0.導入
あなたは夢見がちな少年でした。
そのありふれた優しさで、
誰かを幸せにできると、
そう、信じていました。
あなたの環境に付随する声が、あなたの思考を蝕んでいきます。
「どうか。どうかお願いします」
彼等、彼女等はあなたに跪きます。
「私達の大切な子供なんです」
行き場を失った絶望は、涙と自棄に形を変えます。
「その力で、私達を救ってください」
複数の喉から、ひび割れた音が響きます。
あなたは、咄嗟に耳を塞ぎました。
「痛かったでしょう。辛かったでしょう。あなたは、よく頑張りました」
何故、苦しまなくてはならなかったのか。
「もう、頑張らなくてもいいんです」
忘れ去られてまで、生きる価値はあったのか。
「ここで、終わりですから」
ああ、こんなにも捻じ曲がってしまって。
「最後ではなくとも、終わりは確かに存在します」
もう、元には戻りません。
「僕は、嘘をついた」
戻れないんです。
「死ぬために、嘘をついた」
手遅れのようだ。
「だけれど、後悔なんて」
遅かったようだ。
「何一つないんだ」
もう、終わってしまった。
「……」
誰かの声が聞こえます。
それは、
きっと、
もう届かない。
あなたが受けた痛みは何だったのか。
『私の命は何だったのか』
全てに絶望したあなたは、茨の絨毯に横たわります。
目を閉じると、心地よい安らぎに包まれるでしょう。
罪の楔も、平和の礎も、全ての人間から分離して。
人々の記憶から、あなただけが切り取られます。
そして、
細切れになって、
大地に埋もれて、
月日が経つと、
あなたの残滓が、
次のあなたを迎え入れます。
それは、叶わぬ懺悔であり、
慈しみの連鎖が引き起こしてしまった結果です。
誰かが悪者であれば。
誰かが愚者であれば。
悲しみは、生まれなかった。
全ては、ここで収束していたはずだ。
何度、繰り返そうと。
それだけは、変わらない。
きっと、その誰しもが夢を見ていたのでしょう。
救われて、
許されて。
生きてもいいんだと、
笑ってくれて。
呼吸を止めなくても、
傷つけられることはない。
また、
そんな夢を、見ていました。
私は、
繰り返しの中で、
誰かの残滓に、
引きずり込まれました。
目の前の光が徐々に大きくなって。
分解していた意思は一つになります。
終わりが、泡のように膨らんで消えます。
悲しみは、どこか別の方角を向いています。
連鎖が、断ち切られたのです。
ああ。
これで、
やっと……
あなたは幸せを願っていました。
涙でぼろぼろになった祈りは、
誰かの心に届くこともなく、
儚く、静かに沈んでいきます。