呉に舞い降りた道化   作:ちょりあん

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 これはまだ、黄巾党が結成される前の話。

 

 この大陸に歌で大陸一になろうと夢見る三人の少女がいた。張角、張宝、張梁という名の三姉妹だ。

 

 彼女たちは邑と邑を歩き回り歌を披露する旅芸人として活動していた。が、彼女たちの歌はそれほど人気はなかった。

 別に下手くそなんかではなく上手い部類に入るのだが、聞く人全てを虜にするような力もなく、大陸一などと遠い夢と戦いながらの生活を送っていたのだ。

 

 だがある日、彼女たちの人生が変わる。

 

 ある日の晩。

 歌の疲れを癒しながら店でご飯を食べていた時、一番上の姉である張角がファンと名乗る一人の男からある一冊の本を受け取る。

 

 その一冊の本が全ての始まりだった。

 

 手にいれた本は三人の想像を絶する代物であった。今まで考え付かないような方法、妖術、この時代の者では至ることの出来ない領域がそこにはあったのだ。

 

 この本の名を、太平妖術という。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太平妖術……」

 

「そう……あの本を手に入れてから、ちーたちの生活は一変したわ」

 

 此処は横島が暮らす館がある邑の中の茶屋。横島たち四人は林から移動し、二人から詳しい話を聞くことにした。

 

「初めはよかった……。ちーたちの歌を聞いてくれる人がどんどん増えていって、応援してくれる人もどんどん増えたから」

 

「でも、だから気がつかなかったの。人和ちゃんが少しずつおかしくなっていってたのに」

 

「詳しく教えてくれるかな?地和ちゃん、天和ちゃん」

 

 二人の名前は茶屋にくるまでに教えられていた。

 ちなみに真名なのはすでに張角という名前は有名になっており、その名で呼ぶのは危険と判断し、真名で呼ぶことにしている。

 

 天和と地和は頷きあい、それからゆっくりと話しだした。黄巾党結成から、逃げて来た現在までの経緯を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凄いっ凄いわ本当に!あの本を拾ってから全部が順調だわ!」

 

「お姉ちゃんお腹すいたなぁ。またあそこ行こうよ。昨日いった美味しい所」

 

「あ、ちーも行きた~い!」

 

「もう、お金に余裕が出来たっていっても、まだまだ無駄使いなんて出来ないのよ?天和姉さん、地和姉さん」

 

初めの綻びはこの時、いつものように歌を終え、三人で今日のことを振り返りながら話をしていた時。

 

「だってまだ大陸を手に入れるにはまだまだ私たちは小さいわ」

 

「え?」

 

「大陸?」

 

「そう大陸。今までの私たちならそんなことは夢のまた夢だった……。けど、この本があれば夢なんかじゃなくなるわ!姉さんたちも分かるでしょ?」

 

 思えばこの時の人和はどこか様子がおかしかった。でも、大陸を獲るって言葉に目がくらんだちーたちは、その事に気がつけなかった……。

 

「そう……大陸を手に入れるの……。歌だけじゃなく、他の事でも……」

 

 そして次の舞台の時に――

 

「私たち大陸が欲しいのー!みんな、手伝ってくれるー?」

 

「「「「「「ほぁっ、ほぁああああああ!!」」」」」」

 

 ちーたち三人の言葉で出来上がった部隊。それが……黄巾党ってわけ。

 

 

 

 

 

「なんつーしょうもない理由で……」

 

「冥琳さまが聞いたら頭痛で倒れそう……」

 

「言い訳なのは分かってるけど、ちーだってまさかこんな状態にまでなるなんて思ってなかったんだもん!」

 

 

 

 

 

 は、話しを戻すわよ!

 

 初めは追っかけ連中の暴走で始まった事だった。邑の一つを襲い、それをちーたちに献上するって言ってきたの。

 

 正直、ゾッとしたわ。

 ちーたちが軽い気持ちで言った言葉が原因で邑一つが滅んだんだもの。

 そして後悔した……やったのは追っかけたちでも、原因は間違いなくちぃたちだから。

 

 だから止めてもらおうとしたの、また舞台の時に「ちーたちはそんなこと望んでない!」って言おうって!でも……

 

「それはダメよ地和姉さん」

 

「なんでっ!?」

 

「お姉ちゃんも止めたいなぁ、人和ちゃん」

 

「今止めたら逆効果になるからよ天和姉さん。

私たちのためにやったことなのに、何だそれは!って逆上されるのが落ちよ」

 

「でもっ!」

 

「だから一刻も早く大きくならないといけない。暴走した連中を大人しくできるくらいに」

 

 結局、ちーたちは人和の言葉に従った。

 ちょっと考えれば分かるはずだったのに……人和の言ってることが全然違うってことに。むしろ止めるならこの時でなきゃいけなかったのに……!

