スウェーデン ストックホルム
レポーター「全世界の皆さん。この中継をご覧になっておられますでしょうか。ノーベル賞の発表において発生した、この史上類を見ない一大事件を。すでに会議が始まって2時間、今まさに選考委員会は苦渋の決断を強いられようとしているのであります」
選考委員A「委員長どうします? こんな形であんな奴にノーベル賞を与えることがあっていいんですか?」
選考委員B「いいわけはない!! が、しかし…」
選考委員C「下手に要求を断れば、どれほどの被害が出るか…」
選考委員長「ノーベル賞は、世界平和の願いを込めて設立されたものだ。あんな奴に渡すことなど断じてできん!!」
その会議の様子はDr.フライにも知るところとなっており、選考委員のその態度に、身勝手な怒りを燃やしていた。
Dr.フライ「くぅ〜、ボンクラどもが!! まだわしの偉大さを理解しようとせんのか!! 見ておれ!!」
Dr.フライが手元のボタンを操作すると、上空に浮かんでいたUFOが再び市街地へ上空から、HE液を一面に噴射し始めた。
そればかりか、マイナー達にもHE液の入ったポンプを背負わせ、破壊活動を行わせ始めた。
それにより、街はあっという間に悲鳴の飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わっていった。
Dr.フライ「どうじゃ、これがわしの天才的頭脳の成果じゃ!! ここまでやってもまだわからんか? 誰がノーベル賞に最も相応しいかが!?」
耳を塞ぎたくなるようなDr.フライの笑いがテレビカメラを通して世界中に響き渡っていた。
この惨劇は、当然ながら選考委員会にも中継されており、みな苦悶していた。
選考委員A「くっそ、いたずらに会議を長引かせることもできないとは…」
選考委員B「これでは被害が広がる一方です。委員長!!」
目の前に広がる惨劇を目の当たりにし、ついに選考委員長は苦渋の決断を下した。
選考委員長「…やむを得ん。彼の要求を飲もう…。マスコミの皆さんにも協力をお願いして…」
その言葉にみな苦虫を噛み締めていた。
選考委員C「屈辱的だ…」
選考委員D「よりによって、あんな奴に平和賞を与えなければならないとは…」
その頃ロシア上空にて、完成したHE液の中和剤を大量に積み込んだ三冠号が、マッハ2.5という猛烈なスピードで必死にスウェーデンを目指していた。
豪「まずいよ!! 早くしないとDr.フライがノーベル賞を受賞しちゃうよ!!」
ダイーダ「わかってるわよ!! これでも最高速度なんだから!!」
豪の焦りを理解しつつも、これ以上どうにもできない状況にダイーダもかなり焦っていた。
リーフ「やっぱり中和剤の組成式や調合法だけでも先にインターネットに流した方がよかったんじゃないのかな?」
リーフの感想に、遠藤博士が司令室からモニター越しに悔しそうに告げた。
遠藤『いやダメじゃ。効果も実証できとらん状況では、そんなものを流したとて悲しいかなイタズラと思われるのがオチじゃ。今はとにかく急げ!! もうそれしかない!!』
リーフ「えーい! お願いだから間に合ってね」
祈るように叫びながら、リーフ達は必死に三冠号をスウェーデンに向けていた。
そんな様子を司令室で見ながらランはぽつりと呟いた。
ラン「急ぐのはいいけど、これ不法入国と領空侵犯ってやつじゃないの? 知らないわよ撃墜されても…」
スウェーデン ストックホルム
屈辱に顔を歪ませながら、選考委員長が演台でノーベル賞の受賞者の発表を行おうとしていた。
選考委員長「そ、それでは、今年度のノーベル賞の受賞者を発表いたします。…今年度の受賞者は、当選考委員会の厳正なる審査の結果、物理学賞・化学賞・生理学医学賞・文学賞・平和賞・経済学賞その全てを…」
そこから先はさすがに抵抗があるのか、最後のプライドが読み上げることを拒否していた。
Dr.フライ「どうした? ノーベル賞の全てを誰に与えるのじゃ?」
いやらしく笑いながら、Dr.フライがそう尋ねた。
選考委員長「くうっ… 全てをDr.フライ氏にこそ与えるに相応しいと判断し…、今ここに…授与致します…」
必死に自分を押し殺すかのようにそう告げ、賞状をDr.フライに対して差し出した。
その様子を見て、Dr.フライは満足そうに顔を綻ばせた。
Dr.フライ「うむうむ。やっとわしの偉大さを理解できたようじゃな。愚民どもを見るがいい!! これが史上初、あらゆるノーベル賞を同時に受賞した大天才Dr.フライ様じゃ!!」
