君の孫   作:JALBAS

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今回は、浮世絵町の三葉側がお休みで、糸守のリクオの話です。
但し、この物語の中では重要な話になります。
特に、本作では最重要キャラである、あの男がついに登場します。




《 第六話 》

 

三葉さんとの入れ替わりが始まって、もう2週間近くなる。

糸守の生活や、対人関係もそこそこ慣れて来た。髪の結い方もお婆ちゃんに教わって、何とかこなせるようになった。ただ、どうしても踏み入れない聖域のようなものもあって、その辺はまだ謎のままだ。例えば・・・・

『 ――― そしてなによりも!』

町営駐車場の敷地内で、現職糸守町長の“宮水としき”が、次の町長選挙の演説をしている。この人が、三葉さんのお父さんだ。でも、この人は宮水家には住んでいない。どうして一緒に暮らしていないのか?僕には分からない。妹の四葉ちゃんとお婆ちゃんの会話から想像すると、“喧嘩して絶縁中”らしい。

「おう、宮水。」

僕ら4人が、その横を通り過ぎようとすると、道端で演説を見ていた3人組の、真ん中の男の子が声を掛けて来た。

「相変わらず、町長と土建屋は仲がいいんやな。お前ら、親のいいつけでつるんどるんか?」

テッシーのお父さんが、勅使河原建設の社長で、三葉さんのお父さんの後援会長をしている。三葉さんとテッシーは、町の二大権力者の御子息となる訳だ。そのため、このように妬む者も出てくる。

「き・・・君達・・・」

「待って、清司くん。」

清司くんが、彼らに反論をしようとしたので、僕がそれを制した。

「し・・・しかし、宮水くん!」

「いいから。」

僕は、清司くんの手を引いて、その場を通り過ぎる。

下手に言い返すと、余計に険悪になってしまうだけだ。このままでいいとは思わないけど、今はそっとしておくしか無い。

 

その日の昼休みは、例によって清司くんが、妖怪情報を元に妖怪探索の話を持ち出す。

「今回のダーゲットは“ヤマガロ”という妖怪だ!この妖怪は・・・・」

目撃情報を、事細かに説明する清司くん。しかし、皆は殆ど上の空でただ頷いている。もう、突っ込んでも無駄だという事を悟っているようだ。

「私は行かへんからね。」

サヤちんが先手を打つ。

「あ・・・私もパスね。」

僕も、それに続く。ここは、合わせておかないと。

「ええ~っ!」

清司君は、思いっきり気落ちした声を漏らす。

「諦めろや、清司。俺は、つき合うで。」

いつものように、テッシーが慰めに入る。

「ん?」

その時、視線を感じて後ろを振り向くと、朝嫌味を言っていた3人組が、じっとこちらの様子を伺っていた・・・・何だ?何を見ていたんだろう?

 

その夜、四葉ちゃんに見つからないように、こっそりと家を出る。

人気の無いところに行って、リュックの中の羽織袴を出し、それに着替える。包みから御神刀を取り出し、包みはリュックに入れその辺に隠す。そうして、テッシー達のところへ向かう。

 

その三葉の様子を、少し離れたところからじっと見詰める人影があった・・・・名取早耶香、サヤちんである。

サヤちんは、三葉の後をこっそりと付いて行く・・・・

 

テッシーと清司は、木こりのような格好をして山道を歩いていた。

「何なんや?この格好は?」

「ヤマガロは、木こりの荷物を狙って現れるんだ!」

「恰好だけ真似ても・・・だいたい、何で木こりが夜中に作業するんや?」

「ん~そう言われてみれば・・・・しかし、妖怪が出るのは、やはり夜中だろう?」

三葉は、その2人を木々の中から見守っていた。

「ん?」

そして、道を挟んで反対側の木々の中に、怪しい影を見つけた。

「現れたか?」

しかし、よく見ると、それは普通の人間に見えた。人数は3人。

「ん?あれは・・・・」

それは、三葉達に嫌味を言っていた3人組だった。何やら、大きな白い布のような物を持っている。

「本当にやるん?松本?」

「ああ、妖怪妖怪と、うっとおしいんやあいつは。これで脅かして、怖い思いすりゃ懲りるやろ。」

どうやら、清司達を脅かそうとしているようだ。

「まったく・・・・」

思わず顔を反らし、呆れてしまう三葉。が・・・・

「?!」

突然、妖気を感じて、もう一度3人組の方を凝視する。

「お・・・おい、引っ張んなや。」

「え?私、何もしとらんけど。」

「私も・・・・」

「何言ってん・・・・」

そう言って振り返った、松本の顔が凍り付く。その様子に驚き、女の子2人も振り向いて・・・・

『きゃああああああっ!』

揃って、悲鳴を上げる

「ぐおおおおおおおおおおっ!」

そこには全身が褐色の毛で覆われた、2m近い怪物の姿があった。顔も殆どが毛で覆われているが、その目は狂気に満ちた野獣の目だった。

「な・・・何や?あの悲鳴は?」

「ま・・・まさかヤマガロが?あっちだ!」

悲鳴に気付いたテッシーと清司は、声のする方に向かおうとするが・・・・

『ほんげっ!』

いきなり、背後から頭部を強打され、気を失ってしまう。

「ごめん、ちょっと見られると厄介だから。」

2人を気絶させた三葉は、妖怪の姿に変化する。

「ここからは、俺の領分だ。」

その光景を、少し離れた木陰から、驚きの眼差しでサヤちんが見ていた。

「え?!う・・・うそ?み・・・三葉が・・・・」

 