 

 ちーたちは普段から人和に頼り切っていたの。お金のことも旅の計画も全部人和にまかせっきりだった。

 だから深く考えることもしないで人和に従っちゃった……。ちーたちはお姉ちゃんの筈なのに……ずっと妹に世話になりっぱなしだってことに、この時に改めて思い知らされて情けなくなったわ。

 ずっと悪いお姉ちゃんだったなって……。

 

 そうして人和に止められ放置した結果。黄巾党はまたたくまに巨大化していったわ。

 

 ちーたちがそれを見て不安になっていくなか、人和だけは楽しそうに笑っていた……。

 

 そして、決定的な綻びは組織が巨大化してから起こったわ。

 

「地和様!隊への糧食の配布完了しました!」

 

「ありがと、アンタも戻ってご飯にしてきなさい」

 

「はっ!……その前に握手してくれませんか?

三姉妹の中でも、地和ちゃんが一番好きなんです!」

 

 それは今までに幾度かあったこと、元々黄巾党はちーたちの追っかけで出来ている組織だから、当然ちーたちのことを好きな人しかいない。

 普段はそんなことはしないけど、たまには褒美をやらないと人が離れていくって人和に言われて、時々連中のお願いを聞いてあげたりしていたの。

 

 今回もよく働いてくれたわけだし、周りに他の連中がいると俺も俺も!ってどんどん増えるから嫌だけど、今は誰もいないみたいだから……

 

「別にいいわよ」

 

 そう答えたの。ちーたちは三人仲良しだけど、やぱり一番好きって言われて悪い気はしないしね。

 

 でも……ちーの言葉に嬉しそうに手を出してきて、その手を握ろうとした時、視界が真っ赤に染まった。

 

「……え?」

 

 訳がわからなかった。だって……さっきまでニコニコしていた男が胸から剣を生やして死んでいたんだもの。

 

「な、何?なんで……?嘘……死んで?」

 

「大丈夫姉さん?」

 

 ちーを気遣う声、それはいつもと変わらない温かい声だったけど、声の方へと視線を向けたくなかった。

 

 でも、向けるしか出来なかった。

 そして見えたのは男を刺しただろう男と、その横に笑顔で立つ人和の姿だった。

 

「全く汚い下衆が姉さんに触れようなんて虫唾がはしるわ」

 

「れ、人和?何して……」

 

「何って……、地和姉さんに触れようとした下衆を殺しただけだけど?」

 

「殺っ!?……だ、だって褒美は必要だって!」

 

「ああ、それは駒が出来るまでの話しよ。本当は触れさせるなんてしたくなかったけど、忠実な駒が出来るまでは仕方なかったの。ごめんね地和姉さん」

 

 話しが……噛みあっていなかった。

 どこかがずれていた。

 

 ちーに向ける感情はいつもと同じ親愛と変わらないのに、それ以外の全てが以前の人和と違っていた。

 

「駒……?」

 

「そう、これみたいな、ね」

 

 そう言って人和が男を殺した男を見る。でも、そいつもどこかおかしかった。

 焦点の合ってない目をしてるし、口から涎をたらしてるし、まるで感情の見えない空気を出していた。

 

「流石に一変にかける術はなかったから時間がかかってしまったけど、本隊にいる連中のほとんどに術はかけ終わったわ」

 

呟く人和の手には例のあの本があった。

 

「ああ、地和姉さん血が服に着いてる。ごめんなさい、姉さんに被害がいかないよう殺せって命令したんだけど……」

 

 ちーの頬を撫でながら人和は黙って立つ男へと視線を向け……うっ、今思い出しても気持ち悪くなってきちゃうわね……。

 

 だってあの時人和は―

 

「使えない駒に用はないの。死になさい」

 

 そう命令したの。

 

 そうしたらソイツはどうしたと思う?

