錬鉄の魔術使いと魔法使い達〜異聞〜 剣の御子の道 作:シエロティエラ
はい、時間が取れたので更新します。ハリポタでの予告通り、今回はこちらの小説を更新します。あと今のうちに言いますが、次回は本編ハリポタを更新する予定です。
それでは皆様、どうぞごゆるりと。
「ガアアアアアアアアアア!!」
商店街近くの一角で若い男の雄叫びが響き渡る。声をあげた少年は、何やらドロドロとしたヘドロのようなものに飲み込まれており、それに必死に抗っている。特異能力だろう、手から爆発のようなものを出しているが、ヘドロで抑えられてしまう。ヘドロのほうも意思があるのか、少年を取り込もうとウニョウニョ動いていた。その周りには野次馬に混じり、妙なスーツを着た人が何人もいたが、誰も手を出せないでいた。
「成程、この世界はヒーローが仕事として存在しているのか。まるで虎徹さんやバーナビーさんのようだな」
とはいえ、彼らの使っている力はどうやらNEXTとは別らしい。野次馬の声が聞こえてくるが、どうやらこの世界の人間は、殆どア『個性』という能力を持っているようだ。そしてその中から、「悪」に走るものやヒーローになるんのがいるらしい。
「というか、なんでヒーローは彼を助けない? まさか『個性』とやらの相性で手を出さないのか? 子供が助けを求めているのに?」
こちらが手を出せば世界のバランスに抵触する可能性があるが、何故彼らは助けない。下手すると少年は死んでしまう。一人学生服の少年が飛び出したが、見た限り能力も何も使わず、ただ闇雲に突っ込み、手を伸ばしているに過ぎない。
しかしそれが尊いように見えた。自己犠牲ともとれる蛮勇。自らの身の安全を度外視する行動、まるで己の父親を見ているような感覚に襲われる。それでも動こうとしないヒーローたちに無性に腹が立った。
ここで彼らを助けなければ、己が世界の家族に顔向けができない。そう考えてからは行動が早かった。建物の上から飛び降り、拳を構えてヘドロ野郎に突っ込む。
「一つ音を超え、二つ間を無くし、三つその剣を絶つ!! 少年、どけ!!」
「え? は、はいい!?」
「『破突拳』、散り爆ぜい!!」
四歩目の時にヘドロに拳を突き刺す。魔力も属性も込めたその拳により、打ち込んだ拳とは反対側のヘドロが弾け飛んだ。それにより、中の少年が脱出できるほどの隙間と穴が開く。
「かっちゃん!! このおお!!」
「デクっ、俺一人でも……」
「いいから、逃げるよ!?」
少年が学生服の少年が人質の少年を連れ出し、逃げ出す。それを見届けたときにヘドロ野郎が形を取り戻し、こちらに向き直った。
「オレの邪魔をしやがって……でもお前のほうがいい隠れ蓑になりそうだな」
「……は?」
「決めた、お前を隠れ蓑にする!!」
こちらに吹き飛ばされたことなど忘れたのか、今度は俺を取り込もうとする怪人。さて、ヘドロなら乾燥させて砕くなり、硬化させて砕くなり出来るが。流石にこれ以上注目を集めるのはまずいのかもしれない。そう考えていると。
「君に諭しておいて、己が実践せぬとは!!」
そう叫びながら、一人の筋肉モリモリマッチョマンが飛び込んできた。その顔は不敵な笑みを浮かべており、その金の前髪は「V」の字のような形をしていた。そしてその男も、拳を構えてこちらに突っ込む。
「プロはいつだって命懸け!!!! DETROIT SMASH!!!!」
その男のパンチにより、ヘドロは木っ端みじんとなり、空に浮かんでいた雲までもが吹き飛んだ。というか、よくそれだけの風圧に建物が耐えられるな。元の世界なら一軒や二軒は吹き飛んでいるだろう。
まぁそれは置いといて、どうやらこの男はこの世界でとても有名なヒーローらしい。スカイハイみたいなものだな。観衆とヒーローの視線がそちらに向かっている。ならこれを利用しないわけがない。志貴さん直伝の気配遮断でその場を後にする。さて、先程の少年を探そうか。
友人? を助けようとした少年は、それからしばらくして見つかった。そのころにはもう日も傾きかけ、夕方になっていた。何やら先ほどの大男と話していたから隠れていたが、どうやら話は終わったらしい。能力を解除したのか、ガリガリに小さくなった男が去ったので、オレは少年の前に出てきた。
「やぁ、少しいいかな?」
「え? ああっ、昼間の!?」
「ああ、初めましてだな。オレは衛宮剣吾、きみは?」
彼は緑谷出久、この世界では珍しい『個性』を持たない人種らしい。だが昔からヒーローへのあこがれを諦め切れず、これまで過ごしてきた。そして先ほど、大男―オールマイトというらしい―の『個性』を受け継ぐことによって、ヒーローへの道の光明が見られたそうだ。
「そうか。緑谷君、一つ問うぞ」
「は、はい」
「……『ヒーロー』と『正義の味方』、その違いは何だとともう?」
