申し訳ございませんが明日はお休みさせて頂きます。
明後日からはまたこれまで通り更新していきますので。
では、よかったら見て下さい。
1-2
イライラする!
自分専用に与えられた執務室で、荀イクこと桂花は苛立たしく頭を抑えた。
ここ最近、イライラすることが増えたと桂花は考える。
真っ先に浮かんだのは少し前、黄巾党共を討伐した時嫌らしくも転がり込んできた男のアホ面であったが、ムカツクことにそれが原因でないことも分かっていた。
年中発情しているような変態が来る少し前から、男を見ると抑えきれない程の嫌悪感と憎悪が溢れてくるようになったのだ。それこそ殺してしまいたいと思うような。
もちろんそれより以前から男は大嫌いだった。特に下半身でしか物を考えないような輩、横島(桂花からみた横島)のような男は滅んでしまえとも思っている。
だが、分別はつけることができていたのも確かだ。
この間の軍義で華琳が言ったように、華琳の家臣には当然男もいる。そして認めるような発言は桂花はしないが、男衆も最低限の仕事はキチンとこなせている。だからこそ割りきって、仕事の上での付き合いはできていたのだ。
しかし、今ではそれができなくなりつつある。
以前までは許容できていたことが、できなくなっている。女の文官なら気にならないことでも男にやられると一気に血が上り、罵倒し罵ってしまうようになった。
今はまだ手を出すことは我慢できてはいるが、時間の問題であると自覚している。
「一体、どうしたっていうのよ……!?」
自分の変化の原因がわからず髪をかきむしる。桂花はキチンと理解している。このままいけばどういう結果になるかを。
華琳が桂花に目をかけていることは客観的に見ても分かる。夜の共も春蘭と秋蘭の次に多い。可愛がってもらっている自身もある。
だが、華琳という人物は物事を私情では判断しない。あくまでも冷静に冷酷に決断を下せる人間なのだ。
もし、桂花がこのまま自分を抑えきれず凶行に出てしまった場合。桂花は最悪、二度と華琳の隣にいることは出来ないだろう。
心の底から愛している華琳と離ればなれになる。桂花はどれ程の絶望を味わうことになるか……考えて身震いする。
「そうなる前になんとかしなくちゃ……」
そう呟いてみたものの解決策など浮かんでこない。天才と言われる頭脳をもってしても、経験したことのないこの異常事態に為す術もなかった。
とにかく、華琳の隣にいるためには最低限、男とも意志疎通をはからなければならない。
次にそういう場面があれば我慢してこなしてみせる!
「荀イク様。ご報告にあがりました」
そんな決意は、扉の向こう側から聞こえてきた男の声に簡単に崩れさることとなる。
「じゃあ姉さん。私は華琳様の所に報告に行ってくるから」
此処は人和たちが暮らす事務所にして三人プラスアルファが暮らす家。
アイドルとしての活動報告、そしてこの間のライブで得た収入、改善点要望などを華琳に報告するため人和がボーッと寛いでる二人の姉に声をかける。
「いってらっしゃーい」
「人和ちゃん、おみやげお願いねー」
「あ、ちーもちーも!」
「二人ともだらけすぎ。初ライブが成功したからってもう何日そんな状態だと思ってるの」
「だって~」
だらける姉たちをジト目で見ながらため息をつく。だがそこは妹。二人にやる気を出させる言葉を知っていた。
ちなみにライブという言葉は横島から教えてもらっている。
「そんなんじゃ次のライブ、失敗に終わっちゃうわね」
「次の……」
「ライブ!?いつ?いつやるの!?」
思った通りの反応に苦笑する人和。不真面目に見える姉たちだけれども、歌と踊りに対しては誰よりも一生懸命なのも人和は知っていた。
「それを今日華琳様と話し合うの。なるべく早く出来るようにするから。特訓、ちゃんとしていてね」
「もっちろん!お姉ちゃん頑張っちゃうよ!」
「またちーの魅力でメロメロにしてあげるんだから!」
やる気に満ちた二人に安心し、人和は事務所を出た。そんな人和も、もちろんやる気で一杯だ。知らず知らず、がんばるぞいっ!のポーズをしていたことに人和は気づいていない。
そしてそんな人和を見ていたこの男にも。
「よ、人和ちゃん」
「あ、忠夫さん」
「今から曹操ちゃ……曹操様んとこ?」
「ええ。忠夫さんはいつもの日課かしら?」
「日課って……いや、俺の生き甲斐だけどな!」
「成功……はしなかったみたいね。そのほっぺたを見るに」
「うるへー」
真っ赤に腫れたほっぺたに人和が笑う。拗ねた横島も可愛いなんて思ったりもして。
