そんな中、夢の中で三葉に語りかける声が・・・・
そして、三葉の前にもあの男が・・・・
「・・・は、・・・つは、」
誰かを、呼ぶ声が聞こえる。
「・・・みつは、三葉。」
呼ばれているのは、私?・・・誰?私を呼ぶのは?
「私は・・・ミヤズミ・・・・」
ミヤズミ?・・・何故?私を呼ぶの?
「・・・を止めて下さい。」
え?何を?
「マユゴロウを、止めて下さい。」
マユゴロウ?・・・・それって、200年前の・・・
「あの方のお考えを、歪めて受け止めてしまって・・・」
あ・・・あの方って?
「・・・・くなさま・・・・」
くなさま?・・・何?それ?・・・・
「お姉ちゃん・・・」
え?
「お姉ちゃん!いつまで寝とるの?遅刻するよ!」
突然、謎の声が四葉の声に変わり、目が覚める。
「あ・・あれ?・・・四葉?」
「いつまで寝ぼけとんの?ほんまに遅刻するよ!」
そう言われて、スマホを取って時刻を見る・・・・
「ええええええっ?!」
慌てて身支度と食事を済ませ、学校に向かう。髪を結っている時間はとても無かったので、組紐でまとめただけの“侍モード”で行く羽目になった。そのせいで、サヤちん達には今日もリクオくんなのかと勘違いされてしまった。
「変な夢を見た?」
「それ夢やなくて、リクオくんになってただけやないの?」
「それなら、もう変やと思わへんよ。何か、何も無い真っ白い空間で、ぼんやりと人影が見えるだけで、名前は・・・・何て言ったっけ?忘れちゃったけど、しきりに私に語り掛けて来るんよ。」
「何を?」
「マユゴロウを止めろやて。」
「マユゴロウ?」
「それって、大昔の“繭五郎の大火”の繭五郎か?」
「分からへんけど。」
「何だい?“繭五郎の大火”って?」
「ああ、それは、今から200年程前のことやけどな・・・・」
清司くんの問いに、テッシーが説明を始める。
「・・・・」
気付くと、サヤちんが何か考え込んでいる。
「ど・・・どうかした?サヤちん?」
「あ・・・うん、ちょ・・ちょっと気になる事があって。」
「気になる事?」
「私が、初めて三葉の変化を見た夜、リクオくん、変なお爺さんの妖怪と闘っとった。その妖怪に、右腕を貫かれてたんやけど・・・・」
「ああ、この右腕の傷はその妖怪に・・・」
「遠くてはっきり聞こえへんかったけど、その妖怪が“わしの名は繭五郎”って言っとったような・・・・」
「ええっ?」
夕方私は、リクオくんが“繭五郎”と名乗る妖怪に刺されたという、祠の前に来ていた。
小さい頃から、お婆ちゃんに何度も聞かされた“繭五郎の大火”の話。繭五郎というのは、200年前に糸守に住んでいた草履屋の名前。人間なら、もうとっくに死んでいる。でも、妖怪ならば生きていても何ら不思議では無い。リクオくんのお爺ちゃんだって、500年も生きている。
だけど、“マユゴロウを止めて”というのはどういう意味なんだろう?繭五郎という妖怪は、何をしようとしているの?まさか、また大火事を起こすの?そんな事しなくても、彗星の破片の落下で糸守は崩壊するのに?
その祠は、既に朽ち掛けてボロボロだった。木は腐り、所々剥がれたり割れたりしている。貼ってあるお札も、天梅雨で文字は完全に消えており、あちこち破れている。サヤちんに聞くまで、私もこの祠の存在を知らなかった。果たして、今の糸守に、この祠の存在を知っている人間が残っているのか?これは、誰を祭った祠だったのか?
「ホッホッホッ・・・・」
急に背後に笑え声がしたので、驚いて振り向く。そこには、唐草模様の着物を着た、白髪の老人が立っていた。
うそ?!誰かが、歩いて来る足音なんかしなかった。この老人、突然現れた!
「おや?またお主か?」
「ま・・・まさか、あなたが繭五郎?」
「ん?わしの事を知らん?・・・・」
繭五郎は、しばし考えた後、自分ひとりだけ納得して頷く。
「そうか、今日はあの若造では無く、宮水の小娘か・・・・」
「わ・・・私の事を知っとるの?」
「それは勿論、宮水の血筋の者はな。」
な・・・どういう事?この人と・・・もとい、この妖怪と、宮水家に何か関係があるの?
