2055年 4月2日 遠藤拓哉 10時24分
「馬鹿な、ミサイルと並んで突っ込んでくるだと!?ヘリオン、ドリフトをしてくれシュバルツ・クーゲルで撃ち落とす」
ヘリオンはブレーキしながらステアを切る。
車体が横に向き強力な横Gが身体を襲う。
Gで身体がシートから投げだされないよう踏ん張りながら照準を睨む。
横に流れる景色の中、バイクに跨った戦闘侍女人形と周囲に飛ぶミサイルを見つけ、引き金を引く。
砲身が光り、砲弾が音速で吐き出され、少女の頭部へ飛ぶ。
だが、俺の目の前で信じられない事が起きる。
そいつは横にスライドしながら弾を回避したのだ。
曲がったというよりもラインをそのまま横にずれたように曲がった。
「どうやって、回避した。っく、フレアを発射、回避機動を取れ」
フレアが撒かれる音と共に、車体が大きく揺れる。
「っく、紫外線追尾型だよ、マスター」
ヘリオンの警告が耳に入ってくる。
機銃を半自動モードで、ミサイルを迎撃するがなかなか落ちない。
「ヘリオン、耐ショック体勢」
その直後、凄まじい衝撃が体を襲った。
2055年 4月2日 彩雲辰人 10時25分
FFBによる固い感触が手に残る。
この戦闘侍女人形の両眼を潰した。後は、スイカイライナー如月参式の特殊武装、
騎士に向けて翼を向ける。翼から白い霧が噴き出ており、騎士を包み込む。
この霧の半分はナノマシンで出来ており触れたものを錆びさせることが出来る。
「さて、後は、一機か、うん?」
ちらっと、騎士の姿を見る、切り落とした記憶がないはずの右足と半透明の剣が鞘ごとないことに気が付く。
『マスター、逃げられましたね』
「ああ、しかし、この様子だと、本体と少量のこの変なモジュールしかないみたいだ」
俺は、一旦肩の力を抜き、意識を電子世界に向ける。
視界がしばらく暗くなり光が戻ると、そこには、青色の海とうんざりするほど晴れた空が広がる。
「如月、一旦ドラックモードを解除する。俺は少し休憩するから」
『分かったお疲れ様。マスター』
空から如月の声を聴きながら俺は現実世界に意識を切り替えた。
2055年 4月2日 遠藤拓哉 10時34分
「うぅ」
重い瞼を開けると、ヘリオンの天井が顔の近くにあった。
おぼろげな意識でシートベルトを外したとたんに頭を強く打つ。
「いつてぇ。クソ、ヘリオンがひっくり返ってやがる」
だんだん意識がはっきりしていくなか、床のパネルを開けてリペアキットを出す。
「ヘリオン、大丈夫か?」
「ええ」
運転席から大きな音が響く。
「マスターの方は?」
「五体満足だよ。まぁ、この調子だとこっちのヘリオンは相当ダメージを受けているけど。
不幸中の幸いか、火災にはなっていないし、エンジンと足回りが生きていたらまだ戦えるはず」
サイドハッチを開けリペアキットを持って外に出る。
「これはひどい」
奇跡といった方がいいかヘリオンはあれだけのミサイルを受けに関わらず、ほぼ無傷だった、しかし、ミサイルの爆風のせいか、車体はひっくり返ってしまっている。
そのせいで、もう機関砲はダメだろう。
「不幸中の幸いか、ヘリオンを起こすだけでまだ戦えそうだな」
俺はリペアキットからチャコ車を取り出し、霊柩車を起こす準備をする。