そう芝居がかったように大々的に宣言すると、Dr.フライは意気揚々と賞状を受け取ろうとした。
しかし次の瞬間、Dr.フライの頭に何かが飛んできて直撃した。
Dr.フライ「ごがぁっ!! な、なんじゃヘルメット!? 無礼者が! どこのどいつじゃ!!」
思わぬ事態にそう叫んだDr.フライに応えるかのように、凛とした声が響いた。
ダイーダ「ここのこいつよ!!」
リーフ「Dr.フライ!! あんたなんか人から表彰されるに最も値しない人間だよ!!」
Dr.フライ「ぬぁっ!! 貴様らは!!」
「あれは!?」
「コズミックプリキュアって子達か?」
「来てくれたのか!?」
みなが口々に安堵の声をあげる中、Dr.フライが逆上したように叫んだ。
Dr.フライ「わしが、ノーベル賞にふさわしくないじゃと? 小娘が何を偉うに!! わしの偉大さを理解できんのか? わしの科学はこの世界を暗黒に染め上げ、やがては全人類がひれ伏すものじゃぞ」
そんなDr.フライに吐き捨てるようにリーフとダイーダは言い放った。
ダイーダ「何が偉大さよ。ただあの薬品がすごいってだけであんた自身はとんでもなくつまらない人間よ!!」
リーフ「人から認めてもらいたい、名誉が欲しい、そんな人間に与える名誉なんてありはしないわ!!」
Dr.フライ「だ、黙らんか!! それ以上言うならばどうなるかわかっておるのじゃろうな!?」
ダイーダ「ほら、それじゃない。自分が認めてもらえるような人間じゃないってわかってるからこんな脅しをするんでしょ? みっともないったらありゃしない」
その言葉に対して、必死に自分を正当化するように叫ぶも、あっさり返されてしまい、恥の上塗りになるだけだった。
Dr.フライ「この大天才のわしを馬鹿にするとはいい度胸じゃ!! わしの偉大さを思い知るがいい!!」
そうDr.フライが叫んだと同時に、リーフが三冠号に残った豪に呼びかけた。
リーフ「豪くん、頼んだよ!!」
市街地では、Dr.フライのUFOが再びHE液を撒き散し始めていたが、それと同時に三冠号も市街地上空に移動した。
豪「これ以上させるもんか!! 中和剤発射!!」
これ以上被害を出させまいと、豪が三冠号を操作し、リーフの言葉に従い発射ボタンを押した。
そして三冠号から噴射された中和剤の効果は見事の一言であり、あっさりHE液を無効化した。
その光景に会場にはどよめきが走り、Dr.フライもまたとんでもなく混乱していた。
Dr.フライ「ば、ばかな!? 何が起きたのじゃ!? なぜHE液が?」
ダイーダ「いまばら撒いたのはHE液の中和剤よ。予想以上の効果みたいね」
リーフ「全世界のみなさん。インターネットにアクセスしてください。今の中和剤の組成式と調合法を公開しています!!」
Dr.フライ「な、なんじゃと!?」
会場の人達はその言葉に皆次々とスマホを操作し始め、それが事実であると理解するのに時間はかからなかった。
「ホントだ、公開されてる」
「さっきの見た限りじゃ効果は本物だぞ!!」
ざわめく会場を見渡し、Dr.フライは悔しそうに顔を歪めた。
ダイーダ「あなた何か偉そうに言ったわよね? 自分の肖像画を飾れとか、朝昼晩と崇めろとか」
リーフ「冗談じゃないよ!! あなたみたいに自分のことしか考えない人の顔なんか見たくもないよ!!」
そうやって言い寄るリーフとダイーダに対して及び腰になりつつも、精一杯の矜持を持ってDr.フライは言い返した。
Dr.フライ「黙れ!! わしは世界一の大天才Dr.フライ様じゃぞ!! 口の聞き方に気をつけろ!!」
そのあまりにも子供っぽいわめき散らし方に、さすがのリーフとダイーダも我慢の限界に達した。
リーフ「いい加減にしなさい!! 何でもかんでも自分の思い通りになるとでも思ってるの!!」
ダイーダ「何が大天才よ! そんなこと思ってるのはあなただけよ。くやしかったらその根拠を示してみなさい!! 今この場で何かやってみなさいよ!!」
その言葉に何も言い返すことができず、Dr.フライは悔しそうに歯ぎしりをするしかなかった。
Dr.フライ「くそぅ!!」
そう吐き捨てると、ボールのようなものを取り出し地面に叩きつけた。
すると、もうもうとした煙幕が広がり、リーフ達も視界を奪われてしまった。
リーフ「うわっ!!」
ダイーダ「くそっ!! 逃がすもんか!!」
