とある屋敷にて、緊迫した空気が充満していた。
一人の老人と、若い夫婦が家族写真を手に暗い表情でソファーに座り込んでいた。
警官「河内警部、逆探知の準備完了いたしました」
河内「うむ、ご苦労。
宝六「うむ、わしの開発した新発明のすべてのデータをよこせとのことでした。さもなければ、孫の命はないと…」
その言葉に河内警部は憤慨した。
河内「なんと卑劣な!! しかし、そこまでして欲しがる新発明とは? 博士は世界的に優秀なお方だ、幾つも特許を持っておられる。狙われても不自然ではないのですが…」
宝六「ああ、それは…」
宝六博士が話しかけた瞬間、電話が鳴り響き、一同の緊張感は頂点に達した。
河内「逆探知用意!! いいですか、できるだけ話を長引かせてください」
宝六「は、はい」
宝六博士は恐る恐る受話器に手を伸ばし、覚悟を決めて電話に出た。
宝六「もしもし」
しかし次の瞬間、予想だにしない事態が起きた。
「はろ〜!! 宝六、聞こえるか? わしじゃよ、久しぶりじゃな」
緊迫した空気をぶち壊すような能天気な声が受話器から響いてきたのだ。
警官「はあ?」
河内「な、なんだ? ん、待てよこの声は…」
宝六「まさか…」
そして部屋の扉を開けて入ってきた人物に、一同は驚いた。
遠藤「やぁ宝六、元気じゃったか?」
宝六「遠藤!!」
河内「ごらぁ貴様何しに来た!! さては貴様、銀行強盗だけでは飽き足らず誘拐まで!!」
突然の来訪者に河内警部は面食らったものの、即座にいつもの調子で怒鳴りつけた。
遠藤「人聞きの悪いことを言うな!! 親友の孫が誘拐されたと聞いて助太刀に来たんじゃ!!」
河内「なにぃ親友? 馬鹿も休み休み言え!! 貴様のようなヘボ科学者とこの大博士が友人なはずがなかろうが!!」
宝六「いや、警部さん。彼は紛れもなく私の30年来の友人です。いやぁ懐かしい、元気そうで何よりだ」
嬉しそうにそう言って、宝六博士は遠藤博士の手を握った。
河内「宝六博士、本当に此奴めが博士のご友人なんですか?」
疑惑の目で遠藤博士を睨みつける河内警部に、宝六博士は笑いながら告げた。
宝六「ええ、研究室の頃からずっと一緒だった私の最高の友人です。当時からその才能には素晴らしいものがありましてな。何度嫉妬したことか」
遠藤「いやいやそれほどでも」
遠藤博士は多少自慢げに照れながらも、ハタと思い直した。
遠藤「おっと、積もる話はあとじゃ。まずはお前さんのお孫さんを助けんとな」
宝六「ありがとう、気持ちは嬉しいのだが…」
すると再び電話が鳴り、宝六博士は河内警部に対して頷くと再度受話器を取った。
宝六「はい」
「宝六博士だな。例の新発明のデータは準備できたのか?」
宝六「ああ、USBにまとめてある。それより…」
「ならば伝える。二時間後、外矢地区の廃工場までデータを持ってこい。ガキはデータと交換だ。妙な真似をすればガキの命はないと思え」
宝六「待て!! 孫の、
しかし、その懇願も虚しく電話は一方的に打ち切られてしまった。
河内「逆探知は?」
警官「ダメでした…」
力なく首を振った警官を見て、夫妻は泣き崩れてしまった。
遠藤「今の声は、パーフェクトの一味の…」
河内「それはわかっとる!! しかし、身代金を放棄してまで狙うとは、金以上に価値のある発明ということですかな」
その言葉に、宝六博士は一つのUSBメモリを取り出した。
宝六「これは大気元素浄化装置です。まだまだエネルギー効率等の問題はありますが、人工衛星に取り付けて使うことで大気汚染を浄化することができるシステムです。ですが、孫が助かるならば惜しくはない!!」
そう言い放った宝六博士に対して、遠藤博士はなだめるように言った。
遠藤「まあまあ落ち着け。お孫さんもデータもどちらも助ける方法を考えねばならん。わしらに任せておけ」
