目をこすりながらがんばってました。(苦笑)
雪宮春夏です。
相変わらす、オメガバースの一字も感じられ無さそうな作品ですが、それでもよろしい方。
どうぞよろしくお願いします。
開けた視界に広がったのは、所々がひび割れ、破損したコンクリート壁。粉々に割れたガラス窓。そして、俺たちを獲物として見なしているだろう、敵達の姿だった。
空中から落とされる反動を利用して、跳び蹴りの要領で目の前にいた敵を吹き飛ばした直後に、突き刺さってきたのはあからさまな殺意の目。
黒霧達とは異なる、明らかに有象無象の匂いのするチンピラ風情達に、自然と口角が上がった。
「上等じゃねぇか……!」
ジワリと掌に滲む汗からは、微かに甘い匂いがした。
その少年、爆豪勝己に切島鋭次郎が抱いた第一印象は、決して良好的なものではない。
入学初日から目立った口の悪さもさることながら、最初のヒーロー基礎学における戦闘訓練での、緑谷出久に対する行動は、彼の持っていたヒーロー像を色々な意味で崩壊させるものだった。
言葉にすればその一言につきるが、緑谷曰く幼馴染みだという関係性から考えると、一体何がどうなってあそこまでになってしまったのかとやるせなささえ覚えてしまう。
彼ら二人の問題と言ってしまえればそこで終わりではあるが、ヒーローを志すもの同士としても、出来ることならば互いに良好な関係を築いて貰いたいと言う願望もあり……そうでなくても昔から、自らの「漢気」と言う信念に従って生きてきた、ある種のお節介焼きでもある。
(けど、そう言うのは全部後だよな……!)
崩れかけた態勢を整えながら、周囲を見回した切島は、ジリジリと己達を包囲する敵達に目線を向けた。
多勢に無勢だが、傍らに立つ男はそれに憶する様子は無く、それを目にする己も尚のこと、憶する事は出来ないと、奮い立たせられる。
「……さっさと片付けんぞ。こんな雑魚どもに構ってられるか」
そう吐き捨てるように爆豪が呟いたのと同時刻、彼の幼馴染みが類似した決意を固めたことを、彼は知らない。
「僕らが今すべき事は……戦って、
己を囲む有象無象を相手取りながら、イレイザーヘッドは違和感に眉をひそめた。
主犯と見られる白髪の男。それに付き従う出入り口となった靄の男と、異形の大男。
本命がその内の誰かであることは間違いはないが、その彼ら以外の何者かが連合に関わっている事を相澤は予感していた。
それというのも、彼らが相澤を視認した際に零した一言に起因している。
『なにか変更があったのでしょうか?』
(先日のマスコミ騒動……それに伴い職員室から紛失した、一年ヒーロー科の年間カリキュラムの一覧表……てっきりこれ見よがしにその紛失を強調することで、何か別のことから目線を外そうとしているのかとも考えていたんだが)
搦め手などまるで無い……こちらからすれば好都合とも言える予測通りの襲撃。
しかし、だからこそ他方を考えてばかりいたこちらは一歩遅れてしまったわけだが。
(……それが狙いだったと言われればそれまでだが、奴らの様子にどうも違和感が拭えない……まさか、こちらがカリキュラムの紛失に気づいている事を知らないのか?)
いや、それは無いと、直ぐさま否定する。
あそこまであからさまに、分かり易く強奪しておいて気づかれていないと考えているのなら、余程の楽天家か、若しくは。
(……このように、搦め手を警戒させ、他を疎かにさせようとした?)
そう考えれば、今まさに、相澤が己の思考の中に意識を沈めている現状が、奴らにとって最上とも言える状態である。
(……少なくとも、今考える事じゃねぇか……!!)
素早く思考を中断し、周囲を見渡すと後方から我先にと動こうとする幾つかの影を視認する。
それを認めた相澤が浮かべたのは、常とまるで変わらない様に見える。そんな笑みだった。