ちなみに横島が華琳を様付けで呼ぶのは、一度ちゃん付けで呼んだ時に偉い目にあったからだ。それ以来、華琳のことは様付けで呼ぶようになったのだ。
それから三姉妹は華琳に真名を許してもらっているが、横島はまだ許可されていない。
「曹操様んとこいくんなら俺もついていっていいか?」
「え?別に構わないけど、どうして?」
「ちょっと城に用があってな」
「……っ!まさか、今度はお城の女性に声を!?……打ち首になって死にますよ。忠夫さん」
「ちゃうわっ!いや、暇あったらやろーと思ってたけど……別の用があんだよ」
「……ふーん」
「全然信じてねーな人和ちゃん」
眼鏡越しにジト目で横島を見ていたが、表情を崩し微笑む。
「嘘です。忠夫さんのことは信じているから」
「お、おう」
(真っ直ぐな好意には直ぐこうやって照れる。こういう所を見せれば少しはモテると思うけど……忠夫さんはこのままがいいな)
照れて指で頬をかく横島を見て人和が思う。
この内心を横島に言うことはないだろうが。
「あ、持つぜ人和ちゃん」
「……ありがとう」
ごく自然に、城に持っていく為持っていた荷物を横島が代わりに持つ。
なれた動作にまた1つ、人和は関心する。
(最近わかってきたけど、ちょっとずるいな……忠夫さんは)
隣に並び二人は歩く。恋人というには遠く、友達というには近い距離で。
バレないように横島の顔を見る。
決してイケメンではない。スケベで子供のようなひと。
だけど、人和を……三姉妹を救ってくれた強い人。そして、優しい人。
それから視線を移し、手へと移る。
二人の位置は横島が右で人和が左。人和の右手の隣に横島の左手がある。
だが、横島の左手は人和が持っていた荷物が持たれている。
「忠夫さんはもったいないことしましたね……」
「ん?どした」
「いえ、何でもないわ」
左手が空いていたら、手を繋げたのに。
言葉には出さず、人和は横島に笑った。
「終わった……」
世界の終わり。まさにそんな顔をしながら、桂花が城内の廊下をとぼとぼと歩く。
途中何人かの侍女にすれ違ったが、どれもみんな「ひぃっ!?」っと悲鳴を上げていた。
まぁ無理もないだろう。白目になって廊下を歩く桂花はお世辞にも美少女とは言えず、お化けや妖怪の類いと思われても仕方なかった。
「終わった……終わった……」
さて、フードにある猫耳も気持ち項垂れているように見える桂花だが、つい先程、華琳に十日間の休みを命じられたのだ。
その訳は--
「さて、何故呼ばれたか分かるわね桂花」
「……はい」
時間は少し戻り、華琳の執務室。そこに華琳と桂花、それから秋蘭の三人がいた。
「貴方は先刻、仕事の報告に来ただけの男の文官にわめき散らしただけでなく、物を投げ、手で押し倒した……そうね?」
「……はい」
「その時に彼は顔をうち血を流した。……幸いにも軽傷だったけれど。桂花、理由を言いなさい」
言葉通りの事を桂花は仕出かした。沸き上がる憎悪を我慢出来ず、本能的に行動してしまった。
何よりも最悪だったのは、その現場を見た相手というのが他ならぬ華琳だったことである。
「それは相手がお「男だったからなんてふざけた理由は理由として認めないわ。それ以外で答えなさい」っ!…………」
桂花は答えられない。それ以外の理由がないからだ。ギリッと唇を噛み締める。
その反応をわかっていた華琳は深くため息をつき、桂花を強い瞳で射ぬく。その強い瞳に自分のこれからを考え桂花はぶるりと体を震わせた。
「桂花……最近貴方がおかしいことは自覚しているわね」
「……はい」
「貴方の男嫌いは1つの個性だった。でもいきすぎればそれはもう病気と変わらないのよ?」
「…………っ」
「……結論を言うわ、桂花、貴方に十日間の休みを与える」
「っ!か、華琳様!それは……!!」
「これは決定事項よ。そして最後通告でもある。もし、それまでに男嫌いの症状を改善出来ないようであれば……貴方をこれ以上私の元に置いておくわけにはいかない」
それは死刑宣告に等しいものだった。雷に撃たれたように体が痺れ、動けなくなる。声も出ず、なんとか視線だけで懇願してみるが華琳は首を横にふった。
ぐらり、と桂花の中の何かが揺れた。
「分かったら行きなさい。これ以上ここにいられても邪魔よ」
「っ!…………はい」
掠れた声で答え、おぼつかない足取りで部屋を出る。その際、華琳の顔は見れなかった。
頭の中はぐるぐるしていたが、思考は1つの結論を出していた。それが間違った八つ当たりであることも理解しているが、止められない。
こんなことになったのは、その男のせいだ!
