呉に舞い降りた道化   作:ちょりあん

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誤字脱字報告、いつもありがとうございます。
見直してはいるんですが、どうも抜けてしまっているようで申し訳ないです。

さて、それでは今回で、黄巾党編は終わりです。
よかったら見ていって下さい。


2ー9

 

 

2ー9

 

 

 

 

 

 

「極楽に逝かせてやるぜ!!」

 

 そう叫び右手に霊波刀を纏わせる。

 

「ほう極楽に?この娘と一緒にか?」

 

「テメーだけに決まってんだろ!!」

 

 馬鹿にしたように嘲笑う人和-の身体を乗っ取った太平妖術が黒くうねる触手を横島へと放つ。

 

「ちっ!男に触手なんか使ってんじゃねぇよ!」

 

 だが、これまでのように容易く横島の霊波刀によって簡単に切り落とされる。

 それを見ながら冷静に太平妖術は呟く。

 

「やはりやっかいだな、その力」

 

 もし、これが相手に何の柵もない状態であったなら横島は楽に太平妖術に勝てただろう。

 太平妖術の本領は人和がやったように術を使い人を操り殺すこと。太平妖術自体にはそれほどの戦闘能力は高くないのだ。

 だが、人和の身体を使っていることと、その人和を助けようとしていることによりこの戦いは拮抗しているのだ。

 いや、優位なのは明らかに太平妖術である。

 

 横島には残っているか分からない人和の魂を目覚めさせ、さらに人和の身体を使っている太平妖術を叩き出さなければいけないのに加え、タイムリミットもあるのだ。それは……

 

「ふふ、もうすぐ軍が押し寄せてくるのも時間の問題だな」

 

「……くっ!」

 

 そう、この地で戦っているのは横島たちだけではない。

 人和の操る黄巾党、それと戦う軍がいるのだ。その中には当然雪蓮たちもいる。

 もうすぐ軍が黄巾党を破りここにやってくるだろう。

 そうなれば人和を含め天和たちが黄巾党を纏めていたリーダーであることを隠すことは難しいだろう。そして捕まれば恐らく処刑されてしまうことになる。

 

 だからこそ、それまでに人和を救出しなければいけないのだ。

 

(確かに時間がねぇ!だからってこのまま膠着してても時間の無駄だ!

考えろ、何か手はねぇのか?脳味噌片っ端から使って考えろ!でないと手遅れになっちまう!

いいのか?横島忠夫!また、守れなくなっちまうぞ!三姉妹をバラバラにしちまうぞ!

……あれ?また?三姉妹?なんのこと……)

 

「考え事とは余裕だな」

 

「っ!がっ!?」

 

「「横島(さん)っ!?」」

 

 天和と地和の悲鳴があがる。

 

 何かを思い出そうとした横島の隙をつき、触手が襲いかかる。反応が遅れた横島は肩を触手に抉られたのだ。

 

「ぐっ……いぢぢぢぢっ!!」

 

(アホか俺は!今は余計な事まで考える暇はねぇ!考えろ!何かなかっけか?今回みたいなケース、事件は!?妖怪にとり憑かれ、それを救いだすみたいな……美神さんと!ん?……美神さん?っ!美神さん!)

 

 横島の脳裏にある事件がフラッシュバックする。

 それはまだ霊能に目覚めていない頃に起きた事件で横島の中ではトップクラスに危険な事件だった。だが、その中に光明を見つけた。

 

(だけど出来るのか俺に?俺はあの人じゃないしあの人みたいな力はない。けど…)

 

「横島、大丈夫!?」

 

 叫ぶ地和を肩を押さえながら見る。天和も不安げな瞳で横島を見ていた。

 

「…………」

 

 怖くて逃げ出したい気持ちは相変わらずある。だが、不思議と力が湧いてくる。

 

 横島は覚悟を決めた。

 

「やってやる!ちくしょう!……やってやる!」

 

「ほう?何をやるつもりだ?」

 

「テメェをぶっ倒すんだよ!このヤロー!!」

 

 再び霊波刀を出し横島は駆け出す。人和に向かって真っ直ぐに!

