無事凌牙の魂が帰ってきてから数日後……
「昨日はひなたさんがずっと傍にいたなの!だから今日は私の番なの!」
「歓那。アンタのこと、認めたわけじゃないからね」
放課後、教室で何故か私を巡って火花を散らすひなたと化野さんがもはや日常の光景としてクラスメイトにも認知され、「ああ、また始まったよ」程度の認識で終わるようになってしまった今日この頃です。全く、いつもので流される身にもなってくださいよ。いつも勝手に収まるの待ってるので収拾のつけ方を身に着けなかった私にも責任があるのかもしれませんが。
「こうなったら!」
「決闘よ!」
「「決闘!」」
化野 歓那
LP 4000 手札 5枚
夏乃 ひなた
LP 4000 手札 5枚
「こっちが先攻なの、ドロー!〈終末の騎士〉を召喚なの!〈終末の騎士〉の効果でデッキから闇属性モンスターを墓地に送って、カードを2枚伏せてターンエンドなの」
〈終末の騎士〉攻撃力 1400
ぼたんは基本的に何を墓地へ送ったかは宣言するようにしているが、周囲の人々は意外とそれを行わない。主な理由は二つ、まず一つはいちいち宣言するとテンポが悪くなるから。特に序盤に墓地肥やしを行う場合、あまりそれに執心していると観客の興が削がれるというプロデュエルというものがあるが故の理由と、もう一つもプロデュエルに関連する事柄だが、死者蘇生などのカードによって新たなカードが出てくるというインパクトを与え続けることで観客を沸かすためである。これがいちいちエースカードを墓地に落とす宣言をしてしまえば、蘇生カードで帰ってくるなという先の展開が読めてしまうからだ。そして、この先の展開が読めるというのは主に本場アメリカにおいてウケが非常によろしくない。このような理由から、デュエルモンスターズで墓地へ送るカードはあまり宣言されないのである。
「アタシのターン、ドロー!〈暗黒界の雷〉を発動よ!デッキ側のセットカードを破壊するわ!」
「させないなの!チェーンして〈針虫の巣窟〉を発動!私のデッキの上から5枚を墓地に送るの。これでカードを破壊できなくなったことによって、貴女は手札を捨てることが出来ないなの!」
「言われなくても分かってるわよ!〈暗黒界の取引〉を発動!お互いに一枚ドローして手札を一枚捨てるわ。この効果で〈暗黒界の策士 グリン〉を捨てて、グリンは手札から捨てられたときに魔法罠カードを一枚破壊できるわ。セットカードを破壊!」
「破壊されてやるわけにはいかないなの!〈デーモンの雄叫び〉発動なの!ライフポイントを500支払って、墓地の〈ヘル・エンプレス・デーモン〉を特殊召喚なの!そして手札から捨てた〈トリック・デーモン〉の効果で私は〈ジェネラルデーモン〉を手札に加えるなの」
歓那 LP 4000→3500
〈ヘル・エンプレス・デーモン〉攻撃力 2900
「〈暗黒界の門〉を発動よ!〈暗黒界の門〉の効果で手札を捨てて一枚ドロー!手札から捨てられた〈暗黒界の武神 ゴルド〉の効果で自身をフィールド上に特殊召喚!〈暗黒界の門〉の効果で悪魔族モンスターの攻撃力は300アップするわ!」
〈暗黒界の武神 ゴルド〉攻撃力 2300→2600
「〈暗黒界の門〉で強化されるのは〈ヘル・エンプレス・デーモン〉も同じなの」
〈ヘル・エンプレス・デーモン〉攻撃力 2900→3200
「狙いはそっちじゃない!〈暗黒界の武神 ゴルド〉で〈終末の騎士〉を攻撃!ブロウ・オブ・ダークネス!」
〈終末の騎士〉 攻撃力 1400(戦闘破壊)
VS
〈暗黒界の武神 ゴルド〉攻撃力 2600
歓那 LP 3500→2300
「きゃあっ!」
「アタシはカードを1枚伏せて、ターン終了よ」
「〈デーモンの雄叫び〉の効果で特殊召喚されたモンスターはエンドフェイズには破壊されるなの。だけど〈ヘル・エンプレス・デーモン〉の効果発動なの!このカードが破壊されるとき、墓地から闇属性・悪魔族・レベル6以上のモンスターを特殊召喚できるの!来て!〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉!」
〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉攻撃力 3000→3300
化野 歓那
LP 2300 手札 3枚
〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉攻撃力 3300
夏乃 ひなた
LP 4000 手札 2枚
〈暗黒界の武神 ゴルド〉攻撃力 2600
セットカード1枚
「私のターン、ドロー!手札の〈ジェネラルデーモン〉を墓地に送ってデッキから〈伏魔殿―悪魔の迷宮―〉を手札に加えて発動するなの!〈暗黒界の門〉はなくなるがいいの!〈伏魔殿―悪魔の迷宮―〉の効果で私のフィールド上の悪魔族モンスターの攻撃力は500ポイントアップするの!」
〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉攻撃力 3300→3000→3500
〈暗黒界の武神 ゴルド〉攻撃力 2600→2300
