アニーのアトリエ~レギオスの錬金術士~   作:Flagile

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サイレント・トーク、スタートです。
また2巻分終了まで毎日投稿します。


サイレント・トーク
第一話 手紙


 幼生体の襲撃からの復興は一段落したが、錬金科はむしろ忙しさの本番を迎えていた。幼生体から得られる各種生のデータを取る者、今回の件で発覚した問題点を洗い出し、改善要望を出す者。あるいは戦闘終了に伴って錬金鋼の回収や安全装置の設定に奔走する者、いろいろな者たちが騒がしく行き交っていた。

 

 そんなある日のこと、錬金科の生徒を生徒会長が集めた。

 

「この前の汚染獣の襲撃ではご苦労だった。諸君の頑張りによって武芸者達も全力を尽くすことができたと私は思う。さて、今回の襲撃から遅ればせながら汚染獣への対策が必要である事が分かった。都市外を探査し、汚染獣との戦いに備える必要性を私は感じている。そこで、諸君らにはそのための研究開発を行ってもらいたい、詳細はこれより配布するプリントを参照して欲しい。優秀な発明を行ったものには生徒会から報奨金を出す用意があるので挙って参加して欲しい。以上だ」

 

 プリントには都市外を探査するためのアイデアや対汚染獣用の装備のアイデアを募集する旨が書かれている。優秀なアイデアには予算が付き、報奨金も与えられるという。場合によっては研究室を用意することも考えると書かれていた。

 

「う~ん、私には何かできるかな?汚染獣について詳しい人に話を聞いてみようかな?」

 

 そう思い、身近で汚染獣について詳しそうな人間、即ちレイフォンに話を聞くことにする。

 

「レイとん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「ん?アニー、どうしたの?」

 

 生徒会長の演説があった翌日、今日は17小隊の試合の日だった。偶然試合会場へ向かう途中レイフォンと一緒になったので気になっていたことを聞いてみることにする。

 

「うん、実は生徒会が汚染獣対策のためのアイデアを募集してるんだけど、私、汚染獣について全然知らないから詳しい人に教えてもらえないかなって」

「う~ん、確かに戦闘経験は多いけど汚染獣について詳しいって言う訳じゃないから基礎知識くらいになっちゃうよ?」

「うん、それでも良いの。正直今回の件は私にはあまり貢献できそうにないし」

「じゃあ、基本的な知識から行くよ、汚染獣には大きく分けて四種類いるんだ」

「四種類?この前襲ってきたのが幼生体とか言ってたけど……」

「そう、まず生まれたばかりの汚染獣「幼生体」。次に成長した幼生体が脱皮して成体になった「雄性体」。さらに脱皮を繰り返して成長し、繁殖期を迎えると「雌性体」になるんだ」

「ツェルニが踏み抜いた先に居たのが雌性体だっけ?レイとんが倒したんだよね」

 

 前回の襲撃において幼生体と雌性体を倒したことは隊内には知らされていた。というよりニーナ先輩が暴走した結果知ってしまったと言うべきかも知れないが。まぁ、それでもまだ何か隠されている感じはするのだが。

 

「うん、あの時は都市外装備がなかったから大変だったよ」

「今度はちゃんと都市外装備着てよね」

「うん……ああそう言えば、グレンダンでは武芸者によって都市外装備にちょっと差があったんだよ。動きやすさ優先とか色々あったけど、僕はお金がないからいつも支給された安くて動きにくい汚染物質遮断スーツで出撃してたけどね」

 

 とんでもない逸話に一瞬言葉に詰まる。

 

「レイとん……苦労してたんだね……というか都市外装備は個人で用意するものなの?」

「う~ん、最低限の装備は政府から支給されるんだけど、それ以上が欲しければ自分で用意する感じだったね。グレンダンが特別なのかも知れないけど汚染獣の襲来が結構前から分かってるんだ。とてつもない念威繰者が居たからね。で、誰が出撃するとか事前に決められるからスーツもどうするか選べた感じ」

 

 やはり都市によって大きく異なるようだ。ツェルニでは装備の全てが貸与される形になっている。改造する場合にはそれぞれ申請しなくてはいけないと決まっている。むしろ私物にすることが大きく制限されていると言っていい。

 

「なるほど……都市外装備に求めるものはやっぱり動きやすさが一番?」

「そうだね、動きやすさが一番だね。後は技の余波で破れない程度には強度も欲しいね」

 

