ガンプライブ!サンシャイン!!~水の乙女と宇宙を求めるもの~ 作:ドロイデン
「むぅ……」
昴くんの言葉を思い出しながら、私達六人は一先ず落ち着くために部室でお茶をしていた。
「まったく昴くんは……」
曜ちゃんから事の経緯を聞いた梨子ちゃんがため息混じりにそう呟く。
「でしょ。なんかナヨナヨしてたと思ったら今度は噛みついてきて……」
「でも昴の言い分も分かるんでしょ?」
「それは……」
悔しいけど利に叶ってるとは思うけど、それでも
「誰かを始めから切り捨てるなんてやり方は嫌だな」
「……まぁでも、私は今回は先輩の意見が正しいんじゃない?」
「善子ちゃん!?」
なんと外された本人が納得してるという事実に私は驚いた。
「ヨハネ!!……てか逆に聞くけど、そんな仲良しこよしで勝ち進んで行けるほど、全国クラスは甘くはない。チーム戦で敢えて選手なり機体なり、切り札を練習試合に出さないなんてよくあることよ」
「でも、なんで昴くんはそんなに怒ったの?それだけなら諭すくらいで充分に伝わりそうだけど」
梨子ちゃんの言葉は最もだ。私もあそこまで言われるとは思いもしなかった。
「……そういえば先輩、千歌さんに誰かのこと言ってたわよね?」
「ピギ?それって果南さんのこと?」
「あ、確かに」
なんでそこで果南ちゃんの名前が出てくるのか、落ち着いた今だからこそ分からない疑問点。
「果南……?それって誰?」
「私と千歌ちゃんの幼馴染みで、三年生の松浦果南ちゃん。今はお爺さんの怪我で休学して、ダイビングショップで働いてるよ」
「松浦……あぁ、そういうことか」
善子ちゃんは納得したような表情をすると、鞄を持って椅子から立ち上がる。
「善子ちゃん?」
「……私から言えることはそんなにないけど、もしその果南って人を入れるつもりなら、多分一筋縄じゃいかないわよ」
「それって」
「……良い機会だし、自分達のチームのことを知った方が良いんじゃない。少なくとも、何も知らないで東京に行くよりはマシだと思うわ」
「自分達のチームのこと、か」
帰宅後、私は善子ちゃんに言われた事を思い出すと、ベットに横になりながらモヤモヤした頭を抱えた。
「そんなこと、考えたこともなかったな」
今までは、自分達ができることをがむしゃらに精一杯やって来ただけ、それだけしかしてない。だから、余り周りの目がどうだとか考えたこともなかった。
『千歌ちゃん、今大丈夫?』
「梨子ちゃん?」
窓越しに声をかけられ、私はすぐに部屋を出て窓を開ける。
「どうしたの梨子ちゃん?」
「その……」
「?」
梨子ちゃんの言い淀む所に違和感を感じたが、それはすぐに分かった。
「千歌ちゃんは、その、Aqoursについて調べた?」
「Aqoursを?」
「うん、善子ちゃんと昴くんが言ってた事、多分繋がってると思うの」
「繋がり……」
その言葉に疑問に思った私はすぐにスマホを取り出すと、Aqoursについて検索をかけた。
「え……?」
そこに写っていたのは私達六人ではない、とある三人の少女達の、晴れやかな衣装姿がそこにあった。しかも
「これ、三年生の三人だよね」
そう、多少背格好は違うが、確かにそこには見知った三人の顔、果南ちゃん、鞠莉さん、そしてダイヤさんの三人の姿がそこにあった。
「うそ、え、でも……」
慌ててその画像の先を見てみると、そこには数えきれないほどの罵倒の言葉が酷く並んでいた。
「Aqours……二年前に彗星の如く現れ、消えたチーム。全国大会出場候補の一つと言われてたが、とある大会をバトルをせずに棄権。それからすぐに消滅した……」
「多分昴くん、この事を知ってたんだと思う。だから千歌ちゃんにあんなことを……」
