ゼロ戦は出ません。
翌朝のことだった。
アルビオンがトリスティンに攻め入ってきたという報が入ったのは。
それもタルブ村が戦場になっているという。
アルマロスは、それを聞いて目を見開き、駆けだそうとしていた。
それをルイズが腕を掴んで止めた。
「アルマロス、どうする気なの? まさか行く気なの?」
「……。」
「あなたが一人で行ったところで何もならないわ。いくらあなたが強くっても相手は大国よ!」
「フォオオン…。」
アルマロスは、やんわりとルイズの手を離させた。
そしてその手を取り、字を書いた。
いずれ敵は、この学院にも攻め込んでくるだろうと、書いた。
「でもゲルマニアに救援を要請すれば…、だって同盟国なのよ?」
「フォオン…。」
恐らく間に合わないとアルマロスは首を振った。
「ダメ…、ダメだよ。行かせられない!」
「……。」
ふるふると首を振るルイズの肩をアルマロスは押した。
するとアルマロス背に、半透明の翼が現れた。
「アルマロス!」
ふわりと浮いたアルマロスを掴もうとルイズが手を伸ばすがそれよりも早く、アルマロスは宙に浮き、猛スピードで空へ舞い上がって行った。
空へ飛んでいったアルマロスを見て、ルイズは居ても立っても居られず、タバサのもとへ走った。
「アルマロスを助けたいの!」
そうタバサに縋りつくように叫んだ。
***
空を飛びながらアルマロスは、胸が痛むのを感じた。
ズキリズキリっと痛むのを堪え、飛び続ける。
やがてもうもうと燃え盛る草原が見え、空に浮かぶ艦隊と、竜に跨った人間達が見えた。
「フォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
アルマロスは、ガーレを装備し、光の矢を竜兵達に放った。
突然の襲撃に対応できなかった竜兵達がたちまち撃ち落された。
腕を振るい、矢の軌道を変え、変幻自在のガーレの動きで次々に竜を撃ち落していく。
艦隊にも穴を空け、手加減なしに破壊していく。
アルマロスを撃ち落そうと砲撃が、魔法が四方八方から飛んでくるが、アルマロスはすべて避け、無効化し、次々に大軍を蹂躙していった。
その間にも胸は痛んだ。
まるで自分の中の何かが削れていくような、そんな気がした。
だがそんなことは構っていられない。
守らなければ。
戦わなければならない。
自分を慕ってくれる人達、自分を助けてくれたルイズのため、戦わなければ、守らなければならないのだと。
そのためならば自分は…。
アルマロスは、歯を食いしばり、ガーレを振るい続けた。
突然の、それもたった一人の襲撃者のより、アルビオンが誇る竜騎兵達は混乱していた。
艦隊も次々に撃ち落されて海へ落ちていく。
見えないほどの速度で撃たれる光の矢に、竜の翼が撃ち抜かれ、鎧ごと体を貫かれる。
「やはり来たか、堕天使!」
「フォオオオオオオオン!」
風竜に乗ったワルドが接近してきた。
アルマロスは、ワルドの突撃を避けた。
ふいにズキンッと大きな痛みが走り、咄嗟に胸を抑えた。
「どうやら万全ではないらしいな!」
ワルドが笑い、魔法を放ってきた。
ライトニング・クラウドがアルマロスの翼に当たり、アルマロスの体が地へ落ちていった。
そこへダメ押しとばかりに周りにいた竜騎兵から魔法や火ノブレスが放たれアルマロスを攻撃した。
「フ…、フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」
絶叫したアルマロスの背に再び翼が発生し、体制を整えたアルマロスは、ガーレを飛ばした。
集まっていた竜騎兵はたちどころに撃ち落されていった。
ワルドの風竜も、そしてワルドも背中を撃たれ、墜落していった。
あらかた竜騎兵を撃ち落したアルマロスは、吐血した。
限界は近かった。
***
タバサの風竜・シルフィードに乗ったルイズは、上空で戦うアルマロスを見つけた。
「アルマロス!」
「危険。」
タバサが言った。
遠目に見て、アルマロスが吐血するのが見えた。
「アルマロス!」
ルイズは、身を乗り出すがタバサが止めた。
タバサは、これ以上は近づけないと言った。
草原にはアルビオン兵で埋め尽くされ、竜騎兵は全滅したが上空にはいまだ多くの艦隊がいる。
ルイズは、自問自答した。
なんとか、なんとかしなければ、アルマロスは…。
ふと自分が持っている始祖の祈禱書を見た。
いつの間にか開かれていた白紙のページに、何か文字が浮かんでいた。
「これは…。」
「なに?」
「もしかしたら…これで…。」
タバサを無視して、ルイズは夢中で始祖の祈禱書を読んだ。
そこには、伝説の系統、虚無のことが書かれていた。
「……エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ…。」
ルイズは始祖の祈祷書に浮かんだルーンを詠唱しだした。
「オス・スーヌ・ウリュ・ルラド…。」
目を閉じ、杖を構え、詠唱を続ける。
「ベオーズズ・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ…。」
