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「君は、勇者だ」
世界は、私という存在の意味を教えてくれた。
この世に生を受けた瞬間から、私はその重りを背負う義務を与えられている。重りなんて大層なものではないが、言葉にすると、どうしてもこの末節に辿り着いてしまう。
必要としてくれる人々の為に戦い、大事な人を守るために生きる。そうすれば皆は、幸せになれる。ずっと、ずっと信じていた。何故だろう、と疑問に思う事はなかった。私は、何も知らなかったからだ。本当に、何も。
人は食べたことのない果物の味を、言葉では表現できない。甘い。酸っぱい。苦い。不味い。その千差万別、多種多様の味を、頭の深い所が知らないからだ。経験して、反省して、学ぶ。その過程を繰り返していくうちに、真理や真意が見えてくる。傷ついた部分を修復して、また傷ついて。そして何かが理解できるようになる。ほんの、少しだけど。
積もり積もっていく傷跡は、唯一の証明だった。この世界を生きて、獲得した証。経験して、反省して、やっとの思いで得た傷跡。私を構成している殆どは、誰かに与えられたもの。知らない人達が、勇者としての生き方を決める。
全てはその命令通りに。意志を受け、私は操り人形のように行動する。他人から見れば無味乾燥している日常に支配されていた。しかし、不思議と苦ではなかった。自身と、知らない人達の目指すべき理想が手が届くほど近く、声が聞こえないほど離れていたからだろうか。
けれど私が感じる違和感だけは、幾ら生きても拭い去れなかった。服についた染みは洗い流せば落とすことができるが、心の奥底に刻みつけた感情だけは、けして洗い流すことはできない。いつだって私は、その感情に阻害されてきた。
「お前は何だ?」
ただ、単純な一つの問いかけ。影も形もない存在が、静かに空気を吐き出している。その口元が不穏で、不快に満ちている。普通の人なら迷うことなく人間です、と答えるだろう。それが正しい答え。正しい選択。何を迷う必要があるのか。
だが私は自身の正体がわからない。正体を見極めるには基準が必要で、それぞれと比較して判断する。本当は無限大にある筈なのに、周りには一つの基準しかなかった。
自由意志という名の強制的な選択。苦ではない。しかし、嬉でもない。感情は、いつも不足不離に揺れ動いていた。
だから、誰かが決めた『私』へ逃げ込む。
正義を掲げて民衆と王家を守り、平和を取り戻す為に活躍する『勇者』に。
そうしなければ、私を守れなかった。心が壊れてしまいそうだった。こんなに脆いなんて、信じられなかった。でも、これが私であり、勇者であり、この世に生を受けた人間である答えだと気づいたのは、もう残り少ない時間だっただろう。