河内「お前はでしゃばるな!! これは警察の仕事だ!!」
遠藤「ほう、ならば警察はどうやって犯人を捕まえてお孫さんを助けるつもりじゃ?」
怒鳴りつけた河内警部だったが、遠藤博士の言葉に一瞬詰まってしまった。
河内「む、むろん策はある。人質の受け渡し場に警官を配備させてのこのこ出てきたところを…」
遠藤「ああ、ダメじゃダメじゃ。その程度の頭では助けられるものも助けられん」
その時、遠藤博士の携帯電話が鳴った。
遠藤「もしもし…おう本当か?」
ダイーダ『はい。電話線とリンクしてさっきの電話の逆探知に成功しました。 携帯電話からでしたので正確な場所までは無理ですが、至急現地に行けばリーフがレーダーで探索可能な範囲だと思います』
それを聞いた遠藤博士は宝六博士に告げた。
遠藤「よし、宝六。悪党どもの居場所がわかった。助けに行くぞ!!」
宝六「え?」
河内「何だと? 嘘をつくな!!」
怒鳴りつける河内警部をよそに、戸惑っている宝六博士をつれて遠藤博士は自分の車に宝六博士を連れて行った。
ダイーダ「博士急いでください」
リーフ「あいつらが移動しちゃったら探せなくなっちゃいますよ!!」
ダイーダ達に急かされるように遠藤博士は車に乗り込み、宝六博士もまた半信半疑ながら後部座席に乗った。
遠藤「よし、飛ばすぞ!!」
それを確認した遠藤博士は、直ちに車を発進させた。
リーフ「誘拐なんて卑怯なことして、あいつら絶対に許さない!! 安心してください。絶対にたまごさんは助けて見せますから!!」
ダイーダ「たまごじゃなくて、孫の手よ」
遠藤「まったく。お主らは、まーだものの名前が正確に覚えられんのじゃな」
宝六博士は、車に同乗していたどこかトンチンカンな会話をする眼鏡をかけた二人の少女を見て不安げに尋ねた。
宝六「えーっと、遠藤。この二人はお孫さんかね?」
遠藤「いやいや、わしの助手のようなもんじゃ。今この世界で一番頼りになる奴らじゃからな。 大船に乗った気でいろ」
自信満々な遠藤博士だったが、宝六博士は今の会話からしてもどうにも不安で仕方がなかった。
そうして30分ほど車を走らせると、ダイーダが車を止めさせた。
ダイーダ「さっきの電話の発信先はこの辺りを中心にしてるわ。まだそう遠くには行ってないと思うけど…」
リーフ「オッケー、ダイーダちゃん。周りを調べてみるよ」
そう言って車を降りたリーフはマルチハンドを換装した。
リーフ「チェンジハンド・タイプイエロー!!」
その掛け声とともに、リーフの両腕が小さなロケットが装備された黄色の腕に変わった。
リーフ「センサーアイ、発射!!」
そう叫ぶと、リーフは右腕を空にかざしセンサーアイを発射した。
宝六「彼女は一体何を… それにあの腕は…?」
遠藤「今リーフが発射したセンサーアイには、半径10km四方の情報を詳細にリーフに送り届ける機能があるんじゃ。じきに鶯子ちゃんの居場所がわかるぞ」
数十秒後、リーフの電子頭脳に強力なマイナスエネルギーの反応があった。
リーフ「このマイナスエネルギー反応は… 見つけました。ここから北東3キロのビルです」
ダイーダ「ゴーロめ。今度こそ決着をつけてやるわ」
ダイーダも気合を込めて拳を手のひらに叩きつけながらそう言った。
宝六「遠藤、この二人は一体…?」
遠藤「説明が遅れたな。こやつらはわしの作ったアンドロイド体を借りとる、精霊の国の特別警備隊員でな。またの名をコズミックプリキュアじゃ」
自慢げにそう語る遠藤博士に宝六博士は目を丸くして驚いた。
宝六「彼女達があの… いや話には聞いていたが… ということは彼女達が乗っているあの飛行機も?」
遠藤「うむ、わしの作品じゃ」
宝六「そうか、しかしこれほどのものを作るのは大変だったろう。お前はどうしてそこまでして…」
その疑問にリーフ達が答えた。
