錬鉄の魔術使いと魔法使い達〜異聞〜 剣の御子の道 作:シエロティエラ
「お兄様!! テレビのチャンネル変えて!!」
「どうした?」
「同級生がテレビに出てるの。赤城みりあって子なんだけど、346のアイドルなのよ」
「そうか。ほら、リモコンだ」
「ありがとう!! あっ、みりあちゃん可愛い服着てる」
「はぁ~、小学生なのによくやるねぇ」
「それをお兄さんが言いますか? 小学生の時から命懸けの仕事をしていたお兄さんが」
「……方向性が全く違うだろ?」
「文化祭実行委員だぁ? なんでまた俺が?」
夏休みも明けたある日のホームルーム、文化祭のためのクラス役員を決めるとき、何故か俺が推薦された。いや、今まで俺はそういった催し事は傍観に徹していたのだが、なんでまた。
「いや、今回外部から来てくれるゲストが特別でさ。なんでも芸能人が来るらしくて」
それと俺になんの関係があるのだ?
「いや、社交界とかで慣れてそうな衛宮が適任化と思って。だって中学の時から色々やってるんでしょ?」
「それはそうだが……俺がやっていたのは芸能関係じゃないぞ?」
「それでも僕らより外を知ってるじゃん? 向こうさんも慣れてる人のほうがいいと思って」
どうやら俺が委員をやらなきゃいけないのは確定らしい。もう何を言っても現状は変わらないだろう。ならば精々与えられた仕事を熟しますかね。
腹を括って委員になったその日の夕方、父親の代から世話になってるカフェ、アーネンエルベにバイトで向かっていた。妙な猫が店員をし、漫才コンビのような二人の少女が店員で、コーバックさんが携帯でしゃべる妙な店だが、まぁある程度の人気がある。実際猫店長と橙髪の同僚が作る飯は美味いし、緑髪ツインテの同僚のおかげで店はいつも清潔だ。んで、俺は高校入学と同時にウェイターとして雇われている。
その道すがら、一人の女子高生を見かけた。茶色のブレザーに赤のチェックのスカート。髪は長めで毛先にウェーブがかかり、目はぱっちりとして顔立ちは整っている。どこかで見たことある子だ。
どうやら自転車のチェーンが外れたらしく、戻そうとしているみたいだ。だがあまり自分でしたことないのか、先ほどから四苦八苦している。バイトまで時間はあるが、それ以上に見ていられなかったため、手を貸すことにした。
「ちょっといいか?」
「え? あっごめんなさい、道端で迷惑ですよね!?」
何を勘違いしたのやら、俺が怒っていると思ったらしい。今度は立ち上がって自転車を寄せようとしていた。別にそんなつもりはなかったんだが。
「いや、そうじゃない。何やら苦戦してそうだったから、手伝おうと思ってな」
「え? いいのですか?」
「最初からそのつもりだ。どれ、ちょっと見せてみろ」
彼女の自転車の前にかがみこむ。どうやらただチェーンが外れただけでなく、錆びたところから切れたらしい。車体とかも見る限り、ずっと使われているようだ。寧ろここまで切れなかったのが奇跡と言える状態である。
「これは新しいものに変えたほうだいいな」
「え、ええ!? ほ、本当ですか?」
「ああ。まぁ道具は一通り常備してるし、チェーンは俺の予備を使えばいいか」
「そ、そこまでしていただかなくても」
「安心しろ。金や礼ををせびったりしない、俺がやりたくてやるんだ。それに……」
そうこう話している間に作業は終わり、彼女の自転車は再び乗れるようになった。ついでに車体も少し魔術でいじり、脆さを改善した。これでもうしばらく乗ることが出来るだろう。
「えっと、ありがとうございます!! あの、お名前は?」
「名乗るほどのもんじゃないさ」
「で、ですが……!!」
「なら今度うちの店に来てくれ。それでいい」
それだけを言って俺はその場から歩き出す。衛宮剣吾はクールに去るとしよう。
「あの!! 私、島村卯月です!! ありがとうございました!!」
礼を言う彼女に後ろ手を振って応える。まぁもう会うことはないし、あったとしても俺が彼女に気付く可能性は低い。向こうからは一発でわかると思うが。まぁ、別に後腐れがあるわけでもなし、名を名乗らなくても良かっただろう。
◆
とか思っていた時期が俺にもありました。
文化祭当日。ゲストに招かれたのは、体育館でライブをすることになったアイドルだった。それも二大巨塔のプロダクションの片割れと来たもので、下手なことして失敗するわけにも行かないため、下準備は比較的本気を出すことになった。
で、だ。
その招かれたアイドルってのが、346プロダクションのニュージェネレーションズとラブライカ、そしてLiPPSと、これまた大御所ぞろいと来たものだ。流石の俺も少し緊張した。
で、その時声をかけられてようやく気付いたのだが、どうやら俺があの時手伝ったのはニュージェネの島村で間違いないらしい。偶然って怖いねぇ。で、それを知った他のアイドル達に現在質問されている状況だ。特にいろんな資格を持っている新田にとって、自分より年下の俺がより博識――らしい。俺にそのつもりはないが――のが興味対象の様だ。
「衛宮君はどうやってそれほどの知識を得たんですか?」
「エミヤさんは、ロシア語もしゃべれる、のですか?」
「あなた、なかなか面白いわね。フフフッ♪」
「ねぇねぇ、ちょっと匂いかがせて~」
……346って個性的な奴が多いな。
――それではこれより、特別ゲストによるスペシャルイベントを始めます!! まずはこちら!!
「……どうやらお呼びみたいだ」
「そうだね、じゃあ行ってくるよ!!」
「また後で話聞かせてね」
「卯月、がんばります!!」
そう言い、まずはニュージェネの三人が表へ出る。途端鼓膜を破るような歓声が体育館に響き渡る。成程、わかってはいたんだが、やはり実際に見るのとでは違うな。世の中、"力"だけが全てでないということが。その証拠に、彼女たちを見る生徒たちは笑顔になっている。
犠牲を最小限に抑えることしかできない俺や父さんと違い、彼女らのような存在が一番必要なのだろう。助かって浮かべる笑顔と、楽しさや幸福で浮かべる笑顔は違う。だが彼女らのような"光"があれば、"闇"もまた存在する。だが自分や世界の"闇"を無理に祓うのではなく、逆に抱きしめる必要があるのかもしれない。だがその役目は彼女らじゃない。その役目は、足を踏み入れている"
だが今だけは、ひと時の安らぎを得るとしよう。
「しまむーどうしたの?」
「この前のオフの日から様子が変だよ? 文化祭の特別ライブってのもあるだろうけど、なんか興奮してるような感じ」
「あっ、未央ちゃんに凛ちゃん。実はですね……」
「……ねぇしぶりん」
「たぶんそうだろうね」
「でもそれだけでそうなるかなぁ?」
「わかんないよ。人によって違うし、今は違くても今後はわかんないよ」
「あの、二人ともどうしました?」
「「なんでもないよ?」」
「え、ええ?」