「〈ジェノサイドキングデーモン〉召喚なの!このカードは「デーモン」がフィールドにいないと召喚できないけど、〈戦慄の凶皇―ジェネシス・デーモン〉がいるから大丈夫なの!」
〈ジェノサイドキングデーモン〉 攻撃力 2000→2500
「バトルなの!〈ジェノサイドキングデーモン〉!〈暗黒界の武神 ゴルド〉に攻撃なの!」
「ふっ、読みが甘いわね。〈聖なるバリア ―ミラーフォース―〉発動よ!」
「ふえぇ!?そんなぁ……何も出来ないよ、ターンエンド」
「それじゃ、これで終わりね。私のターン、ドロー!〈暗黒界の武神 ゴルド〉で直接攻撃!」
「いやぁぁぁぁあ!」
歓那 LP 2300→0
Win 夏乃 ひなた
「また負けた……、ぼたん先輩ぃ……アレ?」
「いないわね」
「ああ、澱姫なら……」
一人の男子が語るにはどうしてぼたんがいなくなったのか、それは1ターン目が終了したあたりに遡る……
「カードを2枚伏せて、アタシはターンエンドよ」
ここまでぼたんも普通にデュエルを観戦していたのだが……
「あ!ぼたんちゃん!いいところに!着いてきて!」
と、廊下を歩いていた女子に腕を引っ張られどこかへ連れて行かれたのである。
「アンタねぇ!どうして引き止めなかったのよ!」
「澱姫を引っ張っていけるような奴相手に俺が太刀打ちできる訳ねぇだろ!?」
「ったく、使えないわね……で、誰よ。ぼたんを連れて行ったのは」
「ピンク色の髪をした奴だったと思ったが……やめろって!見たのが本当に一瞬なんだって!」
ひなたがネクタイを使って男子生徒の首をギリギリと締め上げたがそれ以上の情報は出てこなかった。
「ごっふ、夏乃は澱姫のこととなると途端に暴力的になるのがいけねぇよなぁ……」
「何か言った?」
「いえ!なんでもございませぇん!」
「嶺さん!そろそろ事情を説明してくれてもいいんじゃないですか?」
「まだ駄目、事務所まで着いてきて!」
その頃ぼたんは、学生アイドル嶺開花に手を引かれ、彼女の事務所まで走らされていた。
「松田さん!代役できそうな人連れてきたよ!」
「え、代役ってどういうことです?」
「まぁまぁ、そこまで損な話でもないから大丈夫だよ」
嶺は具体的な内容をはぐらかしながら事務所の中へとぼたんを引っ張っていく。
「嶺ちゃん!彼女が代役候補かい?」
「そう、どうかな?」
中にいたグレーのスーツを纏った男性が値踏みするようにぼたんを頭の上からつま先まで見回す。
「えと、あの……私みたいなデカ女はアイドル的な需要はないと思いますけど……」
当のぼたんはやや引き気味になり、顔も引きつっていた。
「ふむ、身長190cm、上から92/66/90といったところですか。素晴らしい体形ですね」
「ひっ」
松田の発言にぼたんは完全に一歩退いた。3サイズを当ててくるような男相手に引かない女子もいないだろう。
「ああ、反応見るに当たってるね。やっぱ、引くよねー」
「そもそも私なんで連れてこられたんですか!変態に見せるためですか!」
「あー、ごめんね。ちゃんと説明するとね」
ゴールデン枠の番組である、Skip!up!Music!の来週の放送がアイドルデュエリスト特集だが、この事務所に所属しているアイドルデュエリストは2名。嶺開花と蝶野さなぎ。そしてこのタッグで番組に出演するはずだったのだが、なんと蝶野さなぎにダブルブッキングが発生し時間的に猶予のあるこちらの番組を切らざるを得なくなったそうな。そのため、撮影日までにアイドルデュエリストとして一応の体裁を保てそうな人材を探していたとか。
「はぁ……いえ、別に協力するのはかまいませんがね」
ぼたんとしては嶺開花と付き合いが無いではないため、無碍にするのもどうかと思い、この話を受けることにした。
「素晴らしいよ!嶺ちゃん!」
「やったぁ!これであとは当日までにぼたんちゃんを仕上げるだけだね!」
「え、あの……ちょっと待って下さい!?」
ぼたんの悲痛な叫びは聞き入れられずダンスレッスン教室へと拉致られることになった。
「はい、ワン、ツー!ワン、ツー!」
「あの、嶺さん?これ、サイズ足りてませんよね?」
「あー、ごめんね?ウチにぼたんサイズの人ってあんまいないからさ……」
「そうですか……」
ぼたんは身長を気にしているようだが、嶺が気にしているのは別の場所であり、会話がかみ合っているように見えて実はかみ合っていない。
「アナタ、センスあるわね!このままほんとにアイドルデビューしちゃったら?デビューがゴールデン番組なんて普通は出来ない経験よ」
「やりませんよ!?やりませんからね!?」
「あら、ほんとに応援ってだけなのね。勿体無い……」
ダンスコーチからそんな風に声が掛かる。一応事情は説明されているらしい。
「にしても……たった2時間でもう振り付け完璧じゃない。やっぱりセンスあるわね!」
「まぁ、演劇部の手伝いとかで振り付けを覚えるような機会が多かったですから。そのせいかもしれませんけどね」
「んもぅ、それにしても手足が長くてダンスが映えるわね!これは逸材だわ!」
「どれだけ褒められようとやりませんからね!?」
「あら、残念」
その後もほぼ特訓不要で完璧にこなしていたのだが……ひとつ、ぼたんのある弱点が露呈してしまった。
「はい、笑って、笑って!」
こう……ですかね?
