錬鉄の魔術使いと魔法使い達〜異聞〜 剣の御子の道 作:シエロティエラ
今回はこちらを更新しました。
サブタイにも書いてある通り、何部かに分けて投稿します。デレマスの二分目はもう少々お待ちくださいませ。
遠月茶寮料理学園。
それは日本屈指の名門料理学校であり、「遠月学園」の名で知られている。料理人の虎ノ門ともいえる場であり、入学できたからと言って新旧が約束されているわけではない。そのカリキュラムは非常に厳しく、「そこに在籍していたという履歴だけでも料理人の箔が付く」というものであり、卒業すれば料理界において絶対的地位が約束されるとも言われている。
しかしながら徹底した美食主義者であり、学園長たる薙切仙座衛門の義理の息子である薙切薊による乗っ取りで、学園は混乱状態に陥った。選ばれたも者のみが許される食の世界を築くためには娘である薙切えりなの絶対的な味覚が必要であり、薊は彼女を監禁状態にしていた。
幼少のころの刷り込みによってえりなは薊に反抗出来ないでいたが、彼女の秘書であった新戸緋沙子や従妹の薙切アリスらの手引きにより監禁場所より脱出し、忌避していた人物、幸平創真の住まう、しかし現時点で一番安全な「極星寮」に避難することになった。
そして現在、寮生による歓迎の宴が終わった後、えりなは創真の部屋にいた。
今まで抱えたものを幸平作の「鶏卵の天丼」を食したときの感覚と共に吐露し、自身の今までの観念が取り払われ、料理に自由が必要と考え始めたところだった。
「……ねぇ幸平君」
「あん? どうした?」
えりなには疑問があった。今まで何度か彼の料理する姿や品を見てきたが、彼の料理は形にとらわれないものばかりだった。そして田所恵ほどではないが食べる人を思うホスピタリティもある。そしてどんなに追い込まれた状況でも冷静に物事を分析し、悪状況を打破するちからもある。
そして他の料理人に不足している彼の強み、『自分に足りないものに向き合う強さ』を彼は既に持っている。そんな彼の料理のルーツが気になったのだ。
「あなたは、今まで一人で料理を学んできたの?」
「ん? あー一人ではないかな」
「えっ?」
「俺ってさ、料理の師匠が三人いるんだよ。一人は四宮小次郎先輩でもう一人は親父」
四宮小次郎は知っている。「
そして彼の父親。確か下町で定食屋を営んでいるという。恐らくだが料理の基礎はその父親から学んだのだろう。
「それで、三人目の師匠というのは?」
「ああ、これが変わった人でさ。雪のように綺麗で真っ白な髪をしていたんだ」
三人目の師匠について語る幸平、その顔はとても楽し気にほころんでいた。もしかすると、その髪の綺麗な師匠というのは女性なのだろうか?
肩の荷が多少おりて少し自分を出しているえりなは、自分が若干不機嫌になっていることに気付いたが、なぜそうなっているのかはわからなかった。
「へぇ、そうなの」
「おう!! しかもなんか色々格言めいたこと言っていたんだ。でもその一つ一つがとてもためになる言葉だったんだ」
「例えば?」
「こう言ってたな」
そう言って幸平は右手の人差し指を立て、天井を指差しながら口を開いた。
「師匠が言っていた。『強さにゴールはない。お前も俺も更に高みに昇れる。いつまでもどこまでも』ってな」
「強さにゴールはない……」
それは彼が再三言葉にしている、無限の料理の荒野を進むということだろうか? 何度負けても、何度失敗したとしても、その経験を糧に更なる高みへと昇り、さらに遠くの地まで進むというのか。
分からなかったわけだ。自分は今まで完璧な料理が全てと思っていた。確かに完璧な料理は食べる人を満足させられるだろう。しかし本当の意味で満足させることはかなわないかもしれない。先ほどの宴でも、料理を作った寮生は私の指示通りではなく独自の研究に基づいた改良でいろいろ試していた。幸平創真は彼らのように分野を絞っていない分より過酷な道を歩むことになり、そして彼はそんな自分の先に臆するどころか楽しんでいる。
勝てないわけだ。自分の価値観が否定されているように感じ、私は狭い世界で満足していただけだったのだ。彼らは彼らの完璧さを目指し、そして料理を楽しんでいる。
「他にはなんて言っていたの?」
「ん? そうだな、『男はクールであるべきだ、沸騰したお湯は蒸発するだけだ』って言ってた。だから俺はいつでも冷静でいるように心がけてるんだよ」
なるほど、だからどんなに追い詰められた状況でも柔軟に対応できたのか。
と、下のほうが騒がしくなった。声の大きさからして、どうやら一階の食堂かららしい。しかし先ほどまでの食べ比べによるものではなく、誰か客人が来たような様子だった。
幸平もえりなも顔を見合わせ共に部屋を出て階下に向かう。まだ姿は見えないが、女性陣が特に騒いでいる声が聞こえる。気になって二人とも食堂に入ると、そこには一人の男が立っていた。
まず身長は大きく、美作昴に迫るほどの高さである、それでいて体格は程よく鍛えられており、決して威圧感を与えていない。黒を基調とした服装はシャツとベスト、そして靴とズボンというシンプルな格好であり、ベルトには黒い中折れ帽子をひっかけている。
対照的に少しだけ見える肌は白く、長い髪は葉山のように括ってポニーテールにしている。しかしこの男の髪は結ってあっても腰まで伸びていた。