言われてみれば確かに昴くんはダイヤさんや鞠莉さんと仲が良かった。いや、それだけじゃない。昴くんが高校生でプロなんてあり得ないことを成し遂げたが、そのスポンサーは小原……つまり鞠莉さんのところ。
思い出すだけであっという間に繋がっていく事実と仮定、それは恐らく全てが真実だという憶測が頭のなかを電の如く奔る。
『鞠莉ですら不可能だったのにお前ができるわけがない』
「あの言葉は鞠莉さん達のことを知ってたから?」
だとすれば辻褄は合う。それに昴くんが本気で怒った理由が意味するのは……
「……梨子ちゃん」
「千歌ちゃん?」
「昴くんって、ホントに不器用だよね」
心配してるのに、それを単純に言葉にしなかった幼馴染みに今年何度目かの怒りが沸いてくる。
「こうなったら東京で、全力で戦って見せるよ私は!!それで昴くんをギャフンと言わせてやるんだから!!」
「ええ!!私も全力でサポートしてあげる」
互いに窓から身を乗りだし、そして手を合わせる。梨子ちゃんと出会ってから何度目かのこれに、互いに笑いながら満天の星空を眺めた。
「……来ると思ってたわ」
薄暗くテーブルライトの光だけが輝く部屋で外を眺めながら、入ってきた親友に視線を向ける。
「用件は千歌っち達を東京に行かせることかしら?」
「……寧ろそれ以外何があるの?鞠莉」
何時になく冷ややかで鋭い言葉を放つ果南は、まるでナイフのように尖ってた。
「昴から聞いてるんでしょ。これは寧ろ千歌っち達の方から言ったことよ。私はただそれを許可しただけ」
「許可したなら分かるでしょ。あの時、私達に何があったのか。今度は怪我だけじゃ済まなくなる!!」
「……」
果南の言ってることも確かだ。それは私が一番に良く知っている。
「だから千歌っち達に諦めろ、言えって?」
「……」
「大丈夫よ。彼女達には昴も着いてるし、あの時とは違うから」
その瞬間、果南の鋭い目がさらに鋭いものに変わる。
「昴、昴って、昴は私達のボディーガードじゃない!!昴は大切な幼馴染みなんだよ!!なんで昴にばかり頼るの!!」
「……」
「あの時も今回も、私達は結局昴に頼ってばかり!!なのに肝心の昴が大変なときに鞠莉は何かしたの?何もしなかったでしょ!!」
それは去年の決勝の後、私は留学中だというのに無理を言って緊急帰国し、心臓がはち切れんばかりにその病室に走った。けど、私は病室に入ることも、声をかけることも出来なかった。
そこで見たのは、複数の医師や看護師に押さえられた昴の姿。聞き手の左にはデザインナイフが握られていて、右手にはまるでリストカットでもしたかのように血が大量に流れていた。
聞けば、記憶復帰における精神錯乱と言っていたがアレはそんな生易しいものじゃない。まるで精神が壊れたとでも言った方が正しかった。
留学先に戻っても、ダイヤに昴の動向をある程度教えてほしいと頼み知ったが、入院中や退院直後は言われなき誹謗中傷でさらに精神を病んだ。メイジン達が立ち上がってもそれは暫く続いた。
そんな中で果南は昴の事を付きっきりで世話をし、やがて昴と果南は一緒になった。ダイヤから聞けば、昴は果南の献身的な態度に不器用ながら依存してたということらしく、また
「もしまた昴に何かあったら、今度は許さないから」
「……果南」
「私は昴にただ幸せであってほしいだけ。そうじゃなくなるなら、私は実力でアンタ達に牙を向くから」
それだけ言って果南は部屋から出ていく。まるで子を守る母のような執念にも似た気迫に、私はまたため息をつく。
「私だってあの時とは違うのよ果南……」
そんな呟きは、一人だけになった部屋に静かに響くだけだった。