リーフ「私達のことを知っていていたただけたならば光栄です。 実は事情がありまして…」
ダイーダ「次元皇帝パーフェクト、そしてDr.フライのことは知っていますね?」
宝六「Dr.フライか… 十数年前、研究中の事故で死んだと思っていたが、この間のノーベル賞の件には驚いた。 確かにやつも相応の才能の持ち主だったが、なぜそんなことを… まさか!!」
遠藤「うむ。Dr.フライはわしの盗んだ研究を再現しきれずに爆発事故を起こしおった。しかし、死んだと見せかけて地下に潜伏し、今ではパーフェクトと手を組んでおってな。鶯子ちゃんを誘拐したのもやつの差し金じゃろう」
とある廃ビル
ここに誘拐されてきた鶯子ちゃんが監禁されており、泣き叫んでいた。
鶯子「うぇ〜ん!! えんえ〜ん!!」
ゴーロ「ウルセェな! 今度はなんだ!?」
鶯子「アイスクリーム!! アイスクリームが食べたいの!!」
ゴーロ「いい加減にしろ!! このガキが!!」
そう言ってゴーロが凄むと、より激しく泣き叫ぶため、止むを得ずゴーロはマイナーに命じてアイスクリームを用意させた。
そして、アイスクリームを受け取ると鶯子ちゃんは泣き止み、静かに食べ始めた。
しかし少ししてアイスクリームを食べ終わると再び泣き叫び始めた。
鶯子「うぇ〜ん!! 喉乾いたー!!」
ゴーロ「くそったれ、可愛げのねぇ!!」
誘拐してきてから万事この調子であり、鶯子ちゃんを監禁している部屋には、大量のお菓子の袋や空き箱、ひいてはジュースの空き缶やペットボトルが足の踏み場もないほどに散乱していた。
ゴーロ「ええい、殴り倒して大人しくさせてやろうか!!」
我慢の限界というように拳を振り上げると、部屋を監視していたDr.フライからの通信が入った。
Dr.フライ「やめんか、大事な人質じゃぞ。丁重に取り扱え!!」
それを聞いたゴーロは歯ぎしりをしながら拳を収めた。
状況は頭で理解しているものの、怒りのぶつけようがないのである。
一方、遠藤博士達はリーフがレーダーで捜索したビルの近くに到着していた。
リーフ「あのビルの中だよ。内部の構造も把握できてるから早速突入して…」
ダイーダ「待ちなさい。人質がいるんだから、迂闊に突入したらダメよ。鶯子ちゃんだっけ、その子が危険だわ」
早速突入しようとしたリーフをダイーダはそう言って止めた。
リーフ「う… でもそれじゃ何にもできないよ。ここまで来たのに…」
そうやって考え込んでいると、遠藤博士が何かを閃いた。
遠藤「そうじゃ、何重にも暗号化した偽のデータを渡すんじゃ。わしらが囮になって時間を稼ぐから、おぬしらでその隙に鶯子ちゃんを救出するんじゃ」
宝六「遠藤、君も行くのかね?」
遠藤「当然じゃ、親友を一人で危険な目に会わせられん」
そう言うと小さなスピーカーのようなものを取り出した。
遠藤「リーフ、ダイーダ。これは小型マイクじゃ。こっちの状況をリアルタイムで伝えるから、よろしく頼むぞ」
リーフ「わかりました」
ダイーダ「私達はマルホーンで地下から侵入します。博士もお気をつけて」
遠藤「マンホールな。頼むぞ」
そうして、遠藤・宝六両博士は廃ビルの入口へと近づいていった。
その姿は監視カメラを通して、ゴーロにも伝わっていた。
ゴーロ「あいつらどうしてここが? まあいい、こっちはデータが手に入ればいいんだ」
遠藤「こらぁ、誘拐犯ども!! こっちからデータを持ってきてやったぞ!! 出てこい!!」
入口で遠藤博士がそう叫ぶと、マイナーが数人出てきた。
宝六「孫は、鶯子はどこだ!!」
その質問に答えるようにマイナーは手振りで両博士をビル内へ案内した。
ダイーダ「よし、こっちも行くわよ」
リーフ「うん」
それを見届けたリーフとダイーダもまたマンホールからビルの中へ侵入していった。
第19話 終