 

「馬鹿め、血迷ったか!」

 

 嘲笑いながら大量の触手を横島へと放つ。

 何かするならしてみろ!と、太平妖術が挑戦的に笑う。

 その笑みに応えるように横島も笑いさらに人和へと突っ込む。そして……

 

「「横島(さん)ー!!」」

 

「ぐ、が、あ……ぁぁあああああ!!」

 

 人和の3歩程前で大量の触手に貫かれた。

 

「ふはは!何だ本当に血迷ったみたいだな!何も考えず突っ込んでくるとはな!!」

 

「ぐぁ、っづぅう!!」

 

 大量の血が横島から零れ落ちる。

 それでも横島は愚直に人和へと近づく。ゆっくりと、だが確実に。一歩、二歩。

 

「まだ動くか、しぶとい男だ。だがこれで」

 

「づーがまーえだぁ……!!」

 

「なっ!?」

 

 太平妖術がとどめにと新たに触手を出したが、それより早く横島が人和の両肩に手を置いた。

 

「先に……あやまっとくぜ……張梁ちゃん」

 

「くっ、離せ!」

 

「いただき……ます!」

 

 それから人和を両手で抱き締めた。

 

「え、えーー!?」

 

「ちょ、人和に何してんのよー!?」

 

 天和と地和が横島の突飛な行動に声を荒げる。横島はニヤッと笑い抱き締める力を強めた。

 

「くぅー!柔らけぇ、気持ちいい!!生まれてきてえがったー!!

これなら、いくぜ……煩悩!集中ぅーーーっ!!!!」

 

 瞬間、横島の体から大量の霊力が溢れだす。それは今までとは比較にならない力の波だった。

 

「な、なんだ!?この力は!?貴様、本当に人間かっ!?」

 

「一か八かだ!ダイブっ!!!」

 

 そしてその大量の霊力を狼狽する人和へとぶつけた!

 

 横島は思い出していた。

 まだ霊力に目覚めていない頃に起きた事件。ナイトメアの事を。

 あの時、美神がナイトメアにとり憑かれ、六道冥子とその式神の力で横島たちは美神の心の中へと入っていった。

 

 横島には冥子の式神のような心の中に潜る力はない。

 だが同じことが出来なくても似たことなら出来るかもしれないと考えたのだ。

 

 人和に霊力をぶつけ、人和の中に霊力を流し込み念じる。

 やることは一つ、霊力を通して太平妖術に呑み込まれた人和の魂を探すのだ。

 

 もちろんこんなことを試した事はない。

 だが、出来る出来ないじゃない。やるしかないのだ。人和を、三姉妹を助けるために!

 

「っ、ぅう!ぐがぁ!!」

 

 触手に貫かれた傷が痛みを呼び顔を歪ませる。

 それでも横島は霊力を流し続ける。

 

(捜せ!張梁ちゃんを!イメージは張梁ちゃんの心の中に入るイメージ!絶対に見つける!)

 

「ぐっ、やめろっ何をしようとしている!?」

 

「いるんだろ?張梁ちゃん!?まだ死んじまうには早いぜ!」

 

 横島は意識を霊力に乗せて人和の心を探る。

海の中を泳ぐような感覚の中、横島は人和を探し続ける。

 

「っ!いたっ!」

 

 そしてとうとう膝を抱えて座り込む人和を見つけることが出来た。

 

「張梁ちゃん!聞こえるか張梁ちゃん!!」

 

『…………』

 

「張梁ちゃん!!」

 

『…………もう、放っておいて』

 

「ばか野郎!放っておけるわけねぇだろ!

天和ちゃんに地和ちゃんの元に張梁ちゃんを返す!」

 

『今更っ、……二人の元になんて戻れるわけないじゃない。私がこれまでどんなことをしてきたか貴方も知っているはず』

 

「それは太平妖術のクソヤローのせいじゃねぇか!」

 

 その言葉を人和は鼻で笑う。

 

『違うわ。あれは私が望んだこと。力を望んで姉さん達を縛りつけた』

 

「それは守るためだろ!?」

 

『人もいっぱい殺した。心を壊し、傀儡にした。そんな私がこれ以上生きていい筈がないじゃない』

 

「そんなことねぇ!少なくとも天和ちゃんも地和ちゃんはそう思ってない!俺も!!」

 

『もういいの。もう疲れた。どうして邪魔するの?私は楽になりたいの。こんな心の中にまで入ってきて……!』

 

「人和ちゃん!」

 

『そうだ人和!私に身を委ねていればいい!

そんな男の言葉など聞くな』

 

「太平妖術!っ、邪魔すんじゃねぇ!!」

 

 遂には黒いモヤ……太平妖術までも現れ人和を唆す。

 人和は顔を歪め、両手で耳を押さえた。

 

『もう放っておいて…!邪魔をしないで!誰も入ってこないで!私の中から出ていって!出ていってぇぇ!!!』

 

「っ!?」

 

『なっ!?』

 

 人和の強い拒絶に現実に戻された横島は同時に人和から吹き飛び地面へと転がる。

 

「っ、かはっ!」

 

 血を吐き出しながら人和へと視線を向ける。

 見ると人和は苦しそうに身体をくねらせていた。

 

「がっ、何故……こんな!」

 

 人和……太平妖術の苦しむ姿に横島は突破口を見いだした。

 