 何も反論せずに黙って自分のお腹を剣で刺して自害したのよ。

 

「い、いやああああああああああ!!!」

 

 自分でも情けないくらい叫び声を上げたわ。信じられなかったんだもん、目の前で起こった出来事に。

 

 でも、そこで初めて気づいたの……ううん、目を逸らすのことができなくなった。人和が変になっているってことに。

 

 

 

 それから少しずつまともな人間はいなくなっていって、それに比例して人形みたいな連中が増えていったの。

 

 声もかけてこない、近づいてすらこない、ただ黙ってちーたちを護るだけの人形。

 この頃になると定期的に行っていた歌の舞台すらやらなくなっていたわ。

 

 ちーたちは人目に出ることも人和に止められ、半分軟禁状態になった。

 

 でもだからこそ天和姉さんとたくさん話しをすることが出来たわ。

 今までのこと、人和のこと、黄巾党のこと、これからのこと。

 

「はぁ……どうしたらいいのか分かんないよ~」

 

「お姉ちゃんたち頭良くないもんねぇ」

 

「けど、人和は何とかしてあげなきゃ」

 

「うん、このままじゃ人和ちゃんが可哀想だもんね」

 

「そのためには……あの本をどうにかしなきゃ!」

 

 人和がおかしくなったのは本を手にいれてから。だったら本をどうにかしちゃえば人和は元に戻るはず!

 

 けど、人和は本を厳重に保持していて、ちーたちにさえ触らせてくれない。

 それに二人じゃどうにも出来ないのはちーたち自身が良く分かっていた。

 

 だからって人和をこのまま放っておくなんて出来ない。だったら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人和を助けられることが出来る誰かを探そうって、人和の目を盗んで抜け出してきたって訳」

 

「でも途中で気づかれちゃって追手に追われちゃったんだぁ」

 

「そこに俺たちが現れたってわけか」

 

 二人が頷く。

 

「アンタ……横島――さんって言ったわよね?

さっき見たあの不思議な力なら、人和を助けることが出来ない?出来るならちーたちに力を貸して欲しいの!お願い、妹を助けたいの!」

 

「人和ちゃんを助けたいの、私に出来ることなら何でもするから!」

 

「な、何でも……だと?「横島、わかってるわね?」ハハハ、見返りなんて望むわけないだろ?」

 

 一瞬心がかなり揺れた横島だが、小喬の睨みに慌てて姿勢を正す。視線だけで人を殺せそうな強い殺気に汗がダラダラと流れる。

 

「確かに俺なら何とかできる……かもしれん。確実に人和ちゃんはその本に宿る何かに憑かれてるだろうし」

 

「ならっ!」

 

「ただ憑いてるモノ本体はかなり強力な奴だと思う。弱いとはいっても悪霊を大量に従わせるような奴だ、力は相当なもんだろうな」

 

「そんな……」

 

 横島の言葉に方を落とす二人。そんな二人を小喬は複雑そうに見た後、横島へと視線を移した。

 

「…………」

 

 小喬にとって黄巾党とは恨みの対象だ。姉を襲ったのも黄巾党を名乗った野盗共であった。

 連中は雪蓮たちが退治したが、遺恨がなくなったわけではない……。

 

 だが、小喬は天和と地和を見て姉とのことを思い出していた。どうなろうと妹を想う姿に胸が切なくなる。助けたいとも思う。

 しかし、小喬に何が出来るわけでもない。それが出来るのは隣にいる横島だ。

 

 けれども姉との事件で除霊がどれほど危険かをも知ったのだ。大喬は悪霊になりかけで力の強い悪霊ではなかった。

 だが横島は怪我を負ってしまったのだ、力の弱い霊ですら傷を負ってしまう……それ程危険な仕事なのだ除霊は。

 だから自分を助けてくれたみたいに二人を助けて欲しいとは言えないでいた。

 

「心配すんなって小喬ちゃん」

 

 すると、言葉と共にポンと頭に手を置かれる。

 

「俺があの時言ったこと覚えてるか?」

 

「横島?」

 

「俺は女の子が大好きなんだ。特に天和ちゃんや地和ちゃんみたいな美女、美少女なんて特に。その二人に頼まれたら……断れねぇって」

 

「あ……」

 

「天和ちゃんは綺麗な美人の姉ちゃん、地和ちゃんは将来有望な美少女。そんな二人のお願いを俺が聞かんわけないだろ?」

 

 横島の言葉に小喬以外に天和も地和も顔を明るくなり―

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「おう!GS横島忠夫がその依頼、引き受けるぜ」

 

 そして二人は出会って初めての笑顔を浮かべた。

 

 その笑顔を見ながら横島は思う。またやっかいなことになっちまった、と。だが仕方がないと納得もしている。

 そもそも横島自身が女の子の頼みを断れるわけがないのだ。それも飛びっきり美人の。

 

 そして何より何故だか放っておけなかったのだ。

 小喬の時もそうだったが……

 

 

 

 

『姉妹』という存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

続く!

 

 

 

 




本日はここまでです。
また明日も見てくれると嬉しいです。
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