錬鉄の魔術使いと魔法使い達〜異聞〜 剣の御子の道 作:シエロティエラ
えー、はい。長らくお待たせしたげく、更新したのが番外編となりました。
リ アルが本当に忙しく、いつもツイッターに不定期に上げている飯テロシリーズも、そもそも料理する暇がない状態でした。
ちょいちょいフォローフォロワーに対しリプはしてましたが、それも数分だけ。それ以外はリアルの用事が敷き詰められていました。
今回は久しぶりの執筆ということもあり、番外編をリハビリとして書かせていただきます。
サブタイトルは「幻(まぼろし)の郷(さと)」と呼んでください。
ふと頬に風を感じた。閉じられた瞼からでもわかる、柔らかな陽光が起きることを促す。
「……あれ? 外にいる?」
目を覚ますと同時に一気に意識が覚醒する。周りを見渡すと、地平線までに広がる向日葵郡に圧倒される。
しかし最後に意識を失った場所は、暗い地下深くだった。魔術実験でクローンを作り出し、固有結界などの研究をする魔術師を消す依頼を受け、相打ちになったはずである。たしかに自分の命が抜け落ちていく感覚を認識していた。
「もし死んでいたとすれば、ここはあの世か?」
あの世ならまだ納得がいく。「英霊の座」なんてものがあるから、あの世があっても変ではないだろう。このような穏やかな風景も、現実離れしている世界のものと考えれば納得のいくものだ。加えて服装は死んだ時と変わらないが、体に解析魔術を掛けたところ、全盛期の二十代の肉体に戻っていることが分かった。
徐に立ち上がり、ヒマワリを踏まないようにして小道に出る。アスファルトで舗装はされていないが、花も道も綺麗に手を入れられている。余程管理が行き届いているのだろう。
「……しかしまぁ、まさか自分のクローンにやられるとは。というか、あの時俺のファンといった輩も俺のクローンだし。やっぱ遺伝子上は同じでも魂が違うから思考も変わるんだな」
呑気にそのようなことを考えながら歩いていると、道の向こうから一つの気配が近寄って来るのを感じた。視界には映っていないが、そのような距離から察知できるとなると、余程の強者なのだろう。現に肌に少しビリビリとした感覚が走っている。
暫く歩くと、彼の目の前に一人の女性が立ち止まった。誰が見ても美人と思うだろう容姿に、その顔を守るようにさされる日傘。白っぽい上品なブラウスによって、履いているいるタータンチェックのスカートと首の黄色のリボンは映えている。
「……やれやれ。あの世かと思えば、どうやらここは人外魔境らしい」
「ふふふ。それは、言い得て妙ね」
「そう思わせる原因の一端が、貴方であることは……わかってて言ってるな、まったく」
目の前に歩いてきた女性は、剣吾の言葉を気にすることなく、クスクスと笑みを浮かべて彼を見つめてくる。パッと見てただの美しい女性かと思うが、彼女から感じる、強大な人外の気配によって背中に嫌な汗が流れる。
「あなた、見ない風貌ね。どなたかしら?」
「……衛宮剣吾だ。『宮を衛るは吾が剣』という意味が込められている」
「そう。私は幽香、風見幽香よ。幽香と呼んでいいわ」
女性、風見幽香はそう言うと、こちらをジッと見つめてきた。なにやらこちらを推し量るような視線に自然と力が入り、いつでも動けるように態勢をそれとなく変える。しかしその動きを目ざとく見つけたのか幽香は笑みを濃くしてこちらを見つめた。その目には猛獣のような、猛禽類のような気配を感じた。
「ねぇあなた、それなりに強いでしょう」
「……何を根拠に」
「あなたが態勢を変えたの。気づかないと思って?」
「……まさか戦えと?」
「話が早くて助かるわ。あなたの強さを知りたいのよ」
「やるのはいいが、どこでやるんだ? 流石にこんな美しい場所を更地にするわけにもいくまい」
「そうね。折角育ててきたこの子たちを傷つけるわけにもいかないし……」
