アニーのアトリエ~レギオスの錬金術士~   作:Flagile

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第二話 秘密

 レイフォンを通して、生徒会長から私に内密な呼び出しがかかった。昼休みに会議室に来て欲しいとのことだ。会議室に行く途中でハーレイと一緒になる。ハーレイも同じように呼び出されたらしい。

 

「一体、何のようかしら?」

「さぁ、でも僕たち二人って事は何か練金科関係なのかもね」

 

 生徒会室に入るとそこにはいつも通り柔和な笑みを浮かべたカリアンと無表情なフェリがいた。そして思いがけないことに先に出ていったレイフォンもそこには居るのだった。

 

「生徒会長、お呼びという事ですが……」

 

 そういいながらちらりとレイフォンに視線をやる。レイフォンも無表情だ。だがどこか緊張した面持ちでこちらを窺っている。

 

「さて、呼び出したのはちょっとした緊急事態がこのツェルニに起こっているからだ」

「ちょっとした緊急事態、ですか?」

「そうだ。現在ツェルニの進行方向には汚染獣らしき存在が確認されている」

「そんな!電子精霊が汚染獣を避けているのではないのですか!?」

 

 ハーレイが驚きの声をあげる。

 

「さて、どういった仕組みで避けているのか我々には知る術はないし、もしかしたらただの死骸という可能性もある」

 

 とんでもない事態だ。とんでもない事態だが私達に知らせる意味はなんだろうか?

 

「それで私たちを呼びだしてその緊急事態に何をしようと言うのですか」

「うん、それなんだが、汚染獣の討伐をレイフォン君に一任しようと思っている」

 

 カリアンが告げる言葉に私たちは絶句する。

 理解がおいつかせるためだろう。カリアンは一拍をおいて続ける。

 

「……これは決定だ。そこで君たちにはその補助をお願いしようと思ってね」

「確かにレイフォンは強いです。ですが、なぜ一個人にこの事態を任せようとするのですか!」

 

 私はカリアンに向かって問いただす。

 だが、カリアンは私を見ていない。

 

「……レイフォン君、任せていいんだね?」

「はい、アニー、ハーレイ、君たちには聞いて欲しいんだ。……僕の出身がグレンダンだって言うのは話したよね。僕は……僕はそこで天剣授受者と呼ばれていたんだ」

「天剣」「授受者?」

 

 突然話が跳んで理解が追いつかない。各都市には強い武芸者に与えられる称号がある。天剣というのもその一つなのだろうか。即ちレイフォンは強いという事を言いたいのだろうか。確かにレイフォンが圧倒的に強い事は知っているからそう言った称号を持っていたとしてもそこまで驚きはない。

 

「そう、グレンダンの秘奥の練金鋼、天剣、そしてそれを扱う十二人の武芸者をそう呼ぶんだ」

「でも……それが何でツェルニに来ることになったの」

 

 そう問題なのはそんな強い武芸者がどうしてツェルニにいるのかということだ。一般的に強い武芸者は都市の宝だ。そう安々と外に出すことはしない。その事を問うとレイフォンは一瞬表情を強ばらせる。

 

「そう……それが僕が話すべき事なんだ。僕は……天剣の名を汚した」

 

 そこからの話は壮絶なものだった。

 孤児院での生活から始まり、地獄のような食糧危機、金を稼ぐためだけに才能(武芸)を費やす日々、そして天剣授受者まで至り、武芸者の力と技を見世物にする闇試合にまで手を出す。そして終焉。闇試合への関与がばれて都市からの追放。

 

「……そんな事があったんだ」

「私はむしろ納得したわ、だから、なのね」

「そう、この問題においてレイフォン君をおいて頼るべき存在などこのツェルニには存在しない」

 

 黙ってこちらを観察していたカリアンが熱のこもった声でそう言う。それを遮って私はレイフォンに質問をする。

 

「一つ質問よ、レイフォン。闇試合に出ていた程度(・・)で追放になったって言うのは本当?」

 

 そう問いかけるとレイフォンは一度驚いたようの表情を見せた後、顔を伏せる。

 

「そうだね、それだけじゃない……僕が最終的にグレンダンを追われることになった結果は、ある武芸者が僕を脅迫してきたのが原因だ」

 

 そこで一度言葉を切るレイフォン。そして意を決したように語りだす。

 

「その人は、天剣授受者を決めるための試合に出る人だった。彼は僕が賭け試合に出ている証拠を見せて、このことをばらされたくなければ負けろと、天剣を譲れと言ってきた……だから、口封じのために試合でその人を、殺そうと思った。……でも、できなかった。……本当の問題はここなんだ。天剣の試合に出れるほどの実力者を圧倒できる者が武芸者の律を守らない、そう一般市民に知られたことが問題だった……僕は、化物だ」