 都市外で汚染物質遮断スーツが破れる。想像したくないできごとだが、そういう事態も想定しなくてはいけない。一応補修キットも付属しているのだが他にもできることはないだろうか?考えてみる価値はあるだろう。

 

「もしかしてレイとんは都市外では全力で動けない感じなの?」

「いくらか制限はされてるけどそんなのいつもの事だから」

 

 さらっと言われたがこれも大きな問題だろう。何かできないだろうか。

 

「う~ん、分かったわ。何か考えてみるね」

「っと、大分話が逸れちゃったね。えっとどこまで話したっけ?雌性体までだったかな?雄性体は稀に繁殖を放棄して、雌性体ではなく「老性体」になることもあるんだ。ここまで来ると一般都市が壊滅することも覚悟しなくちゃいけないぐらい強い、正真正銘の化け物だ」

「レイとんは戦ったことがあるの?」

「……あるよ、あの時は死ぬかと思った」

 

 本当にレイフォンは何者なのだろうか?とりあえず見かけによらない圧倒的な実力を持っていることは分かる。だがそれ以上は分からない。とても単純なようで複雑な気もするから迂闊に踏み込めもしない。

 

 結局それ以上レイフォンに踏み込めず、その後は他愛のない話をしてそのまま私は17小隊の控え室を訪れていた。

 

「こんにちは~、差し入れにきました」

「ああ、アニーよく来たな」

「はい、これどうぞ、気分がすっきりする刺激的なお茶です」

「もしかしてこの前くれた奴?」

 

 レイフォンが微妙に嫌そうな表情をしている。前回のことでトラウマになってしまったのかも知れない。失敗だ。

 

「そうよ、商品化しようと思ってるから、その試供品ね」

 

 ニーナは早速蓋を開け、慎重にかつ上品に飲んでいる。

 

「ん、これはスゴいな、ガツンとくる。だが、本当に気分がスッキリするな、気に入ったぞ」

「それはどうも。それで試合の方はどんな作戦でいくんですか?」

「ん?ああ、任せろ。こちらは守備側だが人数が少ない。そこでこちらから打って出ようと思う。わたしが囮になっている間にレイフォンとシャーニッドが人数を減らす、レイフォン、シャーニッドいけるな?」

 

 あいまいに頷くレイフォン、任せろというシャーニッド。

 

 その様に僅かに不安を覚える。初陣に比べれば雰囲気は良いのだが、チグハグ感があるのだ。

 

 そして試合が始まる。

 

 一見優勢に見えた17小隊だったが、レイフォンという突出した戦力をいなしきった14小隊がチームワークの差で勝利をもぎ取った。その事を告げるアナウンスを聞きながら私はつぶやく。

 

「やっぱりこうなったか」

「なんだ、アニーこの結果を予想していたのか?」

 

 歓声があがる中でも私のつぶやきを聞き取ったらしいナルキが話しかけてくる。

 

「うん、こうなるんじゃないかなーって、むしろこうなるべきじゃないかなーって」

「えー、17小隊を応援してなかったってこと?」

「違うわよ、ミィ、応援してるからこそよ、時には負けた方が得る物があるって事」

「ふーん、そんなものかなー」

「特にまだ固まってない出来立てほやほやのチームなんてそんなものよ」

「なるほど、一理あるな、やはり中に入って見てると外からとは違うものが見えるのだな」

「中に入ってると入っても一番外側だけだけどね」

 

 まだ色々と隠されていることや明かされていない事がある事は分かっている。そしてそれに踏み込めない私の不甲斐なさも十分に分かっている。

 

――――――

 

 翌日、いつも通りの教室、授業が始まる前のざわついた空気が充満していた。生徒達によって教室のそこかしこで話の輪が生まれたり、終わってない宿題を写させてもらおう奔走したりしている中、レイフォンは自分の机に突っ伏していた。

 

「よっは~おはよう!」

 

 一緒に登校してきたミィフィがレイフォンの無防備な背中を問答無用でたたく

 

「なんだいなんだい、元気ないぞ!」

「げほっ、う、お、おはよう……」

 

 むせるレイフォンにミィフィが明るい声を投げかける。

 

「……ミィちゃん、やりすぎ」

「そうだぞ。レイとんは試合の疲れが抜けてないだろうに」

「レイとん、大丈夫?」

「え~、そんなのもう昨日のことじゃん」

 