アルマロスのことを想う。
彼は命を懸けて戦っているのだ。ならば自分も…。
「ジェラ・イサ・ウジュー・ハガル・ベオークン・イル……。」
長い詠唱の末、ルイズは目を開き、杖を振るった。
強大な爆発が、空に広がり、艦隊を燃やした。
視界にあるすべての人が、ルイズの呪文に巻き込まれた。
タバサは、そしてすべての人々が信じられないものを見た。
今まで散々にトリスティンの、タルブ村を蹂躙していた艦隊が、燃えていく。
小型の太陽のようなそれは光はすべてを包みこんだ。
咄嗟に目を閉じる。
あまりの眩しさに、あまりの破壊力に。
アルビオンの侵攻に対処するべく駆けつけて来たアンリエッタとトリスティン軍も、言葉を失い咄嗟に光を遮った。
それほどの凄まじい光の爆発であった。
くらりとルイズが倒れる。それをタバサが受け止めた。
「アルマロス…。」
「フォオオン…。」
「アルマロス!」
ぼんやりとアルマロスを呼んだら、すぐに声が聞こえてきた。
アルマロスは、半透明の翼を広げて空を飛んでいた。
「アルマロス…。」
ルイズは、涙ぐんだ。
その時、アルマロスがハッとした顔をして、後ろを向いた。
その瞬間。
アルマロスの右胸を、鋭い氷が貫いた。
ルイズが目を見開き、現実を認識するよりも早く、アルマロスが地へ落ちていった。
「アルマロスぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
少し遅れてルイズが絶叫した。
地に落ちていったアルマロスを追って、風竜が降りた先には、氷のつららのようなものに右胸を貫かれ、ぴくりとも動かないアルマロスがいた。
ルイズは悲鳴を上げ、アルマロスに駆け寄った。
ブルブルと震えながらアルマロスに手を伸ばす。
顔に触れると、ひんやりとした感触が伝わる。彼の体温が極端に低いことが分かっていた。だが一層冷たく感じた。
「いや…、いや…いやぁ!」
ルイズは、涙をこぼしながら首を振った。
「アルマロス…、アルマロス!」
名前を呼ぶが、まったく動かない。
「ルイズ…。」
タバサが後ろから話しかけた。
「嘘よ…。こんなの……。」
ルイズは、頭を抱えた。
『落ち着け娘っ子!』
「デルフ…。」
アルマロスの腰に引っかけられていたデルフリンガーが言った。
『氷を抜け! まだ相棒は死んじゃないない!』
「ほ、本当?」
『いいから! 早くしやがれ!』
「分かった!」
ルイズは、アルマロスに刺さっている氷を掴んだ。
「きゃああああ!」
掴んだ途端、凄まじい冷たさで手が火傷した。
「なにこれ!?」
『チッ! こりゃただの氷じゃねぇか…。やべえぜ、相棒…。』
「!!」
『娘っ子、おい!』
しかしルイズは構わず氷を掴んで引っこ抜こうと踏ん張った。
「ううううう!」
冷たさによりジュージューっとルイズの手が、焼けていく。
『愚かな……。』
地の底から響くような低い声が聞こえた。
『我の氷に触れて、なおそこまでするか…。よい根性をしている…。だが、その天使は…。』
「うるさい!」
ルイズは叫んだ。
ゆっくりと、だが確実にアルマロスの右胸から氷の塊が抜け始めた。
『…ほう?』
低い声は、感心したように声を漏らした。
「あああああああああああああ!!」
そしてついにアルマロスの右胸から氷が抜けた。
氷は抜けると、宙で飛散した。
アルマロスの右胸から闇色の煙が出てくる。
「アルマロス! アルマロス!」
ルイズは火傷した手でアルマロスの体を揺すった。
アルマロスの閉じられた瞼がピクピクと反応した。
やがてゆっくりと目が開いた。
「フォオン…?」
「アルマロス!!」
起き上がったアルマロスは、自分の右胸を見て、手で撫でた。するとウォッチャースーツが傷を塞いだ。
「アルマロス…。」
「フォオン!」
アルマロスは、ルイズの手が酷いやけどになっているのを見て驚いた。
「よかった…。」
ルイズは、泣きながらアルマロスに抱き付いた。
『ほう…、大した根性だ…。』
「フォオン!?」
アルマロスは、その声を聞いて宙を見回した。
空が陰っており、空の向こうからその声が聞こえているようだった。
『異界の天使よ…、いや、堕天使か? まさか我と同じとはな…。』
「フォオオン…。」
『我が何者かだと? 我は、この世界で堕天使と呼ばれている者…。名はない…。我は、ハルケゲニアの神により奪われた無様な堕天使よ。我の前にこれからも歯向かうのなら、我は容赦はしない。覚えておけ。異界の堕天使よ。』
そして声は聞こえなくなった。
アルマロスは、自分を抱きしめて泣いているルイズを慰めながら、先ほどの言葉を思い返した。
自分を異界の堕天使と呼んだ相手は、この世界の堕天使らしい。
先ほどの氷の矢も、その堕天使が放ったものだろう。
最近降っていた不吉な雪も、その堕天使によるものだとしたら、何かもっと不吉なことが起ころうとしているのかもしれない。
例えそうだとしても自分は……。
アルマロスは、ルイズを抱きしめた。
必ず守ってみせる。
そうアルマロスは決意した。
メッチャ難産でした。
ただハルゲニアの堕天使に一撃を喰らうというのは、決めていました。