 先ほどの横島への拒絶は太平妖術に大きなダメージを与えていた。

 人和は無意識にだが、横島だけではなく、そこに現れた太平妖術も拒絶していたのだ。

 その事により人和の身体を一時的に上手く動かせなくなっていたのだ。

 

「っ、天和ちゃん!地和ちゃん!」

 

 横島を心配して駆け寄ろうとしていた二人に向け叫ぶ。

 

「張梁ちゃんに呼びかけろ!今なら太平妖術を人和ちゃんから追い出せる筈だ!」

 

「ほ、本当!?人和は生きてたの!!」

 

「ああ見つけた!けど他人の俺じゃ張梁ちゃんに言葉が届かねぇ!けど二人なら!姉妹である天和ちゃん達なら人和ちゃんを助けられる!!」

 

「わ、分かった!」

 

「絶対人和を助けて見せるわ!!」

 

 横島の言葉に二人の心は浮き足立つ。

 大事な妹は生きている。死んでなんていなかった!太平妖術の嘘だった!

 抑えきれない喜びを無理矢理に押し込み、苦しんでいる太平妖術……いや、人和に向き合う。

 

「人和ちゃん!聞こえる!?」

 

「今、助けたげるからね!」

 

「う、あぁ……姉さん、姉さ……ん!

やめろっ!出てくるな!人和!!貴様は眠っていればいいのだ!!」

 

「っ!天和姉さん、今の!」

 

「うん!人和ちゃんだった!」

 

 更に苦し気だったが人和の声を聞いたことにより二人はお互いに顔を合わせ頷き合う。

 横島と同じように、二人も覚悟を決めたのだ。

 手を繋ぎ、人和に向かって歩きだす。

 

「ぁ……だ、だめです姉さん……こ、来ないでくだ……さい!」

 

「いくら人和ちゃんのお願いでも」

 

「それは聞けないわ」

 

「い、ぃや……いやです。姉さん達を傷つけてしまう……殺したくなんてないっ!だからっ…………だから死ね!!お前達が死ねば、人和は完全に壊れる!そうなればこの身体は私の物だ!!」

 

 触手が人和から二人へと放たれる。だが、触手が命中することはなく二人の横に刺さる。

 二人は飛んできた触手にビクリと身体を震わせたが、キッと太平妖術を睨み歩みを再開する。

 

「くっ!人和、邪魔をするな!……いやだ、絶対に!姉さん達だけは……!」

 

「人和ちゃん」

 

「人和」

 

「っ!……天和姉さん、地和姉さん」

 

 そして二人はとうとう人和の目の前に立つ。

 人和は二人から逃げるように目を反らした。それを見た二人は怒ったように人和を睨む。

 

「「っバカ!!」」

 

 そらから人和を力一杯抱き締めた。

 

「……ぁ、姉……さん?」

 

「本当に……バカなんだから!」

 

 人和から、力が抜ける。二人を巻き込むように膝をつくが、抱き締めたその腕は離れなかった。

 

『ば、馬鹿な!身体の支配権が人和に戻っただと!?』

 

 人和の内側に戻された太平妖術が慌てふためき取り乱すが、言葉通り人和の身体を動かすことが出来なくなっていた。

 

「人和ちゃんは昔からそうだよ。何でも一人で抱えこんで……!」

 

「確かにちーたちは頼りないお姉ちゃんだけど、それでも人和のお姉ちゃんなのよ?」

 

「姉さん……でも、私は」

 

『そうだ人和!今までお前が何をやってきたか忘れたか!?』

 

「そう……だ、私は許されないことをたくさんした。罪のない人をたくさん傷つけて壊してしまった。それは間違いなく私の意志だった」

 

 太平妖術に精神を犯されていたとしても、それを承知で行動し決めてきたのは間違いなく人和の意志。そのことが人和を苦しめる。

 

『そうだ。だから人和、お前は生きていてはいけないのだ!』

 

「そう……生きていちゃいけ「いけなくなんかないよ!人和ちゃん!」天和姉さん……」

 

「人和、ちーには分かるよ。人和がこんなことをしてきたのは、ちーたちの為だって!

