってるだろうか?……おそらくは知らないだろう。現在ツェルニは非常に追い込まれている。簡潔に要点だけ言えば鉱山が残り一つしかない」

 

 再び言葉を区切り、私が理解できるまで一拍をおく。鉱山が一つしかない。鉱山というのはセルニウム、即ち都市の動力源の事だろう。そして鉱山が一つしかないと言うことは都市間で行われる戦争に負け続けているということだ。次に負けたら都市は滅ぶしかないということでもある。

 

「そしてこの問題を解決するためには都市間での鉱山の争い、戦争――学園都市では武芸大会と呼んでいるが――に勝利する必要がある。私は君にその一助となって欲しいのだ」

 

 そう私に向かって告げる。ツェルニが追い詰められている事は分かった。だが、話が大き過ぎて実感が湧かない。

 

「えっと、つまり私は何をすれば良いんでしょうか?」

「何、難しく考える必要はない。そういう状況にあるのだと理解してできることがないか探してもらえればそれで十分だ」

 

 あまり脅しすぎても逆効果だと思ったのだろう錬金科長がそう軽く合いの手を入れる。それに再び苦笑しながら生徒会長が続ける。

 

「まぁ、そういう事だよ。ただ、アトリエを援助する条件として二つ頼みたい事がある」

「頼み、ですか」

「そうだ。一つは優秀な君にとっては簡単だ。錬金科への編入試験を半年以内に突破して欲しい」

「錬金科への編入試験です、か?」

「本来、3年までは一般教養科と一緒に基礎知識を学んでいく。だが一部の優秀な生徒には早くからより専門性の高い道を進んでもらうために編入という制度が用意されているのだ。そして、君にアトリエを任せると言った扱いは錬金科でのものを先取りしていると言っていい。その先取りした状態をできるだけ早く解消して欲しいのだ」

 

 そう言うと分かるかねとカリアンは続ける。これは分かりやすい。

 

「なるほど、さっさと実力を示せ、という事ですね」

 

 私のざっくりとした要約に苦笑いを見せるカリアン。

 

「まぁ、ざっくり言ってしまえばそう言う事だ。次にツェルニでは武芸大会に向けて指揮官やスキルマスターを育成・選抜する仕組みとして小隊という物がある。君にはその小隊付き錬金術士になって欲しいのだ」

「はぁ」

 

 まだ小隊という制度自体がよく分からないし、小隊付き錬金術士になることで何をすれば良いのかも分からないが、小隊に参加することで武芸大会の一助となる調合をして欲しいということだろう。

 

「まぁ、まだ実感が湧かないだろう。詳しい話は錬金科長に聞いて欲しい。ヴァルター任せたよ。……とりあえず君のアトリエでも見てくると良い。生憎と交通の便だけは良くはないが、設備としてはかなりのアトリエを用意したつもりだ」

 

 気に入るといいが、そうカリアンは続けると錬金科長に後を任せて再び何かの書類に目を通し始める。どうやらやはり当然というか忙しいらしい。そんな中でも時間を割いてくれたのはそれだけ期待しているという事だろうか。

 

 錬金科長に促されて退出すると付いて来なさいと声をかけられる。このままアトリエまで案内してくれるようだ。路面電車に乗り、大分長いこと揺られているとドンドンと町並みが変わっていく。研究施設・学校から繁華街へ、繁華街から工業施設へ、そして倉庫街まで来た所でようやく下車する。

 

 私のアトリエは駅のすぐ近くだった。周囲には倉庫しかなく閑散としている。実際電車でここまで来たのも自分たちだけだった。

 

「ここが私のアトリエかぁ」

 

 与えられた住居兼工房――アトリエ――は倉庫街の一角にあった。一般的な錬金科の研究室や工房があるエリアとは大幅に離れており、通学にはちょっと(かなり?)不便な位置――駅からは近いのだがかなり外縁部寄り――にある。この建物は元々錬金術士のアトリエだった物を住居として改修した建物らしく通常の住居よりも遥かに堅牢にできているとの事だった。それを今回再びアトリエとして使用できるようにリフォームしたそうだ。伝統ある良い建物との事だった。

 

 何でも当初は一般的な錬金科の研究室があるエリアにアトリエを作ろうという話もあったらしい。それが実績がないため良い場所を割り当てるほど優遇するのははばかられるとの判断もありここになったらしい。努力と結果次第ではもっと良い位置にアトリエを構えることもできるとのことだ。

 

 私としてはミィ達と離れてしまうことと通学に時間が掛かる事に不満はあれど自分のアトリエを持つことが出来たのだからそこまで大きな不満はない。早速中に入ってみると中は外観からは想像できないほどキレイに仕上げられていた。

 

「わぁ、これが私の釜かぁ、いいじゃない!」

 

 そして、部屋のど真ん中にドンっ!と置いてあるのが錬金術に欠かせない大釜である。大釜も少し古びた様子だが手入れが行き届いており使用するのに問題なさそうだ。他にも調合に必要な乳鉢や遠心分離機と言った基本的な道具も揃っている。

 

「本当にこの釜で調合できるのかね?」

 

 案内してくれた錬金科長が不意にそう尋ねる。やはり最終的に釜であらゆる調合を行う錬金術は珍しいのだとその質問から分かる。

 

「えっ?あっはい。私の錬金術で使うのは主に錬金釜です」

 

 偽りはない。他の道具も使うが最終的に錬金釜に材料を入れてぐーるぐるする事で様々なアイテムを作成することができるのだ。

 

「……そうか、いつか調合を見せて欲しいものだが良いかね?」

「はいっ、いつでも来てください!」

「では、後は任せてしまって大丈夫だろうか?」

「はい、ありがとうございました」

 

 錬金科長は鍵を私に渡すと帰っていくのだった。

 

「ようし、頑張るぞー!」

 

 そう気合を入れると早速使いやすいように家具の配置を変えたり、掃除を始めるのだった。

 

 




錬金術士:素材を入れて釜をぐーるぐるするとアイテムが出来上がる。不思議。

アトリエ:よく爆発する。

古式錬金術:アトリエ世界の錬金術のこと、アルケミストとの関係は不明

新式錬金術:一般に錬金術といったらこっち、科学の延長線上にある技術。

※錬金術に関しては捏造設定だらけなので注意
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