「ここに、何をしに来た?」
「あなたを探してたんよ。」
「ほお・・・わしに何か用か?」
「あなた、何をしようとしとるの?また、大火事を起こすつもりやの?」
「だったら、何じゃ?」
「そんな事をしても、無駄やから止めて!あと半月後に糸守は、彗星の破片の落下で崩壊するの!」
「はあ?・・・・」
一瞬、繭五郎は言葉を失うが、直ぐに馬鹿にしたように大笑いを始める。
「ホオッホッホッホッホッホッ!」
「笑い事や無い!信じられへんかもしれんけど、ほんまなんよ!」
「ホッホッホッ、そうでは無い。そんな事、お主に言われんでも分かっておる。」
「な・・・何やと?」
「ひとつ聞いてもよいか?」
「な・・・何よ?」
「お主、先祖の記憶があるのか?」
「せ・・・先祖の記憶?な・・・何よ、それ?」
「ふむ・・・そうでは無いのか?何故、わしを止めようとする?」
「あ・・・あんたに、言う必要あるん?」
自分ばっかり、分かった風にしてんじゃないわよ!少しは、あんたの事も説明しなさいよっ!
「言いたく無いか・・・・ならば、」
繭五郎は、右手を私の方に伸ばす。
「な・・・何を?・・・・」
やっ!・・・何をするつもりなの?
その時、突然森の中から、2mくらいの毛むくじゃらの怪物が飛び出して来る。
「総大将!」
「え?」
「貴様!総大将に何をする気だっ!」
毛むくじゃらの怪物は私の横を通り抜け、繭五郎に突進して行く。
「ふん、ヒヨッコが!」
繭五郎は、右手から気合のようなものを発する。
「ぐわあっ!」
それにより、毛むくじゃらの怪物は弾き飛ばされる。と同時に、身長が半分くらいに縮み、ぽっちゃり体型になって私の前に転がる。
「だ・・・大丈夫?」
つい、そう声を掛けてしまう。
「この野郎!」
「何者じゃ?貴様!」
更に森の中から、細身で長身のどす黒い妖怪と、人間の倍くらいある首だけの妖怪が飛び出して来て、繭五郎に向かって行く。
「たわけがっ!」
しかし、同じように気合で弾き飛ばされ、私の前に転がって来る。
「あ・・・あなた達は?もしかして、リクオくんの百鬼の妖怪さん?」
「え?」
「じゃあ、あんたは“あねさん”ですかい?」
「“あねさん”?・・・何?それ?」
「うっとおしいい奴らじゃ、今、ここで始末するか?」
繭五郎は、今度は左手を上げる。すると見る見る内にその左手が剣へと変わっていく。
「消え去れ!」
繭五郎は、左腕の剣を勢い良く振り下ろす。凄まじい剣撃が発生し、倒れた妖怪3匹を狙う。
「危ない!」
三葉は、反射的に倒れた妖怪達の前に出てしまうが、剣撃が迫り、思わず目を瞑ってしまう。
『あ・・・あねさん!』
その時、三葉の体がまた輝き出した。光は、瞬く間に三葉の体を包み込む。
「何?」
剣撃は光に吸い込まれ、次の瞬間、何倍にも増幅されて繭五郎に帰って来る。
「ぬおおおおおおっ!」
繭五郎は、左腕の剣でそれを受けるが、剣が消え、元の左腕に戻ってしまう。
「こ・・・これは、“光魔の鏡”・・・・もう、覚醒しておったか?」
光が消え、三葉は元に戻るが、全身の力が抜けたように崩れ落ちてしまう。
『あ・・・あねさん!』
妖怪達が、三葉に駆け寄る。
「ぬうううう・・・・この場は、引いた方が良さそうじゃ・・・」
繭五郎は、そのまま姿を消してしまう。
少し間をおいて、私は正気に戻る。どうも、あの不思議な光が出る時は、意識を失っているみたいだ。
『大丈夫ですか?あねさん?』
妖怪さん達が、心配そうに私の顔を覗き込む。私は、ゆっくりと体を起こす。
「だ・・・大丈夫・・・やよ・・・・でも、“あねさん”って何?」
「い・・・いや、リクオ様が“総大将”だから、三葉さんの時は“あねさん”かなって。」
何だか、私まで任侠一家の一員になってしまったみたい・・・・でも、実際そのようなもんか?