そして特徴的なのはその双眼。その両目は血のように紅い色を湛えていた。料理をするものは時に生き物を殺すことから入るため血は見慣れているが、これほどにまで綺麗な紅は見たことがなかった。
しかし問題はこの男が何者であるかだ。この学園には世界中から人が集まるが、このような外見の人物はいない。もしかしたら薙切薊の手の者かもしれない。そう思ったえりなは男に対する警戒を強めた。
「あれ? 師匠どうしたんすか?」
しかし幸平のその一言で、えりなの警戒は解かれた。先ほどまで話していた彼の師匠の話、ということは、この男が彼の三人目の師匠なのだろう。しかしこの男の料理の腕は分からない。もしかしたら、彼の精神面における師匠なのかもしれない。
「よう創真。元気にしていたか?」
「ええ、元気っす。師匠は今までどこに?」
「ん? ハッチャケ爺さんの頼みで、ちょいと世界を救いに言ってた」
「マジっすか!? 今度はどんなことが?」
「いやーなんか世界征服を企んでる組織があってな? 何か仮面をつけてる特撮ヒーローっぽい人たちと共闘したんだが、いやまぁこれが疲れる疲れる――」
驚くえりなたちを尻目に、彼ら二人は話を始めた。その内容は荒唐無稽なものであり、到底信じられるものではなかった。しかし男の放つ雰囲気や見てくれが、その話を信ずるに値するものとえりなたちに感じさせた。
「っとすまんみんな、紹介するぜ。俺の三人の師匠の一人の……」
「衛宮剣吾だ、よろしく」
「「「はぁ、よろしくお願いします」」」
「ん? ……衛宮だって?」
自己紹介した男、衛宮の苗字に反応したのは寮母のふみ緒。彼女は寮母でありながら、その人脈や過去は未だなおが多い。そのふみ緒は腕を組みながら、男に近寄って行った。
「なぁお前さん」
「? 何でしょう?」
「お前さん……エミヤシロウという男を知ってるかい?」
ふみ緒さんの出した名前に、えりなたちは一様に息をのんだ。ふみ緒の出した名前は、日本人では知らぬものがいない超有名人。日本史上でも最強と言われており、世界の危機を幾度も救った英雄の名前である。そしてこの時気づいたのだが、確かにこの男と英雄の名前は、奇しくも同じであった。
「ええ、私は息子ですが。父をご存じで?」
「ああ、やっぱりそうかい。ちょっとした縁であの子の料理を食べたことがあってね。ありゃ遠月の生徒でもないのに、銀や城一郎を軽く超える腕前だったからよーく覚えてるよ」
「へー、あの父さんがね」
意外にも知らなかった英雄とふみ緒との関係。衛宮剣吾は知らないが、当時の十傑一席と次席であった彼らを凌駕するということは、遠月卒業を難なくこなせると考えてもいい。
その息子であり、幸平の師匠ともなれば料理の腕も高いのかもしれない。驚きは一先ずおいておき、寮生は衛宮に料理をせがみ始めた。これから先、衛宮の技術や心の置き方は吸収すべきものと判断できるものである。
「……だがみんなもう夕食を食べたのだろう? 腹も満たされているはずだが」
「まぁいいじゃないかい。デザートでも軽いものでもいいからさ」
「それに、俺も師匠の料理を久しぶりに食べたいし」
ふみ緒と幸平に押し切られる形で、衛宮は渋々と調理台に立ち、簡単なフルーツマフィンを作り始めた。皆は興味津々な様子で男の調理風景を眺める、が、彼らは工程をすべて見ていたわけではなかった。
「さて、君たちは全部の工程を観ようとしているが、俺がそうさせないようにしているのは気づいているだろう?」
「え、ええ」
「はい」
「……」
調理の手を緩めず、そのまま口を動かしている。寮生やえりなは衛宮の手際の良さに感心し、また腕の高さに舌を巻いていた。そして彼の行動に疑問も感じていたため、素直に彼の質問に答えた。だが弟子である幸平は問いの答えがわかっているのか、表情を変えてなかった。
「答えは簡単、『誰にもわからない様に隠し味をつけるのは楽しい。だが、それを見つけるのはもっと楽しい』からだ」
「「「!?」」」
答えを聞いた子供らは、驚きに目を見開いていた。言われてみれば、確かに合点がいく答えだったのである。そしてえりなは、幸平の今まで作ってきた数々の料理を思い出していた。彼の料理は成程、審査員や観客が思いもよらぬ隠し味をつけ、しかもそれを見つけた彼らは驚きつつも、楽し気な表情を浮かべていたのだ。
作っていた簡単なお菓子をオーブンに入れたとき、衛宮は閉ざしていた口を再び開いた。
「なぁ創真、質問だ。食事とはなんだ?」
「え? うーん……生きるために必要で、楽しむもの?」
「近いな。『食事は一期一会、毎回毎回を大事にするんだ』」
「へえー」
「そしてみんな覚えておくんだ。料理の全てに言えることがある。それは『どんな調味料にも食材にも勝るものがある。それは料理を作る人の愛情だ』」
彼がそう締めくくったとき、オーブンからマフィンが焼きあがった音がした。彼はそれを危なげなく取り出すと、一つずつ更に乗せ、一人ひとりに配膳した。大きさは小さめなため、女性でも一人で食べられる大きさである。
「さぁ、召し上がれ」
「極星寮か、懐かしいね」
「さて、えりなはここにいるようだが……何故だろう、二度と味わいたくなかった圧迫感がある」
「まるで先輩に泥を塗った、あの男のような空気が」