 私と一緒にやってきたメイシェンとナルキの言葉にミィフィは頬を膨らまして反論する。

 

「レイとんがそんなのの疲れ残してるわけないよ。ねえ?」

「うん……いや、そっちの疲れとかはほんとぜんぜん、大丈夫なんだけどね」

「……でも、眠そう」

「いや、うんほんと大丈夫」

 

 メイシェンが心配そうにレイフォンの事を見る。それに明らかに空元気と分かる返事をするレイフォン。ナルキにも分かったのだろう。

 

「それにしてはやはり疲れているな、なんだ?もしかして昨夜もバイトか?」

 

 そうナルキがレイフォンを気遣う。深夜のバイト、確かに疲れるだろう。だが、原因はそうではないと思う。

 

「うん……まあね」

「ああ、なるほどねぇ、連続はやっぱりしんどいんだ」

「だな、本腰で対抗戦とかをやるつもりなら、やはり機関掃除のバイトはやめた方がいいと思うぞ」

「いや……機関掃除の仕事はもう慣れたよ」

 

 だからレイフォンに援護射撃するつもりで

 

「レイとんも大丈夫だって言ってるし、休ませてあげたら?」

「でも、どう見ても疲れてるじゃん。バイトでも対抗戦でもないなら何なのか気にならない?」

「疲れてそうだから放っておいてあげようって言ってるんじゃない」

 

 ミィフィと軽い言い合いになる。ミィフィは好奇心旺盛だからたまにこうやって意見が対立する事があるのだ。そして大体ミィフィが折れて、後で私やナルキがフォローするのが一連の流れだ。

 でも今日は違った。レイフォンが居たからだ。

 

「二人ともやめてよ」

 

 不用意にレイフォンが私たちの間に入ってくる。標的をレイフォンに切り替えたミィフィが問う。

 

「じゃあ何で疲れてるのか教えてよ、そしたら満足するから」

「うっ、それは……隊長が……」

 

 結局言う流れになってしまった。ため息を一つつく。仕方がない。ここで遮るよりはミィフィの好奇心を満足させてやった方がマシだろう。

 

「隊長さんが?」

「いや、そうじゃなくて……訓練で疲れてるんだ」

「あーもう、どうせニーナ隊長が負けてからピリピリしてるから気疲れしてるんでしょ?」

 

 レイフォンの煮え切らない返答に私もイライラしてきてつい言葉を挟んでしまう。

 

「う、うん、ちょっと違うけどそんな感じ」

「何よ、アニー最初から分かってたの?」

「なんとなくね」

「ずっこい、アニーがずっこいよー、ナッキー」

「そんなことより」

「そんなこと扱いされた!」

「話が進まん。もうすぐ授業が始まってしまう」

「話?」

「ああ……そだったそだった。もう、メイっちがもたもたしてるから忘れてたじゃん」

「……わたしのせい?」

 

 メイシェンがぶっと頬を膨らませる。

 

「まぁ、ミィの暴走はいつものことだ。ほら、メイ」

「……あう」

 

 ナルキに背を押されて、メイシェンが顔を真っ赤にしながらレイフォンの前にやってくる。

 

「……えと」

「はい」

「……お昼……お弁当作ったから、一緒に食べませんか?」

「え?」

「ほら、あたしたちもレイとんもお昼は外食だからさ、メイが気を使ってくれたのさ」

 

 メイシェンが真っ赤になってこくこくと頷いている。

 

「えと……いいの?」

「……うん」

「ありがとう」

 

 真っ赤なまま頷くだけの機械になっていたメイシェンがレイフォンの素直な笑みに完全に壊れて停止する。

 

 そして、放課後、今日は調合しなくちゃいけないものもないから訓練を見に行こうかな?などと思っていると

 

「もう、メイ、レイとん行っちゃったよ」

 

 ミィフィがメイシェンにそう言う。

 

「あうう……でも」

「でもじゃないでしょ、手紙渡して謝るんでしょ」

「?手紙って何のこと?」

 

 疑問に思って二人に尋ねる。するとレイフォン宛の手紙がメイシェンのところにまぎれ込んでいたという。珍しいこともあるものだと思うが、同時に納得もした突然メイシェンがお昼ごはんを一緒に食べようなどと積極的に行動を起こしたのはこの事があったからなのだろう。

 