「……なるほど、よく分かったわ」

「アニー?」

 

 天剣授受者という本当に隔絶した武力を持っているということは分かった。そしてそれを扱うのに人と同じ(・・・・)未熟な精神を持っているということもだ。だが……

 

「レイフォン、あなたは二つの罪を犯しました。一つは闇試合に出たこと。闇試合に関しては私はレイフォンを責めることはありませんし、そんな権利もない。それにあなたの失敗は自分の手の長さを超えることをやろうとした、その一点にだけだからです。政治の失敗を個人で取り返そうなんて無理なんです」

 

 レイフォンが怪訝な表情で私を見つめる。

 

「もう一つの罪は殺人未遂を犯したことです。人を殺すのは悪いことですよ、レイフォン。あなたは殺人ではない選択肢を探す努力をしなかった、これはあなたの過失です……でも、レイフォン、あなたはお人好しですね」

 

 そこで一度言葉を切る。できるだけ怖い表情をしていたつもりだが、うまくいっていただろうか?

 

「悪意を持った相手に確固たる決意を持って殺そうとして殺せない、これはもうお人好しとしか呼べないでしょう。……あなたの失敗は自分を理解していない事、他人に頼ろうとしなかった事、この二つです。私から言いたい事はこれだけです。……要するにレイとん、あなたは私の友人だってことともっと友人を頼りなさいってことよ」

「アニー……」

 

 レイフォンの唖然とした表情がおもしろい。

 

「最後にレイとん、私個人はあなたの選択が間違っているとは思わないわ、それに付随する結果も、まぁ、正解とは言い難いのかもしれないけど……私はあなたがした決断を尊重するわ……頑張ったわね」

「僕は……前の都市での事だし気にし過ぎなくていいと思うよ」

「ハーレイ先輩」

 

 レイフォンが感極まったような顔をして口の中で何か呟いている。

 

「さて、まぁ私からもいろいろ初めて聞いた事があったし、言いたいことがあったのだが、大体アナスタシア君が言ってくれたので良しとしよう。とりあえずレイフォン君に任せることは納得してもらえたかな?」

 

 カリアンが話の流れを修正しようと口を挟む。

 

「納得はできないわ……でも理解はした。今はレイフォンに頼るしかないってことは、ね……それが悔しいわ。……一人で戦うと決めたのはレイフォン、あなたなのよね?」

「……そうです」

「そっか、この問題はあなたの手に収まる問題で間違いない?」

「それは……やってみないと何とも、でも負ける気はないよ」

 

 その時のレイフォンの表情はなんと言って良いのか、さきほどまでの唖然とした表情とは全く違う透徹した表情だった。その表情に話を聞いたからではないが歴戦の重みを感じる。

 

「う~ん、微妙な返答ね……まぁいいわ全力を挙げてできる事をするわ」

「僕も手伝うよ、そうなるとアレの実用化も急がないとね」

 

 私とハーレイがそう言うと、どこか驚いたような、嬉しいような顔でこちらを見つめてくるレイフォン。

 

 そこからはいくらか事務的な話をした後、もう昼休みも終わってしまう時間だったため、次回より具体的な話をするために人を集めて行うことだけが決められ解散する。

 

 教室に戻る帰り道、レイフォンと一緒に歩きながら話をする。

 

「レイフォン、今度の件でちょっと話を聞きたいんだけどいいかな?」

「今度の件って汚染獣の事?」

「そうそう、全力で手伝うって言ったけど、何をするのが良いか相談したくて」

「僕で大丈夫なのか分からないけど、分かったよ」

「まず、今回はレイフォン一人で汚染獣のところまで行くことになると思うんだけど、グレンダンと比べて何か不満点とかあったりする?どうにもならないと思ってもとりあえず言って欲しいの」

「そうだね……まずはやっぱり武器かな?天剣以外の練金鋼で剄を全力で流すと爆発しちゃうんだ」

 

 いきなりとんでもない爆弾が出てきた。正直に言って切れないとか戦いづらいは想定していたが全力を出せないというのは驚くべき話だ。なにせ今までの戦いでも全力を出せないまま戦い続けていたという事なのだから。

 

「えっ!そうなんだ。そんなの聞いたことないけど、ハーレイ先輩にはそのことを伝えてある?」

「いや、伝えてないけど……やっぱりまずい?」

 

 そんな重要な事を武器の調整をしている人間に伝えていないというのはありえない話だと思う。いくらどうにもならないと思っても伝えておくべき最重要ポイントだ。

 

「まずいに決まってるじゃない!そういう限界があるって知ってるのと知らないのじゃ武器選びにもいろいろ差がでる筈よ……というかレイフォン、もしかして武器にそんなにこだわってない?」

「えっ!……あの、うん。どうせ全力出せないし……」

 