「え? 『ヒーロー』と『正義の味方』、ですか?」
『正義の味方』と『ヒーロー』、一見この二つの言葉に大きな差はないように思える。だが決定的に違う。『正義の味方』はそれ即ち、その時代の正義に則った守護者であり、大衆正義と相反する者であればすぐに断罪される。警察や公安は、ある意味この『正義の味方』のカテゴリに当てはめることができるだろう。
では『ヒーロー』は? 『ヒーロー』と呼ばれるものは、得てして超人的能力で英雄の様な立ち回りをする人を指す。その拳を振るう理由は大衆正義と己が正義が込められている。
それを考えるのなら、俺や父はダークヒーロー、アンチヒーローに位置づけられるだろう。己の義に従い、拳を振るい、剣や銃、弓を手に取ってきた。そしてその行動が偶々大衆の正義と合致し、英雄だなんて称号を与えられてしまった。
「……ごめんなさい。すぐに答えを出せそうにないです。でも」
「うん?」
「とても、とても大事な問いということは分かります」
そうか。というか、オレも初対面の少年にこんなこと聞くべきではなかった。少々大人げないどころか、礼儀もあった者じゃないな。だが、この質問の意味を察しているようなら、彼は下手に間違えた道に入ることはないだろう。
「すまなかったな。こんな質問をして」
「あ、いえ。僕も思うことがありましたから」
「そうか。そう言ってくれると嬉しいな」
しかしオレの話に何か感じたのか、彼は真っすぐな目をしてこちらを見た。彼は一体どれほどの絶望を味わっただろう。本人は隠しているのだろうが、暴力を振るわれたところを庇うような動きをしている。オレやそういった経験があるもの、オレの同業者やそれに近い者だけが気づく程度のものだが。その暴力は、恐らく彼が『無個性』だから、弱い者いじめとして暴力などを振るわれていたのだろう。それでも自分の夢をあきらめないのか。
「……君は、真の『ヒーロー』になれるかもしれないな」
「え?」
「一つだけ、これだけは覚えていてくれ。
「……はい」
「君も見ただろう。君の友人を助けようとしなかったヒーローたちを」
そう言うと緑谷君は顔を俯かせた。彼も気づいていたのだろう。この世界のヒーローは名ばかりの、ただの自分の力を目立たせたい奴らがはびこっているのだと。オールマイトの様なヒーローは居るには居るけど、少数派の様だ。
「だからこそ忘れるな。大事なのは『個性』の有る無しじゃない。人を救いたい、人を守りたいという思いの有無だ」
「あ……」
「人を守りつつ、自分も大切な人の許へ帰る。そして己が義を貫くということは、他の義を否定するということを忘れるな」
「……はい!!」
オレの言葉に思うところがあったのか、真剣な表情で話を聞いてくれた。少し話過ぎたか、もうすぐ完全に日が暮れる。流石にヒーロー志望とはいえ、子供をこんな時間に外出させるのは気が引ける。そんなわけでオレは彼の帰宅まで付き添った。夕食に誘われたが、流石に遠慮してその場を後にした。まぁ仕方がない。なんせ……
「オレが気づかぬとでも?」
「君は……あの場にいた青年だね?」
すぐ後ろからオールマイトがついてきていたのだから。
「君は……」
「その先は答えるわけにはいかない」
「ッ!?」
「あんたが何を警戒しているか知らんが、まぁ安心していいだろう。俺はもう、この世界と関わることはないだろうからな」
「どういう……ことだね?」
「言葉のまんまの意味だ」
そう言うとともにオレの足元には虹色の魔法陣が出現する。どうやら師匠はオレに帰れと言っているらしい。オールマイトはその様子に唖然として口をきけないようだ。
「喜べオールマイト。彼は『ヒーロー』としての器を持っている」
その言葉と共に、オレは虹色の輝きに包まれ、この世界から消失した。
突然現れた黒衣の男の人、衛宮さんの質問の答えは、何度も考えたけど出なかった。でもその後の心得みたいなものは一日たりとも忘れたことがない。僕のヒーローとしての在り方の根幹となるものとなっている。その考え方は、麗日さんも他の同級生も賛同してくれている。オールマイトや相澤先生もオレの心を尊重してくれた。
勿論、僕のこの心とそりが合わず、ぶつかることもあった。かっちゃんとは今でもぶつかることがある。でもこれは覚悟していたこと。彼の『正義』と僕の『正義』が合わないだけのこと。
これからインターンが始まるけど、恐らくかっちゃんと同じように、僕の『正義』を否定する人が必ずいるだろう。それでも僕は自分の『正義』を貫く。ヒーローになれると言ってくれた衛宮さんとオールマイトに恥じないように。僕は『人の自由と笑顔を守る』という心を持つ。
だから僕は二つのヒーロー名を使う。データには『デク』と。口では『無銘』と名乗る。僕も、古今東西数多くのヒーローの一人でしかないのだから。