急いで後を追おうとするも、マイナー達が足止めに乱入してきたため、そちらに時間を取られてしまった。
ダイーダ「えぇい、いっつもいっつも邪魔して!!」
マイナー達はあっさり倒されたものの、その時にはすでにDr.フライは会場から逃げ出した後であった。
ダイーダ「くそ、逃げられた!!」
リーフ「まだ間に合うよ、追いかけよう!!」
リーフとダイーダは頷きあうと、風のような猛スピードでDr.フライの後を追って会場から飛び出した。
Dr.フライ「わしをコケにしおって!! どうするか見ておれ!!」
UFOを呼び、それに飛び乗ったDr.フライはHE液を会場に向けて投下せんとしていた。
ダイーダ「あいつ、この建物を溶かすつもり!?」
リーフ「させるもんか!!」
会場から外に飛び出した二人は、Dr.フライのやろうとしていることを敏感に察知すると、そのまま大ジャンプした。
しかし、二人のジャプ力を持ってしてもあと一歩というところで届かなかった。
リーフ「くっ、後ちょっとで…」
悔しそうに呟いたリーフだったが、そこにダイーダの声が響いた。
ダイーダ「リーフ!! 私を蹴り上げて!!」
その言葉で何をするつもりかを理解したリーフは右脚を伸ばし、ダイーダはその右脚に乗った。
それを確認すると、リーフは思い切りダイーダを蹴り上げた。
リーフ「タァアアア!!」
ダイーダ「ナイス!!」
二人の二段ジャンプで、ダイーダは無事にUFOの上に取り付くことができた。
Dr.フライ「な、何?」
ダイーダ「ただ撃墜すればHE液で被害が大きくなる… よし、チェンジハンド・タイプレッド!!」
その様子をモニターで確認し驚愕しているDr.フライをよそに、ダイーダは両腕を換装した。
そして、そのレッドハンドの超怪力でUFOに対して何発もパンチを打ち込んだ。
パンチが一発打ち込まれるたびに、UFOは大きく揺れ、全体が軋み、ボディはヒビだらけになっていった。
そしてついにはHE液のタンクにまでそのヒビが入ったらしく、UFOの上部から噴き出してきた。
ダイーダ「よしうまくいった!! おっと、早く退散しないと」
吹き上がったHE液をすんでのところでかわしたダイーダはそのままUFOから飛び降りた。
Dr.フライ「うぉっ、い、いかん!! 操縦不能じゃ!!」
吹き上がったHE液を自分でかぶってしまったUFOは自分その作用で腐食を始め、墜落を始めた。
リーフ「やったね、じとくじごうってやつだよね」
ダイーダ「違うっての、自問自答っていうのよ」
その光景を見て二人はざまあみろというようにとんちんかんなことを言い放った。
しかし、その墜落するUFOを支えるかのように突如として巨大なトンボが二匹現れた。
ダイーダ「あれは!?」
リーフ「メイジャー? ってことは、ファルにゴーロ!?」
そのうちの一体は、UFOからDr.フライを助け出して飛び去って行き、(その結果、UFOは墜落し爆発したが)、もう一体はリーフ達に向かって攻撃を仕掛けてきた。
そのトンボ怪物は素早く飛び回り、ソニックブームを巻き起こしてリーフ達の足止めを行ってきた。
ダイーダ「くっ、まずい。このままだとこの辺の建物が崩れちゃうわ!!」
ダイーダの言葉通り、トンボ怪物の発生させるソニックブームは、周辺の建物や車を振動させ、細かなヒビを入れ始めていた。
リーフ「ならやることは一つ、行くよダイーダちゃん!!」
ダイーダ「O.K!!」
二人は力強く頷きあい、トンボを切った。
リーフ・ダイーダ「「ゴー!!」」
その掛け声とともに二人の体は光に包まれ、着地した時には変身完了し、赤と白のドレスに身を包み、髪型も大きくボリュームが変わっていた。
リリーフ「闇を吹き消す光の使者 キュア・リリーフ!!」
ダイダー「悪を蹴散らす光の使者 キュア・ダイダー!!」
リリーフ・ダイダー「「ピンチ一発、大逆転! コズミックプリキュア!!」」
レポーター「全世界のみなさんご覧ください。この会場に襲いかかろうとする巨大な怪物に対し、二人の少女が勇敢にも立ち向かっております。コズミックプリキュア、実に雄々しくそして美しい少女達です」
リリーフ「よし、チェンジハンド・タイプブルー!!」
その掛け声と共に両腕を稲妻模様の走った青い腕に換装したリリーフはトンボ怪物に向けて腕をかざした。
リリーフ「エレキ光線発射!!」
しかし、トンボ怪物は的を絞らせまいと空中を素早くジグザグに飛び回ったため、ことごとくかわされてしまった。