「で、読んじゃったと、まぁ、レイフォンなら許してくれるでしょ。……それじゃあ、追いかけましょう。私も一緒に行ってあげるから、どうせ練武館行かないといけないんだし」

 

 そう言ってメイシェンを連れて練武館まで来たところでメイシェンの足が止まる。

 

「メイ?」

「……入って良いのかな?」

「良いに決まってるでしょ、早くしないと訓練始まっちゃうよ」

「う、うん、頑張る」

 

 17小隊の訓練室に入るとそこにはレイフォンと珍しく時間前からシャーニッドとフェリ、そしてハーレイというニーナ以外の小隊員が揃っていた。

 

「こんにちは~」

「こ、こんにちは」

「あれ、アニー、それに……メイシェン?珍しいね、どうしたの?」

「実はメイからレイとんに話がありまして」

「おっ、愛の告白かい?」

 

 シャーニッドがちゃかす。その内容にメイシェンが真っ赤になって固まる。

 

「もう、シャーニッド先輩、メイは恥ずかしがり屋なんだからそういうこと言わないでください」

「あー、悪い悪い、ここまで反応するとは思わなかったよ」

「さっ、メイ、頑張って」

「……あ、あのレイとん、ごめんなさい!」

「え?えっといきなり謝られても」

「こ、これ、レイとん宛の手紙、です」

「僕宛の手紙?」

「間違って配達されて、よ、読んじゃいました。ごめんなさい」

 

 キョトンとした表情をした後、理解が追いついたのか苦笑しながら手紙を受け取る。その表情に怒りのような暗い感情は感じられない。

 

「ああ、誤配かぁ、誤配なら仕方ないよ、良いよ、持ってきてくれてありがとう」

「ほら、レイとんなら許してくれるって言ったでしょ」

「あ、あう、レイとん、ごめんなさい」

「そんなに謝らなくてもいいよ」

 

 これ以上続けさせていてもしょうがないと思った私は口を挟むことにする。

 

「メイ、今日はこれからバイトなんでしょ?」

「わっ、そうだった。レイとんごめんなさい、私行かなくちゃ……」

「うん、バイト頑張ってね」

「はぅ、レイ、とんも頑張ってください」

 

 そう言うとメイシェンはパタパタと走っていく。

 

「そう言えば、ニーナ先輩はどうしたんですか?」

「今日はまだ来てねぇな、珍しいこともあるもんだ」

 

 シャーニッドが答える。レイフォンとフェリも気になっていたらしくこちらに意識が移るのを感じる。

 

「訓練ないのなら、帰ってもいいですか?」

 

 フェリはやる気のなさそうに無表情に告げる。

 

「まぁ、もう少し待ってみましょうよ、フェリ先輩」

 

 そう言うと、無表情ながらムッとした感じで黙り込む。正直未だにフェリ先輩とはどう接して良いのかよく分からない。ただ何となく好かれてはいないような気配だけはするのだ。ニーナが来てないならとハーレイが各自の錬金鋼のメンテナンスを行っていたが、そのメンテナンスが一通り終わってもなおニーナがやってこない。あの堅物な隊長が来ない、流石に異常事態なのではないかと思い始めたとき。

 

「すまん、待たせたな」

 

 そう言いながらようやくニーナがやってくる。

 

「遅いぜニーナ、なにしてたんだ?寝そうだったぜ」

「調べ物をしていたら時間がかかってしまった」

 

 言いながらニーナは訓練場の真ん中まで歩いてくる。いつも通り規則正しい堂々とした歩き方だ。

 

「遅くなったので今日はもう訓練はいい」

「は?」

 

 訓練場の中央に立ったニーナが驚くべき発言をする。見回してみると全員が唖然としていた。普段は無表情なフェリも唖然とした表情をしている事に気付く。非常にレアだ。

 

「そりゃまた、どうして?」

 

 全員の疑問を代表して年長者のシャーニッドが問う。

 

「訓練メニューの変更を考えていてな、悪いが今日はそれを詰めたい」

 

 この前の敗北を引きずっているのは当然としてもそれが悪い方に出ているような気がする。心配だが今は放っておくしかないのだろうか。

 

「個人訓練をする分には自由だ、好きにしてくれ。では、今日は解散」

 

 それだけ言うと、何か言う暇もなくニーナはさっさと訓練場を出ていってしまった。

 

「本当に問題山積ね」

 

 そう呟くと私も訓練場を後にするのだった。

 

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