そんな思考が桂花を支配する。
と、そこに声がかけられた。
「桂花」
「……何よ」
桂花を追って部屋から出てきた秋蘭である。桂花は後を振り向くことなく返事をかえす。
「この決定はかなり温情のあるものと理解しているか?」
「…………ええ。一度、私は華琳様に嘘をついた。しかも軍義の最中、人が大勢居るところで。男を追い出すなんて私情のために主に嘘をつく家臣がどこにいるって話よね」
「それでも猶予を貰えたのは、懇願されたからだ。どうか慈悲をと」
「…………」
「もう分かっていると思うが、願い出たのはお前が怪我をさせた文官からだ」
ぴくり、と肩を揺らせ、桂花はゆっくりと振り向く。
「…………それが一体何なのよ?」
「っ」
それは今まで秋蘭が見たことのない表情だった。瞳は黒く濁り、男に対しての憎しみがこもった暗い瞳。
桂花ではない別人を見ているようだ、と秋蘭は思う。
「桂花、私は出来るならお前には一緒に華琳様を支えて欲しいと思っている。私や姉者では補なえない部分を桂花にはできるからだ。だが、……いや、何でもない。ではな」
それだけ言って、返事も待たず秋蘭は部屋へと戻っていった。
それをしばらく見ていたが、やがて桂花もとぼとぼと歩みを再開させた。
そして今に至る。
「……華琳様の隣にいられないなんて、どんな拷問よ」
それならいっそ華琳の手で殺して欲しい。なんて、本気で思っている桂花である。
「そうだ、死のう!……もう生きていても仕方ないもの、あは……あはは」
ていうか既に半分壊れている状態である。これでは侍女たちも逃げ出してしまうのは仕方ないだろう。
見えない負のオーラを撒き散らしながら自室へと歩く。いや、もうすぐ自室でもなくなるのね、あはは。と心の中で考えながら。
「あ、いたいた荀イクちゃん」
「…………あ?」
思わず今まで出したこともないドスのきいた声が出る。ゆっくりと前を見る。前方に最近特に気に入らない(殺したい)男が、バカ面で桂花に手を振っていた。
「いやーちょっと探しちまったよ。相変わらず広いとこだよなここ」
「は?知らないわよ。ていうか話かけないで、移るじゃない」
「いや、何がだよっ」
ああ、煩わしい。ゴミが話しかけてくる。
気持ち悪い、不愉快、近寄るな、憎い。負の感情が桂花を支配しはじめる。
それよりも、どうしてこの男……横島は笑っているのだろうか?自分がこんなにと辛い目にあっているというのに。
もしかしてコイツは私を笑いにきたのだろうか?いや、きっとそうだ。
無様な私を笑いにきたんだ!
「それで荀イクちゃんに話が……」
「あは、そうだったのね……」
「荀イクちゃん?」
全部、目の前の男のせいなんだ。自分がこんな目にあったのは全部!
憎しみに瞳を揺らし桂花は横島へと飛びかかった!
「あんたがぁぁ!!」
「うおっ!いきなりなんじゃー!?」
「あんたが!……あんたが!あんたのせいでぇぇ!!」
横島の首を締めようと両手を伸ばし襲いかかる。しかし、身長も身体能力も低い桂花は横島に両手を捕まれ思うようにいかない。
頭の片隅にはこんな現場を誰かに見られ、華琳へと伝えられると今度は猶予もなく最後を告げられるだろう。
だが、桂花はもう自分では止まれなかった。
「このっ!死ね!死んでしまえ!!」
いつの間にか桂花の瞳から涙が浮かぶ。横島はそれを見て表情を引き締める。
「しゃーねーか。荀イクちゃん、すまん。ていっ」
「あうんっ!?」
ペシンッと桂花にデコピンをかます。可愛らしい声を上げ尻餅をつく。それから額を抑えながら横島を睨み付けた。
「ちょっと何するのよ!傷でもついて華琳様に可愛がられなくなったらどう責任とるつもり!?」
「そんときゃ三年後にナンパさせて貰うよ。それよりも気分……ましになったろ?」
「三年後ってどういう意味よ!?それに気分ですって?そんなの最悪……に…………え?」
その変化に驚いたのは他でもない桂花自身。目の前にいる横島に対する嫌悪感は変わらない。だが、殺意や憎悪は鳴りを潜め、まるで霧のように消えていた。
「荀イクちゃん、もしかしなくとも最近どっかおかしかっただろ?」
「……それが何よ」
「原因はあの娘だってこと」
「……はあ?ここにはあんたしか……」
指で後を指す横島に悪態をつきながら後を振り向くと……
『んきゅ~……』
年頃の娘が目を回して気絶していた。
桂花が目を見開く。娘の姿に変なところはない。変わっているのは、その娘は半透明だということだった。
「…………え?」
続く!!
人和のヒロイン力が高まってきました。
好きな分、抑えきれませんでした。
オマケ・横島に、対する好感度(MAX 100とする)。
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