そしてあざ笑うかのように、口から火炎弾を連射してきた。
リリーフ「くそっ、それなら!!」
その火炎弾の直撃をかろうじてかわしたリリーフは大きく振りかぶり虹色の玉を手に輝かせた。
リリーフ「これでどう? プリキュア・レインボール・変化球!!」
亜音速で飛んでくる虹の玉を先ほどと同じようにかわそうとしたトンボ怪物だったが、その玉には回転がかかっていることに気がつかなかった。
そのため、よけた方向に虹色の玉はカーブして飛んできたため、直撃を受けてしまった。
リリーフ「やった! 命中!!」
ダイーダ「よし、これでとどめよ!!」
リリーフの攻撃を受けて、悲鳴と共に黒い靄を撒き散らしていたトンボ怪物に対して、引導を渡さんとダイダーは光のスティックを取り出した。
ダイダー「受けなさい。プリキュア・シャイニングスイング!!」
そう叫びながら、ダイダーはスティックを野球のスイングのように一振りした。
それとともに飛んで行った光の斬撃はトンボ怪物の体を真っ二つに切り裂いた。
するとその切り裂かれたところから、黒い靄のようなものが大量に溢れ出し、きりもみ状態で墜落しながら大爆発した。
リリーフ・ダイダー「「ゲームセット!!」」
その掛け声とともに、爆発の後からは一匹のトンボがどこへともなく飛んで行った。
その頃、もう一匹のトンボ怪物に乗ったDr.フライはそれを操るファルとゴーロに話をしていた。
Dr.フライ「言いたかないが今回は礼を言っておく。ついでにわしの乗ってきたUFOも回収してくれ」
ゴーロ「なに寝ぼけてやがる。あれはドロドロに溶けた上、墜落の爆発で木っ端微塵だ」
その言葉にDr.フライは崩れ落ちた。
Dr.フライ「そ、そんな… じゃああのUFOに積んでいたHE液の作り方もパァ…」
そんなDr.フライを見てファルは不思議そうに呟いた。
ファル「? 同じものが作れねぇってのか? 自分で作ったもんじゃねぇのかよ?」
遠藤平和科学研究所
遠藤「いやみんなご苦労じゃった。しかしこれでDr.フライがパーフェクトとつながっていることも証明されたし、世界にも危機感を植え付けることができたな」
帰還したリーフ達を労うように遠藤博士がそう言った。
リーフ「うん。でもそうなると連中ますます躍起になってくるんじゃないかな」
ダイーダ「これから一層戦いが激しくなりそうね」
険しい顔で呟く二人に遠藤博士も頷いた。
遠藤「うむ、そうじゃな。勝って兜の緒をしめよ、これからもよろしく頼むぞ」
豪「俺も精一杯サポートするよ」
ラン「私だって出来る限りのことはするわ。あんな奴らに世界をめちゃめちゃにされてたまるもんですか!!」
リーフ「ありがとう」
ダイーダ「これからも頑張りましょう」
「「「「オーッ!!!」」」」
一同は決意も新たに、そう気合を入れた。
遠藤「ところで…」
そこで、ふと遠藤博士が思い出したように尋ねた。
遠藤「あのHE液の中和剤を開発した人にノーベル賞を与えようなどという話は出なかったかのう?」
リーフ「?? いいえ?」
ダイーダ「なんでそんなことを聞くんですか? あの中和剤は世界平和のためにきちんと役に立ちましたから、それでいいんじゃないですか?」
目をパチクリしながらの二人の言葉に遠藤博士はウッと詰まってしまった。
遠藤「そ、その通りじゃ。ノーベル賞などくだらんものじゃ! あんなもの欲しくもない!!」
そう言うと一人研究室へと向かっていった。
遠藤「ノーベル賞なんか欲しくもなーい。くだらんものじゃー」
そう言いながら。
リーフ「なんで何度も言うんだろう?」
ダイーダ「ちゃんと、世界のために役に立ったのにね?」
遠藤博士の言動がイマイチ理解できず、首を傾げているリーフとダイーダに対して豪とランは笑いながら言った。
豪「言葉通りじゃないんだよな」
ラン「すっぱい葡萄ってやつよ」
リーフ「何それ? 葡萄ってあの食べ物のだよね?」
ダイーダ「ええそうよ。でもそれがすっぱいって、どういう意味なの?」
ラン「ふふっ、おじいちゃんに聞いてみれば?」
リーフ「うん。そうしようダイーダちゃん」
ダイーダ「そうね、興味があるわ。 博士—っ、ちょっと待ってください!!」
そのランの言葉に、リーフとダイーダは遠藤博士の後を追っていった。
そんな二人を見送りながらランと豪は微笑んだ。
豪「絶対教えてくれないだろうけど」
ラン「同感」
第14話 終