午後6時を少し過ぎた頃、学園艦の船尾展望甲板からは、淡い紫とオレンジのグラデーションのかかった空を反射してキラキラと光る海が見え、ちょっとしたデートスポットとして有名だ。
ここ大洗学園学園艦の船尾展望甲板は小さな公園になっておりやって来た人は設置された望遠鏡で海を眺めたり、ベンチに腰掛けて黄昏れたりして思い思いの夕方を過ごしている。俺はベンチや望遠鏡には近寄らず転落防止手摺によりかかって静かに溜め息をついた。
今日の事を思い出してもう一度大きな溜め息をつく。
「戦車道か…………」
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〜数時間前〜大洗学園生徒会室
ここ大洗学園が共学化したのは去年の事だ。俺が入学した去年の男子は俺を含めて5人程、今年の新入生は増えたと言っても一クラスに1人か2人程と聞いた。俺の上はまだ女子校時代だった為男子生徒はおらず、俺を呼び出した生徒会も当然女子生徒しかいない。
大洗学園の生徒会は横暴なやり方で有名だ。噂では学園長よりも強い権限を持っているらしい。あくまでも噂だが。
「2年の
空き教室ではなく専用の部屋があてがわれているあたり噂は本当なのかもしれない。木製の丈夫そうなドアは見た目とは裏腹に軽く開いた………訳でなく中から生徒会副会長の小山柚子先輩が開けてくれたのだ。
小山柚子副会長。おっとりした性格と学年トップクラスの成績で人気もトップクラスだ。
「どうぞ入って」
「失礼します」
「おぉ〜来たね」
近づいて来たのは栗色の髪をツインテールにした中学生………ではなく高校生。しかしこの少女こそ学園の権力のすべてを統べる生徒会長角谷杏先輩である。
「まぁ座って座って」
「ありがとうございます」
小山先輩がお茶とお茶請けの干し芋を出してくれる。干し芋は大洗学園学園艦の名物の1つである。授業や部活で育てられた芋を使用し、学園の収入の一部を担っている。
「それで呼び出された理由をお聞かせください」
「簡単に言うと今年から戦車道を復活させるから履修してねって話」
「なっ!…」
聞き間違いだろうか?今会長は何と言った?
「すみません、もう一度お願いします」
「だーかーらー、今年からウチも戦車道やるからよろしくね〜」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。
「はぁ……ちなみに拒否権は?」
「ない!」
なぜ俺に戦車道をやるように迫ってきたのか。残念なことに心当たりが大いにある。
戦車道はもともと女性の為の武芸でだったが数年前に『女性だけでは男女差別になるのではないか』という世界的な運動により男性も女性に混じって戦車道を始めるようになった。そして日本でも戦車道連盟に男性初の理事長として児玉七郎氏が就任した。
心当たりとは俺も中学までは戦車道をやっていたのだ。だが今はもうやってない。中学3年の夏俺の搭乗する車両で事故がおきた。中学大会決勝戦で俺の無茶な命令により装填手が手首を閉鎖器に挟み切断してしまったのだ。あれ以来チームメイトに顔を合わせるのが怖くなり、逃げるように
その装填手が今も戦車道を続けているのかは知らない。もし辞めてしまっていたら……戦車道をする俺を見て何を思うだろうか。続けていたら彼にまた会うことは出来るのだろうか……彼に謝る事が出来るだろうか。
「お〜い、佐久間く〜ん」
「す、すみません」
小山先輩の声で我にかえる。
「顔色悪いよ?大丈夫?」
「大丈夫…です。戦車道頑張ります…」
「おぉ〜ありがとね」
「ありがとう佐久間君」
「すまないな佐久間」
あ、河嶋先輩いたんだ。
「んじゃ、話は終わりだから帰っていいよ」
「はい。失礼しました」
生徒会室を後にした俺は学校で残りの時間をどのように過ごしたのか覚えていない、気がつけば放課後になっており、海を眺めたいと思い船尾展望甲板を目指したのはかろうじて覚えている。
批判、感想お待ちしております。