 大きなため息をつき、これ以上追求しても仕方ないし、武器に関してならハーレイも交えて話をすべきだろうと思い次の話題へと話を進める。

 

「とりあえず、武器の事は分かったわ、詳しい話はハーレイ先輩も交えて今度やりましょう」

「えっ!まだやるの?」

「当然でしょ、私たちはあなたに死んで欲しくないの。それで武器以外はどんな違いがあるの?」

「そうだね、この前も言ったけど都市外装備がゴツゴツして動きづらかったね」

「それも大問題じゃない!」

「大丈夫、さすがにそれは問題だと思って改良をお願いしたから」

 

 また、爆発した私を見てレイフォンが慌てて付け加える。ここでも無頓着だったら自分の命にも頓着しないのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。武器以外に気になる点は改善しようという意志が見られる。

 

「そう、それなら良いんだけど」

「後は戦闘衣がちょっと重いかな?天剣授受者の時とは比べものにならないし、それ以前に使ってたものと比べても重い気がするんだ」

「ふむふむ、それは改善点ね、布が違うのかしら?」

 

 錬金術でも布を作り出すことはできる。軽くて動きやすい布の研究はする価値が十分あるだろう。だが、今回の件に間に合うかと言われると首を傾げざるおえない。何せ専門じゃないから材料の選定や研究から始めなければいけないのだ。今回は錬金科の先輩方に任せるべき案件だろう。

 

「防具関係はそんなところかな?他には……ああ、そうだ長期戦になるかもしれないけどあの栄養補給ゼリーがすごく不味いんだよ。あれはどうにかして欲しいね」

「栄養補給ゼリーね、私の得意分野だし、ちょっとやってみるわね」

 

 ようやく私が役に立ちそうな改善点が出てきたので嬉しくなる。レイフォンが気を使ってくれたのかとも思うが、どうだろうか?

 

「う~ん、思いつくのはこんなところかな?」

「そう、ありがとう参考になったわ、ところで爆弾とかあったら役に立つかしら?」

 

 意を決してこちらから質問をぶつける。爆弾の錬金は未熟だからとだいぶ前にお祖母ちゃんに禁止されていたのだがお祖母ちゃんは既にいない。腕はだいぶ上がったと思うのだが、いまいち踏ん切りがつかなかったのだ。そしてこれは次のステップに進む良い機会だと思ったのだ。

 

「爆弾?そんなこと考えた事なかったけど、どうだろう、あると便利かも?」

 

 しかし、帰ってきたのはそんな曖昧な返答だった。レイフォンだし仕方ないかと諦め次の質問をぶつけることにする。

 

 

 そして放課後、レイフォンは訓練へと行ってしまった。私はいつも通り、ナルキ、メイシェン、ミィフィとお茶をしていた。ミィフィがいつも通りマシンガンのように話しているのを半ばスルーして眼前に置かれたティーカップを傾けながら私は何ができるのか、物思いに耽っていた。悪いとは思っているのだがどうしても思考がそちらの方に逸れてしまうのだ。

 

 そんな時だった。突然喋るのを止めたミィフィが私を見てくる。

 流石に怒らせたか?そう思ったが、その様子もない。

 

「ねえ、アニー、天剣授受者って知ってる?」

 

 突然落とされた爆弾に私は驚く。

 

「ごはっ、ごほごほっ、ど、どこで知ったのそんな言葉」

 

 あまりにも意外な言葉に私は飲みかけていた紅茶を気道に入れてしまう。

 それと同時にメイシェンが小さくなるのが横目に映る。

 

「あっ、知ってるんだ」

「くっ、失敗したわね、ええ、知ってるわ」

 

 どこで知ったのだろうか?私ですらついさっき知ったばかりの機密事項を情報通とは言え一般人のミィフィがなぜ知っているのか。

 

「じゃあ教えて」

「ダメ」

「ケチ、レイフォンに関係する言葉だって言うのは分かってるんだけど」

「そこまでどうして分かったのよ?」

「実はレイフォン宛の手紙がメイっちのところに紛れ込んでね」

 

 あの時の手紙か!そう思い至るも内容を知っているということは読んでしまったということだろう。言われてみれば確かに読んでしまったと言っていたが、こんな事になるとは想像もしていなかった。

 

「メ~イ~」

「はう、ごめんなさい」

「全くもう、でも気になるものは仕方ないわね」

「だから教えて?」

「ダメ、もし知りたいのならレイフォンに直接聞きなさい」

 

 そこは譲れない。知ってしまったものは仕方がないだろうが、勝手に人の口から喋っていい話では決してない。聞くのならレイフォンに直接聞くように言い、口止めしてその場は凌ぐのだった。

 




ここでカリアンにレイフォンの過去話をレイフォンの口から語らせたくて始めた小説でした。この場面を書けて割りと満足です。

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