「そういえば・・・ありがとう皆、私を助けてくれて。」
「いいえ、助けられたのはこっちの方です。」
「流石あねさんだ!伊達に、総大将の愛人やってませんね!」
「あ・・・愛人?な・・・なんよ!それ!」
何で、そんな話になってるの?こんなの、氷麗に知られたら・・・・
翌朝、三葉さんの体で目覚めると、机の上に手紙が置かれていた。
『リクオくん、糸守の皆を助けるために、いろいろ考えてくれてありがとう。あと、糸守の妖怪さん達に、私を護るように頼んでくれたんだね。それもありがとう・・・・』
三葉さんからの手紙だった。
『あと、これは伝えておくべきだと思ったので書きます。昨日、私、繭五郎という妖怪に会いました。』
ええっ?!
『何か、私・・・いえ、宮水家の事を昔から知っている風でしたが、自分の事は何も語ってくれませんでした。何を企んでいるのかも、全く分かりません。ただ、彼は何故か、未来に起こる筈の彗星の破片落下の事を知っているようでした・・・・』
何だって?繭五郎は、彗星災害の事を知っている?どうして?どうやって知ったんだ?
その日の夕方、僕はもう一度繭五郎に会いたくて、例の祠に行った。
しかし、何時間待っても、繭五郎は姿を現さなかった。
仕方無く家に帰ると、夕食の後、お婆ちゃんに神社の本殿に呼び出された。
どうやら、本殿から“御神刀”を持ち出した事がばれたようで、いきなり理由を問われた。
本殿の中で、僕は上座に座るお婆ちゃんと対峙して、正座している。
「じ・・実は、千葉から転校して来た清司くんという子が妖怪マニアで、やたらと夜に妖怪探索に出掛けちゃって・・・・」
清司くんを見守るためにこっそり付いて行ったが、もし本当に何か出たら怖いと思って持って行った、と説明した。これで納得して貰えるとは思わなかったが、他に言いようが無い。自分が三葉さんでは無く、奴良組の三代目等と言える訳も無いので。
「そうか・・・なら、仕方無いのう。」
「え?」
以外にも、お婆ちゃんはあっさりと納得してしまった。更に、
「ちょっと待っとれ。」
そう言って、神座の奥に入って行く。そして、なにやら細長い箱を持って出て来る。
箱は何重にもなっていて、いかにも大事そうな物が入れられていると思われる。その中から、一本の刀を取り出し、僕の前に置く。
「妖怪を相手にすんなら、この方がええ。これを持って行きや。」
「へ?・・・お・・お婆ちゃん、妖怪を信じるの?」
「わしは、見た事が無いがのう・・・昔から、町のもんに話はよう聞かされておった。」
そ・・それで信じちゃうんだ?流石に、神社の神主というか・・・・でも、見た事無いって言うけど、本当は毎日見てるんだけどね。半妖だけど・・・・
折角の機会なので、繭五郎についても何か知っていないか、聞いてみた。しかし、“200年前に大火事を起こした草履屋”という事意外は、お婆ちゃんは知らなかった。
「お婆ちゃん、もうひとつ、聞きたい事があるんだけど。」
「なんね?」
「宮水家の先祖について、教えて欲しいんだけど。できれば、1000年以上前の事なんか。」
「わしもよう知らん。殆どの記録は、“繭五郎の大火“で燃えてしまったでな。」
やはり、そうなのか・・・・
「その刀は、えろう昔から大事に保管されておったそうや。“繭五郎の大火”でも、何とか持ち出せたと聞いとる。」
部屋に戻って、お婆ちゃんから渡された刀を抜いてみる。
「こ・・・これは?!」
強い力を感じる。この感覚は、祢々切丸と同じ・・・これは、妖怪を切るために作られた刀だ!
遂に、三葉も繭五郎との邂逅を果たします。しかし、繭五郎の目的は依然と知れず、謎は深まるばかり。
そんな中、リクオが三葉の祖母より預かりし刀は、祢々切丸と同じ妖怪を討つ刀。
リクオは、再び繭五郎と相まみえることとなるのか?