どうやらこの向日葵の群生地帯は、幽香が手掛けたものらしい。自身の手塩にかけた子供ともいうべきこの地が、自分の私利私欲で損なわれるのはいただけないだろう。
それに若返った肉体の試運転をしたい、という思惑が剣吾にもあるため、一つ試したいことができた。
「短時間でいいなら、場所を提供できるが?」
「あら、あなた恐らくだけど
「ああ確かに、俺はこの地について知らない。けどな……」
俺は話しながら前進に魔力を通し、俺を表す詩を紡いでいく。彼女も何かを察したのだろう、俺の行動を静かに見守っている。やがて俺の周りを黄緑色の風と鋼色の鱗粉が旋回し始める。最後の一句が紡がれたとき、辺りは一度白い輝きに包み込まれ、やがて一つの世界に二人は降り立つ。
水面の下には色とりどりの花が咲き誇り、その花を写す水平線には無数の主無き槍が突き刺さっている。常にそよ風が吹いているが、水面は薙いだかのように小波一つ立てていない。
極めつけは空だ。先ほどまではさんさんと降り注ぐ日の光があったのだが、今は満天の星空が広がり、そして水平線の向こうには蒼く輝く月と地球が並んで見える。
現実離れした光景を目の当たりにし、幽香は思わず固まってしまった。
幻想郷は人よりも妖怪が多数存在しており、妖術などの類を扱うのも多くいる。幽香自身も妖怪であり、先程の花畑も自身の「花を操る程度の能力」を以てして作り上げたものである。
世界一つを丸々作り上げるなど、幻想郷を作り上げた「隙間妖怪・八雲紫」ぐらいしかできないだろう。いや、紫にもできないかもしれない。彼女はあくまで「幻と実体の境界」を作っただけであり、厳密には一つの世界を作ったわけではない。
だが目の前に広がる光景は何なのだろうか。幽香は知らず、体を震わせていた。恐怖か武者震いか、自分でもそれがわからない。
「……お気に召したかな?」
「……ええ、十分よ」
最早言葉は不要。幽香は日傘を閉じ、剣吾は近くにあった槍を二本引き抜く。殺し合いならば懐にある二丁のタウルスレイジングブルを使えばいいが、今回はただの力試し。互いに殺さない程度に全力を尽くすだけである。
一つの巨大な槍から水滴が落ち、地面に波紋を残した時、この作られた世界の中心でおおきな水飛沫があがった。
◆
どれほどに時間が経っただろうか。景色は夕焼けに彩られた向日葵畑に戻っているが、先ほどまでとは違うのが二人の様相。女性は肩で息はしているものの、しっかりと己の足で立っている。が、男のほうは槍を杖の様につき、片膝を付けていた。
「……まったく、予想通りのバケモンじゃねえか」
「それは私は妖怪だもの、下手に遅れはとれないわ」
「腕試しでこれだからな。殺し合いならどうなっていたやら」
結局は腕試しで負けという結果に終わった。相手と違い、結界維持のための魔力を常時回していたことを加味しても、幽香は非常に強かったと言える。特に彼女の使ったスペルカードと言うものは、回避するのにものすごく手間取った。弾幕とはよく言ったものだ、父親の剣の絨毯爆撃がかわいく見えるほどの、異常なほどの光弾による包囲網だった。
「外の世界もすごいわね。まさか世界一つを作り上げるなんて」
「まぁ、そのあたりは特殊な事情なんだがな」
「そう。ねぇこの後時間ある? 戦いのお礼として御馳走するわ。勿論、この世界についても教えてあげる」
「嬉しい申し出だけどいいのか? こちらにしか得のない提案だぞ?」
「得ならしてるわ。さっきの戦いもそうだし、あんなに面白いものを見せてもらったもの。それに、あなたの世界の話も聞かせてほしいし」
成程、互いに情報交換すれば、お互いに利のある話かもしれない。片方はこの世界の法則を知ることができ、もう片方は己の知らない技術を知ることができる。
そうと決まれば迷うことはない。剣吾は立ち上がって埃を落すと、幽香についていく形で向日葵畑を歩いていった。
はい、ここまでです。
近いうちにハリポタ本編とアクエリオン、ソーマを順に更新いたします。