『ぎゃああああああああっ!』

大声を上げて、一目散に逃げる松本達。怪物は、その後を追いかけて来る。

「待ちな!」

その間に、変化した三葉が割って入る。

「ぐわああああああああっ!」

しかし、怪物は止まらない。そのまま三葉目掛けて突進して来る。

「おい、止まれよ。」

「ぐわああああああああっ!」

依然、突進を続ける。

「止まれって言ってんだろ!」

「ぐわああああああああっ!」

三葉は、ヤクザキックを放つ。カウンターが決まって、怪物は吹っ飛ばされる。

「ぐわああああああっ!」

しかし、怪物は直ぐに起き上がり、また雄叫びを上げる。

「手前、動物か?会話が通じねえのかよ?」

「ぐおおおおおおおおっ!」

再び、突進して来る怪物。

「仕方ねえ!」

三葉は刀を抜く。そして、すれ違いざまに怪物に一撃を加える。

「ぎいええええええええっ!」

血しぶきを上げ、怪物はその場に倒れる。

「そんなに深くは切ってねえ!どうだ、ちったあ目が覚めたか?」

「ぐうおおおおおお・・・・う・・ううううっ・・・」

怪物の体が縮んでいき、1m程度の小柄なポッチャリとした体型に変わる。叫び声が、呻き声に変わっていく。

「う・・・ううう・・・」

その目にも正気に戻り、妖怪は、恐る恐る三葉の方に顔を向ける。

「お前、ヤマガロか?」

「へ・・・へい・・・・」

「お前は、大人しい妖怪って聞いてたがな・・・何とち狂ってやがった?」

「そ・・・それが、変なじじいの目を見てたら、急に訳が分かんなくなって・・・・」

「変なじじい?」

 

山道の脇の、草むらの中にある小さな祠。古びて、もう木も朽ちかけている。何年も放置され、殆ど人も訪れていないようだ。その前に、ひとりの老人が立って拝んでいる。唐草模様の着物を着て、古びた草履を履いて、髪は真っ白だ。

「おい!」

その後ろから、三葉が声を掛ける。

「ヤマガロを、人に嗾けたのは手前か?」

「あの者達が、この前を素通りしたのでな、少しお灸を据えただけじゃ。」

そう言って、老人はゆっくりと振り返る。

「何じゃ?お主・・・この地の妖怪では無いな?」

「今度、この辺りをシメる事になった、関東の奴良組三代目“奴良リクオ”だ。」

「奴良?・・・・そうか、鵺を倒したのは貴様か?」

「お前、相当な古株みてえだが、俺のシマで勝手な真似は許さねえ!」

「ホッホッホッ・・・・鵺ごときを倒した程度で天狗になるとは、まだまだ若いの。」

「何だと?」

「鵺など、両面宿儺様の足元にも及ばん・・・・」

「両面宿儺?聞いた事がねえな、何者だそいつは?」

「いにしえの時より、この地を護っていらっしゃった妖怪じゃ。この地を統べるとほざいておるが、両面宿儺様を知らぬ者にその資格など無い!」

「何だと!手前は、いったい何者だ?」

「わしの名は、繭五郎・・・・両面宿儺様の一の家臣じゃ。」

繭五郎と名乗る妖怪は、左手を手前に翳す。すると、手が次第に形を変え一本の剣と化す。

「これは、わしが両面宿儺様よりお預かりしている剣・・・・少し、お主にはお灸をすえんとな。」

「闘るってんなら、容赦はしねえぜ!」

三葉は、畏を解き放つ。

「鏡花水月!」

煙のような闇が、三葉を包み込む。

「ホッホッホッ、何をしようと無駄な事じゃ!」

繭五郎は、剣の左手で三葉を突いて来る。しかし、普通ならその攻撃は、三葉の体をすり抜ける筈だが・・・・

「ぐ・・・ぐはっ!」

攻撃が、すり抜ける事は無かった。繭五郎の狙い通り、剣は三葉の右腕を貫いた。痛みと衝撃で、三葉は御神刀を落としてしまう。

「ば・・・ばかな・・・・」

膝を付き、蹲る三葉。

「ホッホッホッ、両面宿儺様より預りしこの剣は、あらゆる畏を絶つ“退魔の剣”。どのような畏も、この剣の前では無力化する・・・・」

「く・・・・」

刺された右腕を、左手で抑える三葉。次第に妖気が抜け、人間の三葉の姿に戻ってしまう。

「ん?」

その姿を見て、繭五郎は少し考え込む。

「お前は、宮水の・・・・そうか、そういう事か・・・・」

「な・・・何だ?何を、ひとりで納得してるんだ?」

「ホッホッホッ、今日のところは、これくらいで勘弁してやろう。今命を絶っては、元も子も無いでな・・・・それに、お主がいい気になっていられるのも、もうしばらくの間だけじゃ。」

「何?どういう事だ?」

「ホッホッホッ・・・・」

繭五郎は三葉の問いには答えず、後ろを向いて立ち去って行く。

「ま・・・待て!」

そして、闇の中に消えて行った。

 

な・・・何者なんだ?あの妖怪は・・・・繭五郎?どこかで聞いたような名前だ。それに、“もうしばらくの間”というのはどういう意味だ?何をしようとしている?

「み・・・三葉?」

不意に、聞き覚えのある声が背後からする。

ゆっくりと振り向くと、そこには、心配そうにこちらを見詰めるサヤちんの姿があった。

ま・・・まさか、今の、見られてたの?

 






遂に出ました、繭五郎!
繭五郎の大火を起こした、草履屋・・・・しかし、実は200年前、いや、それ以前から生きている妖怪だったのです。
繭五郎は何を企んでいるのか?繭五郎が起こした“大火”には意味があったのか?
そして、“両面宿儺”とは?
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