「ぼたんちゃん、頬が引きつってるよ!もっとリラックスして!」
え、と……こうですか?
「スマイルだよ!スマァイル!大丈夫、ぼたんちゃんなら出来るって!」
こ、こうですか?いいかげん、表情筋がキツいのですが……
「頑張れ、頑張れ、出来る!気持ちの問題だ!どうしてそこで諦めるんだ、そこで!」
・
・・
・・・
「死滅しました、これは完全に表情筋が死にました」
珍しくぼたんがノックアウトされていた。
「いやぁ、今日の先生凄かったね。あんなに厳しくやってるの初めて見たよ」
「他人事ですねぇ……こちらは非常にキツいものがありましたよ。やっぱりプロの世界は容易に足を踏み入れていいものじゃありませんって。他の事務所とかにパートナー頼んだらいかがです?」
「もう断られたあとなんだよね。そもそもアイドルしながらプロリーグに出てもおかしくない腕前のデュエリストが少ないって言うのもあるんだけど」
「私なんてプロデュエリストには及びませんよ」
そう応えるぼたんの顔には卑屈な自嘲が色濃く映っていた。
「そうかな?アタシはぼたんちゃんの腕前はプロに通用するレベルだと思うけどな。ぼたんちゃんの実績が無いのって大会に参加してないからでしょ?」
「ええ、まぁ。強くなることに興味があるわけじゃないですしね。楽しければそれでいいんですよ」
カラカラと笑うぼたんの瞳は刻一刻と沈み行く赤を捕らえていた。
「そういうものかなぁ?」
「そういうものです。ああ、そういえば嶺さんのデッキってどういうデッキでしたっけ?」
「ん?アタシ?アタシのデッキは魔力カウンターを多用するデッキだよ」
「ふむ、了解です。タッグデュエルをするからにはパートナーらしいデッキも用意しなくてはなりませんからね」
「別に暗黒界でも大丈夫じゃない?」
「暗黒界は絵面的にまずいでしょうよ。仮にもアイドルの使うデッキなんですし……蝶野さんのデッキは何なんですか?被らないほうがいいですよね」
「えっとねぇ……さなぎちゃんのデッキはマドルチェだったかなぁ」
「ああ、可愛くて強いデッキですね。アイドル的にもデュエリスト的にも問題ないラインですし、魔法使い族もいるはずですから嶺さんとの相性も極端に悪くは無いと……まぁシャトーとエンディミオンがカチあうのをうまく処理できればという前提が付きますけどね」
「ぼたんちゃんってデュエルのことは何でも知ってるよね」
「知らないカードだって山のようにあると思いますよ?何せデュエルモンスターズの世界は広いですからね。私自身もカードプールが広いという自負はありますけどね」
話に一区切りつき、帰ろうという時間には陽は完全に落ち、夜の闇が広がっていた。
今回は特に新規のデッキなどが出てこなかったので日常風景でも流しましょうか
~他愛の無い会話~
嶺「ぼたんっておっきいよね」
ぼたん「まぁ鍛えてますから?」
嶺「ううん、胸の話」
ぼたん「知ってましたか?大胸筋をちゃんと鍛えると土台が高くなる分大きく見えるんですよ?」
嶺「それ抜きにしてもおっきいよね?」
ぼたん「それはちゃんと食べてるからじゃないですかね?ダイエットとか言って食事を抜くのは感心しませんよ?ちゃんと一日7食食べましょうね」
嶺「どう考えても多いから!」
ぼたん「大丈夫ですって、鍛えてたら肥満にはなりませんよ。食べてるだけだったらどうなるか保障しませんけどね」