おかしくなっても人和はちーたちを傷つけなかったもん!」

 

「うん。それに、お姉ちゃんだってずっと人和ちゃんに甘えてた。だから人和ちゃんだけのせいじゃないよ」

 

「でも……私は!」

 

「それでも生きる気がないっていうなら人和。太平妖術の力でちーたちを殺しなさい」

 

「地和姉さん、何をいって……!?」

 

 まさかの発言に驚く人和だが、抱き締められた腕から、何より体から伝わる熱が地和が本気であることが分かった。

 そしてそれは天和も同じだった。

 

「人和ちゃん。私たちは今までいつも一緒だったよね?それは心も一緒なんだよ?私たちは三人一緒じゃないとダメなんだよ?一人でもかけたら、それは死んじゃうのと同じ。お姉ちゃんは人和ちゃんがいないとダメなんだよ?だから人和ちゃんが死ぬつもりなら、お姉ちゃんも死ぬ」

 

「天和姉さん……」

 

「人和、罪は三人一緒に償っていこ?すごく勝手なことなのかもしれない。死んでいった人たちには理不尽なことなのかもしれない。でも、どんなに後ろ指さされても、これからずっと苦しんで生きていかなくちゃいけないんだとしても!ちーたち三人ならきっと大丈夫。でしょ、人和?」

 

「地和姉さん……!」

 

「それが無理だっていうなら、ちーたちを殺して」

 

 抱き締められてからずっと、人和の手はぶらりと地面に伸びているだけだった。

 抱き締め返すのが怖かったのだ。

 

 人和は後悔していた。太平妖術に呑み込まれ、力を欲したのは二人の姉と共に幸せになるためだった。

 だけど思い返す。小さい頃からずっと貧乏で食べ物にありつけない日もあった。寒さに凍え、死にそうになったことも数えきれない程ある。

 だけど。

 ああ、だけど。

 

 

 

 三人で生きてきたこれまでを不幸だなんて思ったことは、一度もなかった。

 

 

 

「私って、バカだな」

 

 だって、当の昔に幸せになっていたんだから。

 二人の姉と生きるこの今こそが、本当に手放せない幸せだったんだから。

 

 ゆっくりと手を持ち上げ、動かす。その手は片方ずつ二人の背中へと回っていく。

 

『や、やめろ人和!お前は力が欲しかったんじゃないのか!?私を手放せば、二度と力は手に入らないのだぞ!?』

 

 その言葉に答えるように人和は柔らかく微笑み、噛み締めるように二人を抱き締め返した。

 

「助けて……お姉ちゃん」

 

 そう、昔のように二人を呼ぶ。返ってくる言葉は聞かなくても分かっていた。

 

「「もちろん!!」」

 

 人和の瞳から涙が流れる。

 

「だから太平妖術……」

 

「ちーたちの大事な妹から」

 

「「出ていって!!」」

 

『ば、ばかなぁぁあ!!!?』

 

 それと同じように、黒い塊となって太平妖術は人和から追い出された。

 

 

 

 

 

 二転三転、転がりながら地面に投げ出された、おおよそ直径五十センチほどの黒い塊が太平妖術に封じられていた妖怪の正体であった。

 

『あ、ありえんん!こんな!後少しの所でぇええ!!』

 

 ジタバタとのたうちながら黒い塊の一部が開かれ大きな目玉が出てくる。その視線の先には自分で燃やしてしまった太平妖術の書が炭になり存在していた。

 本体は弱霊にさえ下手をすると倒されてしまい、何かに取り憑いていなければ生きていけないと理解している分、焦りは大きい。

 

『依り代がいる!早急に!でないと私は……!』

 

 

 

「よう、やっと会えたなクソヤロー」

 

 

 

『う……あ、き、貴様は!!』

 

 憎たらしい声に振り向くと予想通りの男がいた。先ほどまで闘っていた横島である。

 その横島は血だらけになり倒れながらも手を太平妖術へと構え、霊気を手に纏わせ栄光の手へと変えていた。

 

「言ったろ?テメーはこの俺が極楽に逝かせてやるってな!!」

 

『ま、まて!話をっ』

 

「くたばりやがれクソヤロォォ!!!!」

 

『ぎぃやぁぁあああああアアアア!!!?』

 

 そしてそのまま栄光の手を伸ばし、黒い塊を貫く。太平妖術は何も出来ないまま横島により極楽へと送られていった。

 

「はぁ……はぁ……、あーつがれだー!!」

 

 体を仰向けにし、大の字になり横島はやうやく力を抜いた。

 首だけを横に向け、三姉妹を見る。

 抱き合う三姉妹に何か言い様もない満足感に満たされ。横島はらしくもない柔らかい笑顔で笑った。

 

 

 

 その後、すぐに黄巾党は殲滅され本陣へと侵入された。それから一番最初に本陣へたどり着いた曹操により黄巾党の首領である張角の死亡が伝えられた。

 

 だが、そこに横島は居らず。雪蓮の元に帰ることもなかった。

 

 

 

 

二章に続く。

 

 

 

 

 

 




色々と駆け足でしたがこれにて一章は終わりました。
二章は明日から更新していきます。
横島はいったい、どこにいってしまったのか?
まぁ丸わかりてますが楽しみにしてくれると嬉しいです。

いつも感想、評価、力になってます。
二章からもよろしくお願いしますね!では
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